第5章・スキー研修
朝になると、私はちゃんと自分の部屋で、自分のベットで眠っていた。
「あれ・・・?」
疑問に思いながらも、ささっと準備をして学校に向かった。
学校には、もうほとんどの生徒が来ていた。
「おはよ!」
私は菜樹に言った。
「おー楓、おはよ!!」
菜樹を見て気づいた。もう冬服だ。
「だんだん寒くなってきたもんな〜。」
菜樹はそう言って、外を見ている。
「私も、明日から冬服にしてこよ!」
私はそんな独り言を言った。
伊吹が教室に入ってきた。もちろん、空雅と一緒に。
「あ!空雅!!もう大丈夫なの?」
「うん!あの薬、いつもよく効くんだ。あと、か、楓の看病もあったし!ありがとね!!」
「あはは、私は何にもしてないし・・。伊吹がほとんどだよ!」
私は伊吹の制服を引っ張りながら言った。
「な、何でもねーって・・・///」
伊吹は照れているようだ。私は昨日の事を思い出して、
「で、あったの?小春の家の方には・・・?」
と、尋ねた。
「それが、無かったんだよな〜。」
伊吹は困ったように答えた。
「じゃあ、今度友達と出かけるから、その時に小春も誘ってみるよ!普段なら、つけてくるでしょ?」
私は明るく言った。
「・・・・・それ、もっと早く言ってくれない?」
伊吹は苦笑いで言った。
冷たい北風が吹くようになり、辺りが冬の雰囲気になってきた頃。スキー研修の話が出てきた。
「・・・という事で、もうすぐスキー研修があるから、しっかり準備しておけよ!!」
と、大貫先生はニコニコして私たちに言った。
「スキーってなぁ・・・・。」
伊吹はやる気のない顔をしている。
「まあまあ、せっかくなんだし・・・。楽しもうよ!」
空雅は楽しみなようだ。
「って!何であんたがここの教室にいるの!?」
私は驚いて、少し怒って言った。
「だって、勝手に出てきても何にも言われないんだもん・・・。」
伊吹はうつむいて、シュンとして言った。
「何でもありね・・あなた。」
「!?」
このもの静かな声は、小春のものだ。
「こ、小春〜。いきなりでびっくりしたよ・・・。」
私は椅子に座り込んで言った。
「驚くも何も・・隣のクラスじゃない・・・・。」
小春はそう言うと、私の隣(空雅の席)に座った。
「(だから驚いてるんだよっ!)」
みんなが思った。
「それにしても、ここはまだ雪降らないね〜。」
私は外を眺めながら言った。私の席は窓側なのだ。
「スキーなんてできるのかな・・・?」
空雅も、外を眺めて言った。
「なあ、スキーって雪がないとできねーのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
伊吹の言葉のせいで、私たちの会話はピタッと止まった。
「・・・伊吹?伊吹はスキーを知ってるよね?」
「知らねーよ?」
伊吹は当然だとでも言うように、答えた。
「なんで、空雅は知ってるの?」
私は空雅に尋ねた。
「だって、勉強したもん。人間じゃないってばれないように。」
空雅も当然だとでも言うように、答えた。
「この2人の違いは一体何・・・?」
私はぼそっと独り言を言った。
「・・何を話してるの・・・?」
「うわ!?」
小春が私のすぐ隣で言った。私は驚いて立ち上がってしまった。
「(そっか、いたんだ・・・。)」
「で、何の話・・?」
小春は少し笑って言った。
「ん?いやいや、何でもないよ!伊吹のあまりの知識の無さに、空雅と呆れてたの・・。」
私は慌ててごまかした。
「ふうん・・・。」
小春はそう言うと、自分の教室に戻って行った。
「はあ〜。」
私はホッとして、また座り込んだ。こうやって、ずっとごまかし切れるのかな・・。
明日が研修だ。その帰り道、今日は久しぶりに隼と菜樹と芽衣と一緒に帰った。もちろん、空雅と伊吹も一緒だ。
「スキー研修楽しみだな!!」
