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とある街の居酒屋にて

作者: 永啓優

今日は少し会社を出るのが遅くなったので、最寄り駅の改札を出てすぐの所で食事のできる場所を探してみたところ、古びた暖簾が目に留まり居酒屋に入った。



暖簾をくぐり、引き戸を開けて店に入ると、店主だろうオヤジの「いらっしゃい」と威勢のいい声がかけられた。


「お一人さんですか、カウンターでおねがいしやっす」

店主の促すままにカウンターに座り、適当に注文を出し、ほどなくお通しとビールが目の前に並べられた。


一通り料理を平らげ、最後に残った酒をあおって帰ろうかというところで、店の奥のテレビでボクシングの試合の中継をやっているのが目に入った。

「ボクシングねぇ、殴り合いの何が楽しいんだか」


正直な感想をつい漏らしてしまったのを、店主が聞きつけて話しかけてきた。

「まぁ、お客さんぐらいの年代の方には流行らないんでしょうけどね、この試合はなかなか興味深いですよ」


「と、言うと?」

残った酒のつまみに、その『興味深い』ところを聞くのも面白かろうと、たずねてみた。


待ってました、というところだったのだろう、オヤジは試合の解説を嬉々とした様子で話し始めた。

「まず、この対戦はベテラン同士の因縁の試合でしてね・・・」


なんでも、一方はパワーファイターで、新人としてデビューするや瞬く間に全世界の試合で恐れられるほどの選手となったが、暴れん坊で素行が悪く、最近は白い目で見られることも多いそうだ。

もう一方は技巧派で知られて、一昔前にはアジアタイトルを奪い取り、世界タイトルに挑もうと言うところだったが、怪我であわや引退と言うところまで追い込まれたのち、そこから這い上がってきたのだという。


オヤジの「ああっ」、と言う声に再びテレビに目を向けると、試合展開は傍目にもわかるほどに動きを見せていた、崩れ落ちる技巧派、両手を挙げて勝ち誇るパワーファイターの姿が映される。


「おおっ・・・、これはどんな状況なの?」

聞いてみる。


「これがまた、たまらない展開でしてねぇ」

オヤジは渋い表情で話し始めた。


オヤジの説明によると、試合開始早々、技巧派はパワーファイターのジャブを2発貰いダウン、それでも立ち上がったのだと言う。

その後、技巧派の巧みな試合運びで状況は拮抗するも、パワーファイターも負けてはおらずさらに有効打を重ねられている、状況はパワーファイター優勢。


「そこにあの一撃ですわ」

足にきたのだろうか、技巧派がふらついたところに、パワーファイターの重い一撃がボディに直撃したそうだ。


テレビを見るとセコンドがタオルを手に、本当にまだ続けるのかと、技巧派選手に何度も何度も確認している。

その反対のコーナーでは、パワーファイターがふてぶてしく笑みさえ浮かべて余裕を見せているのが映された。


技巧派はふらふらになりながらも、立ち上がり試合続行の意思を見せている。

「このまま、試合終了かと思ったんですがねぇ」


「ああまでされちゃぁ、もう立ち上がらなくていいってファンがいるのも判るんですよ、でもここから立ち上がって逆転できるって、あいつはこれくらいじゃ挫けないって信じているんですよ、何せ技巧派なんて言われているけど、それを支えるタフさがあいつの本当の強さだから。」

オヤジはこう言って締めくくった。


試合の続きは気になるが、長居しても明日に差し障る。

「オヤジ、お勘定」


店を出て、家路に着いた。

明日、試合の結果は調べてみることにしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] このお店の主人は、素敵な方ですね。 怒らずに、ボクシングの良さを教えてあげるんですから。 きっと雰囲気のいいお店なんだなって読んでいて思いました。
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