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第4章・2人の秘密


 外はもうすっかり秋になった。あれからというもの、私たちは周りから変な目で見られるようになった。何というか、離れていくという感覚だ。


「ねえ・・。みんな絶対こっち見てるよね・・。」


空雅は、小さな声で私に話しかけた。


「って言うかさ・・・。離れてってるよね・・・。」


私も、小さな声で空雅に言った。今は伊吹と空雅と私の3人で、廊下を歩いている途中なのだ。みんな、廊下の壁に張り付いている。


「あれって、あの暴れん坊だよね・・・。」


「なんで、ここにいるんだろう・・・?」


空雅には周りの声がよく聞こえるようだ。


「どうしたの?空雅。頭痛い・・・・?」


私はこめかみを押さえている空雅に、心配そうに声をかけた。


「う、うん・・・・。」


空雅はあまり大丈夫じゃなさそうだ。どうしようかなと、思っていた時、突然肩がズシンと重くなった。


「こいつ、犬だろ?だから耳がいいんだ!だから、聞き無くない事もいちいち聞こえちまうんだぜ?」


伊吹は、空雅と私の肩に腕を回して大きな声で言った。


「じゃ、じゃあ・・・何だよ、その大声は・・・・。」


空雅は重そうに言った。


「あ!わりい、わりい。わざとじゃねえんだ。」


伊吹は空雅を離して言った。


「絶対わざとだろ!!」


空雅は少し怒っているみたいだ。


「俺の声は、お年寄りにも聞こえやすくなっておりま〜す!!」


伊吹はケラケラ笑いながら大声で言った。


「周りがクスクス笑ってるんですけど〜・・・・。」


私は呆れたように、伊吹に言った。


「・・・おい!!いつまで腕回してるんだよ!か、楓に!///」


空雅はさっきより怒って怒鳴った。


「んぁ!?///」


伊吹は今気づいたらしい。いきなり私を突き飛ばして言った。


「な、何でもっと早く言わねぇんだ!!こ、これじゃあ・・・・///」


伊吹はいきなり言葉に詰った。空雅は、


「“これじゃあ”・・・?これじゃあ何だよ。」


と、伊吹をにらんで言った。伊吹は「ん。」と言ったかと思うと、


「・・・・・・き、菌がうつる!!」


と、制服をパタパタはたきながら言った。


「はあ!?」


と、空雅は怒っていたが、少し笑って言った。


「あんた、ほんとに2個上!?同い年にしか見えない・・・。」


私は呆れて言った。


「親しみやすいキャラなんだよ。俺・・・。」


伊吹は自慢げに言った。


「子供っぽいだけじゃん・・・。」


私は小さな声で言った。


「僕もそう思う。」


空雅も冷たく言った。


「お前!まだ“僕”だったのか!?」


いきなり伊吹が身を乗り出して言った。そのまま、


「男なら男らしく、“俺”って呼べよ!!」


と、大声で言った。


「そんな事、空雅の自由でしょ?」


伊吹は私の意見も聞かず、


「お前はもっと男らしくなるべきだ!!俺様みたいに。」


と、決めつけた。


「え〜・・・。空雅があんたみたいになるのは絶対嫌だよ・・・。」


「なんだよてめぇ!!口はさむな!!!」


と、私と伊吹がにらみ合っていると、


「まあまあ・・。僕は僕なんだし・・・。」


空雅は2人をなだめるように言った。


「お前もお前だ!女の名前も呼べないくせに!!」


伊吹は元々大きい声が、さらに大きくなっていた。


「な、何もそこまで言う事ないじゃないか・・・・!!///」


空雅も周りの声が聞こえないくらい、大きな声で言った。


「こらーーーー!!お前ら!!今何の時間だと思ってるんだ!!」


大貫先生の声だ。ふと、周りを見ると、廊下には私たち3人の他には誰もいなく、さらにすべての教室のドアから生徒が顔をのぞかせていた。


「・・ふん!!」


伊吹と空雅はそう言うと、それぞれの教室に入っていってしまった。伊吹のクラスからは、ドアを蹴り飛ばす音が聞こえた。




___“何か嬉しい事でもあったんですか?”


___“ああ。その内お前らにも分かるからさ・・・。”




 そうか、先生はこれを言ってたんだな。伊吹が自分のクラスじゃないから喜んでたのか。私はここでそれを思い出したのだった。