隼ははしゃいで言った。
「何、遠足行く小学生みたいに言ってるのよ〜。」
芽衣は笑いながら、隼に言った。
「結構早い時間に集合だよな・・。」
菜樹は私に話しかけた。
「うん。あ!菜樹大丈夫?私、呼びに行こうか?」
私は心配になった。
「それは助かるな・・・。」
菜樹はホッとして言った。
「おい!」
「ん?」
伊吹は空雅に話しかけた。
「お前、ウチに来い!」
「え?なんで?」
空雅は何のことだか分からないようだ。
「だーから!寒いだろ?前みたいに熱出されたら大変なんだよ、俺が!!///」
伊吹は少し赤くなって言った。
「・・・うん、じゃあ、そうさせてもらうよ!」
空雅はニコニコして言った。
「な、何笑ってんだよ!気持悪りぃ・・・///」
「ごめん、ごめん・・。」
やっぱり空雅は笑っていた。
みんなに手を振って、私は踏み切りの向こう側に渡った。明日のことでいっぱいの頭で、家に帰ってきた。
「ただいま〜。」
私は少し大きな声で言うようになってきた。そして、返事を聞く余裕も出てきたところだ。階段を上り、部屋のドアを開けた。
「うっわ!」
私の部屋は、明日の準備のおかげでかなり散らかっていた。
「我ながら・・汚い・・・。」
私はそんな独り言を言いながら、近くに置いてある旅行かばんを廊下に出した。
「この部屋も片付けておこうか・・。」
ベッドの上に置いてある服、机の上に散らばっている教科書・・。黙々と片付けていたら、あっという間に夕飯の時間だった。お腹がすいたので、下に下りてリビングに入って行った。
「あら、楓。明日は研修なんでしょ?」
母は私に背中を向けたまま、尋ねてきた。
「・・・うん。」
私はご飯を口に入れたまま、返事をした。私はご飯を食べながら、研修先のご飯はどんなのかなと、考えていた。
「お!楓いたのか!」
父はお風呂から出てきたらしい、頭を拭きながらやってきた。
「いたよ〜。」
私は食べ終わった食器を片付けながら、顔は無表情で返事をした。
夕飯はあっという間に終わり、お風呂にも入り、歯も磨いたので、自分の部屋に戻ることにした。
「今日は早く寝よう!」
私は階段を上りながら、独り言を言った。
「あ・・。楓。」
琴音が階段を下りてきた。そういえば、あの日からずっとまともにしゃべってない気がする。2人は足を止めて、
「・・もう寝るの?」
琴音は作り笑いをしているようだった。
「うん・・。」
私は、めんどくさそうに返事をした。
「そっか、気をつけてね・・。」
琴音は何だか、沈んでいるようだった。2人の止まっていた足は、再び動き出した。
「・・・・・琴音?」
「・・え?」
なぜか、私は琴音を呼び止めた。琴音は驚いて、振り向いた。
「・・・お土産買ってきてあげる!」
私は笑顔で言った。琴音の顔はパ〜っと明るくなった。
「・・・・うん!!」
そして、無邪気に笑いかけてくれた。私も嬉しくなって、そのままの気分で布団に入って、眠りについたのだった。
ジリリリリリリリリリ______
「朝・・・?」
良かった、ちゃんと起きることができて。
私は旅行かばんを持って階段を下りて、朝食を食べた。そして、かばんが重いので、少し早めに家を出ることにした。
「お土産ちゃんと買ってきてね〜。」
琴音が玄関まで来て言った。
「オッケイ!!」
私はニタッとして答えた。
「気をつけるのよ、楓。」
母も玄関まで来てくれた。
「・・!?」
私は驚いた。母がそんな事を言ってくれるとは思わなかったからだ。
「・・・・うん!」
それでも私は嬉しくて、それを隠すことができなかった。
「遭難しないでよ〜?」
琴音が笑いながら言った。
「当ったり前じゃん!大丈夫!!」
私はそう言うと、かばんを肩にかけた。
「いってらっしゃい!」
母と琴音がそろって言った。
「いってきまーす!」
