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第2章・不思議な転校生


声が聞こえる___________。




「・・・・楓・・楓!・・・・・かーえーでー!!」


「うわ!!」


私は思わず布団から跳ね起きた。芽衣が耳元で叫んでいた。


「楓、やっと起きた〜。ずっと声かけてたのに・・・。」


「ふわぁ。ごめん、今起きるね!!」


私はあくびをしながら布団をたたむと、芽衣と一緒に階段を下りた。もう朝食が机に置いてある。


「ひゃっほう!!卵焼き!!!」


芽衣は卵焼きが大好きらしい。私も好きだ。


「芽衣のお母さんは料理上手だね〜。」


私は、卵焼きを口に入れた。


「いやいや・・。私も負けてないよ〜。」


芽衣はだんだん大きな声になって自慢げに言った。


「な〜に、生意気なこと言ってんのよ〜!」


芽衣のお母さんは、笑顔でそう言うと


「あら!?もうこんな時間!あなたたち遅刻するわよ!!」


「うわ!?やばいよ・・芽衣!」


私と芽衣は「いってきます!」と言って、玄関から飛び出していった。


「楓の家って学校から遠いんでしょ?大変じゃん。」


「はは。でも、毎日走って運動になるから。」


私は笑顔でそう答えた。


私は芽衣の家族が好きだ。みんながいつも笑顔で、私が家で何かがあると家族じゃない私でも、暖かく迎えてくれるのだ。


だから、私もこうやって笑顔でいられるのだと思う。







学校に着くと、もうほとんどの人が来ていた。


「おはよ!」


私は、後ろで友達と話している隼に挨拶した。


「おっす!菜樹はまだだぞ・・。」


隼は菜樹の席を見ながら、笑って言った。まあ、いつものことだ。


「今日は全校朝会があるんだってさ。昨日の転校生のことだろ?」


「多分ね〜。菜樹早くしないと、朝会の日はいつもより早いのに・・・。」


「全く、これだから遅刻魔は・・・・・。」




ガタッ



「うわ!?」


いきなり隼の椅子が傾いたかと思うと、そのまま倒れて隼はしりもちをついてしまった。


「誰が遅刻魔だってぇ〜・・・。」


その後ろで菜樹が、椅子をつかんで立っていた。


「菜樹〜。遅いよ!もうすぐ全校朝会だよ?」


「ん?ああ・・。時計が止まっててな・・。」


菜樹がかばんをおろしながら言った。隼は背中に手を当てて、起き上がると


「ホントかよ・・。」


と、苦笑いで言った。






体育館はいつも以上にざわついていた。当然だ、転校生が来ることは全校中に広まっていたのだから。


「今日は転校生を2人紹介します。」


教頭先生が2人の生徒を連れて、ステージに上がった。


「ねえ・・・。」


私はヒソヒソ声で隼に話しかけた。


「ん?」


「転校生って2人だったんだ・・・。」


「あの時は1人しかいなかったのにな・・・・。」


「女の子は小春ちゃんでしょ?じゃあ、もう1人の男の子はどんな子だろう?」


私はワクワクしながら、前を向いた。


「水瀬小春です。よろしく・・・。」


小春ちゃんは相変わらず、物静かだ。


深見空雅(フカミクウガ)です。よろしくお願いします。」


明るい笑顔で挨拶をした、スラッと背の高い人・・・。どこかで見たことがあるような。


「水瀬さんは3C、深見君は3Dでこれから一緒に過ごしていきます。」


校長先生は笑顔で話していた。


挨拶をし全校朝会が終わると、またざわつきが戻ってきた。私たちは教室に帰る途中で話していた。


「こっちのクラスにも来るなんて、思わなかったな・・。」


菜樹は腕を組んで、そう言った。


「どうしたんだ?楓。」


隼は私の肩を叩いて言った。


「え?ああ・・・。何か、どっかで見たことがあるような気がするんだよね〜。」


私はそれがずっと引っかかっていた。


「男の方か?」


菜樹は不思議そうに尋ねた。


「うん・・。」


「気のせいだろ?だってあんなヤツ、この辺りにいなかったもんな。」


隼は、あんまり気にしていないらしい。


「そうかなぁ・・。」


私は結局教室に入るまで、ずっと考えていた。







大貫先生が空雅を連れて、教室に入ってきた。さっきまでのざわつきは少し静まり、みんなが先生の言葉を待っていた。


