episode3 :黒鋼、出港
時は第5試験艦隊が公試運転射撃をする前まで遡る。
神界にて記憶や感情と欲望を失う代わりに己が希望した通り、超弩級戦艦を手に入れた相良七洋こと黒鋼(以下クロガネと呼称)が艦橋の淵に立っていた。
「自由魔素転換炉起動....稼働シークエンス問題無し....」
そう呟く彼の周りには黒い半透明のモニターやキーパッドが複数浮かんでおり、その画面にはエーテルコンバートリアクターの稼働率を示すパーセンテージ、艦の損害を確認する図面、魔力の供給率を示すパラメータ、画面いっぱいになるほど埋め尽くされ、下から上へと向かう文字の羅列など。
そのモニターの数は全部で十四あった。
そしてその光景や作業スピードは最早人間が成せる業ではなかった。
しかし、それはあながち間違ってはおらず、彼は既に人間ではないのだから。
「クロガネ、調子はどう?」
鈴がなる様な声で問いかけた艦橋の淵で作業しているクロガネを観察し、格好が中世ヨーロッパっぽい布キレ1枚の衣装をした女性がクロガネと同じ位置になるように浮いているのである。
その彼女こそ、この超弩級戦艦を創り、相良七洋の人格を消し、肉体を再構成した張本人である《破壊と創世の神》であるキナールレインその神だ。
「創造主、私は兵器です。調子の善し悪しはありません」
クロガネはキナールレインに顔を向けず、感情が一切こもっていない無表情のまま事務的に返答した。
「もう少し可愛げが有っても良いのに....」
キナールレインはクロガネの返答が気に入らないのか、眉を寄せ、頬を膨らませる。
「失礼ながら、マスターが言うその『可愛げ』とはなんですか」
クロガネは中央にある黒い半透明キーパッドを叩いていた手を休め、キナールレインの方に顔を向けた。
そして、やはりと言うべきか、彼の瞳は感情と言う物が抜け落ちたような濁ったような瞳をしていた。
「ううん、なんでもないよ」
「そうですか」
そう言うとクロガネは再びシステムの起動作業を再開する。
こんなやり取りはクロガネがこの超弩級戦艦《黒鋼》の全ての機能を起動するまで約六時間続いた。
そして、全ての機能を起動し終えたクロガネはキナールレインに出港する旨を伝える。
しかし、キナールレインの返答は「今は無理よ」と言うのだった。
その理由は外界の外洋に魔力溜まりの規模が小さい上に数が少ないとの事『らしい』。
この『らしい』と言うのはキナールレインの言葉であり、クロガネ本人が感じ取れているわけではないため、どうしても曖昧になってしまうのだ。
「そうですか」
そう言うと立ち姿勢から淵に足をぶら下げて座り出した。
半刻かそこらでキナールレインの「あっ」と言うと声が聞こえた。
「マスター、どうしましたか」
その声に反応したクロガネが彼女の方を向く。
「ついさっき条件に当てはまる場所があるんだけど....、今から行く?」
さっきまで惑星ヘイズルの洋上にある魔力溜まりを探ってたキナールレインが気軽に出港出来ることを伝える。
それに対してクロガネの反応は、簡単な了承と暖機運転が出来ている旨を表情筋が死滅した様な真顔で返答した。
「OK!OK!!なら開くよ!」
と笑顔で言いながら艦橋から離れ、黒鋼の艦首から約900m先まで浮遊し、水平線が見えない空間に腕を突き出し、
『カノ古ノ神ノ一柱───破壊ト創世ノキナールレインガ命ズル、異界ノ扉ヨ、イザ開ケ!!────『原祖ノ業・扉』ッ!!』」
そう唱えると、黒鋼の進行方向の空間が歪み、その異形の歪みは瞬く間に黒鋼が二隻分通れるくらいにまで肥大化した。
そして、その肥大化した穴の中は暗く、更に水も流れ込んできた。
「ふぅ、お仕事完了♪」
そう宣言するキナールレインは大して流れていない汗を大げさに拭う動作をする。
その時の顔は気持ち悪い笑みを浮かべてはいたがとても清々しかった、とでも言っておこう。
「自由魔素転換炉稼働率安定....魔力供給駆動式タービン駆動状況供給率問題なし....黒鋼離岸....次元に向かって微速前進....」
艦は停泊していた神界の港から離岸し、その巨体を少しずつ進ませ、次元の穴に入り、吸い込まれるように塞がれるのであった。
しばらく黒鋼のターン




