最終章・冬の終わり
私が朝目が覚めると、外は一面雪で真っ白だった。そして、今日学校へ行ったら、明日から冬休みなのだ。
「ほら!空雅も伊吹も!遅れるよ?」
私は靴をはきながら、2人に言った。
「今行く!!」
空雅はそう言って走ってきた。
「あ〜待て!ちょっと待て!!」
伊吹は声だけ聞こえる。
「も〜・・・。遅刻しちゃうよ〜。」
そう。私たちは昨日から一緒に暮らすことになった。元々空雅は私の家の屋根で寝泊りしていたし、伊吹も家を借りることがなくていいと思ったからだ。
「伊吹〜、もう行くからな〜!!」
空雅はそう言って玄関を出た。
「待て待て〜〜〜!!」
伊吹は叫んでいる。
「いいの?」
私は空雅に尋ねた。
「いいんだよ!あいつこうしないと、こりないんだから!」
「そっか・・・。」
私は苦笑いした。
「あ!菜樹〜〜!!」
私は踏み切りを渡ったところで、向こうから来る菜樹に手を振った。
「楓〜〜!!」
「おはよ!!」
私は明るく言った。
「何?何だか元気じゃん!」
菜樹は私を見て、言った。
「まあね〜。」
私がそう言った、その時。
「待てって・・・言っただろーーーー!!!!」
伊吹が全力疾走で走って来た。
「ああ、伊吹・・・。」
私はサラッと言った。
「こらこらこら・・。せっかく人が一生懸命走って来たっていうのに・・サラッと流すな!!」
伊吹は怒鳴っているつもりなのだろうが、疲れているせいか、あまり迫力がない。
「やっと来たの?遅いぞ伊吹!」
空雅が挑発した。
「んぁ!?てめーがおいてったんじゃねーか!!」
「伊吹が遅いんだよ!」
「ちょっと待ってるぐらい、いいじゃねーか!!」
「うるさいなぁ・・。」
「心の狭い奴め!!」
2人のケンカはいつまでも続きそうだ。
「2人とも!!!!」
私は大声で怒鳴った。
「朝からケンカしないの!!」
「・・・は〜い。」
空雅が言った。
「お〜怖え〜・・。」
伊吹も言った。
「ったく、仲がいいのか悪いのか・・・。」
私はため息をついて言った。
「あははは・・。」
その隣で菜樹が笑っていた。
そして、学校に着いた。
「冬休みか〜。楽しみだなぁ〜〜。」
空雅は外の雪景色を見ながら、言った。
「だね〜〜。」
私もそんな空雅を見てニコニコして言った。
「ちゃんと、勉強もするんだぞ〜・・・。」
大貫先生が言った。
「わ、分かってますって!!///」
私は驚いて言った。
「(絶対分かってない・・・!!)」
先生と空雅は同時に思った。
終業式が終わり、学年で集会があった。そこで、空雅と伊吹が冬休みが終わったら転校していくと伝えられた。
しかし私には、本当は2人が空に帰って行くと分かっていた。
集会の後、
「なあ!聞いてねーよ!!」
隼が信じられないという顔をして言った。
「そうだよ!!何で言ってくれなかったの!?」
芽衣が大きな声で言った。
「水臭いぞ〜〜!!」
菜樹も言った。
「・・ごめん!急に決まったことだったから・・。」
空雅はそう言って何度も謝った。
「・・・じゃあ!冬休みの最後にみんなでお別れ会な!!」
隼は2人に言った。
「いいね!私賛成!!」
芽衣は飛び跳ねて言った。
「私もやりたいわ・・・。」
小春も言った。
「じゃあ、私の家でやろ?」
私は明るくみんなに言った。
その帰り、
「あ〜お別れ会って、何するんだろう・・?」
空雅がニコニコして言った。
「楽しみだな〜。」
伊吹もニコニコしている。
「怜侍も呼ぼう?」
私が提案した。
「いいね!そうしよう!!」
空雅はさらに喜んで言った。
「げっ!まじで・・!?」
伊吹は後ずさりして言った。
「いいじゃん!結構2人、仲良かったし〜。」
私が言った。
「いやいやいや!それは外見だけだって!絶対!!」
伊吹は首を振って言った。
「そうかなあ・・。」
空雅は首をかしげて言った。
「ま、いいじゃん!多い方が楽しいしさ!」
私がそう言って、丸く収まった。
それから冬休みに入り、私たちは一緒に出かけたり、年を越したりした。