「さっきも朝会で紹介があったが、このクラスに来るってことで改めて自己紹介してもらう。」


先生はそう言うと、廊下に立っていた空雅に手招きをした。

空雅はドアの前で一礼すると、静かに教室へ入って来た。クラス全員が、静まり返っている。空雅は先生の横まで来ると、みんなに朝会のときに見せたあの笑顔を見せた。

「かっこいい」や「可愛い」という声が聞こえてくる中、私はまだ考え込んでいた。




「深見空雅です。まだ知らないことばかりですが、早くこのクラスになじめるように頑張ります。」


空雅はずっと笑顔で話している。


「あの、笑顔・・・何とかなんないのか?」


菜樹がぼそっとつぶやいた。


「あれ・・?」


私は空雅を目で指して言った。菜樹は小さくうなずき、


「苦手だ・・・・。」


と、参ったようにつぶやいたのが、聞こえてきた。その声をかき消すように先生が、


「深見は〜・・・・・。」


と、言いかけたとき




「僕・・、天川さん・・・あ、天川さんの隣がいいです!」




いきなり、空雅が大声で言った。


「な、何で〜!?」


私はつい、立ち上がってしまった。


「え?何か理由があるのか?」


先生はびっくりして尋ねた。


「あ・・、いや。天川さんの隣がいいなと思って・・///」


空雅は頭をかきながら、照れくさそうに言った。


「じゃあ、楓の隣でいいな。」


先生はそれを見て、笑顔で言った。


「え・・、いいんですかね・・・・?」


私は呆れてそう言いながら、また座った。空雅は私の隣までくると、


「よろしく、天川さん。」


そう言って、かばんをしまっている。


「よ、よろしく・・・。」


私は戸惑いながらも、軽く頭を下げた。


「じゃ!ホームルーム終了〜。」


先生は出席簿を振りながら教室を出て行った。

その後も、私はただ一人考えていた。







「・・・・ああ!!」




やっと思い出した。



「え?どうしたの?」


空雅は驚いて、手が止まった。


「思い出した・・。」


そうだ、スラッとした高い背丈。さわやかな笑顔。どこかで、見たような気がしていたのだ。気のせいなんかじゃない。あのとき、あの場所で・・・・・。


「橋で・・会った?」


私は空雅に指を指して尋ねた。空雅はニッコリして、


「橋?」


「う、うん。草むらから・・出てきた人?だよね?」


空雅は、私の言葉に少しも驚かなかった。


「言ったでしょ?天川っていう子に会う予定だったって・・・。」


空雅はそう言って、こっちを見ている。


「何で?どうして私なの?」


私は気になって、気になって仕方が無かった。


「何ででしょうね〜?」


空雅はわざと明るく振舞っているように見えた。そこへ、隼がやって来た。


「おっす!俺は隼。よろしくな!」


隼は空雅の肩をポンポン叩いている。


「おーい。何でお前、よりによって楓の隣なんだよ・・・?」


菜樹が間に入って、空雅に尋ねた。


「そうだ、どうして?」


それは私の聞きたかった。


「いや、顔見知りだし・・・。頼りになりそうだから・・・///」


空雅は目を泳がせながら、そう答えた。




キーンコーンカーンコーン_______。



「やっべ・・。俺、かばんしまってないよ〜。」


隼がそう言いながら、席に戻って行った。


「1時間目って、数学だったよな?」


菜樹はまだ空雅を横目で見ながら、私に尋ねた。


「う、うん!そうそう・・。」


私は苦笑いしてそう答えると、教科書を机の中から取り出した。

私は授業中も、空雅のことが気になっていた。どうして、私なのだろうか・・。


放課後の教室で、思い切って聞いてみることにした。丁度、二人きりだ。



「空雅・・。何で私の隣に来たの?」


空雅はかばんを片付けていたのだが、急に手を止めキョトンとした顔でこっちを見た。そして、少しの沈黙が流れた後、空雅はハッとしたように話し始めた。


「・・ああ。言ったでしょ?天川っていう子に会う予定だったからだよ。」


「それは、聞いたから分かるよ?でもさ、なんで私に会う予定だったの?」


私はどうして「会う予定」というのが、決まっているのかが分からなかった。空雅は少し考えると、私の前まで来て言った。


