第1章・星空からやって来た少年
「楓〜!!起きなさい!!」
1階から母の声がした。そうだ、今日からまた学校だったんだ・・・。私は急いで制服に着替えると、階段を下りた。
「おはよぉ。」
私が眠そうに言うと、
「おはよ!」
妹の琴音はばっちり目が覚めているようだった。
「早いね、琴音は。」
「楓が遅いんでしょ?もうこんな時間だし・・・。」
「い!?」
時計を見ると、もう7時。
「やばい・・。遅れる!!」
私はパンを押し込み、牛乳をいっき飲みすると、かばんを持って「いってきます」を言いながら家を出た。
「どんなに遅れても、朝食だけはしっかり食べてくんだね〜。」
琴音は笑いながら、感心して言った。
外に出ると、雲1つない快晴。また学校が始まると思うと嬉しくて嬉しくて、かけ足で学校に向かった_______。
私は楓。中3の女の子。一応受験生なんで、夏休みも勉強を頑張りました。
さぁ。今日からまた学校だ。最後の中学校生活、これから何が起きるんだろう。
坂を駆け上がると、そこは学校だ。私は校門をすり抜け、校庭を横切り、校舎へ入った。下駄箱を見ると、まだ一人もいない。
「わあ!一番乗りだ!!」
私は何だか嬉しくなって階段を駆け上がった。水道の鏡をのぞきながら、少し髪を整えて、教室に入って行った。いつもなら、少し寂しい誰もいない教室も、今日は新鮮に見える。さっそく窓を開けて、顔を出した。なびくカーテンの音と、鳥たちのさえずりの声以外は、何も聞こえてこない。
「おっはよ!」
元気よく教室に入って来たのは、菜樹。私とはずっとクラスが同じで、とてもボーイッシュなのだ。
「あ、おはよ菜樹。早いね!」
「まぁな。新学期だしさ。」
「2学期のスタートだね!!」
「だな。あ〜あ、夏休み終わっちまったな〜・・・。」
「そうだね・・。でも!!」
「・・でも?」
と、菜樹は首をかしげて言った。
「学校が始まるよ!また、楽しくなるね!!」
私は両手でガッツポーツをして言った。そのとき、
「おい!転校生がくるんだってよ!!」
廊下を全速力で走り、思いっきりドアにぶつかった隼が言った。そう言うと、隼はその場で座り込んでしまった。
「え!?男?女??」
私は隼の腕を引っ張って、起こしながら尋ねた。
「分っかんねえ・・・。でも、隣のクラスに来るってことは確かだぜ?」
隼はフラフラしながら答えた。
「つか、お前大丈夫?」
菜樹が心配して言った。
「大丈夫だって!だって隼は大きなニュースがある度にこれなんだから・・。」
私は隼を椅子まで連れて行って、笑いながら言った。
「菜樹は、遅刻魔だから知らないんだ・・。」
隼はため息をついて言った。
「まあまあ・・。とにかく。」
私がそう言いかけると、菜樹が大声で口をはさんだ。
「見に行ってみるか!!」
しかし、
キーンコーンカーンコーン_____
朝の会が始まるチャイムだ。
「あああ〜・・・。」
菜樹が言った。
「ちっ・・・。じゃあ放課後に職員室前集合!」
隼はかばんを片付けながら、大きな声で言った。
放課後、私たち3人は職員室前で集まると、扉のすき間から中をのぞき込んだ。
「おい!押すなよ・・・。」
隼が下の方から言った。
「あ・・・。ごめん、ごめん。」
私は体勢を立て直して言った。しょうがない、みんなで一緒にのぞき込んでいるのだから。
「菜樹、何か見える?」
と、私が訪ねると菜樹が目を細めて、
「ん〜・・そうだなぁ。お!知らない人がいるぞ〜。」
と言うと、隼はワクワクして尋ねた。
「どんな人?どんな人??」
隼は背が低くてよく見えないようだ。
「なんか・・女っぽいなぁ・・・。」
菜樹は目を凝らしながらそう答えた。
「どんな感じだ?」
隼はもうピョンピョン跳ねている。
「髪が長いな・・。背中の真ん中ぐらいまであるし。」
菜樹はそう答えると、もっとよく見ようと身を乗り出した。そのとき、
「うわ!!」
「え!?」
私と菜樹はバランスを崩して、中に倒れこんでしまった。
