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メガネ神話紀行  作者: 北条三蔵
第1章
3/23

メガネと飲み会

 パルテアは自室に戻って、別便で届けていた自分の荷物から、差し当たって必要なものを取り出し始めた。

 ササン君にクーシュ、ミフラ局長か。各人の名前を反芻する。

 ん? ミフラ?

 似たような名前を昔話で聞いたような……。

 なんだったかな。子供のころだったから、よく思い出せない。

 や、だとしても、同じような名前になることはあるか。ちょっと凝った名付けをしようとして神話や昔話を参照するのはありうることだ。

 そんなことを考えながら荷物を開けていると、縦長の箱が出てきた。

 蓋を開けると、メガネが三つ入っていた。

 パルテアは視力が充分あり、視力矯正としてのメガネは必要としていない。この三つのメガネのうち二つは親から受け継いだもの、残り一つは、サヴァー市外の者にもわかるようにいうなら、ファッションとして自分で買ったものである。

 視力が高かろうと低かろうと、ある程度の年齢に達したところで一つはメガネを持つのがサヴァー生まれとして通常の行動、いわば通過儀礼のようなものなのだが、サヴァーを飛び出して以来、箱に仕舞ったままにしていた。

 いつかはわたしも自分の子供にこのメガネを渡すのかしらね。

 おかしな風習だとは思う。使うわけでもないメガネを子孫へと引き継ぐだなんて。両親も祖父母から受け継いだメガネを持っていた。

 たしか「メガネを通して家風を継ぐのだ」とかなんとか……。

 当時は何のことだかわからないでいたけれど、今は、多少感じ入るところはある。だからこそサヴァーに戻ってきた、という面もないではないのだし。

 パルテアは自分のメガネをかけてみた。

 久しぶりの耳当ての感触。少し窮屈な感じがする。

 度の入っていないレンズから覗く景色は、裸眼の場合と何の変化もないはずだが、今になってみると、特別なもののように感じられた。

 荷物から鏡を取り出し、机の上に置いて覗き込んだ。

 鏡に映る、メガネをかけた自分の顔をまじまじと見る。

 丸っこいレンズが、少しばかり不恰好に思えた。

 いま買うとしたら、もうちょっと角ばったものを選ぶだろうな。フレームも、こんな黒いのじゃなく、赤か茶色の明るめのやつ。

 ちょっと顔の角度を変えてみる。右から、左から。上目遣い。

 前髪をあっちへやりこっちへやり。

 後ろの髪を手でつまんで、ちょっと髪型を変えてみる。

 わざとらしく笑顔を作ってみたり。

 真顔に戻り、もう一度じっと見る。

「……鏡よ鏡、世界で一番美しいメガネっ娘はだあれ?」「ソレハなんたらかんたらデス」「きいいーっなんですって」一人芝居するパルテア。

「………………パルテアさん、なにやってんですか」

「うひあっふぇ」

 パルテアは自分でも何と発声したかわからないような声をあげた。

 高速で振り返ると、そこにはササンの姿があった。

「のののノックぐらいしなさいよよよ!」

「ドアが開きっぱなしだったんですよ」

 パルテアは、おそらくはこれまでの人生で最高級の赤面をしていた。

「どっ、どこっどこから見てたっ?」

「鏡を見始めたあたりからです」

「ばっ……ばかたれー!」

 パルテアは絶叫し、メガネの箱の蓋をササンに向かって投げつけた。

 蓋は見事にササンの顔にヒットし、ササンはその場で引っ繰り返った。

「うわ、うわああぁ、わたしとしたことがー! か、かくなる上は口を封じるしか……」

 パルテアは赤面したまま不適に笑い、ゆらりとササンに近づく。

 寸前、勢いよく起き上がったササンは、力の限り宣言した。

「だいじょうぶです。世界で一番美しいメガネっ娘はパルテアさんです! 本当です!」

「う、うるせー!」

 パルテアの顔はますます赤くなった。

「忘れろ! 忘れるんだ!」

 パルテアはササンの首を絞めながら激しく前後に揺らす。

