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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
26/49

9月5日(4)「相談所の日常」

9月5日の仕事は3件あった。



 1つ目は「探し物」


 2つ目は「調査と手伝い」


 3つ目は「調査」



 一つ目の「探し物」だが、これは依頼主の記憶を辿ればすぐ解決するだろう。


 ちなみにその探し物とは「結婚指輪」。


 まぁ、ありきたりな探し物だ。 大方結婚記念日の近い人なんだろう。



 2つ目の「調査と手伝い」、これは一瞬なんの事か分からないと思ったが内容を見ると、「告白の手伝い」らしい。


 こんな後押しを頼まないといけないって言うのはどうかと思うけど、依頼にケチをつけるつもりは僕には無い。



 3つ目は・・・「調査」という事だが、とある企業への内偵行為の事のようだ。


 ライバル会社の内部事情を調べるという事らしいけど、要はスパイ活動って事だね。



 一つだけ妙に難易度が高い気がするけど、それ以外は子供のお使い程度の仕事だった。


 報酬は必要経費+αなので、3つ目の調査が一番お金が掛かりそうだけど、その+αも中々良い感じだった。



 祈はラビアンローズの人達に任せろと言ったが・・・。


 本当に任せていいのだろうか?



「あ、丁度三つありますね。 一人一つ担当しましょうか」

「賛成なの〜♪」

「分かりましたです」


 三人は、勝手に僕の後ろからパソコンのディスプレイを覗き込んで盛り上がっている。


 僕の中で三人の評価は、レンちゃん>小木曽さん>ナノカちゃん。となっている。


 これは今朝の朝食の件から単純に出した評価なのだが、「仕事」と「料理」は違うようで似ている。


 何かをするという工程が大雑把だと、仕事もうまくいくわけが無いと思うからだ。


 改めて彼女達の素性を説明すれば、小木曽さんはラビアンローズのリーダーであり、最年長―のハズ―で、経験が豊富そうだった。

 ナノカちゃんは、その見た目からは想像できない程パワフルで、とてもボケボケしているように見えるが意外に真面目で責任感が強いようだ。

 レンちゃんは、まだ謎だが、しっかりしていて頼りになりそうだ。 ちょっと大人しい感じがするが、控え目なだけで、悪い事では無いだろう。


 そんな三人に仕事を任せる・・・イコールで僕の相談所の信用問題になるんだけど・・・。


 

 ここで3つの仕事の分担を僕なりに考えてみるのだが、最初の二つは子供でも出来るだろうから誰でも良い。


 問題は最後の一つは実際にやった事が無いと難しいだろう。 彼女達の経歴は知らないので、任せるのもちょっと怖い。


 となると、僕の考えは一つだった。


「小木曽さん。 申し訳無いけど、二つ目の「手伝い」はお願いできるかな?」


「二つ目というと、この「純情な子」の恋のキューピット役の事ですね? かしこまりました」


 多分年が一番上の、人生経験豊富な人がやるのが一番だと思った僕の判断だ。


 もし、駄目だとしても、メンタルケアは大丈夫だろう。 「大人の女性」の安心感があるから。



 では、次に・・・


「ナノカちゃん、君は一つ目の「探し物」をお願い。 簡単な仕事だって思って手を抜いちゃ駄目だよ?」


「あ、はいなの! 任せて欲しいなの♪」


 ナノカちゃんは僕の指示に嬉しそうに承諾した。 素直でいい子だなぁ・・・。 誰かと違って・・・。


「あ、じゃあ・・・」


 そして最後に残ったレンちゃん。


 彼女はもちろん残った「調査」の仕事だと思ったのだろう。 身を乗り出して来た。


 だが、僕の答えは違った。


「ううん。 レンちゃんは今回は直接的にはお休みして貰いたいんだ」


「え・・・」


 僕の言葉に、レンちゃんの目が失望の色に変わった。 他の二人も同時に僕の方を弾かれたように見ていた。


 ちょっと視線が痛い。


 どうして? という目で見られながら、僕は手を左右に振って誤解しているであろう説明をした。


「あ、勘違いしないで欲しいんだけど、レンちゃんを信用して無いわけじゃないんだよ。 ただ、今回の3つ目の仕事はちょっと難しそうだからね。 レンちゃんには他の仕事をやってもらいたいんだよ」