「おい・・。大丈夫かよ・・・。」
隼だけ後ろで跳ねていたので、倒れなかった。
「なんで、お前だけ倒れていないんだ・・・・。」
菜樹は少し怒ったように言った。
「ははは・・はは・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・?」
隼の笑いが止まった。それを見た私と菜樹が、後ろを振り返ると、
「な〜にやってんだ〜。お前ら〜。」
そこには嫌にニタニタした、担任の大貫先生が立っていた。
大貫先生は怒ってはいないようだった。むしろ、楽しんでいるように見える。
「今日で7人目なんだぞ・・お前らで・・・。」
どうやら、みんな同じようなことを考えているらしい。
「すいません・・。菜樹がどうしてもって言うから。」
と、隼が苦笑いして言った。
「おい・・。」
と、菜樹は隼をにらみ付けながらぼそっと言った。
「隼も行きたがってたくせに・・。」
私は隼を突きながら言った。それを見ていた先生は、軽いため息をついて
「お〜い、小春。こっちおいで〜。」
さっきまで、校長先生と話していた女の子がこっちへやって来た。
「水瀬小春・・・。よろしくね。」
「お〜・・。なんかかっこいいな。」
菜樹がぼーっとして言った。
「大人っぽいね!」
私は菜樹の方を見て言った。
「明日から、3Cの仲間だぞ。」
先生は笑顔でそう言うと、
「さあ!用は済んだだろ?出てった出てった!もう下校時刻だぞ!!」
と言って、押し出されてしまった。
私たちは仕方なく帰ることにした。もう夕日が見える時間だ。
「3Cってことは、やっぱり隣のクラスなんだね〜。」
私は少し残念がって言った。
「3Dにもこないかな〜。転校生・・・。」
隼は空を見上げて言った。
「あ、じゃあ、ここで!」
踏み切りまで来た所で、菜樹が手を振りながらそう言った。
「あ、じゃあね菜樹!」
私はそう言って、踏み切りを渡って行った。
「また明日な〜。」
隼は大声で言った。
「遅刻するなよ〜。」
菜樹は笑って言った。
「遅刻するのは、菜樹でしょ〜?」
私は踏み切りの反対側から、大声で言った。
「おい、帰るぞ。菜樹!」
隼が菜樹を引っ張っているのが見えた。
「じゃあね!ばいばい。」
私はそう言って、家へ向かった。
また明日も会える、それが分かっているときの「ばいばい」は、とても幸せな気分にさせてくれる。
そんなことはないだろうか________。
そんな気持ちで家に帰ると、
「ちょっと!帰るのにどれだけかかってるのよ〜!!忘れたの?今日は琴音の誕生日よ!今日はみんなで外食なんだから。早く支度しなさい。」
母がご機嫌に言った。
「え!?私の時は何にもなかったのに・・・・。」
「だって、楓の時はお母さんもお父さんも仕事で忙しかったんだもの。しょうがないでしょ?」
母は着替えながら言った。済んだ事はどうでもいいんだろうか・・。
妹の琴音は、昔から「可愛い」とか「いい子」とか言われてきた。それはそれで別にいい。
でも、私はいつもそう、ほめられないんだ・・・。
「琴音ちゃんは可愛いね〜。」
「琴音ちゃんは大人しくていい子だね。」
どうせ私は、可愛くないし元気がありすぎて大人しくもないですよ!私は小さい頃からそう思ってきた。
私なんてどうでもいいのかなあ。
「何ぼさっとしてるんだよ。早く行くぞ!」
父は車の鍵をとって言った。
「いい!私行かない!!」
「はあ!?何言ってんだよ、琴音の誕生日だぞ?」
「私、今日用事があるんだから!!」
つい、嘘をついてしまった。ただ、行きたい気分じゃなかっただけだ。そこに、琴音が来て、
「楓、来ないの?私、楓がいないとつまんない・・。」
と、下を向いて言った。
「ほら!琴音がそう言うんだから。その用事、琴音の誕生日よりも大事なの?」
「うん・・・。」
もう、どの言葉も嫌だった。
「楓〜、来てよお・・・。」
琴音が私の腕を引っ張った。
バシッ!!