「君に初めて会ったとき、“空から来た”って僕言ったよね?それね、冗談じゃないんだよ。ホントのことなんだ!」


空雅の言葉には熱が入っているようだ。私は黙ってうなずくしかなかった。


「僕は、空・・と言うより、ん〜あえて言うなら宇宙かな?宇宙から来たんだよ。」


何を言ってるんだ・・この人は・・・・。



「はっきり言うと、僕は星座なんだ!!」



「はあ!?」


こればかりは黙って聞いていられない。


「意味分かんないことばっか言わないで!!からかってるんでしょ!私、これから菜樹ん家よらなきゃいけないの。じゃあね!!」


私は思いっきり椅子を入れると、急いで教室を出た。


「空雅なんて、知らない!!」


私は帰りの道で、そんなことを言いながら菜樹の家に向かった。


「そもそも、空から来たって言うところからおかしいんだって!ストーカー?絶対変だよ・・。」








菜樹の家が見えてくると、何だかホッとした。


「お!楓か〜。入れよ。」


菜樹の家は平屋だ。今はお祖父さんとお祖母さんと3人で暮らしている。お父さんとお母さんは、仕事で海外に行っているのだそうだ。


「私、菜樹の家の匂い、大好きなんだ。」


「そうか?そんなにいい匂いがするもんかね〜・・。」


「するする!何だかね、懐かしい匂いがするんだよ。」


私は上を見上げて言った。菜樹はそんな私を見つめながら、こう言った。



「楓・・・何かあった?」


「え?あはは・・何言ってるの?ないない、な〜んにもないよっ!!」


「そ、そうか・・?」


と、菜樹は心配そうに言った。


「うん。あ!そういえば、菜樹!」


と、私は明るく言った。


「今日教室で、空雅の事“苦手”って言ってたでしょ?あれ、どうして?」


私は座って尋ねた。


「ああ・・。あいつさあ、なんか笑顔を自分で作ってるような感じがするんだよなあ・・。」


菜樹もそこに座り込んだ。


「作り笑顔・・・?」


「ああ・・。なんか、そんな感じがするってだけだけど・・。」


「私は、分からなかったな〜。」


そして、菜樹はまたぼそっとつぶやいた。


「苦手だ・・・。」


「そっか〜。菜樹はすごいね!」


と、私は笑顔で言った。


「そうか・・?」


と、菜樹はへらっとして言った。


「うん!鋭いんだもん!!」


私はそんな菜樹の肩をポンポン叩きながら言った。


「いてーよ!」


菜樹が言った。しかし、私の顔を見て急に真剣な顔になった。そして、





「楓、絶対何かあったろ・・・。」














 私が菜樹といると、心の奥まで見られているような変な気分になる時がある。それは、菜樹が真っ直ぐ私を見つめていて、しかも私の考えている事をぴったり当ててしまうからなんだと思う。


そして今、私はまさにそんな気分なのだ。



「な、菜樹・・・・・・?」


「楓、ホントに笑ってないだろ・・。」


「え・・?」


「楓、芽衣の口癖知ってっか?」


「え?どうして・・?」


私はどうして菜樹がそんな事を言うのか分からなかった。


「いいから!」


菜樹は強く言った。


「あんまり考えたことなかった・・・。」


「・・“後悔しないで”・・・・。」


「え?」


「芽衣は自分が後悔したくないし、周りのみんなにも後悔して欲しくないんだ。」


菜樹は私の目を見てそう言った。そして、静かに話し始めた。


「俺さあ・・芽衣に聞いたんだけど。昔芽衣が朝、目が覚めたら急に頭が痛くなった日が1回だけあったらしいんだ。その時はまだ芽衣の兄貴は生きていて、そんな芽衣の様子を兄貴が見に来てくれたんだそうだ_____。」





___どうした?大丈夫か?芽衣。


___なんかね、頭がズキズキするの・・。


 芽衣は布団をかぶったまま、そう兄貴に言った。


___俺さ、今日は大事な用事があるんだ。だから行かなくちゃいけないんだよ?


 兄貴は優しく、芽衣に言った。


___そ・・そうなの?大事な用事なの?


  芽衣は布団から顔を出して言った。


___そうさ!とっても大事な用事!!



  兄貴は明るく笑ってそう言うと、立ち上がった。その時、芽衣はすごく嫌な予感がした。兄貴が遠くに行ってしまうような、そんな気持ちになった。そう思うと、芽衣は兄貴の上着のすそを引っ張って、