「他の・・・仕事って何かありましたです?」


 コクンと首を横に傾げて再びディスプレイを覗き込むレンちゃん。


 そこにはやはり3つの仕事しか表示されていない。


 僕は焦らすつもりも無かったので、「彼女の仕事」を明かした。


「レンちゃんパソコンは触れるかな? レンちゃんには事務所に残って他の人のバックアップをして欲しいんだ。 もちろん、これは一番重要な仕事だから信用が出来ない人には任せたくないんだけど、レンちゃんは悪い子に思えないからね」


「・・・・・・わかりましたです! やらせてもらいますです!」


 一度沈んだ彼女の顔が目に見えて明るくなるのが分かった。


 誰かに信用されるというのは、とても嬉しい事なのだろう。 一瞬前まで仲間はずれにされたのかと思っただろうから尚更だ。


 

 ただ、実は言葉でそうは言っても、僕は皆そこまで信用しているわけでは無かった。


 なんと言っても知り合って数日だ。 重要な仕事を任せるなんて出来ない。


 ただ、3つ目の仕事以外はどれも失敗してもそこまで問題は無い仕事だったし、バックアップとは聞こえは良いが、要は電話番のようなものだ。


 

 という感じに適当に任せてみたのだけど・・・。



 それから夕方になって、僕はその選択がある意味正解で、ある意味間違っていた事を知った。


 

 まず、一つ目の仕事の「探し物」だが、これは意外にすぐに解決したようだった。


 ただ、その間に指輪の持ち主の相手、つまり依頼主の奥さんが急に倒れたらしく、病院まで付き添って色々とお世話をしたらしい。

 ナノカちゃんは面倒見が良い所があって、とても優しい子だったようだ。


 2つ目の「調査と手伝い」は、僕の思惑通りに小木曽さんは依頼主の話を聞いて人生経験から助言をしたらしいのだけど・・・、その助言がなんと「諦めなさい」らしかった。

 当然怒った依頼主はその真意を問い詰めたらしいが、依頼主の調査対象、つまり告白相手は重度の病いを患っていたらしく、その事を知った依頼主は陰ながら見守るという選択を取ったらしい。

 そのまま告白して上手くいっても、相手の重荷に、自分の重荷になるという事を分からせたかったという事だ。

 それはそうかもしれないけど・・・、ちょっとコレについては僕は少し納得いかない気がするんだけどね。 だって、好きなら思いを伝えて、そしてなお支えてあげればいいんじゃないかと思ったんだけど、それはケースバイケースで、必ずしも正解とは言えないらしい。


 難しいね。


 さて、残った3つ目の仕事の事の前に、レンちゃんの事。


 実は、彼女は「パソコンがちょっと出来る」とかいうレベルでは無かった。


 1つ目の調査の事も、彼女が調べ上げてくれたお陰だったし、二つ目の仕事も、相手の素性等を短時間で調べ上げ、小木曽さんに伝えたのも彼女だった。


 その仕事ぶりは秀逸過ぎて非の打ち所が無かった。


 

 そんなわけで、レンちゃん等の事を考えても3つの仕事をそのまま一人一つに担当してもらっても問題は無かったという事が分かった。



 ・・・・・


 ここからが問題なのだけど、3つ目の仕事。


 これは僕が請け負ったのだけど・・・。



「お茶が入りましたぁ部長」


「ありがとう。 ミチコさん」


 部長に淹れたばかりのお茶を出す「僕」。



 僕の姿はOLの格好だった。


 何故そんな格好をしているかと言うと、調査対象の会社がランジェリーの会社で、女性社員ばかりだったのだ。


 男性社員が居ないわけでは無いが、絶対的に少なく、忍び込むのにそのままだと怪しまれる可能性があったから・・・。


 僕は人生2度目の女装をしているというわけだ。



 勘弁して欲しいよ・・・。


 これが今回の「間違った選択」だったのは言うまでも無い。


 