私も元気に返すことができた___。
集合の学校の正面玄関前。
「おっせーなー。」
伊吹は空雅と一緒にいた。空雅・菜樹・隼・小春・芽衣・私は同じ班だった。班は学年で自由に決める事が出来たので小春と芽衣と伊吹も一緒になる事が出来る。本当は空雅が班長だったのだが、自分が1番年上(2つ上)だというプライドから、伊吹が自分で班長をやろうと思ったらしい。だから、こうして他の班員を待っているということだ。
「あと、菜樹さんと隼と小春さんと芽衣さんと・・か、楓だね・・・・。」
「なあ、その“か、楓”って直んないのか?」
「・・・む〜り〜・・・・///」
空雅はふざけて言った。
「ま!いいけどさ・・。で?あと誰なんだよ!」
「菜樹さんと隼と小春さんと芽衣さんと・・か、楓だよ?」
空雅の言葉を聞いて、伊吹は少し考えていた。
「んぁ!?それって、俺たち以外の奴全員じゃねーか!!」
伊吹はいきなり大きな声で叫んだ。
「そうなんだよ、何なんだこの班・・・・。」
空雅は呆れて言った。
「おーい!」
「あ!来た、来た!!」
空雅は声のする方に手を振った。走ってきたのは隼だ。
「ごめん、ごめん・・。でも、まだみんな来てないんだな・・。」
隼は最後じゃなくてホッとしているようだ。
「うわ!?」
ドサッ
突然声が聞こえたかと思うと、空雅が倒れこんできた。
「どうした?」
隼が声をかけた。すると突然、隣から
「あら、ごめんなさい・・・。」
「・・・ひっ!!」
隼も驚き、しりもちをついてしまった。
「な〜んだ。小春じゃねーか。」
伊吹がケラケラ笑って言った。
「で、でもいきなり後ろはないよ・・・。」
空雅は体に乗っかっている隼を退かしながら、小春に言った。
「・・・貴方たち早いわね・・。」
小春は静かに言った。
「(シカト!?)」
「・・てめー今何時だと思って・・!!」
伊吹が大声を出そうとした、丁度その時、
「ごーめーん!遅れた!!」
私と芽衣が菜樹を引っ張って、ここまで走って来た。
「悪い・・。朝は苦手なんだ・・。」
菜樹は私に「ありがと・・。」と言うと、伊吹のところまで行って。
「班長サン、ご苦労様・・。」
と、肩をポンポン叩いた。
「がーー!!!お前らああ・・・!!」
「全員集まった班の班長は、言いに来いよー!」
伊吹の声は、見事に先生の声でかき消されてしまった。
「ちっ・・・!!。」
「楓?何かご機嫌だね!」
芽衣はニコニコしている私に尋ねた。
「え?へへへ、ちょっとね〜。」
私は鼻歌を歌っている。
「何があったの?」
空雅もつられてニコニコして尋ねてきた。
「ん〜。家族が少し元に戻ったの!空雅に初めて会った日に大ゲンカしててね、ずっとまともに口もきかなかったのに、今日は“いってきます”が言えたの!!」
私は嬉しくて、手をいっぱい動かして話した。
「そっか!良かったね!!」
空雅も笑顔で返してくれたので、私はもっと嬉しくなった。
「あ、空雅!」
「ん?何?」
空雅が言った。
「あのさ、小春の事なんだけど・・・。」
私はヒソヒソ言った。
「ああ、どうだった?どっか一緒に出かけたんでしょ?」
「・・やっぱりイヤリングなんか付けてなかったよ?」
「そっか・・。じゃあ、あの人じゃないんだね。」
空雅は軽くため息をついて言った。
「そうだね。また探さないとね。」
私は苦笑いで言った。
「お前らー!バス乗れってー!!」
伊吹の声が聞こえてきた。
「行こ?空雅。」
「あ、うん!」
私たちは早速バスに乗り込んだ。
これから5日間の研修が始まる______。
2時間ぐらい乗っただろうか、周りが雪山になってきた。それまでワイワイ騒がしくなっていたバスの中は、急に静まり、みんなは大貫先生の話に耳を傾けた。