___お兄ちゃん!今日はここにいてよ!どこにも行かないで!お願い!!私の側にい      て!!!


___大丈夫・・。芽衣は強いから、俺がいなくても平気だろ?ちょっと出かけてくるだけだ   から・・・・。





「_________芽衣は兄貴の笑顔を見ると、何も言えなくなってしまったんだ。兄貴は、芽衣の頭をなでると最後に玄関で手を振って、それから・・・。」


「それから・・・・?」


「それから、芽衣がどれだけ待っても、どれだけ呼んでも、兄貴は戻ってこなかったんだ。途中で、車が突っ込んできて、それで死んじまったんだ・・・。」


「・・・・・・・・・。」


「その日は、芽衣の誕生日で・・・兄貴は芽衣の誕生日プレゼントを買いに行っていたらしい。手には、ピンクの手袋を握りしめてたって・・・・。」


気づいたら、菜樹はうつむいていた。


「菜樹・・菜樹〜〜・・・・。」


私は菜樹の前で、しゃがみ込んで泣いてしまった。芽衣にこんな過去があったなんて知らなかった。芽衣はいつも明るいけど、そこまでは話してくれなかったのだ。


「楓・・。」


お兄さんはどうして、芽衣の言うことをしっかり聞いてあげなかったんだろう。私が芽衣の立場だったら、“どうしてお兄さんを止める事ができなかったんだろう。どんな事をしてでも止めていれば、何かが変わっていたかもしれないというのに・・。”と、きっと思うだろう。もしかしたら芽衣も、今までこんな気持ちと戦ってきたのかもしれない。


「楓?」


菜樹が呼んでいる。私は声が出ない。私は今、芽衣のお兄さんと同じ事をしているような気がする。そうだ。私は空雅の話を聞いてあげなかったではないか。


「ど、どうしよう・・・私、最後まで話・・・・・聞いてあげられなかった・・。」


私はどうして気づかなかったんだろう。空雅があんなに真剣な顔で、真っ直ぐ私の目を見ていたのに。聞いてあげるくらい、私にだってできたのに・・。私は空雅にひどいことをしてしまったんだ。


「まだ後悔するのは早いんじゃないのか?」


菜樹は私の顔を見て言った。そうか、空雅に謝らなくちゃ・・。

そして、話を聞いてあげなくては・・・。


「ごめん、菜樹!私行ってくる!!」


私はそう言うと、菜樹の家を飛び出して、急いで学校に向かった。





「勝手に話してごめんな・・。芽衣。」


菜樹は1人になると、座り込んでそうつぶやいた。





「菜樹は何でも分かっちゃうんだなあ・・・。」


私は走りながら参ったように笑うと、今度は心配になって


「空雅、まだいるかな・・・?」


そうつぶやいた。










学校は静まり返っている。



ガラッ



教室のドアを勢いよく開けた。そこには黒板を消している空雅がいた。


「忘れ物?天川さん。」


空雅はこっちへ来ながら尋ねた。


「ううん。ちょっと、空雅に・・・。」


息が切れている私に空雅は


「ちょっと、座りなよ・・。」


と、優しく言った。


「また泣いた・・・?」


空雅は私の顔を見て言った。


「ん?いやいや・・。そんな事より、空雅。さっきの続きを聞きに、私ここへ来たの。」


私はニッコリして空雅に言った。空雅は始めは少し驚いたように


「え!?あ!!そうなんだ・・・。でも、信じてくれるの?」


そう心配そうに言った。



___“後悔しないで”



私は、少し考えて


「それは、聞いてから決める事にしたの!」


と、顔を上げて言った。空雅は急に笑顔になると、静かに話し始めた。


「空を見上げるとたくさんの星があるよね?その星たちをつなぐ、星座というものがあるでしょ?これは昔、神様が人間や動物を星に変えたものなんだ。」


「神様が変えたんだ。」


「そう。僕も星に変えられた中の1人なんだよ。まあ、1人っていうより1匹って言った方があれなのかな?」


空雅はそう言って1人で笑っている。


「1匹・・・?」


私は空雅の表現の意味が分からなかった。


「うん。僕は犬の星座なんだ。大犬座。」


空雅が、何だか嬉しそうに話しているので、私も聞くのが楽しくなってきた。


「大犬座は、何で星になったの?」


私は空雅のすぐ前まで来て、そう尋ねた。


「あはは・・。それがね、昔の話なんだけどさ。その頃、誰にも捕まえる事ができないキツネがいてね____。」





そのキツネは毎日畑の野菜を食べてしまったり、花を荒らしたりと・・いたずらばかりしていた。しかし、キツネを捕まえようとすると、すぐ逃げてしまい、誰にも捕まえる事ができずにいたのだ。

