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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
12/49

9月2日(2)「電脳空間」

 町全体が狙われているわけでは無いので、僕等は特に変装するわけでもなく表通りを歩いていた。


 このまま事務所に帰ろうかと思ったが、誰かが見張っている可能性はあるかもしれないので、今日はやめておくことにした。


 そこで、僕等は駅前にあるインターネットカフェに行くことにした。





 今日の時代にネットで大体の事は調べられる。


 場所によって入れないような場所はあるが、それでも情報端末が繋がって入れさえすればどうとでもなるものだ。


 僕はそういうネット関係には一般人よりは詳しい程度だ。


 cookie等はOFFにしておくのは常識だよね? 足跡残りやすいし・・・。


 足跡を消すような事は簡単だけど、そういう場所を閲覧する場合は向こうも分かっているだろうから実際あまり意味は無いんだけどね。


 席はペア席に座り、一人一台でパソコンに向き直る。


 僕と同じく祈も「ラビアンローズ」について調べていた。


 「検索」で調べるとそんな名前のライブハウスとかブログとか花屋とか如何わしいお店等がHITしたが、肝心のエージェント組織については引っかからなかった。


 元よりそれで出てくるとは思ってなかったけど。



 それならば という事で、僕は大型掲示板にて聞き込みをしようと思った。



 名無し:怪しい活動をしてるラビアンローズってのを聞いた事あるヤシ居るかゴルァ!!



 そんな書き込みをしてみる。



 そんなスレッドに暇人が多いのか数秒もしない内にレスポンス(返事)が付いた。



1.名無し:1ゲト


2.名無し:糞スレ立てんな!


3.名無し:((( ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ホラヨ!! ラビアンローズ



 3レス目で何かリンクが張られた。


 釣りだと分かっていても、今は情報が欲しいのでクリックしてみる。



 ・・・・・・・・・



10、名無し:解決したゾ!モマエラ! ヽ(*´∀`)ノ サンキュー!


 

 なんとそれは希望の情報だった。



 しかし、こういう掲示板って特殊な言葉遣いが多くてやってて恥ずかしい。


 違和感無くやってて説得力無いけど・・・。


「また迂闊な事してるわね。 まぁ、尻拭いはしてもらうけど」


 何やら隣で祈が呟いているが、僕はそれを気にせずに情報を閲覧した。


 その情報は「エージェント集団・ラビアンローズ」と題されて、何か広告のような感じのHPだった。


「これって・・・宣伝?」


「そうみたいね。 まぁ、それで分かる事は同業者というかライバル業者って事ぐらいね。 団員(?)のプロフィールでもあるなら別だけど」


「? あるよ? ほら」


「はぁ? 馬鹿じゃないのコイツラ!?」


 祈が改めて僕のディスプレイを食い見ると、勝手にマウスを使って操作しだした。


 次々に表示されるラビアンローズ所属員達。


 そこには先日学園で会った「樟葉 菜乃華」や「小木曽 紗菜」という名前もあった。


 小木曽という名前は偽名じゃなかったのか? いや、こういう場所でしか使わない芸名みたいなものかもしれない。


 だが、そんなメンバー一覧の中に見知った名前が他にもあった。


「・・・・・・ほっんとに尻拭いしてもらわないといけないわねコレ」


「ど、どうしてだよ!?」


 祈が閲覧したメンバーの中に「朝美 麻兎」という名前があった。


 麻兎ちゃんがエージェント!?


「大分前から目をつけられてたって事ね。 まったく・・・何やってんのよ「裏社会」の先輩さん?」


 皮肉タップリに「先輩」を強調して言う祈。 いくらなんでも確かに無防備過ぎたので返す言葉も無いが、まさかあんな普通の女の子まで僕等側の人間だとは思わなかったのだ。


「彼女達が組織として動いているなら非戦闘員という事もあるだろうから分からなかったのは仕方ないわね。 ただ、この情報が本当だったらって話が先に来るけど。 この反応の速さからして釣られた可能性が高いわね」


