9月6日(4)「見た目という事」
医療という技術について、普通はどれだけ知っているだろう?
医者でも無い限り、風邪等の予防や、花粉症、神経痛等の緩和法等・・・。
「家庭の医学」といった物を知っている程度であろう。
だから、僕には分からなかったのだが、神経等は繋がっている事で機能し、もし何かの拍子に切れてしまったりすると、どれだけ力を入れてもどうにもならない事ぐらいは知っていた。
そう。 一度切れてしまったのだから、治療を受けない限り動かない。
それは人間であれば・・・いや、生物であれば同じ事のハズだ。
・・・・・・それなのに
「なんなんだよ! あの娘はっ!?」
250ccのバイクに跨って、僕等の車を追いかけてくる「少女」が一人。
先程、駐車場で迎撃した義手の女の子だった。
あの時僕は確かに彼女の肩に一発の銃弾を当てたし、それであの子は蹲っていてダメージはあったハズなのだ。
それが今元気に追いかけてきている。
ちゃんと両手でバイクのハンドルを握って・・・。
「当たってねかったんじゃねえのかミチよっ!」
運転席の玄さんが叫ぶ。 その隣の助手席から後ろを窺ってみる僕。
後部座席にはナノカちゃんが座っている。
その後ろ・・・30m程後方を走る一台のバイクが見えた。
「確かに当たったよっ! 10m以上離れていたけど外す距離じゃないよ!」
そこまで腕に自信があるわけじゃないが、僕にとって100mも離れていたわけでも無いので外す余地が無かった。
それは当たっていて、何故かダメージが無いという事になり、もしかしたら義手の娘は肩口まで機械の体なのかもしれない。
「でも、それを見たのはミチオ君だけなの。 外れていた可能性も捨てきれないなの。 それより今はあの娘がどう出るか見極めるのが先決なの」
「う・・・それはそうだけど・・・」
ナノカちゃんに正論を言われてしまった。
バイクは一定の距離で僕等に付いてきていた。
信号待ちになったらどうなるか分からないが、流石に相手も市街地で銃撃戦をしようと思わないだろうが・・・。
渋滞を恐れて車は市街地の路地に入る。
あまりスピードは出せないが、相手も同じ速度で追ってきているので問題は無い。
追っ手の義手の少女は白いフルフェイスヘルメットを被って居て顔が見えなかったが、服装は同じだったので間違い無いだろう。 隠れるわけでもなく追ってくる所を見ると襲い掛かる機会を窺っているのかもしれない。
もしかして、ただ話がしたいだけかもしれないが・・・。
・・・いや、そんな常識はもう存在しない事をさっき思い知ったというのに何を女々しい事を考えているんだ!
「・・・玄。 この街で相手を誘い出すには何処がいい?」
このまま逃げていても仕方無い。
悪意があって追って来るなら、追って来れなくさせるしかない。
「卸し倉庫があるぜミチよ」
僕がどういうつもりは玄さんは一瞬で分かってくれたみたいだ。
「林原組の?」
「愚問だぜ」
「分かった。 そこに(車を)回して」
「合点承知だぁ兄弟!」
平日の昼間だったが、意外に車道は空いていて、バイクに追い付かれる事は無かった。
僕等のやり取りを見てナノカちゃんが感心したように頷いていた。
「ほわぁ〜・・・なんだかミチオ君達って阿吽の呼吸なの。 お二人は古い付き合いなの?」
「ううん。 そういうわけじゃないんだけど・・・」
ナノカちゃんに言われて少し恥ずかしくなってしまった。
「僕等は―」
「俺達ゃ〜本当の兄弟よりも厚い契りを結んだ兄弟よぉ! 当然だぜぇ嬢ちゃん!」
こちらが何か言う前に玄さんが勝手な事を言う。
「―・・・いや、結んでないから。 そんな義兄弟の契りとか!?」
杯だって飲んでないよ?