そんなある日、


___この犬を使おう!


   と、ある村人が言った。その犬とは、どんな獲物でも絶対に捕まえる事ができる、そんな足を持った犬だったのだ。


___“絶対に誰にも捕まえる事ができないキツネ”と“絶対に獲物を捕まえる事ができる    犬”か・・。面白い。このキツネには、困っていたところだ。やってみろ。


   そう、王様が言った。



    さっそく、その犬にキツネの匂いをかがせ、キツネを見つけると、犬は走り出した。キツネも犬に気づくと、走り出した。キツネはとても足が速い。しかし、犬もとても足が速い。こうなると、もう誰も止める事はできない。2匹はいつまでも走り続けるのだった。


___さてどうしたものか・・。


   と、頭を悩ませていたのが、大神ゼウスだ。しかし、どうにかして止めなくていけない。そこで、2匹を石に変え、今まで悪さをしてきたキツネをそのままにし、人のためにキツネを追いかけた犬を、空に打ち上げ、星に変えてあげることにした。




「____そして、その犬が僕ってわけさ!」


空雅の説明を聞いていた私は、


「え?で、空雅はどうしてここに来たわけ?」


と、尋ねると


「ああ・・。それを言ってなかったね。僕は星座の世界では“シリウス”と呼ばれているんだ。つまり、“深見空雅”っていうのは人間の姿の時に使う、仮の名前って事!」


と、明るく言った。


「“シリウス”・・・?」


「うん!他にもいるよ?“スピカ”や“アルタイル”、“ポルックス”や“アンタレス”ってね!みんなその星座についている星の名前なんだ。」


聞いた事のある星の名前もあって、私は早く続きを聞きたくなって言った。


「すごい!で?続き、続き!!」


「お!食いつきがいいね。・・・その星座の世界に、ある日大事件が起こったんだ____。」




___おい、シリウス!ロキ、見てないか?


___え!?いないの?・・知らないなあ。


___おかしいな・・・。お前の所にいると思ったのに・・。


   “ロキ”というのは、子犬座の事だ。名前の通り小さな子犬で、僕の兄弟のような存在だった。オリオン(仲のいい友達)の話では、そのロキが、いきなりどこかへ行ってしまったらしい。


