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第6章・大事件


みんなは目が点になっている。



「・・・犬?」


菜樹がしゃがみ込んで言った。


「どうしてこんなところに・・・?」


小春も首をかしげている。


「・・あ。・・ああ・・・・。」


伊吹と私はワナワナしていた。


「どうするの・・・?」


私は伊吹を人気のないところへ連れて行った。


「どうするって・・・。ごまかすしかないだろ。」


伊吹はみんながいるところをチラチラ見ながら、小声で言った。


「ごまかすって・・。そんな事できるの?」


「分かんねえけど、でも・・やるしかないだろ。」


「やるって・・・。」


私がそう言うと、伊吹は耳元で


「いいか、――――――――――。」


「・・え!?」


「じゃあ、行くぞ!」


伊吹はそれだけ言って、みんなのところに戻って行った。








「あ!伊吹!!何してたんだよ〜。」


隼がほっぺを膨らまして言った。


「キモイって・・・。」


菜樹がぼそっとつぶやいた。


「ちょっとナミちゃん、聞こえてるんですけど〜・・。」


「な、ナミちゃん!?てめー何勝手に!///」


菜樹が隼の胸ぐらをつかんで怒鳴った。


「いいじゃん!可愛いし〜。ねえ、ナミちゃん!」


隼はケラケラ笑って、楽しんでいるようだった。


「・・・。」


伊吹が私に手招きをしている。私はこく、とうなずいた。いくか・・・。


「みんな〜!空雅が見つかったって!!」


私は大きな明るい声でそう言いながら、走って行った。


「まじで!?どこ?どこにいたの?」


芽衣が私のところまでかけ寄って来た。


「さっきね、向こうの人が見つかったって!!あそこまで流されてたみたい!!」


私はニコニコっとして言った。


「良かったじゃん!じゃあ、帰ろうよ。」


隼がスキー板を持って言った。


「・・この犬はどうするのだ?」


怜侍がシリウスを指差して、尋ねた。


「もちろん、連れて行くさ!」


伊吹は悩まず答えた。


隼と伊吹と怜侍でシリウスを、菜樹と小春と芽衣と私でみんなのスキー板などを持って、元の場所を目指して歩いていた。


「なぁ、たしかここまできたら見えたよな?リフト乗り場・・。」


菜樹が辺りを見回して言った。


「そうね・・。おかしいわ・・。」


小春も一緒に見回して言った。


「・・・む。」


「どうしたの?」


怜侍の声に、芽衣が不思議そうに尋ねた。


「・・おそらく、さっきの雪崩で道がふさがったのだろう。」


怜侍は難しそうな顔をして言った。


「たしかに、周りの木も倒れてグチャグチャだ・・。」


伊吹が木を見て言った。


「道が変わっちゃったんだね・・。」


芽衣がガッカリして言った。


「どうやって戻るの・・?」


小春が上を向いて、みんなに尋ねた。


「高いところまで言ったら、下の方も見えるんじゃないか?」


隼が言った。


「リフトが見つかれば、それに沿って行けるのだが・・・。」


怜侍が言った。


「じゃあ、もう少し上まで行って、リフト探そ!!」


私は仕切って、前に進んだ。








 雪の中をひたすら進んだ。しかし、リフトが見つかるどころかだんだん自分たちがどこにいるのかも分からなくなって行った。


「・・だんだん風が強くなってきたな。」


怜侍が前髪を押さえて言った。


「う〜。雪も混ざってるみたい・・。」


私も寒そうに言った。


「なぁ、ここどこなんだ?」


伊吹が辺りを見回して尋ねた。


「結構高い所から雪崩れ落ちたみたいだね・・。」


芽衣は山の上の方を見上げて言った。


「全然道が分かんねーや。」


菜樹が困ったように言った。


「今、何時なのかしら。だんだん薄暗くなってきてるわ・・。」


小春はかばんから、時計を出した。


「・・・6時20分。」


小春は自分でも驚いて言った。


「んぁ!?な、な・・何―――――――――!?」


伊吹がワナワナしている。


「集合時間、とっくに過ぎてんな・・・。5時半だろ?」


菜樹が伊吹のところまで来て言った。