「形じゃねぇってんだよミチよ! お前と俺とは心で繋がってるてえ事だぁ。 なんでえ? 嫌なのかい?」
「嫌だよ。 一歩間違えたらホ●じゃないかその精神」
男にそんな事を言われても嬉しくないのでハッキリと言ってやった。
「ミチ・・・義理人情の世界を●モとか言いやがるか・・・」
玄さんの声は怒っていたけど、運転中なので流石に殴られる事は無かった。
「ふふっ・・・やっぱり仲良しさんなの♪ ちょっと嫉妬しちゃうなの。男同士の友情って素敵なの♪」
それを楽しそうに手を叩くナノカちゃん。
こっちは変な女の子に命を狙われて大変だって言うのに平和な事だよまったく。
「そんな事言ったら、ナノカちゃんだって小木曽さん達とは長いんじゃないの? あ、こういう事聞いていいのかな?」
エージェントとして裏の社会に生きているラビアンローズというエージェント集団の一員のナノカちゃんだが、その素性は僕はまだ知らなかったので聞いてみた。
教えてくれないならそれはそれで構わないし、それなら「教えられない」という事が分かるのだから良い。
「おか・・・・小木曽さんとは長いなの。 ずっと一緒にお仕事してるから彼女の事は何でも知ってるなの♪」
そう思ったのだがアッサリとナノカちゃんは説明してくれた。
いや・・・「おか・・・」?
「ナノカちゃん? 今なんて言いかけたの?」
オープンカーで風の音が会話を掻き消しただけかもしれないが、一瞬何か言いかけたように感じたので聞いてみると、ナノカちゃんはそれにビクンと分かりやすく体を震わせて反応した。
ポーカーフェイスが必要な仕事は出来ないね。 ナノカちゃん。
「あ〜う〜。 小木曽さんに言った事言わないって約束してくれるなの?」
「うん? 言われたくないなら構わないけど?」
「ありがとなの・・・。 ええとね・・・」
「うん」
僕は、そこまでの流れで、この後のナノカちゃんの言葉が大体予想出来てしまっていた。
とりあえず相槌を打っておく。
「彼女は・・・私のお母さんなのっ!」
「ふ〜ん。 じゃあ家族でやってるんだねエージェント。 レンちゃんは違うの?」
「ミチオ君反応薄っ!?」
「え? 何が?」
何故か怒られた。
「衝撃の告白だったなの! それが「ふ〜ん」だけってミチオ君メディアを舐めてるなの!!」
「どんな種類のメディアなのか知らないけど、そうなんじゃないかなって思っただけだよ」
意味不明な事を言うナノカちゃんを窘めていると、運転席の玄さんが吹き出しながら笑った。
「ガハハ! ミチぃ。 ナノカの嬢ちゃんは「それホント!?」って驚いてえ欲しかったんじゃねえのかい? 全く女心の分かってねえなぁつくづく・・・」
「そうなの? 玄さん良く分かったね」
「・・・なぁナノカの嬢ちゃん。 こんな男がモテるっ世も末だと思わねえか? 俺の知ってるだけで3人もの女を惑わせてるんだぜコイツ」
僕を無視して後ろのナノカちゃんに話しかける玄さん
「思うなの♪ でも、ミチオ君は可愛いから許せるなの」
ナノカちゃんのそんな言葉を聴いて、後ろから撃たれた気分だったのだろう。 玄さんは大袈裟に顔に手を当てて呻いた。
運転中にその行動は危ないよ玄さん・・・。
「かぁ〜! ここにも奇特なやつぁ居やがったか!」
「いや、ナノカちゃん・・・。 僕、一応年上だから可愛いとかって・・・。 それに玄さん。 三人って誰だよ!? それより前見て前!」
「ちゃんと見てるぜ? それと三人って言やぁ。そりゃあ麻兎って子に、久美子って子に、それに祈の姐さんに決まってるじゃねえか」
「待ってよっ!?」
玄の上げるラインナップに突っ込み所が満載で思わず声を上げてしまった。 それを聞いてナノカちゃんがポンと手を叩いて微笑んでこんな事を言う。
「あ、それじゃあ4人なの」
はい?
