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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
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9月1日(1)「神と遭遇」

神というのがどういったものだと思うだろうか?


 絶対的な存在であったり、それ自体が何かの象徴だったり、人には到底及ぶ事が出来ないような存在であるのだろう。


 僕の知っている神も、そういう類だ。


 実際の空の上に住むと言われるような神とは違う。


 祈は・・・彼女は・・・色々と規格外だと言う事だ。



「失礼な事考えてないでよぉ壬千夫ミチオ。 今日はお仕事無いの?」


「こんな行楽日和にウチのような辛気臭い場所に来る方は居ないよイノリ」


 彼女の名前は汐留 祈。 近くの小学校に通う10歳の女の子だ。


 僕は自営業を営む19歳。 そんなに年が離れていても僕は彼女には敬意を払っていた。


 彼女の仕事っぷりは大人顔負けで、なんでも器用にこなす少女だった。


 誤解をしないように言っておくと彼女は人間だ。


 何か特別な力を持っているだとか、そんなオカルトめいた話では無い。


 

 いや、人間とは言ったが「普通」の人間だとは言ってない。


 だから「神」だというわけでは無いのだが、それはまた機会があれば話そうと思う。


 


 それよりは僕と彼女との出会いを話させてもらう方が早いだろう。



 彼女と僕はほんの数日前に出会った。


 お互い呼び捨てになっているのは彼女がそうしようと言ったからだ。


 

 数日前、僕は夕飯の買出しをするために商店街へと買い物へ行った。


 そこで僕は地面にうずくまり、泣いている子供を見つけた。


 道行く人達はそれを見ないように過ぎ去っていくばかりで、誰も声をかけようとはしなかった。


 ただの薄汚れた子供がぐずっている。 そう見えたのだろう。


「うわーん! ママァァァ!!」


 迷子か・・・。


 僕は泣いている子供に近付いた。 黙ってみているなんて僕には出来なかったからだ。


 職業柄からというのもあるが、泣いている子供を見捨てるような事は天にいる神様が許さないだろう。  無神信者だけどね。


「どうしたんだいボク? 迷子になっちゃったの?」


 僕は子供が警戒しないように精一杯優しい声で言った。


 子供はボクの声に気付いて泣くのをやめて、キョトンと僕を見上げてきた。


「・・・・・・・・?」


「ボク。 何処から来たのかな?」


 迷子かどうかは分からなかったが、一応お決まりの台詞のようなものなので言ってみると、子供は何故か怯える様に僕を見て言った。


「おにいちゃん・・・・・そういう趣味?」


「は?」


「ううん。 お母さんがボクみたいな可愛い男の子を連れて行くヘンタイさんが居るって聞いたよ。 ねえそんな趣味なの?」


 思いっきり警戒されていた。 


 というか、この子の母親。 アンタ息子に何を教えてるんだ。


「そんな事は無いよ。 安心して」


「アンシンって言葉を使う人はしんよーするなってお母さんが言ってた・・・」


 ・・・・・・母親はもしかしてシングルマザー? 荒み過ぎてるよ考え方が・・・。


「まぁまぁ。 それより何を泣いていたのか聞かせてくれないかな? お兄さんが力になって上げれるかもしれないよ?」


「お兄さんみたいなニートがウザイ事いってんじゃねえよ!」


「うぐふぁ!?」


 子供は僕の足を思いっきり蹴飛ばして、そのまま人ごみの中へ消えていった。



 ・・・・・あの子の母親がもし分かったら僕はこの手を赤く染めてしまうかもしれない・・・。


 まったく・・・。 最近の子供は礼儀も常識も知らない・・・。 ゆとりってやつだね。



 蹴られた足を擦りながら僕は周りを見渡すと、通行人が僕を見て苦笑していた。


 あぁ、うかつに声をかけて蹴られるような馬鹿な茶番を見せてすいませんでした。


 子供不信になりそうだよまったく・・・。



「そこのお兄さん」


「ん?」


 肩を竦めて歩き出そうとすると、服の袖を引っ張られるような感覚と共に声がした。


 僕がそちらに振り返ると、そこには先程見たようなぐらいの小さな少女が僕のシャツを引っ張っていた。


 また子供かと一瞬思ったが、先程の子供よりシッカリとした感じがした。


「貴方がキリナシ相談所の所長?」


 少女はハッキリとした言葉遣いで言ってくる。


 言われた通り、ボクはその相談所という所に勤めているが、所長ではない。店長だ。


 何が違うのかといえば、ウチの店は物品なども扱っている。


 普通の人にはあまり価値の無いような骨董品等を売ったりしている。


 今掴んで来ている少女はもしかしてお客様かな?


「ええ。 僕が責任者ですよ。 ええと、依頼ですか?」


「あ、やっぱりそうだったんだ! 私、イノリ! 頼みたい事があって探してたら近所の人が買出しだろうって! 写真と同じ顔だったからそうだと思ったんだぁ〜♪」


「写真!?」


 僕が素っ頓狂な声を上げると、少女―イノリ―は笑顔で一枚の写真を手渡してきた。


 そこには制服姿の僕が写っていた。 ほんの数年前まで高校生だったのでそれは驚かなかったが、僕はそんな写真を写した覚えは無かった。 普通写真はカメラレンズの方を見て写すものだが、その写真はまったく明後日の方を見ていた。 要はカメラの存在に気付いていないように・・・。


「ってコレ盗撮じゃないの!?」


「そうでしょうね。 だってこれを渡してくれたおばさんは嬉しそうに写真について話してたもの。 アレはアッチの世界の住人の目だったわ」


「・・・・・・佐藤さんの所のおばさんか・・・」


 僕の近所の佐藤という名のお宅があって、そこのおばさんは毎朝僕を見つけるととてもキレイな笑顔で挨拶してくれるのだが・・・。 その笑顔の裏にはそんな変態的な欲望が隠されていたとは・・・。 これからは裏道から通ろう。


「で、頼みなんだけど・・・」


「あ、はいはい。 何かな? 僕を探して依頼するって事は分かってると思うけどただの探偵みたいな事はしないよ? 不倫調査とか。 そういうのは他を当たって欲しい」


 小さな子供相手に不倫調査は無かったかな?