「あ〜あ・・。くそ、大貫に言われたんだよ。“絶対班の奴ら全員、時間までに連れて来るんだぞ”って・・。“2つも先輩なんだから、それくらいできるだろ?”って!」


伊吹は悔しそうに、言った。


「仕方がないではないか・・。私たちは“遭難”したのだから。」


怜侍がため息をついて言った。


「私たち遭難したのね・・。」


小春もため息をついて言った。


「・・・そっか、俺ら遭難したのか!」


隼も手をポンと叩いて言った。


「ずいぶん平気そうだね。隼は・・。」


私は苦笑いで言った。


「だって、開き直るしかないだろ?」


隼はヘラヘラ笑って言った。私たちが初めて自分たちが遭難したと自覚した瞬間だ。


「もう、今日は無理だろう・・。」


怜侍が言った。暗闇の中、ここを歩こうなんて思う人はいない。


「今日は寝られるところ、探そうか。」


私も続いて言った。

この頃には、シリウスも目を覚ましていた。



「良かった。こいつ重かったもんな。」


伊吹が嬉しそうに言った。


「大丈夫?足・・。」


私はシリウスの後ろ足をさすって言った。


「うん・・。」


シリウスは優しく笑ってうなずいた。


「おい・・。お前ここではあんまりしゃべんなよ?俺たちだけの時はいいけどよ。」


伊吹は辺りを見回して静かに言った。


「ここでは、シリウスはただの犬になってるからね!」


私は苦笑いで言った。


「・・・・。」


シリウスはこくん、と深くうなずいた。


「おーい!2人とも、早くしろよ〜。」


隼の声が聞こえてきた。


「おう!今行く!!」


伊吹はそう言って、シリウスを連れて行った。


「目、覚ましたんだね!ワンちゃん。」


芽衣はシリウスの頭をなでながら言った。


「でかい犬だよな〜。」


隼はニコニコしながら言った。


「こいつの目も覚めたことだし、探すか?寝るとこ。」


伊吹もシリウスをなでて言った。




ワオーーーン




「・・・!?」


「今、何か聞こえたね。」


私は耳を澄まして言った。


「犬の声だよな。」


隼も言った。


「あ!シリウス!?」


伊吹が大声で言った。シリウスは声のする方に向かって、走って行った。


「足はっや〜。」


菜樹がシリウスは向かった方を見て言った。


「ねえ、“シリウス”って何?あの犬の名前?」


芽衣が不思議そうに、伊吹に尋ねた。


「んぁ!?・・・・あ〜。」


伊吹は言い訳を考えている。


「(バカ〜・・・・///)」


私は顔に手を当てて思った。


「・・・お、俺がさっきつけたんだ〜。カッコイイだろ〜?」


伊吹はケラケラ笑って答えた。


「そうなの?かっこいい名前〜。」


芽衣は納得したらしい。伊吹と私は目を合わせて、ホッとした。


「何をしにいったのだろう・・?」


怜侍はシリウスが向かった方を見た。


「仲間が見つかったのかなー?」


芽衣はニコニコして言った。


「あ!戻ってきたよ!」


私が大声を出した。シリウスは私たちが見えるところまで来ると、小走りになった。


「何しにいったのさ〜。」


隼はシリウスの前でしゃがんで言った。



グッ




「え!?お、おい!」


いきなりシリウスは、隼のウエアーを引っ張った。


「どうしたの?シリウス!!」


私も驚いて、言った。しかし、シリウスはお構いなくグイグイ引っ張っている。


「シリウス・・・?」


今、シリウスが目で“ついて来て”と言っているような気がした。


「みんな!シリウスについて行こう?」


私はみんなに提案した。


「はぁ!?何でだよ?」


隼が引っ張っていたシリウスを振り払って言った。


「どこかに連れて行ってくれるかもしれないし。」


私はシリウスを見ながら言った。


「そんなの分かんねーだろ?」


菜樹が言った。


「でも、動いてみないと分からないじゃん!」


私はさっきよりも大きな声で言った。


「・・・むぅ・・。」


「・・?」


怜侍がうなった。みんなは怜侍に視線がいった。


「・・・まあ、ここでじっとしているよりはいいのではないか?」


怜侍は私の隣まで歩きながら言った。


「私も行くよ?」


芽衣が言った。


「私も、ここにいるよりは・・・。」


小春も言った。


「俺はシリウスを信じるからな〜。」