 あの後から、2人はなかなか口を聞かなかった。しかし、帰りに私が日直の仕事をし、待っていてくれている2人の所に戻った頃には、すでに仲直りしていたのであった。


「何だよそれ!それはねえって〜!」


伊吹はすっかりご機嫌な様子だ。


「空雅、伊吹に何したの・・?」


私は空雅を離れた所まで引っ張って尋ねた。


「あ〜、アイスおごったんだよ。」


空雅は少し笑って答えた。


「え!?何で?」


私は驚いて言った。


「何でって、いつまでもケンカしてるわけにはいかないし・・・。」


空雅は慣れているような口調で言った。


「そ、そうだよね・・!」


私は、伊吹の扱いに慣れている空雅に驚いたと同時に、アイスをおごってもらったくらいで怒りがおさまる伊吹にも驚いた。そして、伊吹は本当に子供だなと思ったのだった。




 その帰り道、空雅が突然話し始めた。


「ねえ、ロキ探しの方なんだけどさ。僕、気になってる人がいて・・・・。」


伊吹は“僕”の所で少し反応したのだが、アイスを買ってもらったので何も言えないようだ。


「え?誰・・?」


私はそんな子いたっけ、と思いながらも気になって尋ねた。


「あの〜、水瀬さん。僕と一緒に転校してきた人だよ。」


「あ〜。あの静かな奴だな!」


伊吹は人差し指を突きつけて言った。


「そうそう!」


「え!?でも、小春は女の子だよ?」


私は首をかしげて言った。


「・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・。」


2人共黙ってしまい、少しの間沈黙が流れた。しかし、それは空雅の笑い声によって破られた。


「あはははは!!そっか、か・・楓には言ってなかったね・・!」


その後に伊吹が顔を近づけて言った。


「はあ!?誰がロキが男だって言ったんだよ。ロキは女だ、お・ん・な!!」


私は、知らないうちにロキは男だと思い込んでいたようだ。


「そうだったの〜〜!?私てっきり・・・///」


「ばっかだな〜。お前、そんな事も分かってなきゃ、見つかるもんも、見つかんねえぞ。」


伊吹は少し笑って言った。


「でも、どうして?小春は家族と暮らしてるのに?」


「それはね、僕たちが人間の記憶を操ることができるからなんだ・・。」


「少しだけだけどな。滅多にやらないんだ・・。」


だんだん分かってきた。たしかに、小春でもおかしくない。




 私たちはこれからどうしたらいいのか考えた。


「ロキって何か特徴とか無いの・・?」


私は2人に尋ねた。


「とくちょーか・・・・。そんなのあったか?アイツに・・。」


伊吹は考え込んでいる空雅に、話をふった。


「・・・イヤリング。」


「え!?・・・何だって?」


「イヤリング!ロキはいつも、小さな白いイヤリングをしてた!!」


空雅は少し嬉しそうに、大きな声で言った。


「おお、じゃあ、そのイヤリングを付けてたら、ロキってわけだ!!」


伊吹も嬉しそうに言った。


「でも、学校にそんなの付けてたら、大貫にばれてるんじゃない?」


私は少し考えてから言った。


「いや?俺は堂々と付けてるぜ?」


伊吹は右腕をまくって、手首に付いている赤い玉のブレスレットを見せた。


「あんたは、いいのよ。問題児なんだから・・。」


私は伊吹の肩にポンと手を置いて言った。


「んぁ!?何だよそれ、元問題児だろーが!それに、空雅だって付けてらぁ!!」


伊吹はぶっきらぼうに答えた。そして、空雅の首もとをゴソゴソし始めた。


「おい!止めろ〜!くすぐったい!!」


空雅は顔が真っ赤だ。伊吹はそんな事もお構いなく、まだゴソゴソしている。


「あった!!」


伊吹は、空雅の首にかけられている、透き通った青白いペンダントを取り出した。


「え?空雅も付けてたの!?」


私は驚いた。だって空雅は、優等生な感じがしていたから。


「俺たちの仲間は、みんな付けてるんだ。」


「だからもちろん、ちゃんとした意味もあるんだよ。」


2人は得意げに話し始めた。


「僕たちは星座って言ったよね?だから、星の集まりで出来ているんだ。」


「で、お前も聞いた事あんだろ?星の名前!」


