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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
13/49

9月2日(3)「組の災難」

 林原組本家内中庭。


 そこで祈と組員100人との100番勝負が始まろうとしていた。


 炊きつけたのは僕。


 これで祈の事が勝っても負けても分かると思ったからだ。


 今まで常人離れした身体能力を見せ付けられていたが、それも100人相手するとなると流石に疲労等で鈍ってくると踏んだ。 そうした時にどういう動きをするのか、それを見てみるのも良いかと思う。


 別にいじめたいわけじゃない。 人を知るには観察するのが一番だからね。


 そんな僕の意図が分かっているのか、祈は勝負が始まる前に僕を睨みつけながら言った。


「こんな事して、後でツケが回るのはミチオなんだからね?」


 そんな脅しかどうか分からない台詞を吐いて、少し寂しそうに笑った。


 その表情の意味が分からなかったが、あまり好印象を持たれなかったらしい。 当たり前だが。


「では、林原組喧嘩100番勝負! いざ尋常に・・・始めっ!!」


「うらぁぁぁぁ死ねやガキがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 開始の合図を待たずにフライング気味に一人目が祈へ殴りかかる。


「動きが直線的」


「ほごぅっ!?」


 一人目の懇親の拳を横に動いて避け、通り過ぎ際にその小さな拳を鳩尾に叩き付ける。


 見た目は10歳の少女だが、その腕力は大人一人を楽に抱えれる程だ。舐めたものでは無い。


「もう終わり?」


 青い顔をして崩れそうになっている一人目を余裕な顔をして見下ろす祈。 完全に悪役っぽいよ祈・・・。


「ま、まだじゃぁ! 極道舐めとったら承知せえへんぞっ!」


「だから直線的だってば」


 先程を同じように拳を顔面目掛けて殴ろうとする一人目。 それを祈もまた同じように横に頭をずらして避ける。


 しかし―


「!」


「取ったぁっ!」


 一人目は振りぬいた腕を曲げて、そのまま肘を落とそうとする。


 上手い。 流石にこれは避けられないだろう。 いくら祈が驚異的な身体能力があろうが、喧嘩慣れしている極道の男を倒すなど出来るわけが無い。


「いい動きよ」


「けぅっけぱぁっ!」


 そんな動きに祈は握った拳を開いてそのまま手の平を相手のアゴに下から叩き付けた。


 肘を振り下ろそうとする力と、手の平を突き上げようとする力が相乗効果となって絶対的威力が炸裂する。


 掌底というやつだ。 流派は形意拳? それだと崩拳か・・・。


 なんにせよ、一人目はその攻撃をまともに受けて吹っ飛び、白目を剥いて動かなくなった。


「次、早く来なさい」


 したり顔で片手で「おいでおいで」をする祈。


 ごめん林原組の皆さん。  レベルが違い過ぎる・・・。


「さっきみたいな奴が来るなら降参しなさい。 本気を出すまでも無いから」


 どこまでも傲慢なんだろう。 そんな事を言いながら怪しく笑う姿は10歳なんて言われても信じられない。


 だが、此処の人達は血の気が多いのか、そんな台詞に皆さんやる気満々だった。


「しゃからしぃぁあ! 竜二の仇ワシが取ったるわぁ!」


 先程の一人目は竜二という名前らしい。


 という事は今度の人は竜一だったりするのかな?


 一人目は平均的な成人男性程の体躯だったが、今度の相手はそれより一回りも大きい体をしていた。 一見してパワー系だった。


「まったく・・・馬鹿しか居ないのかしら? 此処は・・・」


 そう言いながらも祈は右足を少し下げた。

 

 流石に怖気づいたか?


「小娘がいくら素早いちゅ〜ても掴んだら終わりじゃぁ!」


 大きな両手で竜一(仮名)は祈へ掴み掛かる。 そんなものに捕まるような祈では―


「え!? 捕まえた!?」


 僕は思わず声を上げてしまった。 祈は竜一が掴もうとするのを避けることもせず、そのまま小さな体をがっしり掴まれてしまっていた。


 竜一はそのまま祈を抱きしめる様に引き寄せる。 締め上げるつもりらしい。


 僕にはそれが負けフラグを確定させる動きにしか見えなかった。


 だって、祈の右足は・・・その為に下がっていたのだから。


「ぐふぇほぅっ!?」


 竜一の引き寄せる力と、祈の「右膝」を突き出す力が相乗効果を生む。

 

