②初恋
改札の前、僕は案内板に流れる文字を見上げていた。
『大雨強風の為、大幅の遅れ』
繰り返し流れるメッセージ。
それを見上げては、後から来た人たちが右往左往して流れて行く。
「なかなか、来そうもないですね」
いつの間にか隣に立ったミーヤに話し掛けられた僕は、女性に免疫がなく、何も答えられず、ただじっと目を見張るように見つめ返していた。
ああ濡れちゃった。と無邪気な声を上げながらスカートを絞り、これじゃ学校には行けないっていうか、行きたくないな。あなたは大学生? と、屈託のない笑顔で聞かれ、僕の顔は熱く火照る。
普段の僕なら、絶対に無視をする。
けど、その日は違っていた。
「まぁ、そんなところ」
「へ~何大学?」
僕は黙り込んでしまった。
嘘を吐き通せばいい。早稲田や慶応あたりを言っとけば、大概の女は喜ぶ。そんなもん、僕だって知っている。
「分かる。その気持ち。私も高校の名前、言いたくないもん。偏差値で人の中身まで決められないでしょって、言いたくなるもん」
「そんなことあったんだ」
「あるある。もうしょっちゅう」
僕は自分のカバンからタオルを出し、ミーヤに差し出す。
ミーヤの髪が濡れていて、前髪からそのしずくが落ちて、目に入っていたから。
「ありがとう」
そして、僕は構外に目をやり言ったんだ。
どうせこんな日は休講に決まっているって。
僕はミーヤに、ニコッと微笑んで見せた。
ぎこちない僕の笑みに、嬉しそうにミーヤは手を差し出した。
「私、篠原美耶子。ミーヤって呼んでいいよ。よろしくね」
「ぼ、俺は、日向健人」
「ふ~ん、日向君っていうんだ。ヒナタ。ケント。ケンちゃん。ヒーケン。ケン。やっぱり、ヒナタが一番しっくりくるかな。ヒナタって呼んでもいい? ね、ヒナタ。で、これからどうする? 私、このままだと風邪ひいちゃうかも」
上目づかいで見られ、どぎまぎする僕に、ミーヤは言ったんだ。
思い出が沢山欲しいって。