冬休みが終わったら、2人は空に戻ってしまう。それは家族全員が分かっていた。しかし、誰1人として、それを話題に出す人はいなかった。
それから、冬休みもとうとう最後になってしまった。
「ちょっと、伊吹、邪魔邪魔!!」
母はそう言って、家の中を走り回っている。今日はお別れ会なので、家の人は朝からバタバタしているのだ。
「お別れ会ってこんなに忙しいものなの!?」
空雅は驚いているようだ。
「いや、家の母さんがバタバタしているだけだと思うぞ?」
父は落ち着いて言った。
そうこうしている内に、みんながやって来た。
「おじゃましまーす!!」
「はいはい〜。」
私はそう言って玄関まで走って行った。
「飲み物買ってきたよ!」
芽衣が買い物袋に入ったペットボトルを上に上げた。
「ありがとう!!」
「入っていい?」
隼が言った。
「いいよ?あれ・・?怜侍見なかった?」
「え!?怜侍も来るの?」
菜樹が驚いて言った。
「ってことは、見てないのかぁ・・。」
私はちょっと心配になったので、近くまで探しに出かけた。
「あ!」
私が見つけた時には、怜侍は私の手作り地図を持って、ずいぶん頭を悩ませているようだった。
「あ!良かった・・。もうたどり着けないかと思ったぞ・・。」
「ごめん、怜侍を悩ませているのは、その地図だよね・・?」
「まあな・・。」
怜侍は苦笑いをして答えた。
「やっぱり、私はこういうの苦手だから・・・。」
「そんな感じだな・・。」
「・・どういう意味よ///」
私が言った。
「ここにも雪が降るのだな・・。」
怜侍が辺りを見回しながら言った。
「うん。そうだよ?怜侍が住んでる所ほどは降らないけど・・。」
怜侍と私はそんなことを話ながら、家までたどり着いた。
「みんな〜!怜侍が来たよ〜!!」
「おお〜!!怜侍〜〜〜!!」
1番早く来たのは空雅だった。
「空雅、久しぶりだな!」
「うん!元気だった?」
空雅は本当に嬉しそうだ。
「もちろんだ。」
怜侍もニコニコしている。
「・・お前、ホントに来たのかよ〜。」
伊吹が後ろから言った。
「せっかく私が、遠い雪山からはるばるここまで来てやったというのに・・・。」
怜侍は眉毛の辺りをピクピクさせて言った。
「まあ、まあ・・・。」
私は2人をなだめて、リビングに連れて行った。
その後はみんなで母の手料理を食べたり、思い出話をしたりして楽しい時を過ごした。
「そういえば、2人はいつここを出るの?」
芽衣が尋ねた。空雅と伊吹はお互いに顔を見合わせ、
「明日にはもういないと思うよ?」
と空雅が言った。
「じゃあ、今日で本当に最後なんだな・・。」
隼が悲しそうに言った。
「バーカまた会えるに決まってんだろ!」
伊吹は隼の頭をコツッと叩いて言った。
こうして楽しい時間はあっという間に終わっていった。
「じゃあ。私たちそろそろ帰るわ。」
小春が言った。
「そうだな。もう遅いし・・。」
菜樹も言った。
「お前ら元気でいろよ!!」
隼が2人の肩をパンパン叩いて言った。
「転校しても頑張ってね!!」
芽衣が力を込めて言った。
「どんなことにも負けんなよ!」
菜樹が2人の胸に手を当てて言った。
「私、応援してるから・・・。」
小春が笑顔で言った。
「何かがあったら、私を呼ぶのだぞ!」
怜侍が強く言った。
「うん!」
「おう!」
空雅と伊吹は笑顔で返事をした。
みんなが帰った後、
「さあ!あとは家族水入らずで!!」
私が明るく言った。
「家族・・?」
伊吹が言った。
「うん!だってみんな家族でしょ?」
「ありがと・・・。」
空雅と伊吹が照れくさそうに言った。すると、空雅が何やらポケットをゴソゴソし始めた。
「どうしたの?」
琴音が不思議そうにポケットをのぞき込んだ。
「いや・・・。最初に楓に会った時にさ、これ落としてったんだよ。」
空雅は犬のぬいぐるみを取り出した。
「何それ・・・?」
そう言いながら、琴音は首をかしげた。
「うわ!何だよそれ〜。どう見ても、犬じゃねえし。それに、ボロボロだし・・・。」
と、伊吹は笑いながら言った。
「ごめん・・。ボロボロなのは、僕の管理が悪かった・・。」