「すっかり言い忘れていたが、この近くの学校の生徒も丁度同じ日にここに来ているんだ。だから、こっちの学校の班に1人ずつ向こうの学校の生徒が入るからな。仲良くやれよ!あと、ここは雪崩がくると非常に危険だから____」
みんな後の話は聞いていない。
「おいおいおい・・。聞いてないぞ!すっかり忘れてたで済むのかよ・・。」
伊吹は頭を抱えている。
「そんなに深刻?班員が1人増えたくらいで何も変わらないと思うけど・・?」
私は、悩んでいる伊吹に声をかけた。
「・・・・それもそうか!」
「切り替え早っ!!」
私は素早くつっこんだ。
そんな感じで、私たちはスキー場の近くにある、ホテルに到着した。
「同じ班の人と同じ部屋だから、1班から順番に入ってけー。」
大貫先生の声が聞こえてきた。
「・・!?」
その声に隼が反応した。
「・・・・男女別だぞ〜。」
先生はニヤリと付け加えた。
「ちえ・・・。」
ドカッ
「当たり前だ!!」
伊吹は隼の頭を殴って言った。
「・・じゃあ、私は芽衣と菜樹と小春だね!」
私は3人を連れて、部屋まで行った。部屋はちゃんとベッドが4つあって、結構広い部屋だった。
「俺ここ〜!!」
菜樹は真っ先に自分のベッドを決めて、言った。
「じゃあ、芽衣と小春はどこがいい?」
私は2人に尋ねた。
「そうね・・じゃあ、あっちにするわ・・・。」
小春はそう言って、あっちのベッドに荷物を置いた。
「それじゃ!私は楓の隣だね!」
芽衣は明るく言って、荷物をおろした。私は残ったベッドに、荷物を降ろした。
もう一度、ホテルの前で集合した。
「お、今度は全員そろったな。」
伊吹もホッとしていた。なかなか班長もさまになっている。大貫先生が近くの学校の生徒たちを連れてきた。
「じゃあ、今から振り分けるから。そしたら、ちゃんと自己紹介するんだぞ!」
大貫先生は1人1人、向こうの生徒を班に振り分けている。
「_____え〜っと、あ!あのツンツンが班長の班だ。」
「んあ!?“ツンツン”?」
伊吹は自分の髪を指して言った。私と空雅は笑いをこらえるのに精一杯だった。
「怜侍だ・・。よろしく。」
私たちの班にきたのは、少し緊張気味の男の子だった。
「俺は、伊吹。こいつが空雅。その隣が楓と菜樹。そっちが隼と芽衣であいつが小春だ。」
伊吹が班員の紹介をした。
「俺、班長ね。」
と、付け足して。
「ツンツンの班長・・か?」
怜侍が少し笑って言った。
「な、てめーだってツンツンだろーが!!///」
伊吹は怜侍の髪を指差して言った。
「こ、これのどこがツンツンだ!///」
怜侍も自分の髪を指して、言い返した。本当にこの班(班長)は大丈夫なのだろうか・・・。
ドシッ
「いった〜。よし、もう一回!」
ドサッ
「もお!何で?」
私はスキーに苦戦していた。もちろん私だけではないけれど。(伊吹が転んで、雪に向かって怒っている。)しかし、空にはスキーなどないはずなのに、なぜか空雅は上達が早かった。
「か、楓・・。大丈夫?」
空雅はここまで滑ってきた。
「う、うん・・。きゃっ!」
ドシンッ
私は立ち上がろうとして、バランスを崩したので、思いっきりしりもちをついてしまった。
「どうして私だけできないの〜・・。」
「いや、あいつもいるし・・。」
空雅は伊吹の方を横目で見て、言った。
「あんな奴と、一緒にされるなんで絶対嫌〜!」
私はそう言って、雪の上に仰向きになって倒れた。
「重心が後ろにかかっているからではないだろうか・・・。」
後ろから声がしたかと思うと、私はヒョイッと持ち上げられ、立ち上がることができた。怜侍だ。
「あ、ありがと・・。」
私はキョトンとしたまま言った。
「む・・。」
怜侍はそう言って、どこかへ行ってしまった。
「怜侍って何か、変わってるよね。」
私は怜侍が向かった方を見て、空雅に言った。
「変わってるね。」
空雅はニコッとして答えた。