心像機(カメラ)はなくともももっ、ぼくの心にはパルテアさんの艶姿がががっ、きっちりかっきり刻まれれれっ」

 意識が朦朧となりながらも、ササンは先ほど視界に広がっていた光景をありありと脳裏に描いていた。

 それはそれは甘美な光景であった。

「しゃしゃしゃ写真にっ、ととと撮らなかっただけけけけっ、りょりょ良心的じゃないですかかかかっ」

「ばかやろううう!」

 パルテアが激昂の雄叫びをあげる。

「何してますニャン?」

 今度はクーシュが部屋を覗いていた。パルテアはうひゃっと声をあげ、捕まえていたササンを放り出した。

「あ、クーシュ。さっきパルテアさんがね、」

「いらんこと言うなー!」

 パルテアは両手でササンの両頬をしたたかに挟んだ。そのためにササンはふごふごとしか発音できない。

「ややっ、パルちゃんさん、メガネかけてますニャー。とってもお似合いですニャ。…………どうかしたんですかニャ?」

「ひゃっきファルテアはんが」

「だから黙ってササン君。……あははクーシュありがとー」

 パルテアは引きつった笑顔をクーシュに向けたのち、ササンのほうを大変にきつい目つきで振り返り、「余計なことをしゃべると君の命が何かと危ない」と暗黙にメッセージを送った。その恐ろしい形相に、ササンは首が外れるぐらいにうなずいた。

 ようやく安堵したパルテアは、大きくため息をついて、メガネを外して箱に仕舞った。

「じゃ、じゃあ懇親会、行こっか」

 精一杯の明るい声で言い、しかし肩をがっくり落としながら、パルテアはふらふらと部屋を出て行った。ケープも元気なく垂れ下がっている。

 クーシュは一体何がどうしてこうなったのか理解できず、パルテアの後ろ姿とササンとをきょろきょろ見回しながら、「ニャ? ニャ?」と不思議がる。

「パルちゃんさん、どうしたんですニャ?」

「妙齢の女性にはいろいろと思うところがあるってことですよ」

 ササンはわかったふうな口を利き、ひとり納得顔である。

 さっぱり事態が飲み込めないクーシュは、五秒ほど想像を巡らしたが、すぐに思考が発散した。猫族は、よくわからないことを長々と考えることはしない、極めて前向きな種族である。

「んじゃ、懇親会行きましょうかニャ!」

 クーシュはばたばたとパルテアの後を追った。

 ひとり部屋に残されたササンは、パルテアにすっかり乱された服装を整え、

「今日はいいものをたくさん見た……写真師冥利に尽きる」

 とひとりごち、しばし遠い目をした。




「クーシュううぅ」

「ニャウゥ~ン」

 料理の注文を終えたパルテアは、隣に座っているクーシュを強く強く抱きしめた。

 あのあと、気落ちした様子のパルテアをよそに、元気よく「メガネのウミネコ亭」まで案内したクーシュだったが、店に着くやいなやパルテアによって強引に隣に座らされていた。

「クーシュの毛、気持ちいー」

「変なとこ触らないでほしいですニャ~」

 パルテアはクーシュを抱きしめながら、肩の毛やしっぽを触りまくる。

 そのたび、クーシュがあえぐようにニャフンニャフンと声をあげるので、ササンは目のやりどころのみならず耳のやりどころにも困っていた。

 店には客が多く、景気のいい話し声でいっぱいで、幸いにしてクーシュの変な声に注目は集まっていない。

「こうでもしないと心の傷が癒されないんだもんー」

 そう言いながらパルテアはササンのほうをじろりと見る。

「不可抗力ですよ……」

「ふーんだ」

 厳しいパルテアの視線に対してササンは弁解するのだが、パルテアはそっぽを向いて、相変わらずクーシュをさわさわしている。そしてクーシュはフニャニャンと鳴く。

 二人を見ているとなんだか恥ずかしくなってくるので、ササンは窓の外に目を移した。

 まだ完全には夜になっていない風景の中に、湖が見えた。見ているとさわやかな気持ちになる、いい景色だ。時折、水音とともにゆるやかな風が吹き込んできて、店全体が快い雰囲気に満たされる。

