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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
23/49

9月5日(1)「闇に光る誰某」

 天宮院家。


 都内でも有数の実力と財力を持つ良家であり、政界に多大な影響力を持っている。


 そんな天宮院一家の住む屋敷の主が今回のターゲットだ。


 何故だとかそんな事は思ったりしない。


 それは仕事であるからだ。


 私情を挟めばそれは仕事ではなくなってしまう。


「ちなみに報酬は500万元。 妥当なところでしょ?」


「元? 元って中国通貨? ・・・って事は、100は確保するって事だね」


「日本円に換算して150ぐらいね。 クライアントがそっちの人だから仕方無いんじゃない?」


「ふぅん? 今回のクライアントは海外からか・・・。 僕そんな交流あったっけ?」


「新規でしょ? この前載せといたからそれを見てって事ね。 2日にネカフェからリモートして広告出しといたのよ」


「はい? 事務所のPCを? そんな仕様にしてなかったと思うけど・・・」


「もちろん変えたわよ。 ミチオって注意力散漫なのね」


「ぐ・・・」


 さて、祈が何を言っているかと言うと、僕の事務所にあるパソコンをネットカフェからリモートコントロール・・・つまり遠隔操作して動かし、仕事の依頼が来るように設定したらしい。

 初日に仕事が全く来なかった事に手を打っていたのだろう。 やる事が抜け目無いというか仕事が速いというか・・・。

 僕がラビアンローズについて調べている間に何をしていたのかと思ったら・・・。

 そういえば、ただ単に調べているにしては時間が掛かっていたしね。


「それと、報酬については間違い無いから安心して。 クライアントは私の知り合いよ」


「知り合い?」


 天宮院邸に忍び込むのだが、その地位を示すかのような大きな屋敷には当然高い塀で隔てられていた。 


 ただ塀を登ってもセキュリティーがあるだろうから駄目だ。


「ええ、サイ・フォンってケチな中国マフィアよ。 昔ちょっとお世話になったのよね」


「中国マフィア!?」


 話しながら僕は塀の端に赤外線を放つ装置を見つけた。  それを鏡で反射させて同じ角度にしてやればいいのかもしれないが・・・。


 その赤外線がセンチュリーガンというか自動射撃装置だったりすると恐ろしくOUTだ。


「そうよ? 聞いたんじゃなかったの?」


「いや・・・聞いたんだけど、祈は話さなかったからウソじゃないかと・・・」


「私はウソはつかないわよ? 一度しか・・・」


「一度って!?」


「あら? 聞こえた? 一日に一度だけって事よ」


「それ多いって!」


 一瞬大きな声を出してしまった。 すぐに祈が口に人差し指を当てる。


 「静かにしなさい愚豚」と言われた様な気分がした。


「大したウソは付かないって事よ。 別に目くじら立てるような事じゃないでしょ? 以外に神経質なのね?」


「君にあってからだよそんなの・・・。 僕は普段は平和が好きなただの好青年なんだから」


「自分で言うとギャグにしかならないわよ? まぁ好青年って言えばそうでしょうけど、キスも上手いし」


「言わないでよソレ・・・。 忘れたいんだから」


「へぇ? 忘れたいんだ? そう・・・へぇ〜?」


「ま・・・何?」


「ううん。 過去を気にし過ぎって思っただけよ」


「・・・祈も過去を気にしてるって事を気にし過ぎじゃないか?」


「・・・言葉遊びをしてる場合じゃないでしょ? いい? 女は一つの話が終わってたと思っても、それが女の中では続いている事もあるのよ。 だから話が飛ぶような気がしても、それは実は同じ事だったりするの。 分かる?」


「・・・イキナリ精神論をされてもね・・・。 結局何が言いたいんだよ?」


「それよ。 「結局」とか「結果」が全てじゃないのよ。 大事なのはその過程。 人生っていうのもそういうものでしょう? 結果は決まっている。 人はいつか死ぬわけだし。 だけど、それまでに何が出来たかって事が大事なんじゃないかと思うのよ」


