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聖夜に銃声を  作者: 霧香 陸徒
1部
11/49

9月2日)1)「新しい朝」

 9月2日。

 

 僕は目が覚めると何故か全身が痛いような気がした。


 昨日の疲れが筋肉痛に?と思ったが、そこまで惰弱では無いつもりだ。


 それにこれは筋肉痛とかじゃなく、もっと直接的な・・・。


 そう。例えば締め付けるような痛みというか・・・。


「・・・・・・なんで僕こんな事に?」


 どう説明すればいいのだろう。


 手足は毛布で固定され、体全体を縄で縛られていた。


 ホテルはオートロックなので、外から敵が侵入してきたとは考え辛い。


 では・・・いったい誰が・・・。


 

 答えはベットの上で眠る少女が知っていそうだが、熟睡しているのか僕が目覚めた事に気付いていない。


「いのり〜。 起きてよ〜」


 手足が動かせないので声だけで起こしに掛かる。 それで祈はすぐにその声に気付いて起き、寝惚けた目で僕を暫く見た後、またパタリと倒れた。


「ちょ・・・無視!?」


「うっさい痴れ者」


 ピシャリと言い渡された。


 はて? 昨晩何かしたんだろうか?


「寝てる間に抱きついてきた痴れ者は黙ってなさい・・・うにゅ・・・」


 言い直された。 寝惚けてるにしてはハッキリ言われたけど・・・。


 そういえば僕って抱き癖あったんだっけ。 ずっと一人だったから忘れてたけど。



 とりあえず手足は毛布で固められていただけなので、身をよじって数分格闘した後に外れた。 手足が自由になれば後は簡単だった。 手探りで縄の結び目を探し、背中にあった結び目を解く。 キツく縛られていたが、こういう脱出術は得意だった。

 得意になるほど捕まったりしていたわけじゃない。 必須スキルなだけで、昔習わされたのだ。


 昔、僕がまだ10歳にも満たない頃、親父に色々な裏稼業の技術を叩き込まれた。


 それは暗殺術はもちろん、重火器の扱い、サバイバルの仕方、鍵の外し方、爆弾処理の仕方、ネットハックの仕方、人の巧妙な騙し方など・・・。 ありとあらゆる事を教え込まれた。


 それは決して日常生活では使わないような事ばかりだった。


 それらの技術は10歳になる頃にはマスターとはいかないまでもそれなりに習得していたので、その後僕は海外へ修行を兼ねて傭兵となった。


 そこで4年程過ごした後、僕は日本へ帰ってきた。


 その4年間で人を殺すという事についての良心が麻痺したのは認める。


 だけど、その4年間の最後の作戦で僕は殺す事が出来なくなったと思っている。


 僕は最後の作戦で無抵抗の非戦闘員・・・民間の子供を手に掛けてしまったからだ。


 そう・・・丁度ベットで眠る祈ぐらいの女の子で・・・。


 僕はそれを今でも後悔していた。


 そして後悔しながらも裏稼業を続けているという矛盾。


 僕は一体何がしたいんだろう・・・。


 日本に帰ってきて親父から引きついた稼業だが、それを投げ出したことは無かった。


 嫌じゃなかったわけじゃない。


 考えられなかったんだ。


 学校へ行って勉強をする。 会社へ行って仕事をする。


 それと同じ感覚で・・・「依頼を受けて仕事をする」だけだった。


 この仕事でこれまで手を染めてきた人数は片手であまる程だが・・・十分だった。


 裏稼業の仕事は一回の仕事の報酬が普通の仕事の並では無い。


 それで今も生活していると言えばどれほどかは分かるだろう。


 昼間やっている仕事はハッキリ言って食べていけるような仕事ではない。


 未来には知名度が上がって、もしかしたら・・・とは思ったりもするが・・・



 一人の少女の未来を奪った僕に 未来を切望する資格はあるのだろうか?