空雅は下を向いて言った。
「・・・・・・。」
私は考えながら、ぬいぐるみを見ている。
「・・そっか。私、琴音にあげようと思って作ったんだ。」
「そうなの!?楓!」
琴音はぬいぐるみを眺めながら驚いたように言った。
「まあ、自信作ではないけどね・・。」
私は小さな声でぼそっと言った。始めの頃は自信作のつもりだったが、改めて見るとそこまで言えるようなものじゃないと気づいた。
「だよな〜。だって、糸がいろんな所から出てるし。お前、不器用だな〜。」
伊吹は大笑いで言った。
「もお!そこまで言わなくてもいいじゃん!!///」
私はムキになって言った。
「不器用!不器用!!」
伊吹はそう言って、私の髪をクシャクシャした。
「ちょっと〜・・・。」
私は困って、空雅の所へ行こうとすると
「そういえば、何でずっと持ってたんだよ。こんなボロボロなやつ。」
伊吹は笑いを辞めて、空雅に尋ねた。
「ん〜・・。なんとなくだよ・・・///」
「なんとなくで持ってるか?普通〜。」
「だ、だから・・・。ポケットに入ってること、忘れてたんだよ・・///」
空雅は困っているようだ。
「ふ〜ん・・・・。」
伊吹はニヤニヤしている。
「な、何だよ!その顔!!///」
空雅が大声になって言った。
「お〜。空雅がムキになった〜・・・。」
伊吹は遊んでいるようだ。
「知ってたか?お前、嘘ついてるときなあ。目が泳ぐんだぜ?」
「なんで、そんな話になるんだよ!!///」
「さっき泳いでたぞ〜。」
楽しそうな家の中。私と琴音は静かな庭まで来ていた。
「ありがとう・・。」
「え?」
私は、初めて聞いた琴音のありがとうに驚いた。
「今まで、ごめんね。辛い思いさせて・・。」
「なんだ〜。いいって!そんなこと。私、気にしてないし。」
私は明るく笑った。琴音は泣いているのに、何だか笑顔だった。
「どこに行っても、私のお姉ちゃんは楓だけだからね。」
「うん。」
私は初めて、妹がいて良かったと思った。
「私、ホントの妹じゃなかったのに。楓は優しくしてくれて、嬉しかったよ。」
「神様は何してるのかは分からないけどさ・・。私の記憶の中には、琴音との思い出で一杯なんだよ?だから、琴音は私のホントの妹だよ!」
私が笑顔で言うと、
「楓らしいな・・。」
と、後ろから声がした。
「え!?」
そのとき、強い風が吹いた。
ビオオオオオオオオオ______________
私は思わず目をつむってしまった。
風がおさまり、目を開けると______。
目の前には、ロキとオリオンが立っていた。
「あ〜。もう10時か・・。」
オリオンが言った。
「そうだね・・。」
私が言った。そして、
「シリウスは?おいてきたの?」
と、尋ねた。
「だって、アイツ目が泳いで・・。」
「・・・?」
私はオリオンが何を言っているのか分からなかった。
「おい!」
「あ!シリウス!」
シリウスはオリオンの足に自分のしっぽをペシッと叩き付けた。
「おいてくなよ!」
「知らねーよ!そんなこと!」
今度はオリオンがシリウスの頭をピンッと弾いた。
「いって!」
「・・・・あははは。」
私は2人のケンカを見ていて、つい笑ってしまった。
「・・?どうした?」
「何?楓?」
「ごめんね・・。でも、もう見れないんだね。2人のケンカも・・。」
「・・・楓、あのさ・・。」
「うわああああああああ!!」
「・・・!?」
オリオンがいきなり叫んだ。
「お、お前・・。シリウス!言えてんじゃん!!」
「へ!?」
シリウスは何のことだか分かっていない。
「何のこと?」
私は興奮しているオリオンに尋ねた。
「お前、気づかないのか?こいつ、“楓”ってちゃんと言えてるぞ!」
オリオンは少し嬉しそうに言った。
「あ!言えてた!!」
シリウスは自分で驚いていた。
「今気づいたのかよ・・・。」
「良かったね!シリウス!!」
ロキも言った。そして、
「昔から、全然直らなかったのにね!」
とも言った。
「昔から・・・?」
私は不思議に思って尋ねた。