「・・・良く分からなくなってきたんだけど・・・」


「なら、勉強しなさい。 貴方には時間がある。 じっくりと考えるといいわ。 それに、答えが必要かって言えば、そうでも無いのよ? ここまで言えば少しは分かってくれるかしら?」


「うん・・・なんとなくだけど、分かるような気もしないでも無いかな?」


 本当にニュアンスぐらいだけど、分かる気もする。


 分かったのは、考え方の違いというのは、そういう所から生まれるんだという事ぐらいだけど・・・。



 そんな事より今は仕事だ。


 僕は塀の近くに木でも無いか見渡すと、一本の大きな木が目にとまった。


 大体5mぐらいだろうか?


 その木にロープでも張れば1mぐらいの余裕はあるかもしれない。


 問題は塀の向こう側にこちらからロープを伸ばせる場所があるかという事だが・・・。


「にしても、最近少し肌寒いわねぇ〜。 コートでも着てくるべきだったかしら?」


 そう気楽に言っている祈は黒のシャツに黒のパンツ姿だった。 僕も似たような物だったが・・・。


 闇にまぎれるには黒が一番だと思う。 個人的に黒は好きな色で落ち着くんだけどね。


 ちなみに祈がコートとか言ったのは冗談だろう。 そんな動きにくい格好をするわけがない。


「そろそろ仕事の話をしようよ? どうする祈? 塀はそのまま登れないみたいだけど・・・」


「私一人ならすぐに入れるけどミチオには辛いでしょうね。 仕方無いわね・・・」


 祈は僕が見ていた木と塀を交互に見て、僕の首を後ろから掴んだ。


 ・・・ものすごく嫌な予感がするんだけど・・・。


「声出すんじゃないわよ?  ・・・せいっ!」


「(どうわぁぁ〜〜〜〜!?)」


 僕は祈に「投げられて」塀を大きく越える。


 常人では無い腕力とかそんな次元で済まない感じだった。 声を上げそうになるのを必死に堪えて空中浮遊。


 そして僕を投げた当の祈は、先程の木に素早く跳躍してそのまま蹴り上げて跳ぶ。 


 三角跳びだ。


 その勢いのまま飛ばされている僕に追い付くと、僕を抱えて天宮院邸敷地内に着地する。


 

 何者だよこの子供・・・。


 また「神」って言われるのがオチなのだが、つい考えてしまう。


「今は違うわ」


「? 何が?」


「今は貴方の優秀なパートナーよ」


 暗闇の中でよく分からなかったが、祈は笑っているのかもしれない。


 何故かとても楽しそうだった。


 これから人を殺しにいくというのに、その表情はピクニックか遠足かと思う笑顔なのだろう。



「じゃあ、打ち合わせ通りにやるわよ。 屋敷内部には部屋が30以上あるわ。 その中からターゲットの4人を素早く仕留める。 もたもたしてるとガードマン達に捕まるしね。 皆殺しでも構わないけど、外から応援が来たら厄介だし、素早くハイスコアをゲットよ」


「警備員は20人も居るんだね。 非戦闘員を合わせると30人近くが屋敷に住んでいるって事になるね。 要注意って所にバトラーって書いてあったけど何バトラー? 剣闘士?」


 来る前に見てきた屋敷の間取り図と、資料を思い浮かべながら話す。


 丁寧に屋敷のターゲットの位置なんかが一緒の送られてきたらしい。


 本来はそういう情報はこちらが調べておくのだが、初回だからなのかとても親切だった。


「なんでよっ!? バトラーって言ったら執事の事でしょ? なんでも此処の老執事は強敵らしいわ。 出会ったらまず逃げる。 間違っても相手しちゃ駄目よ?」


「い・・・祈がそこまで言う相手だっていうなら素直に逃げるに決まってるよ。 了解」


 そう思って冷や汗を流していると、祈は黒い拳銃を取り出してグリップ辺りを指でトントンと叩いた。


 弾が入っているか?という確認だろうか?