「え? 釣りにここまで手の込んだ事するかなぁ?」


「・・・多分ミチオの考えている「釣り」とはちょっと違うわよ。 この場合の「釣り」は釣ってから食べるタイプよ」


「え・・・」


 僕が言葉の意味を捉え損ねている間に祈は僕の閲覧した「足跡」を素早く消した。


「所詮は時間稼ぎだけど、やらないよりはマシね」


 そう言って自分の見ていたパソコンの足跡や履歴などを消した。


 その間ほんの数秒で事足りる。


 

 フリードリンクだったので僕はホットコーヒー、祈はカルピスウォーターを飲んでいたが、祈はそのグラスを掴んで席を立った。


「ほら、さっさと出るわよ。 このまま居たら捕まるかもしれないわよ」


「あ、うん」


 言われて手早く僕も立ち上がるのだけど、それを祈はイライラしながらテーブルを指指して叫んだ。


「食器は下げる! 店員に迷惑でしょ!」


「は、はい!」


 祈の台詞だと思わなかったが、食器を下げるのは常識らしく、祈は僕がカップを持つまでずっと睨んできていた。  祈ってそっち系の回し者?


「なんでよ。 考えて見なさいよ。 もし自分が店員だったら席を掃除しに行ってコップやら本やら散乱してたら確かなる殺意を覚えるでしょ?」


「で・・・でも、それが仕事なんじゃ・・・」


「シャラップ! 拒否権は無いわよ! そんな事言うヤツはネカフェ使うんじゃないわよ邪魔だから」


「・・・了解」


 何か過去にあったのかな?


 祈の言う事はなんとなく分かったので素直に頷いた。


 こういう仕事をしていても持ちつ持たれつって事だね。 感謝の気持ちを忘れたらいけない。


 

 そして僕等は時間料金の数百円を支払い、意外に安いんだなと思いながら、すぐにネットカフェを後にした。




「とりあえず分かった事は、もう包囲網が出来上がってるって事ね。 道を歩いていても危険がいっぱいよ」


「そっか・・・。 気をつけないとだね」


 祈の言葉を聴きながら、僕は事務所の事を思い返していた。 そんな危険な状況なら愛銃を携帯した方がいいんだろうけど、事務所は見張られている可能性があるので帰る訳にはいかない。


「道具に依存するのは感心しないわね。 そうやって愛銃が無いってのをやられた時に言い訳にするとかって格好悪いわよ?」


 僕の様子からまた考えを読み取ったのだろう。 祈はそんな諭し方をしてきた。


「僕は別に格好良く生きたいとは思ってないよ。 それに使いやすい道具は使うべきだと思う」


 僕は僕なりに最善を選びたいだけの話だ。 無ければ無いで仕方ないとは思っている。


「へぇ・・・少し見直したわ」


「?」


 何が良かったのか祈は少し表情を柔らかくして僕を見た。 その顔を見ていると一瞬顔が熱くなるような気がしたが、意味は分からなかったので首を傾げる。


「何か分からないけど、一度事務所に戻れたらいいのになぁ〜。 見張っているのを発見して排除出来ないかな?」


「それが出来ればね。 ただ、一つのポイントを潰している間に他のポイントから連絡が行けば、事務所は陸の孤島になるでしょうね」


「・・・・・・なるほど。 見張っているのが一人二人とは限らないし、同じ場所で見張っているわけが無いって言いたいんだね」


「当たり前よ。 相手だってプロなんだろうから襲撃を考えてないわけないわ。 今戻るのは得策では無いわね」


「うん。 やっぱりそうか。 なら・・・」


「・・・・・・同じ理由で学園内にあった隠れ家みたいな所を襲撃するっていうのもアウトよ? 分かってるだろうけど・・・」


「も、もちろん分かってるよ」


 正直今言おうとしたのを先に釘を刺されてしまった。


 頭の回転が速すぎるよ祈・・・。


「今はこちらも大人しくしてるしかないわね。 出し抜く情報も無いし、暫くは潜伏場所を探す事に専念するしかないわ」


「・・・そっか。 なら・・・うってつけの場所があるよ」


「信用出来るんでしょうね?」


「どうだろう? ただ、見つかる事はあっても、事を荒立てられる事は無いと思うよ?」


 僕の知る限り「一番安全な場所」を思い出したのだが、それを言う前に祈は嫌な顔をした。


「・・・嫌な予感がするわ。 やめておきましょう」


 一蹴。


「ちょ・・・話ぐらい聞いてよ!?」


「仕事の事に関しては信用出来ないのよアンタは」


「ひ・・・酷い」


「日頃の行いのせいよ」

 

