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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
20/49

9月3日(5)「少女鑑賞中」


「丁度この頃になるとな・・・思い出すんじゃよ・・・あの日の事を・・・」


「・・・・・・」


「普通の人達には普通の日じゃっただろう。じゃが、ワシはそうじゃなかった・・・。 ワシの中ではまだ続いておったんじゃ・・・戦争が・・・」


「・・・・・・」


「終戦記念日は8月15日じゃが、日本が正式に降伏したのは9月3日の事じゃ。 ワシにはな、8月15日より9月3日の方が重要なんじゃよ」


「・・・・・・」


「じゃが8月15日に多くの日本人が終戦を迎える知らせを聞いて認識はそっちが一般的じゃろう・・・。 ただ、ワシの家は厳格な家柄でな・・・。 日本が降伏した9月3日・・・正確には前の日の9月2日なんじゃが・・・一家心中したんじゃ・・・。 まだ子供じゃったワシは次々に倒れていく家族を見ながら思ったんじゃ・・・。 何故? とな・・・」


「・・・・・・」


「戦争が終わって何もかもが無くなった者も居たんじゃ。 じゃが多くの者が明日へ生きる希望の光を消し去る事をしなかったんじゃ・・・。 じゃが、ワシらの家族は・・・。 戦争で何を学んだのか分かっとらんかったっ! 多くの犠牲を払ってワシらは命の尊さを学んだんじゃなかったんかっ!」


「・・・・・・」


「・・・・・・そう思うとな・・・。刺せんかった・・・。自分の喉に触れる金属の味は今でも覚えとる・・・。 じゃが、そこから力を入れることは出来んかった・・・。 ワシはその代わりに戦争の醜さを後世に伝える為に行き続けなければならんと思ったんじゃ。 あんな愚かな行いはもう二度としてはいかんと・・・」


「・・・・・・」


「そう思いながら生きてきて、もう60年も過ぎたわい・・・。 今の子供には全く分からんじゃろうな・・・。 じゃが、今隣に居る者が突然奪われたら怒るじゃろう? 悲しいじゃろう? そんな悲しみが充満してしまって息も出来んなるのが戦争じゃ。 戦争に勝者も敗者も無いんじゃ。 分かるか?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・そうじゃな。 考える事もせんでええ。 それが一番かもしれんな・・・。 ワシはこの悲しみの記憶を墓場に持っていくとするわい。 生きてくれよ・・・。 若者よ・・・」


「・・・・・・・にゃ〜」




             〜END〜



――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「・・・・・・・」


 「おじいさんと猫」と題された映画はおじいさんが延々と語る映画だった。

 「猫」は最後に出て来て一声鳴くだけ。


 とてもシュールな映画だった。


 だけど、私にはその猫の一声が若者達の返事のように聞こえた。


 

 なるほど。 これはいい映画だ。 


 短い話だったけど、内容が濃い。


 だけど・・・


「なんだよコレ〜? つまんね〜!」

「アニメ見せろよ! アニメ!」

「猫かわいかった〜♪」


 大半が話の筋が分かっていないだろう。


 小学生に見せるような内容とは思えなかった。


「ねぇ、いのりん」


「ん。 何?」


「私達は間違えちゃいけないんだよね」


「! えぇ、その通りね」


 だけど、友達のシズは複雑な表情を浮かべて言った。


 戦争を知らない子供のハズなのに、映画から何かを感じ取ったようだった。


 私は実際に戦争を体験しているのでその悲惨さは知っているが、シズのその反応には正直驚いた。


 感受性が高いとても良い子なんだシズは。


「今、こうやって平和に暮らしている間にも世界のどこかでは戦争が起こっている。 そんなものは他人事だと思っていたら駄目なのよ。 今の日本だってね? 安全だとは言えないわ。 そういう戦争のための研究を続けている場所があると聞いた事があるわ」


「ふぇ・・・そうなの?」


「えぇ、もっとも。 それは公式に知られてないけれど・・・。 そういう事をする大人が居たら私達が目を光らせてやめさせないといけない。 私達はそういう使命があるのよ」


「・・・・・・こわいね。 死んじゃうってもう会えなくなるって事でしょ? そんなの・・・ヤダよ・・・」


 言い過ぎたか。


 怖がらせるつもりは無かったのですぐにフォローを入れる。


「・・・でもまあ、私達がしっかりしてれば大丈夫よ。 誰も好んで殺されたり殺したりしたくないハズなんだから・・・」


 私やミチオみたいな人種以外はね。という言葉を飲み込みながら、こんな映画を見せた担任教師を見直した。


 小学校の授業は大抵担任の教師が考えて時間割を作ったりする。


 こういう事を率先して教えてくれる者が居るというだけで、日本は大丈夫なのかもしれない。

 これから担任の授業が楽しみになってしまった。


 ほんの数時間前は退屈で仕方なかったのにね。




 私は戦争で知り合ったミチオを追って日本に来た。


 そして、その道中で日本に危険な研究所がある事を知った。


 それを見て見ぬ振りをする者達が存在しているという事だ。



 誰も裁かないならば私がそれを裁こう。


 人が裁かないのなら私が裁きを与える神となろう。



「そう・・・・・・私が神よ」



 つい呟いてしまい「?」を浮かべるシズが見てくるが、構わない。


 

 だって、私は神なのだから・・・。


【聖夜に銃声を 9月3日(5) 「少女鑑賞中」終わり (6)に続く】

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