「ん? なんでえ嬢ちゃん?」
「お母さんもミチオ君可愛いって言ってたの♪ あ・・・これも言っちゃ駄目なのミチオ君」
「何か色々待ってよぉぉぉ!?」
言っても待っちゃくれないだろうけど叫ばずに居られなかった。
「ほぉ。 なら後、嬢ちゃんとレンって嬢ちゃん落とせばコンプリートじゃねえか」
二人とも・・・僕で遊んでるんじゃないだろうね?
そう思って玄さんとナノカちゃんの顔を交互に見ると、ナノカちゃんの顔が急に素に戻ったように強張った。
「あ、それは無いなの。 私あんな事言う人大嫌いなの♪」
「・・・だからアレは僕の意思じゃないって・・・」
さっき居た資料室で「僕の別の人格」が、まぁ女性に言うような事じゃない事を言ったりやったりしたのだけど・・・。
僕の思考(良心?)からでは体が動かずに、勝手に動いてしまったのだから過失である。
・・・それを他人に言っても仕方無いとは思うけどね。
「さっきも言ったけど、見た目で判断するような事を言ったのは事実なの。 それが無意識でも心の傷になるの」
「それは分かるけど・・・」
心の傷と言われても、僕には謝るしか無いのだろうが、一体どういう風に謝ればいいのか分からなかった。
勝手に動いてごめんなさい? それだと余計に言われそうな気がするけど・・・。
「? 何を言ったのか知らねえが、完全に嫌われてやがるなぁミチ」
「うん。 人格が変わっちゃってね。 下品な事を言っちゃったんだよ」
事情を知らない玄さんに僕は先程あった事を簡単に説明した。
それを聞いた玄さんは顎に手を当てて神妙に眉を潜めた。 そして後部座席のナノカちゃんに最低限聞こえる落ち着いた声で話し出した。
「ほう? ・・・なぁ嬢ちゃん。 なら、今のミチはお前さん嫌いなのかい?」
「そんな事は無いなの。 普段は優しい人だと思うなの」
自分の評価という物を、隣で聞いていて何だか小痒い気がしたが、僕は大人しく静かにしていることにした。
「・・・じゃあよ。 それは見た目で判断してねえってのかい? 嬢ちゃんの言う事も分かるがぁ俺にはその考えは筋が通ってねえと思うがよ?」
「でも・・・」
「でもも案山子もねえよ。 今のミチを嫌いじゃねえってんならその「嫌いだったミチオ君」を見て、おかしいと思ったんならあれだ。 元に戻そうと何かしたのかい? それをせずにただ攻撃したってんならやってる事は同じじゃあねえか? そこで元に戻そうと努力するってのが「人を好き」になるって事なんだって俺ぁ思うぜ」
「・・・・・・」
「おっと。 言い過ぎちまったぜ。 俺も偉そうな事が言えた義理じゃねえが、色んなヤツに支え支えられてる立場でなぁ。 俺達の世界じゃあ、見た目で判断する事ぁまずあり得ねえからな。 そういう類の事になるとちぃと熱くなっちまうんだ許してくれねえかナノカの嬢ちゃん」
「・・・・・・」
「あ〜・・・ええとな嬢ちゃん。 人は間違えるんでえ。 間違えずに大人になったヤツなんざロクなもんじゃねえ。 嬢ちゃんはまだ若いんだ。 これから色々考えていけばいいじゃねえか。 俺の信条。 嬢ちゃんの信条。 ミチの信条。 人それぞれだがぁ、正しい道ってえのはやっぱり似た道なんじゃねえかと思うんだ俺あ。 こんな考えは俺の勝手ってもんだから人様に言えるようなもんじゃねえが、すぐに決めちまわねえでゆっくり考えていくのがいいんじゃんねか?」
「もの凄く玄五郎節だね・・・」
玄さんの言う事に僕は頷いてしまったのだが、ナノカちゃんにしてみれば溜まったものじゃないと僕は思った。
ナノカちゃんにはナノカちゃんの言い分があって、それを否定する事は価値観の違いという物の普遍化となるわけであり、物事の善悪に至ってはそれこそ考え方等千差万別なのだ。
だから僕は何も言えなかったのだし・・・。
ナノカちゃんが静かになった事で少し玄さんも悪い気がしたのか取り繕うように明るく言おうとするが、ナノカちゃんは顔を上げなかった。