やっと少し進めるようになったところで、今日はもう終わりだ。
「だーー。つっかれたー!!」
伊吹はスキー板をはずしながら言った。何回も何回も練習したようだ。
「今日は頑張ったものね・・・。」
小春が伊吹に話しかけた。
「!?・・ああ。まあな〜。」
伊吹は少し驚いたが、ヘラヘラ笑って答えた。
「どれくらいできるようになった?」
空雅が伊吹に尋ねた。
「結構進めるようになったぜ?」
伊吹は自慢げに答えた。
「まだ少ししか進めなかったではないか。」
怜侍がさり気なく言った。
「んぁ!?」
伊吹は怜侍が気に入らないようだ。この2人は一緒にすると危ない。
「まあ、まあ。それより早く夕飯のとこ行こうぜ!」
菜樹は2人をなだめると、そのまま食堂まで引っ張って行った。
「私たちも行こう?」
私はあとの3人と一緒に食堂に向かった。
同じ班で同じテーブルだ。
「明日はもっと遠くも行けるんだよね?」
芽衣が私に尋ねた。
「そうだね。なんか楽しみだな〜。」
私はワクワクして答えた。
「おい。食うか寝るかどっちかにしろ。」
怜侍が話している相手は菜樹だ。菜樹は食べ物は口に運んでいるものの、どうやら眠っているようだ。
「どうして寝ながら食べれるの・・・?」
芽衣は不思議そうに言うのだった。
今日はたくさん練習をしたので、みんな遊ぶことなくすぐに寝てしまった。それは、まだ4日もあるという余裕からでもあると思う。やっと滑れるようになった伊吹と私も、明日は遠くまで行けると分かったみんなも、明日は思いっきり楽しもうと思って眠りにつくのだった。
今日はとてもいい天気だ。
「おっしゃ!滑るぞー!!」
伊吹が気合を入れている。
「行くぞー!!」
菜樹もつられて気合を入れた。私たちはリフトで上の方まで行くことにした。
「な、これに乗るの・・・・?」
空雅は汗がダラダラ出ている。
「あ〜、よし!空雅は俺とな!!」
伊吹は空雅を連れて、最後に乗り込んだ。
「うっわぁ〜。結構上まで行くんだね〜。」
私はまだ上手に乗れないので、怜侍と一緒に乗ったのだ。
「そうだな・・。」
怜侍は私のはしゃぐ姿を見て、少し笑って答えた。
「怜侍はいつからスキーやってたの?」
「む・・。物心付いたときからもうやっていたな。ここの人は皆そうだぞ。」
「へ〜。じゃあ、すごく上手いんだね!!」
私はニコニコして言った。
「まあ、私はそうでもないが・・・。」
「・・・!?」
怜侍が“私”と言ったので、私は少し驚いた。
「どうしたのだ・・?」
「怜侍って自分のこと“私”って言うの?」
「そうだが、おかしいか?」
怜侍はキョトンとしている。
「おかしくはないかもしれないけど、使ってる人あんまりいないし。」
「それもそうだな・・。」
「ちょっとびっくりしただけ。」
私は笑って言った。
「これは父親の話し方が、うつってしまったからだ。」
「お父さんもそういう話し方なんだ。」
「私の父親は変わっているからな・・。」
「(怜侍に言えるのか!?それ・・・。)」
私はそんな風に心の中でツッコミを入れながら、また周りの風景に視線を戻した。かなり上まできたようだ。
「もうすぐ降りるぞ・・。」
怜侍がぼそっと言った。
私が降りた後(上手く降りられなくて、かなり苦戦した。)伊吹と空雅も降りてきた。
「空雅!顔が真っ青だよ!?」
私は降りてきた空雅を見て驚いた。
「へへへ・・・・。」
空雅は笑っているつもりらしいが、顔はやっぱり真っ青だ。
「こいつ、こういうの駄目なんだよ。」
伊吹が空雅の後ろから言った。
「え?空では大丈夫なの?」
「ああ。下はそんなに見えないし、ずっとそこで育ってきたからじゃないか?」
「高すぎるから、大丈夫なんだと思うよ?」
空雅はぼそっと言った。
隼が先頭で、みんなでゆっくり滑って行くことにした。隼はスキーが上手いのだ。