 竜一の腹に可愛らしい膝が突き刺さっていた。 目に見える程に窪んだ竜一の腹。


 祈は初めからそのつもりだったのか、膝が入ってよろめく竜一にトドメの一撃と言わんばかりに両手を握り後頭部に振り下ろす。  メテオストライク。 そんな単語が頭に浮かんだ。


 その後僕の目の前に赤字でK.O!と表示されている気がした。


 竜一は完全にその一撃で伸びていた。


「勝てる気がしない・・・」


 まだ二人目だが祈は全く疲れていないようだ。 力の差は歴然としていたが、見ているとどうやら最小限の力で戦っているようだ。 ちゃんとペース配分をしている。 自分から仕掛ける事は無く、相手の力を使って倒すのは技術が優れていなければ自殺行為だが、それをいとも簡単にこなす祈には正直感服してしまった。


 それでも100人相手するとなると、やはりどれだけ最小限度の攻撃をするにしても疲れが出てくるハズだ。


 それに掛けるしかない。


 そう思って見ていると、次の相手が現れて―


「せやっ!」


「ごわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 相手が構える前に「飛び蹴り」で瞬殺する祈。


 ちょっと!? 自分から動かないんじゃなかったの!!?


「さっさと終わらせるわよ? こんな茶番つまらないしね」


 しれっと言う祈の言葉に次の相手が激しく憤る。


「てめえ汚ねえぞっ! 何様のつもりだ!」


 喧嘩に汚いも何も無いとは思うけど・・・。


 そんな男の台詞に祈は腕を組んでその目を悠然と見返した。


 あ・・・出るな。 


 何か僕は慣れてきて祈が返す言葉が先に読めてしまった。


「私は神様よ」


 ほらやっぱり。


「ふ・・・ふざけやがってぇぇ!」

 

 流石に言葉の意味が分かってない組員は、こともあろうに光り物を出して来た。


 って、それはちょっと不味いよ!?


 光り物。 要するに俗にドスと呼ばれる刃物だ。


「あら? そんな短い物でどうするの? まさかそんな粗末な物が私に通用すると思ってるの? せめてポン刀にしなさい。 待ってあげるから」


 ポン刀。 日本刀の事だ。


 自分からそんな事を言うなんて・・・。クレイジーだ。


「おぉ!? ガキが後で後悔せえよっ!」


 祈の提案に素直にポン刀を取りに行こうと屋敷に足を向ける男。


「後悔するのは貴方よ」


「へっ? ごふぁ!?」


 ひ・・・卑怯だ。


 その後姿に思いっ切り拳を叩き付けてしまう祈様。


「てめぇ! 卑怯やぞっ!」

「ガキが調子のりおってからにっ! ぶっ殺したるっ!」


 その行いに組員全員が今にも襲い掛からんばかりに怒っていた。


 不味い。


 祈はどうせ怒らせて全員を相手して早く終わらせる気だ。


 それでは何の意味も無い。


「待ったぁ!」


 僕は必死に制止する為に声を上げる。


「どるるるるあああああああぁぁぁぁぁ!」

「うらぁぁぁ! バラバラにして肉屋に100g100円で売ったるわぁ!」

「林原組の男を見せたるがぁぁ!」

「死ね死ね! 3べん死ね!」

「ぶぅぅるあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ワシは小さいオナゴが大好きじゃあぁぁぁぁ!!」


 駄目だ。 頭に血が上って僕の声が全然届いていない。


 ・・・・・


 最後の方に戯言をほざいていた奴だけは止めた方がいいかな?


「扱いやすいヤツラね。 ほら、仲良く・・・死になさい!」


 まぁ祈も、そう言っていやらしい顔をして襲い掛かろうとしていた組員を真っ先に攻撃したりしていた。 そりゃそうだよね。


 まぁ、こうなれば9?対1という物量でなんとかしてもらいたいもんだよ。


 