 店内のほうを見渡すと、椅子やテーブルなど、調度品は生木を感じさせる造りのものが多く目に入り、野趣がコンセプトの店なのかなと思われた。


「お待たせしましたー。木苺(クルフィナイ)ビール一つに山葡萄(アングァ)ジュース二つ、鹿肉ハム、山羊と山菜のマリネ、アイナクの塩焼きでーす」

 店員が、注文した料理を運んできた。ついでに注文してない料理であるところのフリットも大量に持ってきた。フリットは当然付属してくるものらしい。

 丸太を縦に切ったようなテーブルの上に、飲み物と料理が並べられる。

 アイナクというのは、パルテアとササンが渡ってきた湖で獲れる、やや大振りの魚の名前である。偶然に違いないが、この魚の目はぎょろりと大きく、まるでメガネをかけているように見える。クーシュはこれが好物らしい。運ばれてくるなり、目が爛々と輝きだした。

「乾杯ですニャー!」

 待ち切れないクーシュがパルテアに先んじて音頭をとった。

 クーシュは、一口ジュースを飲んだかと思うと、素早くアイナクの塩焼きに取りかかった。手馴れた手つきで切り分けてはひょいひょい口に運んでいく。

 パルテアは木苺(クルフィナイ)ビールをぐぐっとあおった。果汁が多く含まれており、アルコール含有量は少ないので、するする飲めてしまう。

「ビール追加ね」

「ペースはやいですね……」

 あっさりと一杯目を空にしたパルテアは、早速追加注文した。

 ビールを待つ間に、真っ赤な鹿肉のハムを口へ運ぶ。口当たりはクセのある脂分を感じるが、噛み締めるとそれほどでもなく、つけあわせの野菜と合わせるといっそう食べやすい。パルテアにとっては久しぶりの味だ。

 勢いのいいパルテアに負けず劣らず、クーシュはアイナクの塩焼きをどんどこ食べていた。本来持つ泥臭さがうまく抜かれ、淡白と思いきや噛みしめると味わい深く、クーシュの食べるスピードはいや増していく。

 山葡萄(アングァ)ジュースの素朴な香りをゆったり楽しんでいたササンだったが、せっかくの魚が全部食べられてしまうのではないかと危機感を覚え、ちょっと目が怖いクーシュに頼んで少し分けてもらった。

 その間にパルテアは二杯目を半ばまで空けていた。

 それでようやくパルテアは先ほどのショックから立ち直ったと見え、「それで、雑誌の方針なんだけど」と話し始めた。

「わたしがやりたいと思ってるのはね、まずは、メガネという文化、思想を語りたいってこと」

「それはまた……高度に趣味的ですね」

「そのためのリトル・マガジンでしょ。せっかくお金の心配せずに好き勝手書けるんだから。前も言ったけど、この町は職人気質だから、メガネの技術の話はしても、その哲学とか、文化的な意義を語ったりはしないのよ。サヴァーの図書館なんて、技術資料とか社史とか日報とか、そんなのばっかりで、思想や文化論なんてほんのちょっとしかないんだから。物語の本すらろくにないのよ」

 酔いが回ってきたのか、早口でしゃべるパルテア。

「でもなんだか難しそうですね、内容が」

「ま、そこはわたしに任せて。学問やるんじゃないんだから、思想なんて言ったもん勝ちよ。それからもう一つは、事件報道ね」

「そんなの新聞とかで十分やってるんじゃないですか?」

「ところがところが。サヴァー市民ってのは本当に世情に興味がない奴らでね。メガネの製作と販売くらいしか頭にないのよ。報道なんて儲からないから誰もやらないわ」

 パルテアは嘆息し、ぐぐっとビールを飲んで、三杯目を注文した。今度は山葡萄(アングァ)のビールだという。

「何か事件が起こっても噂話にしておしまいよ。まぁそれだけ平和な町だってことではあるけどさ。そこらへんを、日々追っかけて報道したいわけ。こっちではササン君に活躍してもらうから」