「うん。アンタレスとか、スピカとか?」


と、私は思い出して答えた。


「そうそう。そうやって、みんなが知っているような星はたいてい大きな星なんだよ。」


空雅がニコッと言う。


「だから、こいつだってそうだろ?“シリウス”って名前は大犬座の中の星の名前なんだ。」


「“シリウス”は、1,5等星のなかで1番明るいって言われてるんだよ?」


空雅は自慢げに言った。


「で!俺たち星座は、自分にある星の中で代表になる星を、体のどっかに付けてるんだ。」


伊吹は右腕を、空雅は首もとを指差した。


「どこかって言っても、結局その星がある位置になんだけどね・・。」


空雅は小さく笑って言った。


「僕は丁度、首の位置にシリウスがあったんだ。」


空雅はニコニコしている。


「そうじゃない奴だって、もちろんいるぜ?」


伊吹は急いで、そう付け足した。私は2人の話を聞いて、


「じゃあ、ロキはそのイヤリングが星って事?」


「そう!」


「そーだ!」


2人は同時に身を乗り出して言った。




その後、私は少し考えてから


「じゃあ、どうやって調べるの?学校には付けてないみたいだし・・・。」


と、話を戻した。


「こっそり調べるしかないじゃん!ロキは用心深いからな!!」


伊吹は元気に言った。


「こっそり?どうするのさ?」


空雅は伊吹に向かって言った。


「忍び込む!!家と学校に!!」


伊吹は力をこめて言った。


「ええええ!?いいの?そんな事して。しかも、絶対見つかっちゃうでしょ?」


私は驚いてよろめいた。


「家は知らねえけど、学校なら見つかんねぇって!!俺、前もやった事あるし。」


伊吹はニヤニヤして言った。何だか、すごい悪人みたいだ・・・。


「そうだね・・。でも、家はどうするつもり?」


空雅は冷静だ。私は伊吹の言葉よりも、空雅の態度に驚いた。絶対慣れてる・・・!


「簡単だよ、窓からのぞけばいいんだし!」


伊吹はサラッと答えた。


「ああ。そうだったね!!」


空雅も手をポンッと鳴らして言った。私は2人が何を言っているのか、だんだん分からなくなってきていた。


「おい・・。分かって聞いてるか?」


伊吹は、分かったらしい。私が全然分かっていない事が・・。


「んとね、ロキのイヤリングも、僕のペンダントも、伊吹のブレスレットも。夜になったら光るんだ。」


と、空雅は私に分かりやすく説明してくれた。


「あー。だから分かるんだね!窓から見れば。」


私は理解できたのが嬉しくて、明るく言った。







 私たちは一度家に帰り、そしてもう一度踏み切りの前で待ち合わせした。私は少し早く来てしまったみたいだ。近くのバス停のベンチに座って待つ事にした。時計はもう8時を回っている。辺りはもう暗くなっていた。



「おーーーい・・・・。」


「あ!来たみたい。」


遠くから聞こえる声に、私は素早く反応した。


「お前、はえーよ・・。」


伊吹だった。走ってここまで来たらしく、ゼーゼー言っている。


「そんなに走って来なくても、空雅がまだなのに・・。」


私は、「座りなよ。」と最後に付け足して言った。


「んぁ!?あいつ、まだ来てなかったのか・・・・。」


伊吹は疲れて怒る気にもなれないらしい。そこへ、少し遅れて空雅がやってきた。



「ごめん、ごめん・・。」


「お前が遅いなんて珍しいな〜。」


伊吹は空雅にそう言った。


「え?そうなの?」


私は初耳だ。でも、空雅が時間に遅れないのは何となく分かる。


「こいつは犬だから、足がめちゃくちゃ速いんだぜ!」


伊吹は自分の事のように、自慢げに言った。


「お前が自慢するな・・・。」


空雅は静かにつっこんだ。


 私たちはそうやってワイワイしながら、学校の校門前までやって来た。しかし、ここからは静かに行動しなければならない。


「じゃあ、行くよ?」


「うん・・。でも、夜の学校って怖いね・・・。」


私はおびえながら言った。


「こんな事で怖がんなよ!」


伊吹は、私の頭をコツンと叩いて言った。私はムッとしたが、それよりもやっぱり怖いので、止めておいた。それにしても、落ち葉のを踏んだ時の音で、いちいちビクビクしている伊吹を見るのは、実に面白い。