 

 実はそう言っても猫探しでも何でもやったりするのだけど、建前上ウチは「相談所」だ。困っているお客様が居れば全力で対応するのが仕事なのだから。


「ブラッディ・イーター相手にそんな事頼まないわよ。 血が出ない話じゃないわ」


 普通の仕事なら血が出るような話は遠慮したいだろう。 だが、僕の場合は少し違う。


 どちらかと言えば人が死ぬような仕事が多い。


 とても簡単に分かり易く言えば僕の仕事は「殺し屋」だった。


 「相談所」は表の顔。 裏の顔は、そういう血生臭い仕事だ。


「・・・・・・。 君は何者だ」


 僕の正体を知っているという事は、一気に警戒しなければならないレベルだった。


 こんな子供だからと言って油断していたら命が良くあっても足りない。


 そんな世界だ。


「あ。 やっと真剣に聞いてくれそうね? さっきまで貴方子供だって思って舐めてたでしょ? 態度に出てたわよ?」


 正直その通りだったので僕は頷くと、彼女は満足そうに微笑んだ。 その顔はとても大人びていた。


「質問に答えてくれ。 何処でそれを知った?」


「蛇の道は蛇って事よ。 答えにならないかなぁ?」


 同業者? 


 一瞬そんな考えが頭を過ぎったが、こんな子供が耐えられるような銃は・・・。いや、あるな。


 ただ、どちらにしても発砲の衝撃に耐えうる事が出来そうに見えなかった。


 という事は獲物はナイフかそれとも毒物か・・・。


 どちらにしろ「それを使う衝撃にさえ」耐えれるような世界を生きているのか?


 この少女が・・・。


「・・・・・・分かった。 用件を聞きたいから事務所まで来てくれるかい?」


「うん。 それ無理」


「え?」


「もうタイムオーバーの強制イベント発動だよ♪」


 彼女の楽しそうな台詞と共にビュ!と空気が擦れる音がした。


 その1秒後もしない内に僕の近くを歩いていた通行人の一人が突然倒れた。


「あら。 形振り構わなくなってるみたいね」


「な・・・こんな街中で!?」


 倒れた者の額から血が大量に流れ出していた。 それが徐々に地面を赤く染めていく。


 他の通行人も、一瞬何が起こったかわからなかったようだが、次第に事の重大さに気付き、辺りは混乱したように騒ぎ出した。


「ま〜そんな事より頼みたいことなんだけど・・・」


 そんな中、僕は冷静に「撃ってきた敵」を探していた。 職業柄どうしても命を狙われるような身の覚えがある。 それを特定する事は出来ないが、それ自体は驚く事では無かった。


 それより、こんな状況でのん気な事を言っている少女の方が驚きだった。


「な!? こんな時に何を言ってるんだ! 後にしてくれ」


 騒ぎになっているので喧騒の中で二人の会話は聞かれないだろうが、そんな場合ではない。 悠長に話していたら、頭に風穴が開くことになる。


「すぐ済むわよ。 貴方、私を雇ってくれない?」


「はぁ?!」


「それが私の頼みよ。 どう?」


「・・・・・どっちにしろ後にしてくれ! 敵をなんとかしてからだ!」


 こんな年端も行かない女の子を雇ってどうしろって言うんだ。 子供の遊びじゃないんだぞ?


「? あら、何言ってるの? もう終わったよ?」


「え?」


 彼女が言うように、そういえば一度の発砲の後、撃ってきた様な形跡は無い。


 それより、少女の手に銀色の銃が握られている事に今更だが気がついた。


「3人居たみたいね。 何処の殺し屋かって言えば、私を追ってきたんだろうけどね。 このイノリちゃんをあの程度で仕留められると思ってるのかなぁ」


「な・・・今の一瞬で3人?? 君は・・・」


 あまり注視していなかったという事もあるが、彼女が発砲していた所を僕は見ていない。


 だが、近くで銃を撃った後の硝煙の匂いがしていては疑う余地も無かった。


 人間業じゃない。


「何者って聞いたわね? 教えてあげる。 私は神よ」


「・・・・・・」


 銃を慣れた手つきで仕舞いながら笑う姿は、彼女の言う通りに神に見えた。


 ただの神ではなく、死神だが。


 いや、女の子だから女神という事にしといてやろう。


「とにかくよろしく・・・・・でいいわよね? 事情は後で説明するから」


「・・・・・あぁ、命の恩人だからね。 丁重に迎えさせてもらうよ」


 そんな事があり、僕と彼女は出会った。 



 自分を神と言った少女。 汐留 祈。


 ブラッディ・イーターの二つ名を持つ殺し屋の僕。



 僕は何かが始まるような・・・そんな予感がした。




【聖夜に銃声を 9月1日(1) 終わり   (2)へつづく】


http://9922.at.webry.info/ 作者のブログ

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