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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
32/49

9月6日(5)「傷跡からの出発」

 林原組が使う倉庫だという事で、大量の粉の入った袋等が積み上げられている事を想像したのだが・・・。


 中にて木や鉄のコンテナが所狭しと積み上げられて、中に入った時に、僕等は独特の匂い―カビや錆―に息が詰まりそうになった。


 「うぇ・・・。 なんなの〜くっさいぃ〜・・・」


 中は薄暗く、ライトは遠い天井に数個あるだけだった。 手元も足元も暗くて見えやしない。


 「あんま使ってねえからなぁ此処ぁ。 裏の取引なんかにゃもってこいの場所ってえ事でぇこの薄暗さとかぁな」


 「・・・・・・玄。 この匂いってまさかと思うけど法的に不味い物があるんじゃない?」


 なんというか粘着性のある匂いというか、近くで匂うと吐くんじゃないかと思う刺激臭が微かに漂っていた。


 少量だったらいいかもしれないけど、それが大量にあるソレは「法律で罰せられる」。


 「おう。 ミチ良く分かったじゃねえか。 此処にあるのは―」


 「・・・止まって。そこの三人」


 僕等の会話はそこで止められてしまった。


 いつの間にか、後ろから来ていたと思っていた相手が目の前に立っていた。


 中に入ってまだ数分も経ってないのに先回りされた?


 馬鹿な・・・。



「・・・・・・大きい男と女には用は無い。 そこのやさ男に用が・・・。 ???」


 中々良識があるようで、狙っている僕だけに用があるようだった。


 暗くてよく見えないが、少女は学生服のような物を着ていた。


 何処か見覚えのある服で、それを思い出すのには数秒も要らなかったが、その考えを一旦僕は閉め出すことにした。


 偶然だろうから。


「あ、アレってウチの制服なの」


 暗がりからでもナノカちゃんには分かったのだろう。 それは藤野宮女学院・・・つまりナノカちゃんや久美子ちゃんが通う学校の事だ。


 一番最初にナノカちゃん達に出会ったのも同じ学校の中だったし、何か縁があるのかもしれない。


 ただ、一連の事が関連があるかとか考え出すとキリが無いので締め出そうと思ったのに・・・。



 ただ、それより相手の少女の様子が少し変だった。


 僕の顔を見ながら、しきりに首を捻っていた。


「・・・・・・ブラッディ・イーターは・・・・男だと確認したハズ・・・。 アレはどう見ても生物学的に女・・・。 また情報が誤っている可能性を捨て切れない・・・」


 少女の呟きが聞こえて僕は転びそうになってしまったけど、そんな事をするとバレるのでやめておく。


 ・・・どうやら狙っている「ブラッディ・イーター」の正確な情報が彼女には無いようだ。


 それにあまり頭は良くなさそうだ。


 これは「利用」させてもらってもいいかもしれない。


「ええと・・・キミは誰? 用があるって何?」


「あ・・・いや・・・これは・・・」


 あからさまに判断が付かないのかうろたえている。


 暗がりとはいえ、ここまでハッキリと「女」と誤解されるのもどうかと思うんだけどね・・・。


「とにかく名前を聞いていいかな? 何も無かったとしても僕は怒らないからさ」


 声色を変えて、出来るだけ女の子っぽく振舞う僕。    ・・・恥だと思ったら負けだ。


「・・・・・・私は岩崎エレクトロニクス所属の試作人造オートマーター。 名前はマロン・コンシェルジュ・・・・・・・・・・・。 今貴方、僕と言った? 矢張り変装・・・殲滅開始」


「あっ! しまった!?」


 演技は30秒も持たなかった。


 玄さんとナノカちゃんが「馬鹿じゃないの?」という目で見ているのだろうけど、急に突撃してきたマロンって子の攻撃を避けるだけで、見ている余裕なんて無かった。


「馬鹿じゃねえのかミチぃっ!」


 ちゃんと声に出して言ってくれる玄さんの友情に乾杯したいと思うよ。


 この子に勝って帰れたらねっ!