「うん!年下の私には言えるけど、シリウスが同い年の女の子を呼び捨てで呼ぶなんて、初めてだよ?」
「そうなんだぁ〜。」
「あと・・・。」
ロキはニコニコしている。
「あと、何?」
私は気になって尋ねた。
「オリオンがこんなに女の子と仲良くしてるなんて初めてなんだよ〜。」
ロキはニヤニヤして言った。
「お、おい!余計なこと言うな!!///」
オリオンはロキの頭を押さえて言った。
「へえ〜〜・・。」
私はキョトンとして言った。
「・・だから、楓はすごいんだよ?私たち、楓のおかげで変われたんだ!」
ロキはそう言うと、
「ありがとね!楓!!」
と、最後に言った。
「ホントにありがと!」
シリウスも言った。
「・・・まあ、感謝してるよ・・。」
オリオンも言った。
だんだん風が吹いて来た。
「もうそろそろ、行かなくちゃ!」
シリウスが空を見上げて言った。
「そーだな!」
オリオンが言った。
「3人とも、もうケンカしないでよ〜?」
私は3人に言った。
「分かったよ!しない!!」
オリオンが言った。
「・・僕たちは“冬の大三角”。いつでも一緒にいるよ。」
シリウスは笑顔で言った。
「知ってた?楓。」
ロキが突然ニコニコして言った。
「え?何が・・?」
私は何のことだか全く分からなかった。
「私たち、みんな楓を選んでたんだよ?」
ロキはシリウスとオリオンの腕につかまって言った。
「どういうこと・・・?」
「だから、僕は最初に楓を探してて。隣の席にまでなった。」
シリウスがニッコリして言った。
「で、俺もお前に秘密を全部話した。」
オリオンも照れくさそうに言った。
「そして、私は楓の家に来た!」
ロキは私の腕も一緒につかんだ。
「みんな楓を選んだんだ。」
3人は一緒になって言った。
「・・・ありがとう。」
私はすごくすごく嬉しくなった。
「だから、これからもずっと・・・ね!」
シリウスが私の手をとった。
「じゃあ私、毎晩“冬の大三角”探す!!」
私は力を込めて言った。
「お前に探せるのかあ〜?」
オリオンはケラケラ笑いながら言った。
「探せるもん!」
私はそう言って少し笑った。
「頑張れ、楓!!」
ロキが言った。
「うん!!」
私は元気に返事をした。
そして、最後は笑顔で、
「楓!元気でね!!」
「じゃあな!楓!!」
「またね!楓!!」
「みんな、ありがと!!」
4人は決して“さよなら”とは言わなかった。
それは、いつもどこかで見てくれていると信じているから。
また笑顔で会えると信じているから_____。
雪が解け始めている。
3人が立っていたところからは、小さな小さな芽が出ていた。
もうすぐ春が訪れる______。
気持ちいい風が、窓から入り込んでいる。その風で、私は自分から目を覚ました。
「よし!!」
今日から、高校生になるのだ。私は新しい制服を着ると、鏡の前に立った。
「天川楓!今日から高校生です!!」
そんな独り言を言いながら。
「お!制服似合ってんじゃないか〜。」
私がリビングに入ると、父がこちらを向いて言った。
「へへ〜///」
私は少し照れくさくて、頭をかいた。
「楓、早くしないと遅れちゃうわよ!」
母は明るくそう言って、私にパンを差し出した。
「あ!やばい、やばい・・。」
私はパンを受け取って、椅子に座った。
持ち物OK、かばんも持った・・。心の準備もできている。
「楓、友達作るのよ!!」
玄関まで来た私に母が笑顔で言った。
「最初っからドジるなよ!楓〜!!」
父も笑顔で言った。
「うん!」
私も笑顔で言った。
「いってらっしゃい!!」
母と父が、私の背中を手で軽く押した。私はすぐに後ろを振り返った。
「いってきます!!」
外は天気が良くて、少し桜が舞っている。私は本当に、高校でうまくやっていけるのだろうか?
いや、心配することはない____。
私は空を見上げた。
_____いってきます。
きれいな青空の中で、星が小さく光った気がした_____。
END
ここまで読んでくださって、ホントにホントにありがとうございました!
私も楽しくできましたw
また、違う作品も書いていきたいと思います。