もしや泣いているのかと思って見ると、そういうわけでは無く、ただ俯いて考えているようだった。
玄さんの言葉に反論することも無く、頭の中で整理しようとしているのかもしれない。
やっぱり根はいい子・・・いや、素直でいい子なんだと思う。
それなのに、あんなに激しい反応をしたという事は、あの時の僕の言葉が何かコンプレックスに触れたという可能性も出てくる気がした。
あぁ、それを謝ればいいのか。
<ルルルンルンルン♪ ルルルンルンルン♪ ルルルンルン♪ルンルンルーン♪ しあわをも―>
「はい」
何処かからか急に妙な歌が流れてきたと思ったら、なんとそれは僕の携帯電話から鳴っていた。
いつの間にこんな着信音になってるんだよ・・・。
2方向からのスナイパーライフルより的確な視線弾を直撃しながら、僕は慌てて電話を取った。
そこから聞こえてくるのは可愛らしいが、いつも強気な声。
『ミチオ? 今何処に居るの?』
祈だった。
先程の会社での、停電作戦を実行してから連絡の無い僕に不審に思ったのだろうか。
「あ、祈? 今変な義手の女の子に追われてるから後でかけるよ」
『義手? それって言ってた昨晩の? 分かったわ。 晩御飯までには戻るのよ?』
「お使いじゃないんだから・・・。 もしかしたら返り討ちにあうかもしれないんだよ?」
一度二度交戦したが、それでも何があるかわからないのが世の中だ。 用心には越した事は無い。
『そんな事になる人がそんなに落ち着いた声じゃないわよ。 一度やり合ってる相手だから相手の力量もわかってるんでしょ?』
「いや、これでも慌ててるんだけどね。 まぁ、こっちは三人だし、誰かは生き残るよ」
こんな冗談を言うから緊張感が無いと思われてしまうんだろうけど、性格だから仕方無い。
あまり真剣に考えたって結果は同じなんだから。
運が相手より勝っていれば生き残る。
シンプルな仕組みだ。
『分かったわ。 危なかったら最初に玄を盾にしなさいよ』
「分かった。 そうするよ」
考えても見なかった良策を授かってしまった。
いや、冗談だけど。
「・・・・・・聞えてねえが、俺の悪口言ってねえか?」
「言ってないよ」
そんなやり取りを野生の勘か何かで感じたのか、玄さんがすぐに一言言ってくるが、僕は無表情にそう言い切った。
これがポーカーフェイスだよ。ナノカちゃん。
『あ、そうだミチオ』
「あ、何?」
あぁ、まだ電話が続いていたんだった。
尚も僕を、横目で睨んでいる玄さんから視線を外して、電話に集中した。
『出来れば生け捕りにしてきなさい。 料理するから』
「・・・人食い?」
『馬鹿言ってるんじゃないわよ! 尋問よ! じ・ん・も・んっ! 分かって言ってるんなら100叩きの刑よミチオ!』
電話越しに大声を上げられて鼓膜に風穴が空くかと思うぐらい痛かった。
「・・・了解であります。サー・・・」
涙目になりながら僕は答える。
『よろしい♪ 以上交信を終わる。 健闘を祈るぞ軍曹ぉ♪』
珍しく・・・というか、初めてそんな馬鹿な答え方をする祈を聞いた気がした。
実は意外にノリが良いのかもしれない。
「はいはい」
司令官殿との交信終了。
電話を終えるといつの間にか景色が変わっていた。先程まで市街地だった気がしたが、今は海沿いの道を走っていてスピードも速くなっていた。
「玄。 もう着くのかな?」
海沿いという事は、「卸し倉庫」というのは港の事か・・・。
「後もうちょっとでえ。 急かすねえ」
「うん。 まだ着いてきてるみたいだけど、一向に距離が縮まらないのを見ると、相手も様子を窺ってるみたいだから、今の内に装備を確認しときたいんだけど、銃は玄のコルト一丁だけ?」
「おう。 さっきは持っていくの忘れたが、預かってるぜ。 コイツとコイツをよ」
聞くと、玄さんは片手で僕の足元からアタッシュケースを取り出し、器用に片手で開けて、そこから二丁の銃を見せてきた。
「ナイス玄!」
それは僕のコルト・キングコブラとワルサーP99。 ワルサーの方はナノカちゃん用かな?