伊吹は当たり前とでも言うように言った。


「行きますかぁ〜。」


菜樹も苦笑いで言った。


「待って、待って!俺も行くから!!」


隼も必死になって言った。


「じゃあ、行こう!」


私は笑顔でみんなに声をかけた。




シリウスは時々私たちの方を振り返りながら、先を歩いていた。


「菜樹?」


芽衣の声がした。


「ん?」


私も菜樹を見た。


「・・んぁ〜?」


菜樹は一応返事をした。


「歩きながら寝るんじゃねーぞー?」


伊吹が前を向いたまま言った。


「・・・分かってるよ〜。」


菜樹はぶっきらぼうに言った。しかし、菜樹はコクコクしている感じだ。


「ここで寝たら死ぬぞ〜。」


伊吹が冗談で言った。


「まじかい・・。」


菜樹はうつむいたまま言った。


「冗談だって!!」


伊吹がケラケラして言った。


「いや・・・・。」


怜侍の声が聞こえる。伊吹はキョトンとして言った。


「・・・へ?」


「冗談ではないかもしれないな・・・。」


怜侍はまじめな顔で言った。


「・・・・。」


菜樹と伊吹は顔を見合わせている。


「は、早く行こーぜ・・!!」


菜樹はすたすたと前の方まで歩いていった。


「・・ホント?怜侍。」


私は少し怖くなって怜侍に尋ねた。


「・・・・・少しは、いい眠気覚ましになっただろう?」


怜侍はニヤリとそう答えた。






 ずいぶん歩いた気がする。もう日が沈んでどれくらい経っただろう。シリウスがピタッと止まった。


「・・・?」


私たちはシリウスの視線の先をよく見た。


「・・・あ!どうくつだ!どうくつがあんぞ〜!」


隼がピョンピョン跳ねながら叫んだ。


「シリウスー!お手柄じゃん!!」


芽衣もシリウスの頭をクシャクシャして、喜んでいる。


「じゃあ、今日はあそこで休みますか!」


隼がテンション高々に言った。みんなは笑顔でうなずいた。




どうくつの中はあまり奥まで続いていなくて、すぐ行き止まりだったが、私たちはそれで良かったと思った。


「奥まで続いてたら、お前、怖くて泣き出すだろ?」


伊吹がホッとしている私に言った。


「私はそんな事で泣きませんー!!」


「どーだか・・。」


伊吹と私がにらみ合っていると、


「仲がいいのだな・・・。」


怜侍がニコニコして言った。悪気はないようだ。


「はあああ!?」


2人そろって言った。


「お前、本気で言ってんのか?」


伊吹が怜侍の前まで来て怒鳴った。


「そうではないのか・・?」


「なわけねーだろ!!///」


「“ケンカするほど仲がいい”というのはお世辞だったのだろうか・・・。」


怜侍は真剣に悩んでいる。


「なあ、こいつ天然なのか?」


伊吹は私のところまで戻って来て言った。


「かもしれないね〜。」


私はクスクス笑って答えた。


「む・・・・。」


「こ、今度は何だ!?」


伊吹は驚いて言った。


「つまり、この2人は仲が悪いというわけなのだな・・?」


怜侍がスッキリした顔で言った。


「いや!そーいう事じゃねえ!!」


「じゃあ、どういう事なのだ?」


「・・・俺たちは、ただ仲が良くないだけだ!///」


“同じことだろ!”とここにいる全員がつっこみたくなったが、何とかこらえた。


「伊吹も怜侍に負けてないよ〜。」


私はニッコリしてつぶやいた。


「もう、俺寝るかんな〜。」


菜樹がみんなに言った。


「そうするか〜。」


伊吹もあくびをしながら言った。







外もどうくつ内も寒いけれど、私たちの心の中はいつまでも温かかった。




















 朝の冷たい風で目が覚めた気がした・・。


___か、楓?おーい!


   あ、空雅の声がする。まだ夢の中だ・・・。


___おい!起きろー!!


   ん?伊吹の声もするぞ?




「こら!起きんかい!!」


「うわ!?」


私は目の前にある、伊吹の顔に驚いた。


「ちょ、ちょっと・・・顔近・・・・っ!?///」


まてよ?伊吹の隣でニコニコしているのは・・・誰?


「おい、伊吹。調子乗りすぎだよ・・。」


・・・ニコニコしているのは?・・・・誰?