___ロキ〜!ロ〜キ〜?


___お〜いロキ!!もうご飯だよ〜?


  ロキは1日中どこを探しても、いなかった。


___大神ゼウスの所へ行こう!あの人なら、何か知っているかもしれない・・。


  それから、僕たちは大神ゼウスの所へ向かった。大神ゼウスはみんなが小さい頃から、ずっとお世話になっている。みんなのお祖父さんのような存在だった。


___ゼウス!ロキがどこへ行ったのか、知りませんか?


  そんな僕たちの言葉に、神様は黙ったまま静かに手を出して、そのまま下を指差した。


___え!?どういうことですか?


  僕は大きな声で言った。


___そのままの意味だよ。あの子は地球に行ったんだ・・・。


  大神ゼウスは悲しそうに、そう答えた。


___そんな・・。どうして?何の用事で・・?


  スピカが下を見て言った。


___たった1人で、行ったんだ。きっと相当な事じゃないと行けないよ。


  大神ゼウスは立ち上がってそう言うと、次は僕の前までやって来て、


___シリウス。お前が探しに行くんだ・・。きっと、ロキは人間になって向こうにいると思う。だから、お前も人間になって、探すんだよ?


___そんな・・!?1人でなんて無茶ですよ!!


  と、ベガが驚いて、大神ゼウスに言った。


___これも、修行の1つだ。お前たちも地球に行って、修行をしただろう?


  と、大神ゼウスは当たり前のように答えた。


___でも、シリウスはまだ・・・。それにロキを探すとなると・・。


___たしかに。シリウスは地球に行くにはまだ早い年かもしれない。だが、シリウスにはで   きる、わしはそう思うんだよ・・。


  大神ゼウスの言葉に、みんな黙ってしまった。


___僕頑張ります!神様。絶対、ロキを連れて帰ってきます!


  僕はそう心に決めた。


___向こうで、仲間を作って一緒に探しなさい。お前が星座だという事は、その仲間以外、   誰にも言ってはいけないよ。


___はい!!






「____と、言うわけなんだ・・。複雑だけど、分かった?」


空雅は難しそうな顔をして言った。


「じゃあ、私は空雅と協力して、その“ロキ”を探せばいいんだね?」


私は明るく言った。空雅はそれに驚いたようで、


「あ・・え!?」


と、少し嬉しそうだった。


「私、信じてみる事にしたんだ!」


私はそれを見て、笑顔で言った。


「じゃあ、一緒に帰ろうか!」


空雅もご機嫌のようだ。






 私と空雅は、帰り道で空雅の故郷について話した。そこで分かったのが、星座の世界には仲間がたくさんいるという事。その中には悲しい過去を持った人たちもたくさんいるという事。それと、


「僕はね、冬の星座なんだ。だから、冬になる前にロキを連れ戻さなくちゃいけないんだ。」


空雅は真剣に言った。


「そっか、じゃあゆっくりって訳にはいかないんだね?」


「そう。だから、こうやって天川さんに手伝ってもらおうってなったんだ。」


「へ〜・・。あ!」


私は思い出したように言った。


「そういえば、どうして私の隣の席に来たの?」


空雅は小さく「あ・・。」と言って照れくさそうに言った。


「僕、学校へ行ったことがないんだ。だから、ちょっと心細くて・・・///」


「え?学校に行ったことがないの!?」


と、私は驚いて大きな声になってしまった。


「うん・・。僕がいた所には学校がなかったから・・。」


空雅は苦笑いで言った。


「それに、隣だと何かと便利だし!」


そして、付け足したように明るく言った。


「そっか!だから私なんだね!!」


私は納得して言った。




 いつもの踏み切りまでくると、空雅が


「じゃあ、僕こっちだから!」


と、私と反対側を指差しながら言った。


「私はあっちだから!じゃあ、また明日ね〜。」


私は空雅に手を振ると、踏み切りを渡って家に向かった。





家の中は明るかった。私以外の家族の声がする。


「ただいま・・・・。」


私は明るい家とは反対に、暗い気分で玄関のドアを開けた。昨日の事があってから、家に帰ると気分は最悪だ。


「誰も気づかない・・かぁ・・・・。」


私はへへへっと小さく笑うと、そのまま階段を上がって部屋に向かった。そして、そのままベッドに横になった。


「うわあ〜・・。今日は、頭に入れること多すぎだ〜・・。」


そうつぶやくと、ス〜っと体の力を抜いた。


「でも・・、引っかかってた事が分かったから・・何だかスッキリしたみたい・・・・。」



そこまで言うと、私はそのまま眠りについた_______。


























 私が目を覚ましたのは、5時くらいで、外はもう明るかった。ふと下を見ると私の体には布団がかかっていた。


「あれ・・?私布団かけて寝たっけな?」


不思議に思ったが、早く起きたのでベランダに出て、深呼吸をした。朝の涼しい風が吹いていたこともあり、何だか落ち着いた気分になった。できれば、家族に会わないで学校へ行きたい。しかし、それは難しい事だと思う。朝食を抜くというような気にはなれないし、下に行かないと外に出る事はできないからだ。


「しょうがない・・か。」


私はそう言って、階段をゆっくり下りて行った。

 下に下りて、リビングに入るとまだ早いのに母が朝食を作っていた。


「あら、楓。おはよう。」


母は優しく言った。


「おはよ・・。」


私も、とりあえず返した。


「今日は早いのね。何かあるの?」


母は、私に背を向けたまま話かけた。


「ううん。早く起きちゃって・・・。」


私は目を擦りながら答えた。私は早い朝食を食べて(ご飯やおかずが出来立てで、温かい気持ちになった。)それから小さく「行って来ます・・。」と言って家を出た。


 時期的にはもうすぐ秋なのかもしれないが、外はまだまだ夏の空気が漂っていた。電車が来ない踏み切りは、静まりかえっている。気持ちの良い風が吹く中、私は学校に向かった。







 学校が見えると、気分が少し明るくなる。友達がいれば、もっと明るくなるんだろうが、今日は人の気配さえ感じなかった。そのままゆっくり階段を上がり、教室に向かった。(途中の水道をうっかり通り過ぎてしまい、また少し戻って髪を整えた。)教室のドアを開け、私は中に入った。


 静かな教室は、前にも味わったことがある。たしか、夏休みが終わって最初の日だった。あの時は、珍しく菜樹が早かったんだよなあ・・。あと、隼がドアで頭をぶつけてたっけ?そうそう、転校生が来たからだったよね。小春と空雅だ。