 こうして勝負は大乱闘となった。


 そんな騒ぎを聞きつけたのか、中庭にひょこりと一人の男が顔を出してきた。


 騒然としている中庭を面白そうに眺めながら、傍観者である僕の肩に手を置いてきた。


「よう。 何してるんだありゃあ? ウチの組員が粗相しなすったかい?」


「玄さん・・・」


 その者は、林原組の若頭筆頭の玄さんだった。


 まだ25と若いが、林原組の将来を背負って立つ男だ。 その顔は普段は優しいが、ひとつ命を掛けた闘争などがあると「鬼神の玄」と呼ばれる猛者となる。


 この「林原組100番勝負」を素で潜り抜けた第一人者でもあった。


「100番勝負だよ。 懐かしいね。 玄さんがやった時は見てて魂震えたよ」


「その後涼しい顔して同じ事しやがったヤツが何言ってやがるよミチ。 後、「さん付け」なんて他人行儀な事しやがるとぶん殴るぞ?」


 そう。 この玄さんとは昔色々とあって義兄弟のような関係だった。


 何があったなんて詳しい事は言えないけど、玄さんの命を救ったとだけ言っておこう。


 もちろん成り行きでそうなっただけで、故意じゃなかったんだけど・・・。


 後、100番勝負については全くの嘘だ。 僕はこんな馬鹿な事をした記憶はさっきが始めてだ。


 だから、「玄さんなりのお世辞」なんだろうけど、言い過ぎだと思う。


「分かったよ玄。 ええと、あっちで暴れてるのは僕の連れで「イノリ」って言うんだ。 見ての通り手のつけられない暴れ馬だよ」


 僕と玄さんの視線の先で組員を子供をあやすように次々に倒している祈様が見えた。


「へぇ、そうかい? 俺には戦いの女神に見えるがよ?」


 玄さんの発言に一瞬笑いそうになったが、玄さんの目が何処か熱っぽく見えてしまって笑う事が出来なかった。


 そういえば・・・玄さんって・・・。


「ミチ。 あの娘さんはお前のコレかい?」


「・・・・・・玄じゃないんだから冗談キツイよソレ・・・」


「ほう。 じゃあ俺が貰っていいな?」


「駄目だよ。 それは不味いよ」


 そうなのだ。 玄さんは幼女が大好きなのだ。


 一応犯罪に手を染めたりしてないらしいが、いつ幼稚園や小学校を襲うか分かったものじゃない社会不適合者だった。


「なんで不味いんでぇ? お前の女じゃないってならいいじゃねえか」


「僕は玄を心配してるんだよ。 アレの相手は命がいくつあっても足りないと思うよ?」


「ほう・・・」


 本気で彼の身を案じているのに、玄さんは何やら僕の顔をじろじろ見た後に、急にニヤリと笑った。


「何? 僕の顔が何かおかしい?」


「いんやあ? 女じゃないってえ言う割には大事にしてるみてえじゃねえか? あのミチが「アレ」扱いするなんざ今までにねかったからなぁ〜」


「!!?」


「おぉ! いい反応だ! 分かった分かった。 他でもねえミチの女に手を出したりしねえよ! 安心しねえ」


「ちょ・・・誤解だよ! 僕はそんな・・・」


「漢の道と書いてミチオの道を汚すなんざ無粋な事を俺がするかい。 いいって事よ。 で、何しに来た? 顔を見せに来たってえ事でも構わねえが、堅気のミチが林原組の敷居を跨いだってえのは並の事じゃねえな?」


 いや・・・僕の名前はそんな字じゃないんだけど・・・。


 それにしても流石は若くして林原組の若頭。


 察しがいい。


「あぁ、迷惑になると思うけどちょっと頼みたい事があってね。 僕なんかの頼みを聞いてくれるか分からなかったけど、他に頼る所が無くてね」


「なんでえなんでえ水臭ぇ! 俺とミチの仲じゃねえか! それにミチの事は他の組員も一目置いている。 勿論親父もだ。 なんでも言いねえ!」


 豪快に背中を叩いてくる玄さんだが、そこまで評価されるような事をしたと思っていない僕としては申し訳ない思いと共に罪悪感まで沸いてくる。


 買い被りもいいとこだ。


 そういえば、買い被りで思い出したけど、祈も例のエージェント集団も僕の事を買い被ってたなぁ・・・。


 ホント世の中間違ってるよ。 本当の僕を知った時にどんな反応があるか怖いよ・・・。


「ありがとう玄。 実は・・・」


「あ、おっと待ちねえ。 その前に――」


 話し出そうとする前に玄さんはそれを止めて、乱闘を続ける中庭の中心に向き直った。


 そしてすぅぅと息を吸い込んだと思うとそれを一気に吐き出して叫んだ。




「てめえらぁぁ!! 何遊んでやがるやめねえかぁぁぁ!!」




 その声に大地が震える感じがした。 実際ソニックウェーブが飛んできてビリビリと空気を震わせている。



 一括されて組員達は見事に動きが止まった。 正に鶴の一声というやつだ。


 しかし、そんな声にも動きを止めなかった者が一人居た。


 祈だ。 動きが止まった事をいい事に組員の横面を思いっきり殴りつける。


「滅茶苦茶だよっ!?」


 小学校では道徳を習ったりしないんだろうか?