「よし!ちゃんとついて来いよ〜!」
隼がみんなに(特に伊吹と私に)声をかけた。
「では、私が後ろからついて行こう・・。」
怜侍がぼそっと言ったのが聞こえた。
「おお、頼みまーす!」
「お願いしますよ?先生!」
伊吹と私は怜侍に言った。
「む・・///」
怜侍は照れくさそうにうつむいて言った。
「行っくぞ〜!」
隼の声が聞こえてきた。もう動いている。
「か、楓?」
「はい?」
空雅に声をかけられた。
「重心、重心!」
「あ!はいはい!!」
空雅は私が転ばないか心配してくれているようだ。
「こら!う、動け!!前に・・進め!!」
伊吹が後ろでフラフラしている。私のせいで列がつまっていたようだ。
「ごめん、ごめん・・。今行くから・・。」
「楓!重心!!」
「はいいい!!」
私は反射的に返事をしてしまったが、後でよく見たらそれは怜侍だった。
「ええ!?な、何で?楓・・・?」
私は知らないうちに“楓”と呼ばれていることに驚いた。
「すまない・・。どうやって呼べばよいか分からなくてな・・///」
怜侍は私の横で滑りながら言った。
「いいよ!楓で!!そうやって呼んで?」
「そうか。分かった。」
怜侍はニコッとして言った。
「むむ・・///」
「・・・・空雅?」
私は驚いた。それは空雅が何か考え込んで、私と怜侍の会話を聞いていたからだ。
「お前も、頑張れ!」
伊吹がコソッと言った。
「・・はーい///」
空雅は苦笑いで言った。
半分くらいまで、進んできた。(伊吹も私も何回も転んだ・・。)
「だいぶ、慣れてきたな。」
菜樹が伊吹に話しかけた。
「そーか?まあ、転ぶ回数は減ってきたけど・・。」
伊吹は自分の足元を見ながら答えた。
「おーい!隼!こっから自由に滑ってもいいか〜?みんな、だいぶ慣れてきたみたいだしさぁ。」
菜樹は前の方にいる隼に向かって言った。
「いいぞ〜!じゃあ、みんな下で待ってろよ〜!!」
隼がそう言うと、芽衣と小春が仲良く滑って行った。
「上手くなったね!芽衣と小春〜。」
私は空雅に言った。
「か、楓だって結構上達したじゃん!」
空雅は笑顔で言った。
「ありがと!じゃあ、行こっか!!」
私も笑顔で返した。
「待て、待て!!俺を置いてくなぁ!!」
伊吹は空雅のウエアーのすそをつかんで言った。
「はいはい・・。」
空雅は苦笑いで答えた。
何とか無事に下まで来ることができた。
「私、何となく分かってきたかも!!」
私は転ばずに滑れるようになってきたのだ。
「伊吹も、結構できるようになったではないか・・。」
「・・・そうかよ///」
怜侍は伊吹をほめている。伊吹は頭をポリポリしている。
「そっか!」
私は珍しくて、嬉しくなった。
「じゃあ!もっかい、行きますか!!」
隼のテンションも最高潮だ。
「今度はスイスイ行けそうだね。」
芽衣は私にぼそっと言った。
「へへへ・・。まあね〜。」
私はそう言って、芽衣と一緒にリフトに乗り込んだ。私たちは上へ上っていった。
上に来た頃には、少し風が出てきていた。
「風、吹いてきたなぁ・・。」
菜樹が帽子を押さえながら、ぼそっとつぶやいた。
「風で滑りにくくなったりしないのかなぁ。」
私は下の方を見ながら、菜樹に言った。
「しねーだろ。」
伊吹が口をはさんだ。
「何で?」
「・・・重いから。」
伊吹はニヤリとして言った。
「・・!!」
私はキッと伊吹をにらみつけた。
「こらこら・・。」
菜樹は私の頭をなでて、なだめてくれた。
「行かないのか?」
怜侍が不思議そうに私たちに尋ねた。
「行こっか!」
私はみんなに言った。
山の中、クネクネ道だ。
「曲がるのも楽しいね!」
芽衣が小春に話しかけている。
「あいつらいつからあんなに仲良くなったんだ?」
伊吹は2人を見ながら、顔をしかめて言った。
「良かったじゃん!」
