ヒロインでした。 1話
今日は5歳の誕生日。待ちに待った属性の診断である。
…そのはずなのだが、なんだか気が乗らない。
なにか良くないことが起こりそうというかなんというか…
「うーん、なんだろう…」
呟きながらうつむいているとリリアが声をかけてくれた。
「ライラお嬢様、緊張なされているのですか?」
「ん、いや、違うんだけどね、なんかモヤモヤして…」
「今日は盛大なパーティーです。5歳は魔法の診断を行うように成長を祝う宴の中でも重要なものの一つです。アルフ様とマリー様の血を継ぐライラお嬢様であれば間違いなく魔法の才能があることでしょう」
どうやら自分に魔法の才能が無かったらどうしようかと悩んでいると思われたようだ。
その点は心配していない、魔法の訓練などしたことも無いが、むしろ魔法の才能はあると確信していた。
だからこそ、なんというか、既視感のような不安感が…
「ライラお嬢様、そろそろお時間です。主役が暗い顔をしていては盛り上がりません。様々な人がいらっしゃるでしょうが皆、お嬢様をお祝いして下さいます。今日は楽しみましょう?」
リリアは更に声をかけてくれる。
これ以上は悩んでいてもリリアを困らせてしまうだけだろう。
それに私を思ってくれている人がいると思うと心が少し軽くなった。
「リリア、ありがとう」
たどたどしさの残るお礼をするとリリアは笑顔で「どういたしまして」と答えてくれた。
太陽が空のてっぺんを越えたころ、5歳の誕生日を迎えた記念の盛大なパーティーが開かれた。そして属性を診断するための儀式が行われる。
初めは立食パーティーのような様子だった。大きなケーキを切り分けてもらい食べる。
うん、美味しい。新鮮なフルーツを使ったケーキだがこの時期に新鮮なものが食べられるのは魔法の管理が無ければ難しいだろう。
やはり公爵家万々歳である。
美味しい食事に気分を上げていると、どんどんと様々な人が声をかけてくる。私にでは無く父や母にではあるが。
「アルフ・ハルカミナ様この度はご息女の5歳の誕生日をお祝い申し上げます」
「おぉ、ドンドレナ伯爵、今日はよく来てくださった。楽しんでいって下さい。エルティナで採れた自慢の食材を使ってウチの最高の料理人に作らせていますからどの料理も美味しいですよ」
といった会話がさっきからひっきりなしだ。
もちろん私もそこから挨拶をされるので返事をしなければならないのだが。
ちなみにドンドレナ伯爵は近くのドンドレナという伯爵領を治めている方らしい、本名は覚えていない。
ここでは領地名で呼ばれることも多いのだとか。
エルティナはウチの公爵領のことで父の場合正式には「アルフ・ハルカミナ・エルティナ公爵」と呼ばれるらしい。更に言えば公爵の位にあるのは父だけであり私は公爵令嬢でも公的な権力は持っていないのである。
パーティーも落ち着いてきたころ本日のメインイベントの開始を司会が告げる。
魔力診断が始まる。
神妙な空気に包まれた会場で道具の用意された中央に進む。
魔法使いであるアドゥレアさんの前は台座がありその上に球体の水晶が載せられてる。
それに手をかざすとアドゥレアさんが何か呪文のようなものを唱える。
それと同時に体から何かを吸われる感覚がした。おそらく魔力のようなものを吸われたのだろう。
しばらく水晶を眺めていたアドゥレアさんがなんとも言えない表情になった。
とても嫌な予感がする。
「アドゥレア・ハルカミナの名においてライラ・ハルカミナ様の魔力の色を言い渡します…魔力の色は"闇"でございます…」
空気がざわつく。
闇は根源属性の一つで希少属性と同じく珍しい。しかし根源属性は突出して伸びることがあまり無いと言われている。公爵家の人間としては嬉しく無い。
それだけで無く闇の属性は効果があまりよろしくない。
基本的な効果は人を操ったり、記憶を消したり植えつけたり、心を読んだりといった嫌なものが多い。
また肉体に対しては指が一本増えたり髪の毛が伸びたりと気味が悪くグロいものが多い。
まぁ突出して伸びることはあまり無いのでそこまで精密には使えないだろうが…
総合すると公爵家の令嬢としては大ハズレ、むしろ才能無しより残念かもしれないといったところだ。
だがそこに驚きや落胆は無かった。ただやっぱりといった感覚で魔力を吸われた右手のひら眺めているた。
すると母が近づいてきて抱きしめてくれた。
「あなたがどんな魔法を使おうと私達はあなたの味方よ」
う、やっぱり悲しくなってきた。
なんか悪いことしたかなぁ…
闇属性の魔法では訓練なんてさせてはもらえないだろう…
私のファンタジーライフは終わりなのだ…
でも優しい家族がいるのだ挫けず頑張ろう。なんたって前世の記憶があるのだ凄いことだって出来るはずだ。
そう考え直していると、なんだか涙が溢れてきた、最近は理性でコントロールできていたのになぁ…
そしてこえを殺して母に抱えられながら泣いたあとそのまま眠ってしまったのだった。