「え!?」
私は琴音の手を振りほどくと、
「何よ!!みんなして、私がいなくても本当は楽しいんでしょ?私がいない方がいいんじゃない?」
私は大きな声で言った。
「楓・・・・・?どうしたの?」
琴音は驚いて父の後ろに隠れた。
「琴音だって、そうやっていい子ぶって!いいよね、可愛い可愛いって、いい子いい子って!!何にもしてないのに言われるんだもんね!!!」
私はもう何が何だか分からなくなってきた。何を言ってるか分からなくなる前にどこかへ行こうと思った。
「私、用事あるから!!」
私は走って、家を出て行った。
私は走りながら考えた。ホントは琴音だって、何もしていないわけじゃない。でも、いつも琴音だけがほめられるのが嫌で、勉強も部活も頑張ってきたんだ。それなのに、誰も分かってくれない・・・・・・。
周りを見ずに走ってきたので、隣町との境目にある大きな川まできていた。大きな川には大きな橋がかかっている。私はとりあえず橋の下に入って気持ちを落ち着かせようとした。
「私、なんで頑張ってるんだろう・・・・・。」
ぼそっと出てきた言葉。今まで考えた事もなかった。単純に、頑張れば親にほめられると思っていたからなのかもしれない。でも、それがなくなるのなら私はこれから何のために頑張っていけばいいんだろう・・・・・・。
「せっかく、琴音が好きそうなのを考えたのになあ・・・。」
私は一ヶ月くらい前から、琴音が好きな犬のぬいぐるみを作っていたのだ。
「自信作なのに・・・。」
と、苦笑いして言った。そのとき、
「あ!!!」
私の目には、川に映ったたくさんの流れ星が見えた。空を見上げるともっとよく見えた。
「流れ星なんて久しぶりだなぁ・・・。ホントきれい・・・・・・。」
と、いくつも流れていく星を見ていたとき、
ガサガサガサ______
「え!?何・・?」
私は音のする方を見た。草むらから、何か出てくる。
「いてててて・・。ひどいなあ、もっとゆっくり・・・・・・・・。」
私と目が合った。
そこにはスラッと背の高い少年が立っていた。
「君、泣いてるの?」
「・・・・・・・。」
私は驚いて口を空けたまま、少年を見ていた。
「ねぇ!」
少年は少し近づいて言った。
「へ!?」
私はまた驚いて、思わず一歩下がってしまった。
「そんなに怖がらなくても・・・・。」
少年は困ったように言った。
「え!?だって、今・・・落ちて・・・・・。」
「ああ、だって空から来たんだもん。落ちてくるしか・・・・あ〜でも、もっと安全な落とし方があったんじゃないかなあ・・・。」
少年はだんだん独り言になっていった。当たり前のように言ってるけど、空から来たなんでありえない。きっと私をだましているんだろう。
「あの・・・、冗談なら私・・。」
私が最後まで言う前に、
「あ!!そういえば、何で泣いてたの?」
と、思い出したように少年が尋ねた。
「何でって・・・。」
そっか、私泣いてたんだ。いきなりの出来事に、私は家族への怒りも涙もおさまっていた。
「な、何でもないです!!」
どこの誰だか分からない人にこんな話はできない。しかも、空からやって来たなんて言う人なんかに・・・。
「あ、あの・・。さっき空から来たって?」
「ああ。それは_______。」
と、少年が話そうとしたとき、突然強い風が吹いた。
ビオオオオオオオ______________
「うわあ、さっきは全然風なんか吹いてなかったのに・・・・。」
私は乱れる髪を押さえながら言った。隣いる少年は、さっきからぶつぶつ独り言を言っている。
「どうしたんですか?さっきから。」
「ん!?いや・・・何でもないよ。」
少年は笑って答えた。
「君、名前は?」
「え?私ですか?私は天川・・・。」
「えーーーーーーーーー!?あ、天川!?」
と、少年はいきなり立ち上がって言った。
「あ、天川楓です!!」
私は大きな声で言った。どうして「天川」でこんなに驚くんだろう・・・。
「僕、天川って子を探す予定だったんだよ!!」
「え!?でもそれって、私かどうかは・・・だって天川なんで他にもいるでしょ?」
「そうか・・・・。でも天川なんてそんなにいないんじゃないかなあ。」
少年は少しがっかりして言った。
「ってか、こんな時間に何やってんの?親、心配してるよ?」
少年は顔を上げて言った。
「いいんです・・。うちの親は私の心配なんてしないから・・・・。」
私は家で起きたことを思い出して言った。