「あ、それお母さんのなの。 一応預かるの」
ワルサーを指差してナノカちゃんが言うので、僕はそれを取って手渡してあげる。
ナノカちゃんは受け取ると感触を確かめるように眺めて、それを仕舞った。
胸の谷間に。
・・・何処の女スパイ!? ってそのままか。 彼女はエージェントだったっけね。
歩くだけで揺れているような胸で、そんな所に差したら不安定じゃないのかなぁ?
僕には分からないけど・・・。
「・・・って」
我知らず、女の子の胸ばかり見ている自分に気付きかぶり振る。変態か僕は・・・。
幸いナノカちゃんは気付いていないようで、僕の様子に「?」と首を傾げていた。
それより今の内にコルトのメンテをしないとね。
持って来て貰った銃は当然弾が入っていない。 暴発を防ぐために抜いてあるのだ。
ナノカちゃんにワルサーの弾のカートリッジを渡し、僕もコルトに弾を充填していく。
リボルバーなので全部で6発。ガンベルトでもあれば予備の弾を持っていけるけど、無いみたいだから一発一発を大事にしないとね。
本当なら一度組み立て直したいけど、そんな時間も無いので今回はやめておく。
一通り整備して僕は銃を胸元のポケットに入れた。
・・・腰に差すよりは取り出す時間が短いっていう理由で言えば、ナノカちゃんの収納部は間違いじゃないのかもしれない。 今更そう思い直した。
「人一人には十分だけど・・・これだけ?」
「姐さんはコレだけでいいって言ってたぜ? 後は現地でなんとかしろ! だとよ」
「・・・まぁあんまり痕跡が残るような物持ってきても仕方無いけどね。 じゃあ、準備はこれでいいとして、現地に着いたらナノカちゃんは隠れておいてね」
「えぇ!? 私も戦えるなの!」
それは先程の資料室での事で十分分かってはいる。
だが、先程は相手は丸腰だったが、今度はそういうわけもいかない。
だから僕は首を横に振る。
「駄目だよ」
「どうしてなの!? 私だけ除け者なんて酷いなの!」
ナノカちゃんは下手に腕に自信があるので食い下がってくる。
もしかしたら、銃撃戦も凄いのかもしれないが、不確定な要素を期待するのは自殺行為だ。
再度首を振り、諭すように言い聞かせる。
「駄目だよ。 ナノカちゃんは女の子なんだから。 いくら戦えるからって怪我でもさせたら小木曽さんに怒られるよ」
「・・・放って逃げた人の言う台詞じゃないなの・・・」
拗ねた様に横を向いて膨れるナノカちゃん。 痛い所を突かれた。
「あの時は余裕が無かったからね。 今は状況が違うよ。 守れる命は守るのが僕の「信条」だよ」
「・・・殺し屋の言う台詞じゃないなの」
連続で急所を的確に攻撃するナノカちゃんは中々のアタッカーだと僕は思う。
僕は言い訳を諦め溜息を付いてしまった。
「・・・まあね」
「でも・・・ちょっとカッコイイなの♪ 分かったなの。 危なくなったら勝手に動くなの」
「それでいいよ。 流石に身を挺して守る余裕が無いってのもあるけどね。 あの娘人並み外れてるっぽいから気をつけてね」
「私を舐めないで欲しいの♪」
同じ様に相手も舐めない様にしてほしいんだけど・・・実践すれば分かるだろうから、もう僕は何も言わない事にした。
「おう。 おしゃべりはそれぐらいにしときな。 着くぜ」
玄さんの言葉と共に車が0Kmに近付いてきていた。
そして、僕等の視線の先に大きく「No.7」と書かれた倉庫が見えた。
車が倉庫の前で止まると、着いて来たバイクも一定の距離で止まった。
僕等はすぐに車を降りて倉庫の中に入る。
そこで、謎の義手の少女との戦いが始まろうとしていた。
【聖夜に銃声を 9月6日(4)「見た目という事」終わり (5)に続く】