メガネと祭り
「うわぁー。盛大ですねぇ!」
ササンが驚嘆の声を上げた。
サヴァーの町、大通り――。サヴァーではその日、祭りがおこなわれていた。
動物の毛皮で飾られた山車が、大通りの真ん中を悠然と進んでいた。山車の上には、鳥の羽根で作られた冠をかぶった人が立ち、山車を眺める観衆に向かって花びら吹雪を撒き散らしている。
山車の後ろには、仮装した者たちが行列を成していた。鹿や山羊の角を付けた帽子をかぶる者、男装・女装する者、仮面を着ける者、どこの土地の衣装ともつかぬ奇矯な恰好をする者――思い思いの扮装をし、ある者は笛を吹き、またある者は弦を弾いた。
さらにもう一台山車が続き、その上に立つ人物は、花でなく砂を撒いていた。サヴァーにおいて採掘された鉱石のうち、使われなかった石を細かく砕いたものだ。サヴァーでは、この砂を浴びることが、これまでの仕事とこれからの仕事への祝福とみなされている。
大道の両脇には屋台が立ち並び、普段より食されている軽食から、祭りの時だけの特別なメニューまで、さまざまに供されていた。ある者は屋台で菓子を買い求めながら店主と軽快に話をし、ある者は酒を飲みながらにこやかに行列を眺めた。それぞれがそれぞれのやり方で祭りを楽しんでいた。
「しかしこう砂を撒かれては、飲み食いしにくいのでは?」
ササンは山車に心像機を向けたまま、同行者であるパルテアとエリズに尋ねた。
行列を眺める人の多くは飲食物を手に持っており、時折砂がかかってしまっていた。花びらが浮かんだ酒なら風流だろうが、砂がかかった食べ物は嫌だろう。
「そぉんなの、砂も一緒に食べちゃうのよ。気にしたら負け」
パルテアは、祭り取材に出て早々購入した、フリットの鹿肉ベーコン巻きを堪能しながら答えた。フリットの鹿肉ベーコン巻きは祭りの限定商品である。
「ええーそんなぁ」
「サヴァー人の体は鉱石によって健康に保たれていると言われるわね」
エリズはそう言って、パルテアが持っているフリットの皿からひょいと一つつまんだ。
「健康にいいんですかこの砂」
「いいわけないでしょう」
きっぱりと言い切るエリズ。
「そういうがさつなところがサヴァー人らしさなのよ」
パルテアもエリズに同調した。
「そりゃまたなんとも……」
奇妙な風習だなとササンは思いつつ、今度は心像機を行列の観衆に向けた。
観衆の中にも仮装している人たちがいる。パルテアが言っていた、緑色のレンズをつけた仮面をかぶっている人がたくさん見受けられた。仮面の意匠はさまざまだが、みな一様に目の部分が緑色なのはちょっと異様な感じもする。
山車を撮ったり屋台を撮ったり観衆を撮ったりと、ササンは大忙しだった。
初めて見る町の祭りは何もかもが珍しく、どこが見所とも判別せぬまま、とにかく心像機に収めた。
「この観客の中に『仮面の君』もいるのかしらね」
エリズは周囲をぐるりと見渡して、何気なくつぶやいた。
「そうね、いまごろ獲物を物色中かも。……なぁにエリズ、『仮面の君』に誘われたいの?」
パルテアがにやにやしてからかうと、
「それも面白いかしら」
エリズは何でもないことのようにあっさりと言ってのけた。
「ちょ……エリズ、本気?」
「冗談よ」
エリズはまったく淡々と答える。
「……あんたの冗談はわかりにくいというか、時々怖いわ」
パルテアはため息をついた。
ササンはそんな二人の様子を見て、「ああ、エリズさんが積極的になるのはきっといいことなんだけど、パルテアさんは苦労が増えそうだな」としみじみ思う。
「ササン君、あんまり張り切っちゃダメよ。祭りは明日も明後日もあるんだからね」
「は~い」
サヴァーの祭りは六日間続く。初日は祝福の山車と行列だが、その後は、子供のみによる仮装行列の日や、花火の日、食べ物大盤振る舞いの日……などと続いていく。
その中の「踊りの日」は、町中の人たちが大通りで手に手を取り合い、音楽に合わせて踊る日である。
そしてそれは、情事が最もよく起きる日でもある。