「いーじゃん、空雅〜!」


「・・空雅!?」


いきなり叫んだ私に、2人だけではなくここにいる全員が驚いた。


「・・何?」


「な、何でいるの?だって、シリウ・・ス・・・。」


と、言いかけた私の口を、空雅と伊吹が一緒にふさいだ。


「ん〜ん〜〜!!(何でよ〜!)」


「バカ・・せっかくごまかしたのに・・・・。」


伊吹が私の耳元でつぶやいた。


「シリウス?シリウスって、いなくなっちゃったんじゃないの?」


芽衣がキョトンとして言った。


「それにしても、空雅はすごいよな〜。1人でここまで探しに来れるなんて・・。」


菜樹はニコニコして言った。


「へ、へへへ・・。」


空雅は苦笑いをしている。


「って事だから!」


伊吹はそう言って、私の口をふさいでいる手を離した。


「そ、そうなんだ・・・。」


私も一緒に苦笑いして笑った。




さて帰ろうという時に、


「えーー!?探しに来たのに来た道を覚えてないって〜!?」


隼が叫んだ。


「探すので必死だった・・・・。」


空雅は申し訳なさそうにうつむいて言った。


「知らないで、当たり前なのにな・・・。」


伊吹が私にだけ聞こえる声で、つぶやいた。








どうくつの外に出ると、まだ風が吹いていた。


「“う〜ん、気持ちいい!!”ってわけにはいかないな〜。」


菜樹は少しガッカリして言った。


「何だか痛いわ・・・。」


小春は突っ立ったまま言った。風の中には細かい雪が混ざっている。それが顔に当たるのだ。


「雪なんて初めてだなぁ・・。」


空雅がぼそっとつぶやいた。


「え?初めてなの!?」


芽衣は驚いて大声で言った。


「え?あ!?えーっと、僕は雪がふらない南国に住んでたの。」


空雅が笑いながら言った。


「(ウソつき〜〜。)」


私はそんな目で空雅を見た。


「(しょうがないだろ〜〜。)」


空雅はそんな目で私を見た。


「じゃあ〜?雪初めての空雅君は、楽しんでいってくださ〜い!」


伊吹はニヤニヤして言った。


「では、そろそろ行こうか・・・。」


怜侍がみんなに声をかけた。


「行こ行こ!」


私は明るく言った。


雪崩のせいで道は変わっているので、昨日に引き続きリフトを探すことになった。みんなはほとんど何も食べていないので(隼が違反で持ってきたお菓子だけ)お腹はかなり減っているはずだ。それでも、全員が明るく振舞って紛らわしているようだった。