 仕事内容は良く確認しよう。 これからは・・・。



 そして、この3つ目の仕事に関しては1日で終わるような内容ではなく、重要な情報を調べるのにはもう少し時間が掛かりそうだった。


 新米の社員に調べられる情報など高が知れている。


 依頼主が知りたいのは秘密裏に開発しているような新商品の情報だった。


 要するに、そういう新商品が開発される前に出し抜く情報が欲しいという事だろう。



 これをレンちゃんが担当していたなら・・・、会社のパソコンのハッキングぐらいはしていたかもしれない。


 僕はそこまでは出来ないので、地道に話し込みなんかで一日を費やした。



 再度言うが、OL姿で・・・。



 



 事務所に帰ってくると、祈が帰宅(?)していて、その話をすると「馬鹿じゃないの?」というお言葉を頂いた。


 祈はラビアンローズ達の資質を考慮した上で「任せろ」と言ったらしい事を言われて、僕は何も言い返せなかった。


 OL姿にまでなって・・・。


「まぁ、一度請け負った仕事なんだからミチオが最後までやりなさいよ? 途中から増員は出来そうに無いしね、仕事の性質上。 まぁ、安心しなさい。 私も手伝ってあげるから」


「え? 増員は出来ないんじゃないの?」


 会社へのスパイ行為に何人もで掛かると怪しまれてしまうだろうから、それは出来ないと思ったのだが、彼女はその問いに悪戯っぽい微笑を浮かべて「いつもの台詞」を吐いた。


「私は神よ。 任せておきなさい。 ミチオ」


 祈が何を考えているのか分からなかったが、祈がそう言うと何故か安心してしまう。


 祈は出来ない事を言うような者では無い事は、これまでの事でなんとなく分かったのだが・・・。


「具体的にはどうするの?」


 そう聞かずに居られなかった。


「そうねぇ・・・。 今日調べた事以外に内部の構成なんかが分かるの?」


「内部の構成? 部署の人達の名前ぐらいなら・・・」


「・・・今日一日何してたのよ? 短いスカートで嬉しそうにお茶汲んでたんじゃないでしょうね?」


「・・・・・ま、まさかぁ!」


 見て来たんだろうか?


 美味しいお茶の淹れ方は完璧だったのが幸いというか不幸と言うか、お茶汲みとしては優秀な社員になってしまっていたのは認める。 実際仕事の充実感が・・・。 いやいや・・・。


「後、レン」


「あ、はいです」


 僕の様子に、祈は半眼になりながら、事務所のお茶汲み係のように、皆に淹れ立てのお茶を振舞っていたレンちゃんを呼び止めて手招きした。


 呼ばれて湯飲みをお盆に乗せながらパタパタと駆け寄ってくるレンちゃん。


 僕にはそれが、一瞬犬みたいに思えた。


 祈はレンちゃんに湯飲みと交換に一枚の棒状の物を手渡した。


 受け取りながら、見えるわけじゃないが、光に当てて透かしてみながらレンちゃんは首をかしげた。


「? これは?」


「今日授業中に調べておいたランジェリー社のパソコンのハック用解除コードよ。 違法なルートを辿るから足跡は残さないようにね? それぐらいは出来るわよね?」


「あぁ・・・多重プロテクトが厳重だったんですが、助かりますです♪」


 何を言っているのかと言えば、調査対象の会社のパソコンに外部から進入しようとしているらしい。


 そんな進入ルートをどうやって調べたのか疑問だが、レンちゃんはそれを早速事務所のパソコンに接続して試してみて「おぉ〜」とか言ってるので多分成功しているのだろう。


 祈さん・・・。アンタバケモンです。


「私がただ小学生してると思ったら大間違いよ? ミ チ オ?」


 今日も今日とて祈に敵わない事を再確認しながら、9月5日の夜は更けていった・・・。



【聖夜に銃声を 9月5日(4) 「相談所の日常」終わり  (5)に続く】

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