ゲームの設定はこんなの。2話
設定回
筆記用具をミミに用意してもらう。
文章に残すのは不安もあるが鍵付きの箱の中にでもしまいこんでしまえばいいだろう。
とりあえず、思い出せる名前と設定を書き出していく。
ゲーム名は「6人の神子と神導の勇者」
主人公である男が魔法学園に入学するところから始まる物語だ。
ヒロインは6人それぞれが神子だ。
神子は根源属性を司る光と闇の2神、そしてその2神が生み出した基本属性を司る4神の6神が人間界に生み出した力を継ぐものだ。
簡単に言えば神様見習いのような存在で神になれるかどうかは生き方しだい。簡単に神様にはなれないのである。
そしてそれを神に導くのが神導の勇者である。それが主人公だ。
ヒロインの個別ルートではヒロインと試練を乗り越え神になり世界の危機を救うのだ。
ちなみに魔法学園は13歳になる年から18歳になる年までの6年間通う魔法を学ぶ為の機関で貴族や大商人の子息が通うものだ。
周辺国からも王族などが留学に来るほどの場所が物語の舞台になる。
私の力の親たる闇神は邪神認定を受けて他の5神から封印されているのだが、その封印を解こうとする邪教集団との戦いが大きなストーリーだ。
ステータスを上げるフィールドに繰り出しての戦闘やダンジョンを攻略して宝具を集めるといった育成などやり込み要素もある。
残り4人のヒロインは他国の王族や大貴族の令嬢、それに大商人の娘だったはずだ。
皆んなの初対面は学園に入ってからのはずなので、まだ会うことは無いだろう。
私の死因は邪教集団に拐われ邪神復活の生贄にされるか邪神の核にされる、もしくは私そのものが意識を乗っ取られ邪神になる。後のものになるほど強くなる設定だった。
仲良くなり強くすればするほどラスボスも強くなるという嫌がらせ仕様だ。
ライラルートでは主人公の呼びかけに意識を取り戻し邪神の力を利用して自壊するのだ。
何にせよ死ぬ。私の結末は死だけなのだ。
主人公に叩き斬られるか魔法で焼かれるか最期は様々だが邪神が封印されている石を植え付けられたライラはヤンデレ風味になって主人公と他のヒロインを邪魔するキャラになるから進行によってはスッキリすることすらある。設定の救われなさが加速している…
「何を書いていらっしゃるのですか?」
「うわぁっ!リリアいつの間に入って来たんだ!」
「何をおっしゃられているですか、声をかけたのに反応が無いので、また倒れられたのではないかと心配してきたんですよ」
「そ、そうなんだ。ごめんね、集中してて」
「いえ、お元気そうなら問題ありません。ただアルフ様達がお呼びになられておりますので」
「わかった、すぐに行くよ」
紙を箱に入れ鍵をかける。
「大事な手紙ですか?」
「え、いや、そうじゃないけど…」
説明が難しい、いっそ話してしまおうか、リリアなら信用できるし…
「深くは詮索しませんが、好きなお相手が出来たなら報告して頂きたく思います」
どうやらラブレターだと思われているようだ…
誤魔化すのも面倒だが、コレはコレで面倒だ…
お父様の部屋への道のりは、リリアの勘違いを訂正しながら誤魔化すことに費やされた。
だいたい皆して私が6歳児だってことを忘れているのでは無いだろうか…私が一番忘れがちだけれど…
━━━━━
お父様の部屋に入るとお母様もアドゥレアさんもいた。
「急に呼び出して悪かったね、ライラもう体調はいいかい?」
「はい、ゆっくり休んだので落ち着きました。もう大丈夫です」
「そうかそうか、フィーリアちゃんとの顔合わせのあとに伝えようと思っていたんだけど重要な話があるんだ」
重々しくお父様が話す。ゲームの設定的には何も思いつかないがこの世界は現実でもあるのだ、何が起きるか分からない。
私が息を飲み身構えるとお父様は言った。
「お前に弟と妹が出来る、いまマリーとアドゥレアのお腹の中には赤ちゃんがいるんだ」
・・・・・はぁ?!