 そんな祈を見て、玄さんは呆気に取られたようにその様子を見ていたが、すぐに我に返って暴れる祈へと歩み寄っていった。


「おいっ! 待ていうとんのじゃコラぁ!」


 そんな新たに現れたどう見ても目上の者に向かって祈は汚いものを見るような目付きで睨み返して拳を掲げて見せた。


「何よ? 大の男が大きな声出して? 言いたい事があるなら拳で語りなさい! 専売特許でしょアンタ達の」


「! ガキがぁ! ミチの女や思うて調子に乗っとったらアカンぞワレぇ!」


「調子に乗ってないわよ? 私はこれがいつも通りなのよ。 口で語る三下は黙ってなさい」


 玄さんの怒りの形相を見ても臆することなく啖呵をきる祈。 


 いや祈・・・、調子に乗ってるという所よりもっと否定しなくちゃいけない所があると思うんだけど・・・。


 でも、流石に玄さん程の男が本気になったらいくら祈でも危ないだろうと思う。


 止めないと・・・。


「玄。 やめようよ。 女子供相手に拳を振るう事は無いと思うよ?」


 僕は玄さんの腕を掴んで止めに入ったが、それを玄さんは乱暴に振り払った。


「やかましわいっ! これはこの女と俺の喧嘩じゃ! ミチは黙っとれ!」


「ミチオっ!?」


 振り払われた反動が大きくて僕は地面に頭から叩きつけられてしまった。


 その拍子に切ったようで頭から少し血が流れてきた。


 まぁ、軽いけど・・・。


「ワレっ! 容赦せえへんから覚悟せえやっ!」


 玄さんはそう叫びながら祈に向かって強引なぐらい思い切り殴りつける。


 それを祈は初めて受け流したり避けたりすること無く両手で防御した。


 それ程の拳圧と速度があって避けられなかったのだろう。


 玄さんはそこらのチンピラとは格が違う。そこ拳で人が空に舞うのを見た時はどんなマジックかと思ったものだ。


 そんな攻撃を食らっているのだ。ただではすまないだろうに・・・祈は吹き飛ぶ事も無く耐え切った。


「・・・・・・」


 すぐに祈は反撃すると思ったが、腕をクロスさせたままピクリとも動かなかった。


 ダメージが残っていて動けないのだろうか?


 その様子に玄さんは容赦無く2撃目を叩きつける。


「うらぁ!」


「!・・・・」


 それをまた避けもせずに受ける祈。 殴られた腕が衝撃でビリビリと震えていた。


 どうしたんだろう祈は? まさか立ったまま気を失っているのかな?


 だったら危ないんじゃない!?


「なんじゃい! 受けとるだけやったら何もなれへんぞ! かかってこんかいっ!」


 玄さんも流石に先程まで大暴れしていた祈が静かな事に訝って挑発した。


 そして、それにやっと応えるように祈が腕を降ろした。


 その時何故か・・・


 気温が・・・


 下がった気がした。



 僕は9月だというのに寒気がしたというようにブルブルと震えだしてしまった。


 他の者を見ると、組員達も青い顔をして震えていた。


 大の大人が揃いも揃ってだ。


 それが、たった一人の少女の為だとは気付きたくなかったが、現実にそれを見てしまったら、誰もがそうなったかもしれない。


 僕等の目の前に・・・


 鬼が現れた。



「私を本気にさせたいらしいわね・・・・・・。 ミチオを怪我させた罪は万死に値するわよ・・・・・・」


「な・・・・・・何言っとんじゃ・・・」


 静かに呟く祈の気迫に林原組若頭である玄さんが気圧されていた。 その鬼気迫る雰囲気は決して10歳の子供では無い。


 現世に現れた鬼そのものだった。


 嫌な予感がした。 


 僕は腰が抜けそうになりながらも必死に対峙する二人へと近付く。

 