「あれ、リフトじゃない?」


芽衣が上を見上げて大声を出した。


「お!人が乗ってるぞ!!」


菜樹も見上げて行った。


「じゃあ、これに沿って下ろう!」


空雅は明るく言った。

私たちは今どれくらいの高さのところにいるのかが分からないので、これからどれだけ歩けばいいのかも分からなかった。


「あ〜。行き止まりだ!」


隼が残念そうに言った。雪崩でここまで来た雪の塊で、ここから先の道はふさがれているのだ。


「仕方がない、違う道で行くとしよう・・。」


怜侍がため息をついて言った。


「だーー!何だよ〜・・。」


伊吹がいきなり座り込んだ。


「ちょっと、行くよ〜?」


私は伊吹の腕を引っ張りながら言った。


「くそ〜・・腹減ったあああ!!!」




ドカッ




伊吹はそう叫んで、雪の壁を蹴飛ばした。





バラバラバラバラ_____





「・・へ?」


伊吹はポカンとしている。


「・・・・。」


私は伊吹の手をつかんだまま、動けなくなった。伊吹が蹴飛ばしたところにひびが入り、そこからバラバラと崩れていったからだ。



「あーーーーーーーー!!!」


隼が驚いて叫んだ。


「・・・・・・。」


怜侍はプルプル震えている。


「うそ!?」


芽衣は口に手を当てて言った。


「まじかい・・・。」


菜樹はボーっとしている。


「は、はははは・・・・。」


空雅は苦笑いをしている。


「あら・・・。」


小春も驚いて言った。






 崩れた雪の壁の向こうには、私たちの滑っていたスキー場が見えていた______。

















 向こうから大貫先生が走ってくる。


「おーーーい!!お前らあああ!!」


何だか少し涙声だ。


「せんせーーい!!!」


「お前たち〜〜〜。」


全員の目がウルッときていた。しかし、




「どこ行っどったんじゃーーーー!!」


先生はそう怒鳴ると、私たち全員の頭を殴った。




バコッバコッボコッ




「(鬼・・・!!)」


全員がそう思った。


「俺たちがどれだけ心配したと思ってるんだ!!」


「・・・ごめんなさい。」


「・・まぁ、お前たちも疲れただろ?今日はゆっくりしてりゃいいさ。」


先生はすぐに笑顔になって言った。


「(珍しく優しいな・・・。)」


全員がそう思った。

私たちは、とりあえず食堂に来た。


「もお・・!心配したんだから!!」


「どこ行ってたんだよ〜!」


「大丈夫?ケガとかしてない?」


みんなが声をかけてくれる。こんなに心配してくれてたなんて・・。


「はぁ〜!やーっと飯にありつける・・・。」


伊吹がガッツポーズをして言った。


「よくがまんしたね〜。」


私は伊吹の肩をポンポンして言った。


「・・・・あれ?」


芽衣がかばんをゴソゴソしていた。


「どうしたの?」


空雅が尋ねた。


「・・ない・・・・。」


「何が・・・?」


「ないの・・手袋が・・・。」


芽衣はかばんの中身をすべて出した。


「ポケットは?」


空雅が言ったので、芽衣はポケットを裏返した。


「どうしよう・・・。どこかに落としちゃった・・・!!」


芽衣は深刻な顔で言った。


「な〜に泣きそうな面してんだよ!たかが手袋の1つや2つ・・・。」


伊吹が椅子に座りながら言った。



ボカッ



「・・・ってーなあー!!」


菜樹が伊吹の頭を思いっきり殴った。


「何なんだよ・・。」


「お前、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあんだろ!!」


菜樹も怒っているようだ。


「どうしよう・・お兄ちゃんからもらった、大切な手袋なのに・・。」


芽衣はパニックになっている。




___“その日はな、芽衣の誕生日で・・・兄貴は芽衣の誕生日プレゼントを買いに行ってい

   たらしい。手には、ピンクの手袋を握りしめて・・・・。”