「うるさいよ玄! もう! こういう痛い子は体で分からせてあげないとねっ!」


「なんか台詞がエロイなの・・・」


 ナノカちゃんが何か言っていたが、それは無視する。


 こちらは3人。 相手は武器を持っていると言っても一人。


 林原組の若頭の玄さん。 強力な力を持つ魔王なナノカちゃん。 そして僕。


 相手は体の一部が機械なだけの小さな子。


 勝てないわけが無い。



 だが、その時僕は、最初に気付いた大事な事を失念していたのだ。


 それに気付いていれば、もっと慎重になっていただろうに・・・。


「・・・・・・目標。 ロックオン。 ファイア」


「動きが単調だよ! って・・・ええぇっ!?」


 マロンちゃんの動きが一瞬止まったので撃ってくると思ったので側転して避けようと思ったのだが、その上を通り過ぎていったのは銃弾ではなかった。


 腕だった。


「ろけっとぱんち?! 最近の義手ってそんな事出来るの!?」


「出来るわけねえだろミチ! ありゃあ改造ってえ代物じゃねえな。 完全に新造してやがるぜ」


 僕の悲鳴に玄さんは冷静に突っ込んでくる。 場数を踏んでいるのでこれぐらいで驚いたりしないのかもしれないが、そういうレベルの問題じゃない。


「・・・無様。 次で終わり・・・。 ・・・。 ・・・。 ・・・。 うぅ・・・」


 慌てている僕を見て好機と感じたのか、スカートから銃を取り出そうとするマロンちゃん。

 

 だが、先程「腕を飛ばしてしまった」ので掴めないらしい。


 武装とか義手の技術なんかは凄いと思うけど、本人は限り無くお馬鹿さんだった。


「・・・・・・よくもやってくれた。 許さない」


 そして更にそれを僕のせいにされた。


 どうでもいいけど、僕の周りには人の話を聞かない人ばっかり集まるのかなぁ?


「やらせないなの! そこっ!」


 そんな僕とマロンちゃんの間にナノカちゃんが割って入ってきた。


 無意味に横に飛びながらワルサーを一発撃った。 銃を撃つのに格好つける人っているよねたまに。



 だが・・・


 ドゴーン!!


「おぉ!?」

「きゃぅぅ!?」

「何なのっ!?」

「ま・・・まさかっ!?」


 イキナリの爆発音だった。


 その音と共に倉庫の中は炎上した。


 ナノカちゃんの銃弾は、マロンちゃんを外して倉庫の中のコンテナに命中したのだが、そのコンテナの中には油缶が入っていたようだった。


 最初に匂いで分かっていたのに、完全にその事を僕は忘れていて注意しなかったのが悪い。


 玄さんに言った「法に触れる」というのは油などの貯蔵量が一定の量より多いと違法となるという事を言っていたのだ。


 コンテナの殆どが油缶なのだろう。 それが一つでも爆発したという事は・・・


「ここは危険だよ! 皆外に出て!」


 いつ誘爆して大惨事になるかというのも時間の問題かもしれない。


 炎が渦巻いて視界も悪かったが、全員無事のようで炎の向こうに二つの影が見えた。


 影の大きさからして玄さんとナノカちゃんだろう。



「くっ・・・・!」

 