 そして今、目の前にまた別の一人の少女の運命が僕の頼りない双肩に掛かっている。


 当分の間は大丈夫だけど・・・。


 それも将来的に考えると未来は明るくない。


「でも・・・僕を頼ってきたんだ。 どんな理由だって・・・守ってみせるよ絶対・・・」


 硬く握る拳を見ながら自分が男だと自覚する。 時代錯誤だと言われても男として僕は彼女の未来を託されているのだ。


 出来なくてもやらなくてはならない。


「そうなると・・・条件次第で受けてもいいかもしれないな・・・」


「駄目よ」


「!?」


 僕が呟くのを制止する声があった。 それは勿論この部屋には他に誰も居ない。 祈だった。


「あ、おはよう。 起きてたんだね」


「起きてたんだね。 じゃないわよ。 起き出してブツブツ考え事してると思ったら・・・。 何一人で勝手に決めてるの? アンタ今昨日のラビアンローズってエージェント集に協力しようと思ったでしょ?」


「あ、良く分かったね? 報酬次第で受けようかと思うんだけど・・・」


「アンタ・・・この世界が信用で出来てるって知らないわけじゃないわよね? 昨日今日会ったばかりでしかも脅迫してくるような相手を信用するって言うの?」


「ううん。 信用してないよ。 それに昨日今日って言ったら祈だってそうじゃないか」


「私はいいのよ」


「? なんで?」


「貴方のパートナーが裏切るわけないでしょ? それに私は神だからいいのよ」


 後のは無視して前の口実だけを聞く。 裏切らないパートナーなんて居るなら願っても無いけど・・・。 


「裏切らないって断言できるんだ?」


「あら? その程度だと思ってたの?」


 祈はキッパリと言い返してきた。 それだけ強く言う事が出来るならウソじゃないのだろうけど・・・。 そうなると余計に疑問が浮かんでくる。


「じゃあさ、どうして祈は僕の所に来たの?」


 これで同じ質問を三度した事になる。 今度ははぐらかされても逃がそうとは思わなかった。 これまで状況を先延ばししていたが、信用できない者と一緒に仕事は出来るわけが無い。


 出来ればそんな事は言いたくないが、僕や祈の命に関わる事だから真剣にならなくてはと思った。


「またそれ? 私が来たかったからよ」


「うん。 じゃあ何で来たかったの?」


「しつこいわね。 本当の理由を話せって言いたいのね?」


「僕は最初からそのつもりだよ」


「・・・分かったわ。 絶対後悔しないでね?」


「後悔? 僕が後悔するような事なの?」


「さあ? 少なからずするんじゃないかしら?」


「・・・分かった。 僕も男だからね。 後悔はしないよ」


「・・・・・・ほっんとにミチオのMはマゾのMね。 それも真性な。 自分から後悔しようなんて」


「誰が真性のマゾだよ!? そんな事言ったらイノリの I だって イキナリサド過ぎる の I だよ!」


「何処にもS無いのに無理矢理こじつけるんじゃないわよっ!? あぁ・・・そういえば真性じゃなかったわね」


「ちょ・・それどういう意味っ!?」


 祈が一瞬とんでも無い事を言ったような気がするが、このまま流されてしまっては今までと同じだ。


 今日はなんとしても理由を聞き出そう。 そう思っていると、祈は溜息を見せ付けるようにしながら僕の目をしっかりと見つめてきた。


「何度も言うけど、後悔するんじゃないわよ?」


「う・・・うん」


 祈の真剣な眼差しに気圧されそうになってしまう。 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


 その音が聞こえたのか、祈は満足そうに少し笑うと、短く一言だけ言った。



「ミチオが好きだからよ」



 僕の中でWHYの嵐が巻き起こった。


 生涯2度目の異性からの告白を受けてしまった。


 実はその時もそうだったが、身に覚えが無い。


 何故か突然告白されてしまうのだ。


 しかも今回は9つも下の子供相手に・・・。


 これもあの時殺してしまった少女の呪いだろうか?