「は、はい。がんばります」

「でも本音を言うと、これは単に事件報道ってのをわたしがやってみたいってだけで、別にみんなもっと世の中のことに興味持てーって言いたいわけじゃないの。えへへ」

 酒のせいなのかパルテアの頬の緩みが著しいなとササンは感じ、これは記録すべきかとつい心像機(カメラ)に手が伸びそうになるのだが、どうにか自制した。代わりにフリットをつかんで口へ運ぶ。

「噂話っていや、クーシュは最近何か事件が起きたとか聞いてない?」

 パルテアはクーシュのほうを向いて尋ねた。

 いつの間にかクーシュはアイナクの塩焼きをほとんど全部たいらげていた。

 まさしく動物的に輝いていた瞳は落ち着きを取り戻していた。お上品に口元を拭いたりしている。

「そうですニャー……。ジルの爺さんが何か変なもん見たーって騒いでましたニャ」

「ジルの爺さんって誰ですか?」

「老舗のメガネ工房で、ジル・スペクタクルってのがあってね。そこの長老のことよ。わたしが子供のころからジジイだったわ」

 パルテアは上気した顔でしみじみと語った。

「爺さんが言うには、工房創業者のなんとかって人を最近見たという話ですニャ。しかも若いままの姿だったそうですニャ。もうとっくに死んでる人のはずなのですニャ」

「……爺さんってば、昔から耄碌してたけど、とことんまで来てしまったようね」

 パルテアは深々とため息をついて、ビールを一口飲んだ。山葡萄(アングァ)の粗い酸味が、月日の経過を染み入らせる。

「他人の空似だろうとは思うけど、一応調べてみましょうか。社史を調べれば創業者の顔はわかるだろうし。老舗工房の創業者の生まれ変わりか? なーんて与太記事もいいかもね」