「職員室は明るいよな〜。やっぱり先生がいるみたいだな・・。」


「でも、ばれるとやばいから。早く済ませよ!」


伊吹と空雅の声が聞こえるのだが、どこにいるのかあまりはっきり分からなくなってきていた。


校舎の前までやってきた。


「どこから入るの?玄関はカギがかかってるよ?」


私は、辺りを見回しながら小さな声で言った。


「あ・・・。」


「あー・・。」


2人は同時に言ったようだ。そこから、何の声も聞こえなくなってしまった。


「ちょ、ちょっと!急に黙らないで・・。怖いって〜・・。」


私はあたふたして言った。


「困ったなあ・・。どっか、開いてる所ないのかな・・?」


空雅はそう言うと、その場に座り込んでしまった。


「日直とかが、カギ閉め忘れてたらいいんだけどね・・・。」


私もそう言って、座り込んだ。


「そんなドジ、いるわけねえだろ・・。」


伊吹もそう言って、座り込んだ。


「分かんないよ〜?今日の日直誰だったっけ?」


空雅がふざけて言った。


「ん〜・・そんな事いちいち把握してねぇからなー。」


伊吹も適当に返事を返していた。


「あ・・・。」


私は小さな声を発した。


「おい!どうしたー?」


「どうしたの?」


私の声に、2人が反応する。


「私だ・・・!」


「え?何が?」


「何がだよ!!」


2人は何の事だか分からないようだ。


「日直!私、今日日直だった!!」


私は自分でも驚いて言った。


「あー!!そうだ、だからお前今日遅かったんじゃん!!」


伊吹はつい、いつもの大声になってしまった。


「や、止めろっ!!」


空雅は伊吹の口を素早くふさいだ。


「モゴモゴ・・・。ぷはっ・・。わりい、わりい・・。」


伊吹は申し訳なさそうに言った。


「危ないって・・・。」


空雅は冷や汗でびっしょりだ。




ザワザワザワ_______




いきなり強い風が吹いたので、私は顔を伏せてしまった。枯れ葉が辺りを舞っている。

風が収まり、顔を上げた私は、目の前の現実を見て言葉を失った_____。












 私の目の前に立っていたのは、一匹の大きな犬と、立派な青年だった。


「え?ええ?どーいうこと!?」


私は目の前の状況が、なかなか飲み込めなかった。


「あーー・・・。」


「うわ!?犬がしゃべった!!」


私は、とうとう幽霊が出たんだと思った。



ダッ______




私はそう思うと、校門に向かって走り出した。全速力で。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・。こ、ここまでこれば・・・。」


「楓!」


「うわあーーー!!来ないで、来ないでーー!!!」




ダダダダダダッ______




「おい!」


「・・・おい!!楓!!!」


誰かが私を呼んでいる。


「・・・・・・・・・。」


私は怖くて、声が出なかった。


「楓!!俺だ!伊吹だよ!!!」


「・・・え!?」



ドンッ!!!!