「お前は爆ぜろおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおぉおぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


「駄目だああああああああ祈ぃぃぃぃぃっ!!!!」


 僕は叫びながら何かをしようとした祈に飛びついて体当たりをする。


 そして腕の中に祈が居るのを確認してそのまま押し倒した。




「な・・・・・・・なんじゃこりゃああああああああああああっ!!?」


 玄さんの絶叫にそちらを振り向くと、そこにはありえない光景があり目を疑ってしまった。


 玄さんの隣の地面が・・・・・・何か大きなシャベルでも使ったかのようにえぐれていた。


 そこにあった地面が「完全に無かった」。


 何がどうなったか分からなかったが、もし僕が飛び掛っていなかったら・・・。 玄さんはあの地面と同じように・・・?


 それを・・・僕の腕の中に居る祈がやったのか!?


「ふん。 外したわね。 次で終わりよ・・・」


 再び腕を上げて何かをしようとしている祈。 それをやらせるわけにはいかないので僕は必死に祈へすがった。


「祈! やめろよ! ねえ、祈!」


「・・・ミチオ?? 貴方大丈夫なの? 血が出てるし・・・」


「え? 何? 心配してくれたの? ・・・だからって! もういいから!」



 僕はまだ怒りに身を任せている祈を宥めるのに全力を使った。 何度も何度も止めていると、祈の顔が段々柔らかくなり、僕の瞳にいつもの祈の笑顔が映る。



「ミチオがそう言うなら・・・。 全く命拾いしたわねアンタ達。 本当なら皆殺しよ」


「冗談でも怖い事言わないでよ!?」


「あら? 私は本気よ?」


 その言葉が全員に聞こえたのだろう。 皆ビクッと震えたのが分かった。



「ミチ・・・・その女・・・いや、その方は何モンなんじゃ・・・」


 玄さんが声を震わせながら聞くのに「僕も知りたいよ」と答える前に祈に制された。


 あぁ、お決まりね。 祈様の成すがままに・・・。


「私は神よ」


 自信満々に言う祈の言葉に誰もが納得するしかなかった。


 ただ、脳内変換で「神→邪神」になっていたかもしれないが・・・。



「それにしても・・・さっきのは何? 祈って超能力でも使えるの?」


「ん? ただ拳圧よ?」


「何処の世紀末覇者だよっ!?」



 世紀末とは言わないが、新世紀の覇者になれそうな小学生が年相応な笑顔をくれる。


 その笑顔がどうしてもそのまま見ていると怖いのだけど・・・。


 そんなわけで林原組100番勝負は祈の圧勝で幕を閉じたのだった・・・。




「此処に来た理由を忘れてない?」


「元々アンタが炊きつけたんでしょうが! このツケは大きいから覚悟しなさいよ。 後、さっきの男!」


「な・・・なんじゃい」


 さっきの男こと玄さん。 祈にかかると若頭も形無しだった。


「ミチオを傷付けていいのは私だけよ? 良く覚えてなさい」


 待ってよ!?


「は、はい! 姐さん!」


 あ・・・アネさん?  じゃなくて、玄さんも何主従関係築かれてるの!?


「おう、てめえら! この姐さんは今日からウチの上客じゃあ! 失礼したら俺がただじゃおかんからよう覚えとけやっ!」

「へいっ!!」


 おまけにそんな事まで言ってるし・・・。


「ええと、玄だったかしらね? それは違うわよ?」


 流石に止めに入る祈。


 そうだよね。


「あ、姐さん?」


「アンタ達は今日から私の下僕よ。 肝に命じておきなさい」


 祈は最初の約束を忘れていなかった。


 そういえば、そんな約束をしたっけ・・・。 南無・・・林原組。


「あ・・・姐さんなら・・・」

「ワシもじゃ・・・」

「ワシラは一生ついていきますっ!」


 何か皆喜んで受けてるよっ!?


 祈信仰の誕生だろうか・・・。 末恐ろしい・・・。


 まぁ、そういえば僕が第一信者だったっけ?



 こうして僕等は何も事情を説明する事無く隠れ家を確保したのだった。



【聖夜に銃声を 9月2日(3) 「組の災難」終わり (4)に続く】


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