「・・・うそだけど」


「こらぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!?」


 舌を出して悪ぶる祈に本気で殺意を覚えながら僕は激昂した。


 大人をここまで弄ぶ子にはおしおきが必要だろう。


 僕を怒らせるとどうなるかという事を身をもって知ってもらう。


「いいかげんにしてよ! このままだと僕も祈もあの変な組織に殺されるかもしれないんだよ!? ふざけるのも大概にしないと僕だって怒るんだからね!」


「・・・・・・嫌いになった?」


「あぁ! 聞き分けの無い子は嫌いになるよ! もう勘弁しないからねっ!」


「・・・・・・ごめんなさい」


「その頭に――って、えっ?」


 拳を握って思い切り殴ってやろうと思った矢先に、祈は静かに謝ってきた。


「ま・・・また冗談でしょ? もう騙されないよ!」


「違うわよ! 本当に・・・ごめんなさい。 許して欲しい・・・今はまだ・・・何も言わないで一緒に居させても欲しい・・・」


 そう言って祈は涙をこぼしながら訴えかけてきた。 それを見て僕はハッとした。


 僕は何をしているんだ・・・。


 こんな子供にムキになって・・・手を上げようとしたのか・・・。


 最低だ。 


 矢張り僕はただの殺し屋なんだ・・・。



 彼女には彼女の事情があるのだろう。 だけど、それは言いたくない事情があって、僕に話すだけの心構えも勇気も無いのかもしれない。 それを無理に聞き出そうとするなんて・・・。


「3ヶ月・・・いいえ、90日程待って欲しい。 そしたら全部話すから」


「90日?」


 3ヶ月も90日も似たような物だけどそこを彼女は言い直した。


 その時期に近いといえば・・・お正月? それとも・・・クリスマス? 聖なる夜に懺悔するって事か?


「分かった。 その時必ず話してくれるなら僕は祈を信じるよ」


「ええ。 絶対に話すわ。 私の私自身に誓って」


「・・・神って事ね」


「分かってきたわねミチオ♪」


 そう言って嬉しそうに笑う祈は、とても可愛かった。






「そろそろ出ようか」


「ええ、じゃあ出ましょうか」


 十分休憩したので僕等は外に出ようと入り口までやってきた。


 そこには精算機があり、そこで精算しないと外に出られなくなっている。


「あ、ここは私が払うわ」


「え? 祈ってお金持ってるの?」


 そう聞く前に祈は何処からか財布を取り出して、一枚のカードを取り出した。


 それで支払いするつもりらしい。


 黒く光ったカードで・・・。


「ブ・・・ブラックカード!?」


 クレジットカードでゴールドカードというのがあるが、その上を行くカードだった。


 詳細は省くが、それなりの収入が無ければ持つ事は出来ない言わばその人のステータスと言っても過言ではない物だ。


 勿論僕は普通のクレジットカードしか持っていない。 しかも限度額が10万ぐらいのやつだ。


 もしかして祈って良家のお嬢様?


「だから、別に無理してあの女の下で働くことなんて無いのよ?」


 僕の考えを見透かした台詞を放つ祈。


 どうやらこんな所でも彼女に敵わないらしい。


 大人の尊厳やら男の尊厳やらいろんな物を失った気がしてしまった。


 



「これからどうするの?」


 とか僕の方から聞いてしまうぐらいに。


「そうね・・・とりあえずラビアンローズについて調べましょう。 裏があるのが分かれば潰してしまえばいいしね。 そうでなければ利用するのも手よ」


「利用する?」


「あの小木曽って女は気に入らないけど、報酬によっては考えるんじゃなかったの? 事務所の仕事も無さそうだし害が無ければ別にいいんじゃないかって思ったのよ」


「へぇ・・・」


「何よ?」


「祈って優しいんだね。 僕が言った事聞いてくれてたんだね」


「な・・・子犬のような目で見るなぁぁぁ〜〜〜! ほっんとアンタってば恥ずかしい男ね! こんな子供に何言ってるのよ!」


「いや? 感謝してるだけだよ? さっき信用がどうとか言ったけど、信頼は出来ると思ってるよ知識も技術も行動力も」


 素直にそう思ったので言ってあげると、祈はワナワナと拳を固めて上目遣いに見てきた。 だが決して甘い形相では無い。 顔を真っ赤にしながら怒っている。


「・・・・・・そういえば泣いても殴るのをやめないのを忘れてたわ」


「ちょ・・・なんでっ!?」


 祈はとても義理堅く、約束したことをキチンと守ってきた。 僕を血だるまにして。


 理不尽だ。


 

「じゃ、行くわよ」


「・・・・・・」


 返事が出来ないぐらいにズタボロになりながら、9月2日・・・今日は始まった。



【聖夜に銃声を 9月2日(1) 「新しい朝」終わり  (2)に続く】

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