「・・・・・・・・・ってえなぁー!!」


「・・・・いてててて・・。」


私は、伊吹(らしき人)とぶつかってしまったらしい。


「て、てめー・・・。いきなり止まんじゃねーよ!!!!」


伊吹(らしき人)は私に向かって怒鳴りつけた。


「・・・ホントに伊吹?」


私は恐る恐る、その伊吹(らしき人)に尋ねた。


「俺じゃなかったら誰なんだよ・・・。ちなみに、あの犬も空雅だぜ?」


「・・・・?」


私が「?」という顔をしているので、伊吹は「空雅―!」と呼んだ。空雅はかなり遠くにいたはずなのに、あっという間にやってきた。


「か、楓・・。ごめん!言ってなかったね・・。」


空雅(らしき犬)は申し訳なさそうに、頭を下げた。


「どういう事・・・!?」


私は空雅(らしき犬)と伊吹(らしき人)を見ながら言った。


「見ての通りだよ!元に戻ったんだ!!」


「元・・・?」


私は首をかしげて言った。


「だーかーらー!!俺たち星座は、夜になると元の姿に戻っちまうんだよ!!」


「・・・えええええええ!?」


私はやっと理解する事ができ、そして絶句した。







 空雅と伊吹が、詳しく教えてくれた。


「・・・・・・だから、僕は大犬座で大犬。伊吹はオリオン座でオリオン。」


「10時になったら、みんなこうなっちまうんだ・・。」


「・・・大変だね。」


私はそう言うしかなかった。


「大変ってもんじゃねぇって!!夜は外にも行けねえんだぞ!!」


オリオンは自分の体を見ながら、困ったように言った。


「僕はそんなに苦でもないけど・・・?」


シリウスは後ろ足で耳をかきながら、平気な顔して言った。


「お前は犬だからだろ・・・。」


オリオンはため息をついて言った。


「じゃあ、ロキも・・・?」


私は2人に尋ねた。


「そりゃそうだろ。ロキも仲間だからな・・。」


「ロキは子犬座だから、子犬に戻るんだよ。」


オリオンとシリウスはうまく説明した。


「これからどうするの?」


私は学校(ずいぶん離れてしまったが・・)の方を見て尋ねた。


「行くしかない・・よね〜。」


シリウスは苦笑いをしながら言った。


「じゃあ、チャチャッと終わらせようぜ?」


オリオンはそう言って、また学校に向かって歩き始めた。




 窓を確認してみた。私もしっかり閉めたという自信がないので、一緒に開いている窓を探した。私たちの教室は2階なので、上をひたすら探す。丁度、首が疲れてきた所でシリウスが言った。


「あった!カギ、かかってないよ!」


「よし!」


オリオンが言った。


「どうやってあそこまで行くつもり?」


私はオリオンに尋ねた。


「ん〜そうだな・・・。」


オリオンは少しの間、考え込んだかと思うと、いきなり手をポンッと叩いて言った。


「しゃーねえな・・。よし、俺の体につかまれ!2人とも!!」


「え?」


私の顔はまたもや「?」だった。


 私とシリウスはオリオンの両肩につかまった。いや、乗ったと言った方が正しいかもしれない。


「いくぞ!ぜってー離すなよ!!」


オリオンは、シリウスと私をポンポン叩いて言った。そして、そのまま校舎の壁をよじ登り始めた。私は時々“すごい、すごい”と言いながら、オリオンを見て、そして周りを見た。オリオンは、私たちなど軽がると持ち上げてしまうほどの力持ちだった。