「・・・・あ。」


私は思い出した。そして、


「芽衣!それって、昨日はあったんだよね?」


「うん・・。あった・・。」


「じゃあ、あのどうくつからここまでの間で落としたかもしれない。」


「おい!どこ行くんだ!」


伊吹が、走り出した私を引き止めた。


「何言ってんの!?探しに行くのよ!!」


そう言って、私はそのまま走り去って行った。


「くそぉ・・。俺の昼飯・・・・。」


伊吹がそう言いながら、私の後に続いた。怜侍も続く。


「もうひと頑張りだぞ・・。」


そして、伊吹の肩をポンポン叩いた。


「い、嫌・・。お兄ちゃん・・。ど、どうしよ・・・。」


「おい!芽衣!?」


菜樹が芽衣の肩を揺らした。


「嫌・・。嫌ああああああああ・・・。」


「芽衣!芽衣―!!」




バタッ




「芽衣――――――――――――!!!!」


 私は元来た道に戻ることにした。


「大丈夫、1回歩いた道だもん・・。」


待っててね、芽衣・・。


「おーーーい!!」


「・・ん?」


その声は、あっという間に近づき、




ポカッ




「いったあ〜!」


「てめー、何勝手に1人で動いてんだよ!!」


伊吹が怒鳴った。


「だって・・・。」


「・・1人では大変であろう・・・。」


怜侍も耳元でささやいた。


「ありがとう。2人とも・・・。」


私は嬉しくなって言った。





「楓―――――!!」


菜樹の声だ。空雅もいる。


「菜樹!?どうしたの?」


「芽衣が倒れた・・・。」


菜樹は深刻な顔で言った。


「え!?」


「かなりショックだったらしい。多分また兄貴のことを思い出したんだろうぜ・・・。」


「私、ちょっと見てくる!」


と、私が引き返そうとした。その時、


「行くな!!」


菜樹にグイッと引き戻された。


「大丈夫。芽衣には小春もついてる。」


菜樹は建物の方を見たまま言った。


「それに、今はその大事な手袋を探す方が先だと思うけど?」


空雅が優しく言った。


「そうだね、ごめん。」


私がそう言うと、菜樹もホッとしたように手を離した。








私は伊吹が壊した雪の壁を抜け、どうくつの辺りまでやって来た。


「ん〜。ないなぁ・・・。」


私は雪を退かしながら、ぼそっとつぶやいた。


「赤いから、目立つはずなのにね・・・。」


空雅も横で言った。


「あったか?」


伊吹もこちらにやって来た。


「ううん。どこにもないの・・。この辺にあると思ったのになぁ。」


私は首をかしげて言った。


「なあ、空雅。オオカミとかが持ってたりしないのか?」


伊吹は一緒に悩んでいる空雅に尋ねた。


「あ〜。聞いてみないと分かんないけど・・・。」


と、言うと辺りを見回した。


「・・聞いてみる?」


ニヤリとそう言うと、急に強い風が吹いた。




ビオオオオオオオ_______




私は帽子を押さえて言った。


「ねえ、この風って、2人が変身する時に必ず吹くよね・・?」


「そうなんだよなあ・・。俺も最近気づいた。」


伊吹も髪を押さえながら言った。


「あ、シリウス。」


そんな事を言っている内に空雅はシリウスになっていた。


「じゃあ、ちょっとオオカミを探してくる。」


シリウスは言った。


「ここで呼びゃあいいじゃん。」


伊吹はキョトンとしている。


「2人が危ないって・・・。」


シリウスはそう言って、あっという間に走り去ってしまった。


「確かにな〜・・・。」


伊吹はシリウスは走って行った方を見たまま、苦笑いで言った。

伊吹と私はまた、手を動かし始めた。


「なぁ、芽衣の手袋ってそんなに大事なのか?」


伊吹が手を動かしたまま、私に尋ねた。


「・・うん。お兄ちゃんの形見なんだって。芽衣の誕生日に買ってくれたみたいだけど、その帰りに交通事故で・・・。」


私は手を止めて言った。


「・・あーーー!!!手え止めんな!!動かせ、動かせ!!」


「あ、ごめん・・。」


伊吹はそれ以上のことは聞かなかった。


「・・・伊吹って結構優しいよね。」


「んぁ!?」


私の急な発言で、伊吹は戸惑っているようだ。


「な、何言って・・・///」


「(照れてるし・・。)」


私はクスクス笑った。


「何笑ってるんだよーー!!///」


伊吹は顔を真っ赤にして言った。


「だってさあ〜。」



ザザッ




「こら。」



「うわああ!?」


「だああ!?」