 そう思って僕は祈と同じ様な黒い拳銃を取り出して、弾の入ったマガジンを引き抜いて見せた。


 コレ?というジェスチャーをすると、祈は人差し指の先と親指の先をくっ付けてみせる。

 OKサインだった。



 さて、そろそろ屋敷の中に潜入だ。


 あぁ、そういえば、さっきのジェスチャーなんかは意味が違うらしかったらしいけど、それはあまり重要では無い。


 屋敷の正面の扉は流石に閉まっていたので、裏口、厨房に通じる扉をピッキングする。


 まだ0時を過ぎて少ししか経っていないので誰か居るかと思ったが、厨房とそれに通じる通路は真っ暗だった。


 もう皆寝静まったのだろうか?



 とりあえずこちらとしては好都合なので、僕等はそこで二手に分かれる事になっていた。


 ターゲットは4人。


 だから二人づつ担当しようという事になった。


 手際良くすれば5分〜10分で終わるだろう。



 さぁ、本番だ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 僕の担当は天宮院家の当主とその妻。 祈はその子供達二人だった。


 その選択に意味は無い。


 ただ、祈は初仕事という事で、難易度が低い方がいいだろうという事も無いわけでは無いのだが、どちらにしろ、手際の良い祈の事だからもたもたしていると、僕の獲物さえも取られてしまうかもしれない。



 明かりの消えている通路を慎重に歩き、足音と気配を消す。


 見回りをしているような者も居ないのは屋敷は静かだった。


 目的の場所まではすぐだ。 あせる必要は無い。


 僕は愛銃とは別の黒い拳銃を握り締めながらゆっくり歩く。


 サイレンサー付きの銃で、撃っても音が殆どしない銃だ。


 愛銃のコルトは緊急事態までの切り札として持ってきているだけだった。



「・・・此処か」


 僕は一つの部屋の前で立ち止まった。

 その部屋には主が居るであろうと思われる看板があった。


 《パパとママのラブ2るーむ♪》と書かれた看板が・・・。


 僕は猛烈に殺意が芽生えてやる気が出てしまった。



 扉に耳を当てると話し声が聞こえた。 男と女の声。

 どうやら起きているようだ。


 だが、そんな事は関係無い。 全ては一瞬だ。



 僕は扉を一気に開け放った。


 中に居た男と女がターゲットの当主と妻なのはすぐに分かった。

 何故なら二人は一緒になって何かをしていたからだ。


 詳しく言いたくも無い。


 僕は驚いてこちらを見てくる二つの視線を拭い去るように銃の引き金を二度引いた。


 

 二人は悲鳴を上げる暇も無く絶命するが、僕は念の為に急所を狙って何発か撃っておく事にした。

 何かの拍子に奇跡的に助かってしまっては仕事は失敗になってしまう。


 仕事を終えた僕はすぐに祈と合流しようと部屋の扉に手を書けた。 その時―


「侵入者だーーー! 侵入者が出たぞぉぉ〜!」


 そんな声と共に廊下の通路灯が点いた。


 僕は慌てて部屋の中に戻る。


 

 なんだ!? 


 もしかして、祈が失敗したのか!?


 マズイな・・・。 警備員は数名だったと思うけど、隠密行動している時と、状況が違い過ぎる。


 外部に連絡が行く前に敵を皆殺しにするか、見付かる前に逃げるか・・・。


 いや、祈と合流するのが先か?




 ・・・・・・・・・・


 ・・・・・・それとも・・・彼女を見捨てるか?





 僕は一瞬でその決断に迫られてしまう事になった。


 祈に会ってまだ数日、確かに情は移っているかもしれないが、彼女は危険だ。

 それに、失敗をした者を助ける危険を冒して共倒れするなんて事になったら目も当てられない・・・。

 祈は確かに常識外れた身体能力があるが、それが仕事が成功する全てでは無いという事か・・・。

 楽な仕事だと思っていたのに・・・。

 バタバタと足音が近付いてくる。 


 僕は、すぐに決断する。



 

 祈を見捨てる方向で・・・。




 僕は部屋の窓から身を躍り出した。


【聖夜に銃声を 9月5日(1) 「闇に光る誰某」終わり (2)へ続く】

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