③逃避行
僕はミーヤに自分の上着を貸してやり、ショップが開くのを待って、一揃いを買ってあげたんだ。
生まれて初めて、クレジットカードを使った。何となく、大人って思えて嬉しくなって、気が付くと、僕はミーヤの手を握っていた。
トイレに行くふりをして、僕は会社に電話を掛ける。
雨に濡れてしまって、具合が悪くなった僕は、3日間休みを取った。
自分で自分の行動を笑ってしまう。
どうでも良いと思っている会社なのに、上司の声にビクビクしている自分が鏡に映っている。
「お待たせ」
私服に着替えたミーヤは、僕に腕を回して来た。
「ヒナタ。私、海が見たい」
甘える様に言うミーヤに苦笑しながら、僕は頷き、二人分の切符を買ったんだ。
ごった返していた人はもうほとんどいなくなったホーム。二人で電車を待つ。
ずっと前からそうだったように、ミーヤは僕の腕を掴んだまま、嬉しそうに僕を時折見ては、はにかむように笑ってみせる。
電車が僕らを海に届ける頃、雨はすっかり成りを潜めていた。
その代わりに、雨で濁ってしまった海と青空が、二人を祝福するように広がり、ミーヤは子供のようにはしゃぎながら、僕の前を歩いて行く。
風で髪がなびかないように、手で押さえながら、振り返り振り返り。
「ねぇ、私たち、ちゃんと恋人同士に見えていると思う?」
そう聞かれた僕は、上着のポケットに両手を突っ込み、何も答えずにいた。
照れ隠しをしていたんだ。
こんなの初めてだったから。