 言い捨てるように言われて少しショックだったが、これまでの行動を思い起こしてみて反論の余地が無い事に気付き黙ってしまう。


 祈が居なければ今頃謎の組織に嬲り殺されているかもしれない。


 まぁ「殺す事が出来れば」の話だが。


 僕も裏社会で生きているのでこれまで危険が無かったわけじゃない。


 それをどうやって乗り越えてきたのかと言えば、耐久力としか言えない。


 技術は並、腕力も並、頭脳はそこそこ。


 そんな男に何があるのかといえば、根性だとかそんなちゃちな物じゃない。


 要はしぶといらしい。


「だからこそこんなコネクションがあるんだけどね」


「? あぁ・・・なるほどね。 それなら良いかもしれないわね。 非常時以外は簡便だけど」


 僕はあるバッチを見せた。 それは何処かの家紋だったのだが、それを見て祈はすぐに察したらしい。


 それだけメジャーなバッチだったのだ。


 裏の社会では。


「じゃあ、とりあえず此処に向かおうか。 装備の調達も多分出来るよ」


「足が付かなければなんでもいいわ。 後で詳しい前後関係聞かせなさいよ?」


「分かった」


 僕は走っていた「空車」のタクシーを止めて目的地に向かう。

 

 目的地を告げた時、運転手が嫌な顔をしたが、それでも仕事という事で渋々車を走らせてくれた。



 僕達の目的地。


 それは―



 とある大きな門の前にタクシーが止まる。


 門の両端には監視カメラが設置されていて、すぐに門の中から数人の男達が飛び出してきた。


「なんじゃ! 何処のもんじゃい!」


 その内の一人がニューナンブのような拳銃を構えながら叫んだ。


 その声に運転手が怯えていたが、僕は支払いを素早く済ませて車を降りた。


 僕の姿を見た瞬間、ニューナンブを持った男は青ざめて、コンクリートだと言うのに地面に頭をこすりつけながら土下座してきた。


「こ、これは先生とは露知らずとんだご無礼を致しましたぁ!!」


「はいはい。 男が簡単に頭を下げたら駄目だよ。 悪戯に格を下げる必要は無いんだし」


「へぇ! 勿体無いお言葉でさぁ!!」


 大袈裟に感動している男を祈は冷ややかな目で見つめていた。


「・・・・・・こんな男に下げるんじゃ男の品格なんてあったもんじゃないわね」


 一応男に聞こえないように呟いて、祈は門の所に掛けられている表札をなぞるように読んだ。


「林原組・・・。 本家ね此処は」


「うん。 此処にはお世話になってるからね」


 林原組。


 この辺り一体を占める極道一家だった。


 昔、僕はこの組の依頼をこなして気に入られていたので怖くは無いが、普通の一般人ならはだしで逃げ出す凶悪な組だった。


「玄さん居るかな?」


「わ・・・若頭はまだお休みになられてやす! お頭も今は外出中で・・・」


「そっか。 じゃあ玄さんが起きるのを待たせてもらうよ? いいかな?」


「へ、へえ! こちらへどうぞ!」


 男は頭を下げながら門を開いて中へ案内してきた。


 その様子を半眼になりながら祈は観察していたようだが、僕の態度が偉そうだったのが気に入らないのか肘をガンガンと突っついてきた。


「何? ちょっと痛いんだけど・・・」


「うるさいわね。 わき腹に穴開けたいなら遠慮無く言いなさい。 そうじゃなくて、大丈夫なの? アンタ妙に高い評価得てるみたいだけどボロだしたりするんじゃないでしょうね?」