 意外に火の回りが速く、僕の周りには炎の壁があっておいそれと脱出を出来そうに無かった。


 炎の壁があると言っても、炎が硬いわけでは無いが、強行軍で突っ込むのは危険だ。 飛び込んだ先がまだ炎の場合焼かれ続ける事になってしまう。


「・・・・・・好都合。 貴方は逃げられない」


「えっ!? あぐぅ・・・!」


 炎に気を取られてマロンちゃんが居る事が見えなかった。 マロンちゃんは先程飛ばした腕とは反対側の残った腕で小振りなナイフを握って僕を刺して来た。


 イキナリで反応できず、僕はそのナイフを腕に突き立てられてしまった。


「・・・・・・これで五分」


 マロンちゃんは僕の腕に刺さったナイフをさっと引き抜いて再び距離を取った。


 腕を刺された事で状況は同じと言いたいのだろう。 彼女は怪しく笑っていた。


 その顔が炎に照らされて、一瞬寒気がするほど恐ろしく見えてしまう。



 この娘は頭は悪そうだが、それは素直だという事とも取れる。 素直な邪心ほど恐ろしいものは無い。



 幸い刺されたのは左腕で、利き腕では無かったが、リボルバーを片手で打つのには反動が酷く負担になる。


 それにこれ以上倉庫の被害を早めてしまっても逃げ切る可能性を潰してしまうだけだ。 爆死という結果で。


「・・・・・・どうした? 来ないならこっちから行く!」


「ま・・・馬鹿! そんな事してる場合じゃないってばっ!」


 彼女の頭には僕を倒す事しか無いらしい。


 本当に馬鹿だよこの子!



 こんな子と心中するつもりは無いが、腕を傷付けられて戦意も体力も一気に消耗してしまった。


 周りには炎。


 目の前には敵。


 絶体絶命のピンチだった。



 物語ならここで助けでも来るものだけど、そんな物は期待できない。



 いや・・・。 もしかしたら祈なら?


 先程の電話で少しは心配してくれていたら、どうにかしてこの場を見つけて駆けつけてくれるかもしれない。


 ・・・なんて事は無いか流石に。


 神様でもあるまいし、僕がピンチなのが分かるわけが・・・。



 いや、彼女は神って言ってたっけ?


「あれ?」


 数秒でそんな事を考えていると、目の前のマロンちゃんが急に居なくなった。



 それだけ素早く動いたという事では無い。



 正確には、「それだけ素早く吹っ飛ばされた」のだ。


 急に現れた人影に。



 まさか・・・祈!?


「うわっはっはっはぁ〜! 正義の使者ぷりてえクーミン参上!」


 ・・・違った。


 というか、一番あり得ない人が来ちゃったんですけど・・・。


「久し振りだなぁみっちょん! 姫のピンチとなんとなく電波で察知して来たら本当にピンチで「イベントフラグ立った〜!」って思ったぞみたいな俺様であった、まる。 とりあえずこのままみっちょんを拉致ってみてもOK? うん、ありがとう。 そう言うと思っていたよマイハニー♪」


「何にも答えてないし!? どれだけ自由なんだよ君!?」


 こんな状況なのにイキナリ現れた名取 久美子ちゃんはマイペースだった。


 それに外から来たという事は、炎の中を突っ切ってきたハズなのに焦げ目の一つも無い綺麗な顔をしていた。


「さて、そんな事より早く脱出しないとローストビーフか本能寺の信長になっちゃうぞ?みっちょん。 外でナノチチンも心配してたぞぉ〜?」


 あ、ナノカちゃんは無事なんだね。

 良かった。


「それが出来れば苦労しないよ・・・。 それよりさっき飛ばした子は大丈夫かなぁ?」


「うん? 知り合いだったのかいみっちょん? それにしてはアドレナリン垂れ流しな戦闘しとったようだが?」


「どこから見てたんだよ久美子ちゃんは・・・」


 いくら命を狙ってきた子だからって、助けれる命だったら助けたいと思っただけで、それ以上の理由は無かったのだが。


 いや、助けたいと思う気持ち以上の理由なんて必要ないかもしれないけど・・・。


「ふむぅ〜。 みっちょんは優しいなぁ〜。 そんな女の子に優しさ振りまいてちょっと嫉妬しちまうぞ♪ ―っと出てきたみたいだねぇ?」


「うん? あ・・・」


 久美子ちゃんの声に、先程飛ばされたマロンちゃんが炎の中から、少しよろめきながら歩いているのが見えた。


 火傷と擦り傷なんかはあるみたいだけど、軽傷でまだ動けそうだ。


 マロンちゃんは一度こちらをチラリと見てから、自分を吹き飛ばした久美子ちゃんを睨みつける。 攻撃対象は変わったみたいだ。手にはまだナイフを持っていた。


 マロンちゃんの目が鷹のように鋭くなったと思うと、一気に久美子ちゃんへと切りかかって行く。


 だが、久美子ちゃんは避けようともせず、指でピースサインをした。


 勝利宣言?