「それに今日は、友達の家で泊まるつもりだったし。」
私は無理に笑って言った。
「そっか。じゃあ、早く言った方がいいよ。友達も心配してるでしょ?」
少年は私の背中を押しながら言った。
「じゃあ。さよなら。」
私はそう言って、走って友達の家へ向かった。
「あ・・・。」
少年は犬のぬいぐるみを見つけた。
「あの子のだよなあ・・・・。」
そう言うと、ぬいぐるみをよく見て、
「・・・・・・・・天川楓か・・・。」
大きな橋の下で一人、少年がつぶやいた。
「あ!楓〜〜。遅かったじゃん!!」
友達の芽衣が玄関から飛び出して来た。芽衣は私の親友で、いつもテンションが高いから、一緒にいて全然飽きないタイプだ。
「ごめん〜、服がなかなか見つかんなくってさ。」
私は服の入ったカバンをぷらぷらさせて、へへへと笑った。さすがに、橋の下で泣いていたとは言えない・・。
「まあ、いいや。とりあえず、中入りなよ。」
芽衣が私の背中を押して言った。そのとき、同じように私の背中を押してくれた、あの少年を思い出した。
「芽衣、あのさ・・・・・。」
「ん?どうしたの?」
「あ、いいや!後で話す。」
私はもう少し頭を整理してから話した方がいいと思った。
芽衣の家のご飯は、ものすごく美味しい。やっぱり真心の違いなんじゃないかと、私は中3の頭で分析した。私は芽衣の家族が大好きだからだ。
「いつもすみません・・・。」
私は申し訳ないなと思いながらも、顔はご飯に目がいって思いっきり笑っていた。思った通り、やっぱりご飯は美味しかった。
その後お風呂に入り、芽衣の部屋へ向かった。芽衣の部屋はとてもきれいで、私の部屋とは別世界だ。
「どうしたらこんなにきれいな部屋が保てるの?」
私は棚の上の写真たてを手に取って言った。
「ああ、それは・・・・・・・・・・・・・・・。」
芽衣は私が手に持っている写真たてを見て、懐かしそうに答えた。
「死んじゃったお兄ちゃんがね。ず〜っと付けてた腕時計があってさ。それを1回なくしちゃったことがあったの。」
「お兄さんの形見?」
「うん。」
「どこにあったの?」
芽衣は少し大きな声で言った。
「それがさ〜、散らかってたこの部屋の本の下にあったわけ!」
「前まで、この部屋散らかってたんだ・・。」
今まで聞いたことが無かったから、聞いて驚いた。
「私、芽衣がきれい好きなんだと思ってたよ〜。」
「うそお!?でも私、学校のロッカーはすごいことになってるよ・・・。」
芽衣はニカニカして言った。芽衣のお兄さんは芽衣が6歳の頃、交通事故で亡くなった。7つ上で妹思いだったから、芽衣の家に行ったとき、私にも優しくしてくれたのをよく覚えている。私がさっき手にしていた写真には、お祭りに行ったときの芽衣とお兄さんが写っていた。
「だから、自分の部屋だけは、いつもきれいに保とうって・・・。」
芽衣はお兄さんの事を思い出しているようだった。
「だから、ここだけきれいなんだね。」
私は笑顔で言った。
「さ!もう寝よ!!電気消すぞ〜。」
芽衣は急にこっちを向くと明るく言った。私は急いで布団を敷くと、
「オッケー!」
と、言って布団をかぶった。窓から月明かりが差し込んでいる。
「結構明るいんだね。夜って・・・。」
私はそう言うと、自分が疲れている事に気がついた。
「今日は・・・いろいろ・・あってさあ・・・・・・・・。」
私は今日あったことを話そうと思った。
「うん・・・。」
芽衣は優しくうなずいた。
「琴音の・・・誕生日・・・・で・・・・・・。」
「うん・・・・。」
「・・・・・・・。」
「・・・・うん!?」
芽衣は私の方を見た。
「あ!楓、寝てるよ〜。あはは、疲れたんだあ・・・。」
芽衣は静かに笑うと、私の布団をきれいにかぶせた。
「ちゃんと頼ってね。楓・・・・。」
明るい月明かりの下、芽衣も眠りに付いた________。
その夜、私はおかしな夢を見た。
風が涼しくて、きれいな三日月の夜。私は空を飛んでいて、誰かが手を引いてくれている。下は屋根ばかりで、どこかで見たことのある風景だ。
そうだ、ここは私の家の近くなんだ。
でも、手を引いてくれているのは一体誰なんだろう?そう思って顔を上げたとき、いきなり体がぐらっと揺れ動いた。バランスを崩したらしい。
お、落ちる________!?
読んでくださってありがとうございました!
これからどんどん書いていくので、もし良かったら・・・また読んでくださいねw