シリウスの突然の声に、伊吹と私は一緒に驚いた。


「いきなり現れんな!足速すぎなんだよ!」


伊吹は少し怒って言った。


「何してるんですか〜?お2人さん!!」


シリウスは少し膨れて言った。


「べ、別に〜?何もしてねえし・・///」


「そお?とっても仲がよろしいんですね〜。」


「(仲いいなあ〜。)」


私は1人でそんな事を考えて、ニコニコしていた。


「こら、笑うな!!///」


2人は同時に言った。





そんな話がしばらく続いた後、


「ってか、お前何か手がかり見つけたんだろ?」


伊吹が思い出したように言った。


「あ、そうだった・・。」


空雅はスッカリ忘れていたようだ。


「ねえ。何、何?」


私はワクワクして尋ねた。


「・・・多分、鳥が持ってっちゃったみたいだよ?」


シリウスはサラッと答えた。


「そっかぁ〜。って!鳥!?」


私は身を乗り出して言った。


「鳥・・・。」


シリウスは考えている。


「どうすんだよ!どうやって探すつもりだこらぁ!!」


伊吹は少し怒鳴ったように言った。


「・・・ああ!!どうしよう!」


シリウスもやっと事の重大さに気づいたらしい。


「どうする?鳥だよ?シリウス、何か他に手がかり聞いてないの?」


「え?他って・・?」


「ほら、その鳥の特徴とか!」


「・・・・・あ、真っ黒だって!」


シリウスは思い出して言った。


「・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・。」


「え!?何々?」


シリウスは黙り込んだ伊吹と私を順番に見て言った。


「それって・・。カラスじゃん!!」


私が大声で言った。


「だよなぁ、俺もそう思った。」


伊吹も苦笑いで言った。


「あ〜でも、ここにはそんなにカラスはいないと思うから、結構絞れたね!」


私は明るく言った。


「でもさぁ・・。そのカラスを見つけないと意味ないよね〜。」


シリウスが言った。


「そうそう。カラスが手袋付けてるわけじゃあるまいし・・・・。」


伊吹はそう言うと、雪の上で大の字に倒れこんだ。


「そうそう・・。」


私もそう言って、伊吹の横に倒れこんだ。


「・・・あああああああああ!!!」


「うわ!!」


「え!?」


伊吹の叫び声にシリウスと私は飛び上がった。


「何よ〜、いきなり・・。」


「い、いるぞ・・?カラス、手袋付けて・・・・。」


伊吹は上を指差しながら言った。


「何言って・・。そんなのいるわけないじゃん・・・・。」


私はそう言って、上を見上げた。


「・・・あああああああああ!!!」


「・・?」


シリウスはキョトンとしている。


「シリウス、見て・・・。」


「上に・・?」


「・・・・あああああああああ!!!」


シリウスも目を大きくして驚いた。本当にいたのだ。手袋を付けているカラスが・・。


「まあ、正確には持っているようだが・・・。」


「うわああああああああああ!!!」


3人は一緒に声を上げた。後ろから聞こえた声は、怜侍だった。


「おや?空雅は・・・?」


怜侍は辺りを見回して言った。




ビオオオオオオオオ______




また強い風が吹いたかと思うと、少し離れたところから空雅が走ってきた。


「あははは。風でさ、帽子が飛んでっちゃった・・///」


空雅は苦笑いをして言った。


「(危な〜・・・。)」


空雅は内心そう思った。


「で、あの鳥はどうするつもりだ?このまま飛ばせておくのはどうかと思うが・・。」


怜侍はだんだん小さくなっている鳥を見て言った。


「やっべ!忘れてた!!」


伊吹がそう言うと、私たちは鳥の近くまで走って行った。


「どうやって落とす・・・?」


私はあとの3人に尋ねた。


「ふっふっふ・・・。ここは、この伊吹様に任せなさい!」


伊吹はニヤリと言うと、雪で石ころのような玉を作った。


「当てるの?あんなに上の方にいるのに・・。」


「大丈夫、俺は狩りできたえてるから〜。」


伊吹は自慢げに言った。


「狩り・・?」


怜侍が首をかしげている。


「あああ!!いや、俺さ。野球やってたから、こんなのチョロイチョロイ!」


ギリギリでごまかせて、伊吹と空雅と私はホッとした。


 伊吹はさっき作った雪球を手に持つと、鳥に狙いを定め始めた。


「よ〜し・・・・。」


と、舌をペロッと出した。


「行け!!」


勢いよく飛んでいった雪球は、




ボカッ!