 パルテアはメモ帳を取り出して半分笑いながら書きつけた。

「あ、あと同じジルのとこの若い職人が一人行方不明だそうですニャ」

「お、事件。報道っぽいですね」

「どうせサボりでしょ? 仕事が嫌になって逃げちゃう職人なんてよくある話よ」

「と思いますけどニャ」

「ん~。ありがとクーシュ。さしあたりいまの話を創刊号のネタ候補にしましょ。ジル・スペクタクルに行って話聞いて、図書館行って社史を調べる、と」

 パルテアは素早くメモ帳にペンを走らせる。酔っていてもこういうところはしっかりしてるのがプロっぽい、とササンは感心していた。

「……うっふっふ」

 メモを終えたパルテアが、フリットを一つ口にくわえながらにやついた。

「なんですかその笑みは」

「図書館の職員がね、わたしの友達なんだけど、結構かわいいっていうか美人ていうか」

「興味深い話ですね。詳しく聞きましょう」

 ササンは居住まいを正し、パルテアの語るその職員の話に深く耳を傾けた。ササンの鋭く光る目は、さながら切れ者の様相である。

「あいつにいろんなメガネかけさせて表紙モデルにするってのどう? うひひひひ」

「素晴らしい考えです。さすがは一流編集のパルテアさん」

 パルテアの酒は四杯目になっており、それもかなり減っていた。

 そのことにササンは気づいていたが、話がことのほか興味深くなってきたので止めないでおいた。面白味はアルコールの向こう側にある可能性が高い。

 話しながら何気なく食べたマリネの野趣あふれる味が、その興味深い話をより興味深くせよとササンの頭脳に命令してきたような気さえした。

「ぼくとしてはぜひミフラさんにも表紙を飾ってほしいですね。あの霊妙な装いのままで」

「あっはっは。そりゃいい」

 ササンの言葉を聞いているのか聞いていないのか、パルテアは、すっかり上機嫌でフリットをひょいひょい口に運び、どんどこ酒を飲んでいる。

「クーシュもぜひやってほしいね。きっと猫界の星になれるよ」

 ササンはそう提案する自分の声がいつになく渋いと感じた。

「ニャフゥ。恥ずかしいですニャ~」

 頬を染めてしっぽをぴーんと立てているクーシュを見て、ササンは重大なことに気がついた。

 耳が頭の上にあるのにどうやってメガネかけるんだろう?

 いやそれだけではない。人間の耳がある部分にはいったい何があるのか。

 クーシュは髪でその部分が隠れてしまっている。

 いったいそこには何が。

 尽きせぬ疑問にさいなまれ、恐る恐るクーシュに訊くと、

「猫族の髪には特殊な引力が働いていて風が吹いても見えませんのニャ」

 などという答えが返ってきた。

 ど、どういうことなんだ。じゃあ猫族には短髪の人はいないっていうのか。

「う~ん局長かぁ。メガネ似合うかなあ」

 悶々としているササンをよそに、目がとろんとなったパルテアが突如ひとりごちた。

「局長ぉさあ、なーんか神秘的な感じ漂わせてるからぁ、あんまりこー、技術的な?装飾は合わないんじゃないかなーと思うのよねー」

 語尾を間延びさせながらパルテアは評した。

「なるほど……それはそうかも」

「神秘性……メガネ……隠すもの……仮面……」

 先ほど書きたいと言っていた文化論のネタだろうか、半分閉じかかったまぶたをしながら、パルテアはぶつぶつ言っている。本格的に酔っ払ってきたようだ。体がゆらゆら揺れている。これは危うい。

 これ幸いと、ササンはパルテアの耳に口を寄せてぼそっとささやいた。

「パルテアさんも表紙モデルになってくださいね」

 予想されるパルテアの攻撃に備え、ササンは即座に防御姿勢をとった。が、

「あー…………わかったわかった」

 酩酊したパルテアはおざなりに返事をしてしまった。

 それを聞いたササンは、言質とったあああ!と心の中で叫んだ。

「クーシュ、いまの聞いたよね?」

「聞いてませんニャ~。酔っ払い中は無効ですニャ」

 クーシュはかぶりを振った。

「そんなぁ」

「道のりが険しいほどやりがいがあるというものですニャ」

「厳しいんだね、クーシュ」

「ニャッフッフ。がんばるとよいですニャ若人よ~」

 クーシュは胸を張って言う。

 そういえばクーシュの年齢はいくつになるんだろうか。亜人は見た目じゃ何ともわからない。

 そうこうしているうちに、パルテアから寝息が聞こえ出した。

「パルテアさーん」

 ササンは小さい声で呼びかけてみたが、反応がない。

「寝ちゃったみたいだ」

「仕方ありませんニャ~。これにて終了としましょうかニャ。支払いはパーランダ社のお財布にお任せですニャ」

 クーシュは手際よく会計を済ませてきた。

 クーシュのしっかり者ぶりにササンは心から感謝したが、それはそれとして、この赤ら顔の酔っ払いをどうすべきか。

「サンちゃんさんがおぶって帰るしかありませんニャ。クーシュはちっちゃいから引きずっちゃいますニャ」

「そうなりますか……」


 ササンはどうにかこうにかパルテアを背負って、店を出た。自分よりも背が高い人を背負うのはなかなか難儀だ。

 クーシュに先導されながらとはいえ、不案内な町の夜道を歩かねばならないのもまた一苦労だ。

 しかしもっと難儀なのは、首にかかる吐息と、背中に感じるパルテアの、俗に胸といわれるアレのふくらみである。

 この感触を心像機(カメラ)で撮ることができたなら……!

 そう思わずにはいられず、ササンは空を見上げ、星に向かって心の涙を流した。

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