と、私が伊吹に近づこうとしたその時、
「きゃっ!!」
私はバランスを崩して坂を滑り落ちた。
ザザザザザザ________
「楓!!」
ドシンッ
「・・・・・・・・。」
「く、空雅!?」
私が下を見ると、なんと空雅が。
「ごめん!!空雅、今退くから!!」
私は急いで退くと、空雅はヘラヘラ笑って言った。
「あはは、良かった。ケガしてなくて・・。」
「空雅!空雅は?ケガしてない?」
私は空雅の板を外しながら、言った。
「うん。大丈夫だよ?」
「ホント・・・?」
空雅も大丈夫なようだ。
「おーい!大丈夫か?」
伊吹の声が聞こえる。
「うん!大丈夫みたい!!」
私は伊吹にそう返した。その後、起き上がろうとしている空雅に
「空雅、ありが・・・と・・・?」
私は空雅の動きがおかしいのに気がついた。
「・・ッつ!!」
「空雅!?」
起き上がろうとした空雅は、途中で足を押さえて苦しんでいる。
「足?足痛いの・・・!?」
空雅はヘラヘラ笑っているが、顔は冷や汗でビショビショだ。
「早く下りようか・・。」
私は空雅の板を持って、
「伊吹―!行くよー!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ_______
「え?何だこの音・・。」
菜樹が伊吹と話している。
「上の方から聞こえてくるぞ・・。」
伊吹が山の方を見て言った。
「おい!退くんだ!!そこから離れろ!!」
怜侍の声が下の方から聞こえてきた。
「え・・?」
私が振り向いた頃にはもう遅かった。
ドドドドドドドドド________
_____あたり一面真っ白だ。私はあの後どうなったんだろう。
たしか、たくさんの雪の塊が・・そうだ。私は雪崩に巻き込まれたんだ。
「楓?ねえ、楓!」
芽衣の声がする。
「め、い・・?」
「楓〜!良かったあ。」
芽衣は私の手を握っていた。
「あ、あれ?雪は?」
たしか、雪に埋もれたはずなのに・・。
「ないよ。だって楓のすぐ後ろに雪崩が来てたんだもん。ギリギリセーフだったんだよ?」
芽衣は少し涙目だった。
「ごめんね。心配かけて・・。」
私も少し涙目になって言った。
「良かった、誰もケガしてないみたいで・・・。」
芽衣がホッとしてつぶやいた。その言葉で私はハッとして尋ねた。
「ねえ!空雅は?空雅はもうみんなのところにいるよね?」
「え?いなかったよ?もう下の方にいたとばかり・・・・。」
「空雅は私のすぐ後ろにいたんだよ!?」
「え!?」
芽衣も私も後ろを振り向いた。そこにはかなりの高さで、雪が積もっている。
「まさか・・・。」
私はそこにある雪を少しかき分けながらつぶやいた。
「うそ・・。」
芽衣は少しパニックになっているようだ。
「芽衣!みんな呼んできて!!」
私は冷や汗でビッショリの芽衣の背中を押して言った。そして自分はひたすら、白い雪の中に手を入れて空雅を探した。しかし、どれだけ手を入れても、どれだけ声をかけても、空雅が出てくる気配はなかった。
「楓!!」
伊吹の声が聞こえてきた。
「大丈夫?楓!」
他のみんなの声もする。やっぱり空雅はあのなかにはいないみたいだ。
「俺も手伝うよ!」
隼がそう言って、雪をかき分ける。
「私も!」
「私も手伝おう。」
雪をかき分ける手も増えていった。
「くそ!全然見つかんねぇ・・。」
伊吹が真っ赤になった手を擦り合わせながら言った。
「ねえ。あれは何かしら・・・。」
小春が指を刺して言った。
「下の方が光ってるよ?」
芽衣も指差して言った。その先には、弱弱しく光る青白い光が見える。
「あそこだ!!」
伊吹が下って行く。私たちも後に続いた。
「空雅!?」
私は空雅を見て驚いた。
だって、空雅がシリウスの姿に戻っているのだから。
空雅の正体がみんなに見られた!?
次回お楽しみにw