そのまま飛んでいるカラスに命中した。


「やったあ!!」


空雅と伊吹は思わず飛び跳ねた。


カラスは、そのまま落ちて来て、怜侍がギリギリでキャッチした。


「き、貴様ら!落とすなら落とすで、受け止める準備をしておけ!!///」


怜侍が怒鳴った。


「あ、悪い悪い・・。忘れてた///ありがとな。」


伊吹が頭をかきながら言った。


「む・・・。まあいいだろう・・・。」


怜侍はそう言って、カラスを雪の上にゆっくり下ろした。


「ホントにくわえてたんだね〜。」


空雅はカラスの口から手袋を取った。


「こいつ〜、探したんだぞ!」


伊吹はカラスをツンツン突いた。


「あははは・・・。」


それを見て、私が笑っていたその時、




バタバタバタバタバタバタ_______




「うわ!!」


伊吹は驚いて、しりもちをついてしまった。


「び、びっくりしたぁ・・・。」


私が言った。


「でも・・あのカラスの方が、もっとびっくりしてるだろうね。きっと。」


空雅が笑いながら言った。


「さ!手袋も見つけたことだし、帰ろっか!!」


私も笑顔で言った。


「芽衣も喜ぶだろうな・・・。」


伊吹がぼそっと言った。





 しかし、その笑顔も長くは続かなかった_____。














「ただいま〜!!」


私たちは、ホテルまで走って帰ってきた。もう辺りは暗くなってきたからだ。


「おかえり・・。芽衣が目を覚ましたわよ。」


小春もニコニコしている。


「芽衣〜!!」


私は大きな声で言った。


「楓〜!!」


芽衣はそう言って、外まで出てきた。


「芽衣!見つけたよ!手袋!!」


私は笑顔で言った。しかし、


「・・・・。」


突然、芽衣の笑顔が消えた。


「どうしたの?芽衣・・。」


私は芽衣の顔をのぞきこんだ。


「・・・いらない・・。」


「・・え?」


「そんなの・・いらない!!」


芽衣は大声で言った。


「おい、お前何言ってんだよ!なくしたって騒いでたのはお前だろ!?」


伊吹が言った。


「だって・・・。」







私の誕生日にお兄ちゃんはいなくなった。





___芽衣〜!誕生日おめでと!!


___これ、プレゼントだよ〜!!


___うん・・。ありがとう・・。


    誕生日に何でも欲しい物をくれるって言うけど、それは絶対無理だ。


___私が欲しいのはお兄ちゃんだけだもん・・・・。







芽衣は少しの間黙っていた。


「何でいらないの・・?」


私は優しく尋ねた。


「こんな物あったって意味ない・・。」


「何でだよ!今まで大事にしてきたんじゃねーのか!?」


伊吹は怒り出した。


「だって、そんな物が帰って来たって、お兄ちゃんは帰って来ないじゃない!!」


芽衣が目に涙を浮かべて叫んだ。


「・・・・。」


私は何も言えなくなってしまった。どうやら今回のが原因で、芽衣はお兄さんの事を思い出してしまったようだ。空には星が小さく光っている。


「もう、夜だな・・・。」


菜樹がぼそっと言った。しばらくの間沈黙が続いた。




「・・死んだ奴の気持ち、考えたことあっか・・?」


伊吹が静かに言った。


「・・え?」


芽衣は伊吹の方を見た。


「ここに残された奴だけじゃなくて、いっちまった奴の気持ち、考えた事あるか!?」


伊吹の声が大きくなった。


「・・・・。」


「いっちまった奴が、お前みたいな奴を見て、どう思う?」


「・・・・。」


「大切な奴が苦しんでる時、自分がそこまで行って声かけてあげてぇのに、それができない気持ちがお前に分かるか!!」


伊吹は少し涙を浮かべているようだ。


「伊吹は、自分と重ねてるんだ・・。」


空雅が私にだけ聞こえる声で言った。


「そっか・・。伊吹って芽衣とは逆の立場なんだね・・。」


私も空雅にだけ聞こえる声で答えた。


「・・・お兄ちゃん・・。ごめんなさい・・・・。」


芽衣は弱弱しく言った。そして、


「・・お兄ちゃんに会いたいよ・・・・・。」


芽衣はしゃがみ込んだ。


「芽衣・・・。」


私も一緒にしゃがみ込んだ。


「ばっかじゃねー?あそこにいんじゃん!お前の兄貴!!」


いきなり伊吹が空を指差して言った。


「伊吹・・?」


菜樹は首をかしげて言った。


「あ!でも、あっちかもしんねえ。いや、こっちかも・・・?」


伊吹は空のあちこちを指差している。


「僕はあれだと思うけど・・?」


空雅も空を指差して言った。


「んあ!?ちげーよ!あれは牡牛座だろ?」


伊吹は空雅に怒鳴った。


「あは・・あははははは・・・・。」


「んぁ!?」


芽衣が笑っている。伊吹は驚いていた。


「お兄ちゃんどこだろう・・。これから探さなくちゃね・・・・。」


芽衣は空を見上げて、少し笑いながら言った。


「私も一緒に探してあげる!」


私も笑顔で言った。芽衣の笑顔が戻ったのが嬉しいのだ。


「よ、良かったわ・・・・。」


小春はそう言って、芽衣に抱きついた。


「小春が笑ってる!!」


菜樹が言った。


「初めて見たな〜!」


空雅も言った。



グウウウ〜〜〜〜




「え!?」


私は突然の音に驚いた。


「悪い・・腹鳴った・・・・・///」


伊吹がお腹を押さえながら言った。


「昨日の夜から、何も食べてないはずだからな・・・・。」


怜侍は伊吹の肩を叩いて言った。


「そりゃ大変・・。」


空雅が苦笑いで言った。


「うおおおお!!腹減ったぞおおおおおお!!!」


伊吹は空に向かって、大声で叫んだ。


「あははははは・・・・。」


私たちはやっと、全員で笑うことができたのだった。












 それからの2日間。私たちは思いっきりスキーを楽しむことができ、とうとう帰る時が来た。


「もう、会えないのだな・・。」


怜侍が寂しそうに言った。


「会えるよ?」


私は笑顔で言った。


「そうだよ、また会えるって!」


空雅も笑顔で言った。


「そうだぞ?今度はこっちにも呼んでやるし・・・///」


伊吹はボソボソっと言った。


「でわ、約束だぞ!」


怜侍は笑顔で言った。


「お前ら〜置いてくぞ〜〜!!」


大貫先生の声がする。


「3人とも、もう行かなきゃ!」


芽衣が呼びにきてくれた。


「置いてくわよ・・・。」


小春もやって来た。


「じゃあな!怜侍!!」


菜樹は怜侍に言った。



私たちは、バスに乗り込んだ。そして窓から顔を出すと、


「元気でね〜!」


私が言った。


「忘れるなよ!」


伊吹が言った。


「また会おうね!!」


空雅が言った。


「む・・・。」


怜侍は笑顔でうなずいた。










こうして私たちは、5日間のスキー研修を終えた。


そして、お世話になったスキー場に別れを告げ、自分たちの住むところへ帰って行った_____。










ありがとうございます!


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