エキストラの放課
少しだけ都会から外れた、なんと言うこともない普通の高校、神崎高等学校。そこに通う僕は、今まで特筆するべきこともなく人生を送っていた。これからもどうということなく、普通に生きて普通にサラリーマンになり、普通に老後を過ごすんだろうな、でも一回くらい漫画の主人公のような体験をして見たい。なんて漠然と考えていた僕の日常は、ある日音もなく崩れ去った。
いつもどおりのチャイムの音色が鳴り響く。
「お前ら、席につけー」
担任教師が教室へと入ってくる。
ここまではいつもと同じだった。ここが、運命の分かれ道、イレギュラーだったのだ。
「今日は転校生を紹介するぞー。おーい、入って自己紹介しろ。」
これだけならば何ということもないちょっとしたイベントだ。だけど、なぜか僕はそのことに対していやな予感を覚え、それは見事に的中することとなるのだった。
赤色の髪をした背の高い生徒が入ってくる。目は緑色で、僕はそのことに違和感を覚えない僕たちに違和感を覚えた。
「東京から来た、龍崎 煉。よろしく」
リュウザキ レンと名乗った男子生徒は、無愛想に会釈をした。
「お前の席はあそこだな。窓際の一番後ろ、愛川のとなり」
言われた席に向かう龍崎。隣の愛川カレンは学年一とも言われるルックスの持ち主だ。クラスの男子生徒の羨望の視線が注がれるが、龍崎は気にした様子もなく席に座り、変わらず無愛想に愛川に挨拶をした。
「…よろしく」
「よろしくね!」
その日一日は何事もなく過ぎた。
僕の思い過ごしかな、と安心しかけた次の日に事件は起こったのだ。
授業四時間目。
「!」
唐突に地震が訪れた。かなり大きな。
「みんな机の下に隠れて!」
英語を教えていた女性教師が、あわてて指示を飛ばす。机に隠れる生徒で騒がしくなる仲、僕は龍崎が机に隠れる素振りも見せず窓の外を睨んでいるのを見た。
何かが起きる。僕の本能はそう告げていた。
「来たか……仕方ない」
小さく龍崎の声が聞こえたと思うと、教室の中に風が巻き起こった。
僕の記憶はこの後すぐに途切れてしまった。最後に見た光景は、炎を纏わせた拳を握った龍崎だった。
昼休みが過ぎて、何事もなく授業が始まり、進行する。まるで何も無かったかのような何時もの風景。
僕も龍崎になにか訊いたりせず、何も言わずに残りの時間を過ごした。
矢っ張り僕にはこの日常が似合っているのだろう。漫画の主人公にはなれない、ならなくていいのだ。
龍崎は家に帰ってもまだまだ何かに巻き込まれるのかもしれないが、僕はそんなこともなく、平和に安穏と過ごしていられるのだ。
僕はどこまで行ってもモブ、格好よく言ってみればエキストラなのだ。エキストラだからこそのこの日常に感謝しよう。
さあ、平和な放課後だ。