「あっという間に2階の窓だ。やっぱりオリオンはすごいな〜。」


シリウスはオリオンに顔をすり寄せながら言った。


「じゃあ、シリウス!入れよ。」


「うん!」


シリウスは器用に前足で窓を開けると、そのままスルッと教室に入って行った。


「お前も入れ!」


オリオンは私の背中を少し押して言った。


「ありがと!」


私はお礼を言うと、シリウスに続いて教室に入って行った。その後にオリオンも入って来た。


「え〜っと、小春の席は・・っと!あ、あったよ!」


私は小春の席を見つけると、2人に声をかけた。


「中にあるか?」


オリオンはこちらに向かいながら尋ねた。


「ん〜、ううん。何にもないよ?」


私は机の中をゴソゴソしながら答えた。


「そっか・・・。ここにはないのか〜。」


オリオンは、近くにある机の椅子に座り込んだ。


「でも、窓開いててホントに良かったね。」


シリウスもこちらに向かいながら、笑顔で言った。


「う、うん!」


私も笑顔でそう返した。開いていて良かったと思ったからだ。しかしそれと同時に、私が本当にドジだということが分かってしまったので、なんだか複雑な気持ちになった。




ドサッ______




「ん!?」


私の近くで、何かが倒れる音がした。


「お、おい!シリウス!?」


なんと、オリオンの視線の先には、シリウスが倒れていたのだ。


「シリウス!?シリウス!!」


私はシリウスの体を揺すって、名前を呼びかけた。


「あ・・・。」


私は手を止めた。オリオンはそんな私を見て、


「楓・・?」


「熱い・・。オリオン、熱いよ!」


「まじで!?熱かよ・・。」


シリウスは熱を出してしまったらしい。


「そういえば、ここに来る時から、何かおかしかったかも・・・。」


「あー。そういえばそうだな・・・。何だか静かだったな・・。」


「早く帰らないと!!」


私はそう言ってシリウスを持ち上げようとした。


「待て!動かさない方がいい・・。」


オリオンは私の手を止めて言った。


「でも・・・。」


「どうせ医者にも連れて行けねえんだ。途中で戻ったら大変だからな!だったら下手に動かさない方がいい。」


オリオンは珍しく真剣になって言った。


「ここで待ってろ。今から薬持って来てやっから!!」


「うん。」


そう言って、オリオンは窓から外に出て行った。教室の中は、熱に苦しむシリウスと、それを見ている私だけになった。


「・・もっと早く気づいていたら、こんな事にならなかったのにね。」


私は、シリウスの頭をなでながら言った。


「気づかなくてごめんね・・・。」






 20分くらい待ったところで、やっとオリオンが帰って来た。


「よし、これは効くぞ〜。」


オリオンが手渡した薬を、水と一緒にシリウスに飲ませた。だんだん効いてきたみたいだ。


「良かった。少し治まったみたい・・。」


私がホッとしていると、


「じゃあ、帰っか!!」


オリオンは明るく言った。そう言うと、オリオンはシリウスに毛布を巻きつけた。


「外は寒いからな・・・。」


 オリオンは、シリウスを抱き上げると、窓に座った。そして、右腕のペンダントが少し光ったかと思うと、次の瞬間には窓の外で空中に浮かんでいた。


「えええええ!?」


私は、驚いて窓に身を乗り出した。


「ほれ!来いよ!!」


オリオンは私に右手を差し出した。私はまた「?」の顔をしたまま、わけも分からず差し出された手につかまった。その瞬間、私の体はフワッと浮かび、空中を漂っているのだった。


「すごい!こんな事もできるんだ!!」


「当ったり前だろ?俺たちを何だと思ってるんだよ。」


オリオンは、得意げに言った。


 そのまま上に上がり、町を空から見下ろした。そして、家の方に向かって進んで行った。


「あ・・れ・・・・?」


私はフッと思い出した。この光景は・・・?どこかで見たことがある気がする。あれは、芽衣の家に泊まった夜に見た夢そのものだった。




___風の涼しい、きれいな三日月の夜。私は誰かに手を引かれ、自分の町の上空を飛んでいる。・・・誰かに手を引かれ。しかし、それが誰なのか、私にはすぐに分かった。・・・・




“オリオンだ”____






 「・・・おーい!おい!!聞いてっか?何ぼーっとしてるんだよ!」


オリオンの声だ。


「え?あ、ああ・・。ごめん、ごめん・・。」


「お前も熱とかないだろうな・・・。」


「ないって!!」


私はバシッとつっこんだ。


「さっきこれ使えば良かったのに・・。」


私はオリオンに嫌味っぽく言った。


「あ、あんなところで力使う事ねえって思ったんだよ!!///」


オリオンはぶっきらぼうに言った。


「忘れてたんでしょ?」


私はニヤッとして言った。


「うっせえ!!///」


オリオンはプイッと顔を背けた。


「・・あはは・・。」


シリウスは弱く笑った。


「あ、シリウス起きたんだ・・。」


私は優しく言った。


「何だよ。さっきと全然態度違うじゃねーか・・・///」


オリオンはいじけて言った。


「ねえ、シリウスってどこに住んでるの?」


私は話を変えて、オリオンに尋ねた。



「あ〜。それが言いにくいんだけど・・・。」


オリオンが言葉を詰らせている。


「え〜、何?どこどこ?」



「それが、お前ん家の屋根の上なんだ・・・。」


「・・・・ええええええええ!?」


私は声を上げながら、今日はつくづく絶句が多いなと思った。


「こいつには家がねえんだ・・。」


オリオンは、抱いているシリウスを見ながら言った。


「知らなかった・・。そんなに近くにいたなんて・・。」


私は驚いて、あまり声が出なかった。まてよ・・。じゃあオリオンは・・・?


「まさか、あんたも・・・?」


恐る恐る、私はオリオンに尋ねた。


「ち、ちっげーよ!!俺は前にもここに来た事があるんだから、家ぐらいもってら!」


オリオンはムキになっていたので、隣でホッしていた私には気づかなかった。


 シリウスの家(正確には私の家)まで来ると、ゆっくり降りて、シリウスを降ろした。


「お前、そこでシリウス見てろ!俺は、水瀬の家の方見てきてやるから。」


「あ〜。ありがとね!」


「じゃあ、頼むぞ!」


そう言い残すと、オリオンはスイッと空に消えて行った。


「シリウス・・。早く元気になるんだよ?」


私はまた、シリウスの頭をなでながら話しかけた。


「珍しく、あのオリオンも優しいんだか・・ら・・・・・。」












 少したって、オリオンが帰って来た。


「・・あれ?誰も俺の事待っててくれてないし・・・。」


オリオンは、すっかり眠っているシリウスと私に向かってつぶやいた。


「しゃーねえな・・・。」





そう言いながら、柔らかい笑顔で笑うのであった_______。











とうとう2人が本当の姿を現しましたw

これからロキ探し、どうなるんでしょう・・・。

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