 ブイサインかと一瞬思ったが、そうでは無いらしい。 ブイサインはマロンちゃんの方を向いていたからだ。


「・・・死ね!」


「必殺! 二つ指真空挟みぃ♪」


「いや、おかしいってっ!?」


 なんと、久美子ちゃんは、迫り来るナイフを指で挟んで止めてしまった。止まっている刃なら力があれば出来そうでも無いかもしれないが、刺し殺そうとしている相手の刃をいとも簡単に、涼しい顔して止めていた。


「・・・今度こそ!」


 マロンちゃんはナイフを手放し後ろへ跳び、空いた手で銃を掴んだ。 「危ない!」という暇も無く、マロンちゃんの銃から銃弾が飛び出て行った。


「だ〜か〜ら〜。 駄目だってばぁ〜。二つ指真空挟みは無敵なんだぞ〜?」


「いや、あ・ん・たが無敵だよ!!?」


 今度は銃撃でさえも指で挟んで止める久美子ちゃん。 もはや人間業では絶対に無い。


「でも流石に爆発なんてしたらピンクパンサーEXクーミンの最後になっちゃうわけだから、さっさと脱出するぞえみっちょん。 炎の薄い所は俺様が知ってるから大丈夫なんだ」


「それを早く言ってよ・・・ってひぃわぁ!? 何か数日前の記憶が蘇るぅぅぅ!??」


 僕が言い終わる前に久美子ちゃんは僕の手を掴んできた。 次の瞬間数日前に彼女に拉致された時の様に物凄く早い強い力で引っ張られた。


「ついでに〜アンタもね〜」


「!? あ・・・」


 超速度の中で、今度はマロンちゃんを掴んで久美子ちゃんは同じ様に引っ張った。それを一度荷物のように抱えなおしてから重心を低くした。そしてまるで銃弾のように彼女は飛び出した。


 何故かその瞬間に、僕は遊園地のフリーフォールを思い出してしまった。


 そんな一瞬の間の後に来る体への重力の衝撃。 それと似ていたが決定的に違う事はそれが「縦」か「横」だという事だ。


 人間は縦の動きには弱いが、横の動きには強いとは言っても・・・。


「無茶苦茶だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」


 女の子に引っ張られて体験するなんて思わなかった。



 まるで誰かを思い出すよホント・・・。


 




 そして僕達は、久美子ちゃんのお陰で無事倉庫から脱出する事が出来た。


 外に出た瞬間マロンちゃんは気を失っていたみたいだけど・・・。



 玄さんは炎の中から現れた女の子に、僕とマロンちゃんが抱えられているという状況を見て目を丸くしていたが、その抱えていた者が数日前の朝に出会った子だと分かると苦い顔をしながらも「無事だったならいいや。 さぁ帰るぜ」と冷静に言った。


 肝が据わってるとかじゃなくて、相手するのが嫌なんだろうな。


 いや、祈に惚れ込んだぐらいだから、分からないけどね。



 僕はもうその時疲れてたから喋りたくなかったんだ。






 その後。 玄さんの車に再び乗り込み、来る前は二人だったのが帰る時には5人に増えていた。


 気を失っている人造オートマーターという者らしいマロンちゃんを後部座席に座らせてナノカちゃんと久美子ちゃんに支えてもらった。


 展開次第でどうなるか分からなかったが、この結果は、祈が言った「生け捕り」だと思った時、寒気よりも呆れが先に来た。

 こんな展開を予想して言ったとは思えないのだけど、彼女は神らしいしなんでもありなんじゃないかと思ってしまいそうになる。


 