「空雅って、本当に空から来たのかなぁ・・。」


私はポツリとつぶやいた。


「でも、あんな嘘ついたって何の得もないよね〜・・。」


私は窓を開けて、朝の風を教室に入れた。


「真剣に話してたみたいだし・・。」


そう言って、自分の席に座った。


「あ〜、私、信じてみるって決めたじゃん・・。」


私はいきなり思い出したように言った。そこへ、



「あ、おはよ・・いたんだ天川さん・・。」


空雅だ。


「うわ!?く、空雅!?早いね。」


私はものすごく驚いた。


「1人で何してたの?天川さんは1人にすると、すぐ泣いちゃうからなあ・・。」


空雅は私を少しからかっているようだった。


「そ、そんなに泣いてないって!」


私はそう言って、手を振った。


「面白いなあ・・・。天川さんは・・・・。」


空雅はスクスク笑いながら言った。


「ねえ、空雅〜。」


「ん?何?」


「あのさ、“天川さん”って止めない?」


私は、ずっと気になっていた。


「え?何で・・・?」


空雅はキョトンとしている。


「だって、みんな呼び捨てだし・・。それに、これから一緒にロキを探していかなくちゃいけないでしょ?」


私は笑顔でそう言った。空雅はそんな私を見て、嬉しそうな顔をしていたのだが、その後少し考えて言った。


「じゃあ、何て呼べばいいの?」


「“楓”でいいって!」


私はまだ笑って言った。


「・・・・・・・・・・・。」


空雅は黙り込んでいる。


「・・・どうしたの?空雅。」


私は空雅の顔をのぞき込んだ。空雅は何だかすごく考え込んでいるようだ。


「そんなに悩まなくても・・・・。」


と、言いかけたその時。


「かえ・・で・・?」


空雅が何かを言いかけた。それを聞いた私は、


「え?何って・・?」


と、言うと空雅は大きく息を吸って、


「か、楓!!!」


と、大声で言うもんだから、


「うわ!?」




ガタガタガタン______



「・・・・・。」


「・・・・・。」


「・・・・大丈夫?」


空雅は倒れた椅子やずれた机を整えながら、私に尋ねた。


「・・・はは。」


「え!?」


空雅は少し驚いた。


「あはははははははは・・・。」


私は転んだままいきなり笑い出してしまった。


「な、何で笑うの!?」


と、空雅は私の隣まで来て言った。


「ははは・・だ、だって・・空雅が・・あははははは。」


私はなかなか笑いが止まらない。


「一生懸命なんだもん・・・はは。」


面白い。空雅がこんなに面白い人だったなんて。


「そんなに笑わなくてもいいじゃんか・・。」


空雅はシュンとして小さくつぶやいた。


「ごめん、ごめん・・。空雅は面白いね〜。」


私はまだ少し笑いながら言った。


「どこがだよ〜・・。」


空雅も参っているようだった。



ガラガラガラ_____。



「おーっす!」


隼が元気よく入って来た。


「隼!おはよ!」


私と空雅は一緒に言った。


「おはよ・・。」


この声は、隣のクラスの小春だ。私は小春の席まで来ると、大きな声で言った。


「おはよ!小春!!」


「あら・・、楓。おはよう・・。」


小春はいつものように、物静かな雰囲気を漂わせていた。


「ハロー!!」


一緒に隣のクラスの芽衣が教室までやって来た。


「芽衣!おはよ〜。」


私は嬉しくなって、抱きついた。そのすぐ後ろから、


「おはよー!」


これは珍しい。なんと菜樹だ。


「おいおいおい・・。今日はヤリでも降るんじゃないだろうな・・。」


隼が菜樹を見ながら言った。


「うっせえ!」


菜樹は短くそう言うと、ささっとかばんを片付けてしまった。


「深見・・・・お前、何してんだ?」


いきなり、隼が空雅を見て言った。


「へ?」


空雅がこっちを向いて言った。


「けっさくね・・・。」


小春が言った。


「く、空雅・・どうしたの・・・・?」


私は自分の目を疑った。ここにいるみんなが、空雅を見ている。


 



それは空雅が、今まで作ってきた笑顔とは違い、自然に出てきたような・・そんな笑顔で立っていたからだ_______。









ありがとうございました!

次話もよろしくお願いしますw

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