 祈はどうやら彼等が僕を勘違いして担いでいると思っているらしい。


 今までの僕を見てたらそう思うだろうけど・・・。 本当に失礼な子だよ祈ってば。


「仮にも林原組だよ? そんな勘違いする無能じゃないよこの組は」


「へぇ? 暴力団なんて何処も無能だと思うんだけど私は」


 歯に衣着せない祈の言葉に先導する男が鬼の形相で振り返った。 どうやら聞こえたらしく、その顔には怒りの色が窺える。


「せんせぇ・・・なんですかいその失礼なジャリは? ちょっとお仕置きが必要ではないですかい?」


「うん。 僕も常々そう思ってるんだけどね。 ただ林原組を壊滅させたく無いから止した方がいいと思うよ?」


 いくら本物の極道でも、この娘にかかれば赤子同然だと思う。 実際乱戦を見たことは無いが、それを制するだけの技量と度胸がありそうな気がするのだ。 この神には。


「・・・いくら先生でもそれは言いすぎじゃありませんかい? こんな子供にワシラが遊ばれるちゅうんですかっ!」


「・・・そう思うなら止めはしないよ。 ただ、ちゃんとした勝負にして欲しいね。 こっちもそっちも怪我するのは得策じゃないし」


「ちょっとミチオ。 何炊きつけてるのよ? そんな面倒な事私やりたくないわよ?」


 勝手に話を進めていると当然のように祈から不満の声が上がる。 しかし、こともあろうに「面倒」だとか言っている。 余裕の台詞だった。


「お嬢ちゃん・・・・・・ワシラ林原組は女子供や言うて容赦しませんぜ?」


 血管をピクピクさせて男は凄んでくるが、祈はその目をしっかりと見返して言った。


「うるさいわね三下! そんなに喧嘩したいならまずミチオを倒してから言うのね! そしたら戦ってあげるわ!」


「ちょ・・・!? 祈!?」


 なんと祈は炊きつけた僕にお鉢を回してきた。 いや、そういう展開は考えてなかったよ正直。


「せ・・・先生相手!? そんな無茶な!」


 男も同じように驚いている。 だが、此処で祈の思惑通りにする必要は無い。


 この娘には一度お灸をすえる必要があるのだ。


 大人を舐めてはいけないというお灸を。


「ええと・・・君の名前ってなんだっけ?」


 僕は一計思いついて男に寄って耳打ちした。


「ワシですかい? サブでさぁ」


「了解。 サブさんちょっと耳貸して」


「へい・・・え? いいんですかい? ・・・・・・わかりやした。 男、サブ行かせてもらいやす!」


 僕の案を返事一つで了承してくれる。 流石に仁義の男だ、聞き分けがいい。



 そして、僕等は中庭へ移動した。


 中庭には池があり、その中では錦鯉が優雅に泳いでいた。


 その上の地上でまさか大乱闘が始まるとは思っても見なかっただろう。


「勝負は組員100人との100番勝負! 最後まで立っていた方が勝ちじゃぁぁぁ!!」


 サブの号令と共に何処からか組員達がワラワラと現れた。


「・・・ゴキブリみたいに沸いてきたわね。 さすが社会の虫」


 そんな状況を見ても祈は表情を崩さずに笑っている。 


 どうせ僕が数人倒してくれると思っているのだろう。


 だが・・・


「勝負・・・始め!」


「うわーやられたー」


 僕は最初の一人目で拳を顔面に食らって倒れる。


「ちょっと! やらせじゃない!」


 流石に祈は抗議するが、実は声は気楽な感じだが、組員は全力で殴ってきたらしく、結構痛いんだけど・・・。


「なんだお嬢ちゃん。 怖気づいたのかい?」


 僕を倒した男―名前は知らないが―は演技でも僕を倒していい気になっていたのか、そんな事を言った。


「そんなわけないでしょ? で、私が勝ったら何かしてくれるのかしら?」


「そんな事あるわけがねえんだよ! ワシラは地獄の林原組じゃ! ガキ一匹の躾も出来へんボンクラとはちゃうんや!」


「そう・・・なら、私が勝ったらアンタ達は下僕よ。 拒否権は無いわ」


「な・・・クソガキがぁぁ! いい気になりおってしばき倒したるわ!」


 

「神の戯れって所ね・・・・。 来なさい。 遊んであげるわよ」


 成り行きではあったが、祈の戦闘力を押し謀るいい機会だった。


 後が怖いが・・・。


 祈と林原組の百番勝負が今始まった。


 

【聖夜に銃声を 9月2日(2) 「電脳空間」終わり (3)に続く】

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