「アドゥレアの見立てだと私の子供が男の子でアドゥレアの子が女の子なんですって」
母が嬉しそうに説明をするが状況に追いついていない…
弟や妹が出来るのはいい、嬉しいことだ。
アドゥレアさんの子供がまるで私の妹のように言われている…いや、何となくそんな気はしていたんだ。
ここは覚悟して確認しよう。
「アドゥレアさんもお父様の妻なのですか?」
「あら、まだ、知らなかったのかしら」
「確かにハッキリとは伝えていませんでしたね」
「あぁ2人とも大切な私の妻だよ」
「そうなんですね、…少し驚きました。でも弟と妹が同時にできるなんて嬉しいです」
少し声が震えた気もするが仕方ない。
父は公爵とはいえ人格者だと思っていたんだが妾がいたのか…
いや、妾がいるからといって一概に非難することはできない、事実お母様もアドゥレアさんも幸せそうだし…
でもなぁ、男としては男らしくいて欲しいし、女としては少し潔癖に考えてしまう。
「あれ?産まれる前から性別が分かるんですか?」
この時代にエコー技術とかあるんだろうか、どんな魔法かな?
「あぁ、アドゥレアは命の属性の魔法使いだからね、怪我や病気を治したりするだけじゃなくて診察もできるんだよ」
ほぅそれも知らなかったがアドゥレアさんは希少属性か、よくお世話になっていたが正確な属性は聞いたことが無かったな。
おそらくアドゥレアさんも言ったか言ってないかも意識していなかったのだろう。
「妹が産まれたらよろしく頼むぞ」
「弟が小さいうちは守ってあげてね」
母親達からの言葉に少し気恥ずかしくなる。
「えっとアドゥレアさんもお母様って呼んだ方がいいんでしょうか」
「お、そうだなぁ、アドゥレア、お母様って呼んでもらうかい」
「やめてくれ、今まで通りアドゥレアさんでいいよ」
「はい、分かりました。これからもよろしくお願いいします」
アドゥレアさんとの距離感が掴めなくなってしまったが、とりあえず今まで通りでいこう。
結局、少しの雑談をしたがいつも通りとはいかないまま部屋を出た。
━━━━━
部屋に戻ったところでリリアにお父様とアドゥレアさんのことについて聞くことにする。
「ねぇリリア、アドゥレアさんとお父様っていつからあの関係なの?お母様とも仲が良さそうだったけど」
「おや、知っていらっしゃらなかったんですね。あの3人の仲は学生時代からだと聞いています」
「学生時代って魔法学園?」
「ええ、そうですよ。マリー様は婚約者だったのですが、その為アドゥレア様は想い伝えられなかったそうです。その想いに気がついたマリー様が画策され今の関係になられたとか…」
「えぇ…お母様なにしてるの…」
「マリー様とアドゥレア様は親友のような間柄でしたから」
「とは言ってもなぁ、急に母親みたいな人が増えたと言われると戸惑ってしまうよ」
「ふふ、ライラ様はアドゥレア様とも大変仲がよろしいと思いますよ」
「まぁ意識してなかったとは言え家族と同じくらい関わってきたから」
「ええ、言葉遣いがアドゥレア様に似ている時がありますからね」
リリアは優しく微笑む。
確かに意識してお嬢様喋りをしているがアドゥレアさんとの関わりは話しやすい言葉に使いになっていたからなぁ、影響受けたのは間違い無い。というか男っぽい喋り方だからかもしれない。
「優しくて強いお母様が2人もいらっしゃるのです。ライラ様は幸せものですよ」
リリアの言葉に少し嬉しくなるが訂正しておかなければならない。
「それは違うよ」
「え?ですが…」
「リリアも私のお母さんだと思ってるから」
思ってることを言ってみた…
すごい恥ずかしかった…
きっと顔が真っ赤だ。
そっとリリアの顔を見上げようとするとガバッと抱きしめられた。
「ありがとうございます。不敬かもしれませんが私も娘のように思っております…」
「私も嬉しいよ」
その後リリアにお父様達の昔話を聞きながら眠りに落ちた。
とても楽しい時間だった。
こうしてリリアと関わる時間はお父様達以上だ。
リリアには感謝してもしきれないな。
さて明日からはフィーリアとの訓練だ。
そして私の死を回避する方法を考えるのだ。