 まぁ、祈といい、ナノカちゃんといい、久美子ちゃんといい・・・。


 僕のこれまで信じてきた「普通」を返して欲しいよ・・・。



「ミチオ君・・・ごめんなさいなの・・・。 私が下手に撃っちゃったから大変な事になったなの・・・」


 車を発進させてから気付いたが、僕等が出た後に倉庫は丸々炎に包まれていた。


 よくあの中を生還したと思うよまったく・・・。


 だけど、僕は不思議と怒りは沸いて来なかった。


 だから、後ろからする謝罪の声にも作ることの無い笑顔を返してあげれた。


「ううん。 ナノカちゃんには今日は助けられたよ。 それに僕なりに勉強になった事もあるしね。 ちょっと授業料が高かったけど、特別授業なんてそんなもんだよ」


 マロンちゃんに刺された腕が痛むが、そんな油断をしてしまった自分を見つめ直す良い機会だとも思ったのは確かだった。


 用心深く、いつでも慢心してはならないと昔教えられたのだけど、その事を完全に忘れていたとしか思えない結果がこの腕なのだから・・・。


「でも・・・私は偉そうな事を言って・・・ボディガードを頼まれたのに・・・・・・守れなかったの・・・」


 ごめんなさいと言い続けながら涙を流すナノカちゃん。 


 彼女の「守れなかった」という言葉に胸がズキンと痛んだ気がした。



 貧困に喘いでいた一組の姉妹を守れなかった僕。 彼女の気持ちは文字通り痛いほど分かるつもりだ。


 だから腕を上げて頭を撫でてあげた。


 刺された方の腕で。


 それをするには腕に激痛が走ったが、それが彼女を許す証だという意味を込めて僕は撫でてあげる。


「ミチオ君・・・・・・う・・・・うわぁぁぁぁぁぁん!」


 その瞬間にナノカちゃんは大声で泣いた。


 反対側からマロンちゃんを支えていた久美子ちゃんも、それを見て流石に静かだった。


「おうおう。 女泣かせのミチってか? 罪作りだねぇ」


 運転席で上機嫌にハンドルを握る玄さんの呟きは無視する事にしよう。


 それよりも、もう一人礼を言わないといけない相手がいる。


「それと久美子ちゃん。 経緯はどうあれ君のお陰で命拾いしたよ」


 どんな気紛れだったとしても、彼女が来て居なかったら間違えて炎の海に飲まれてしまっていたかもしれないのだ。

 命の恩人だと言っても過言では無い。


「・・・・・・俺様はいい。 今はナノチチンを慰めてやってくれ。 心意気は良いかもしれないが、後無理はしない方がいいぞ。 みっちょん脂汗流れてるし」


「あ・・・うん」


 久美子ちゃんは驚くほど真面目な顔をしてナノカちゃんを見て言った。


 礼を言ったら手放しに喜んで騒ぐのかと思ったが、久美子ちゃんは空気を読む子らしい。


 ・・・・・・それならいつも読んでんだけど・・・。


 久美子ちゃんの言う通り撫でている腕の感覚が段々無くなって来た感じなので、これ以上やらない方がいいかもしれない。


「ナノカちゃん。 後悔したのなら、これから取り戻せばいいんだよ。 人生が終わってしまっているわけじゃないし、僕はナノカちゃんは頑張ったと思ってる。 だから、気にしないでとは言わない。 頑張ってって言いたいよ」


 その言葉がナノカちゃんに言ったのか、自分自身に言ったのか自分でも分からなかったが、明日からは変わっていくと思う。 

 意識するだけで簡単に明日は変えれるんだ。


 そう信じて僕等は夜明けを待ち続けているんだ。

 色んな毎日を過ごしながら・・・。



 それが間違えてしまった者の償いであるのだから。


「うん・・・頑張るなの・・・絶対に同じ過ちは繰り返さないなの!」


「うん♪ それでいいと思うよ」


 涙を拭ってヨイショと気合を入れるナノカちゃん。 僕もそれに習って片手で同じ様にした。


 何か今日一日で彼女の事が人として好きになった気分だった。


 素直に頑張れる子だ。 応援したくなってしまうのも無理は無いだろう?


「青春だねぇ・・・」


 運転席の玄さんが再び呟いていたが、今度も無視しておく。


 

 車はそんな、静かな余韻のような風を受けながら帰路を辿った・・・。


【聖夜に銃声を 9月6日(5)「傷跡からの出発」終わり (6)に続く】

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