表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

遭遇

 消えたユキを追いかけて、僕は校舎へと戻る。はたしてどんな「危険」が待ち受けているのだろうか。

「何があっても校舎に近づくな」

由宇が言っていた言葉に後ろ髪を引っ張られる感じがした。近づくたびに、その台詞が恐怖を以って僕の心に響いていった。

「僕には僕のやるべきことがある。だから行かなくちゃならないんだ」

たじろぎそうになる自分に言い聞かせながら、僕は昇降口の扉をくぐった。

 由宇は最悪封殺してでも先生を止めると言っていた。「封殺」について詳しいことはよく知らないが、「最悪」という条件から照らし合わせると、最後の手段的意味合いがあるのだろう。由宇は人の幸福を叶えることを第一に考えていた。それが出来ない時、幸福に出来ないのならせめて不幸にはさせない、彼女ならあるいはそう考えるのかもしれなかった。すなわちそれが最終手段としての封殺だと思われた。

 先生は三島幸兎の死という記憶に縛られている。だから苦しみ続ける。その流れを断ち切る最後の手段、それは……、

「三島幸兎を忘れさせること」

階段を駆け上がる僕は頭の中でそんなことを考えていた。確信は持てなかった。それに、そんなことを本当にできるのかという疑問もあった。しかしもしそうだとしたら、急がなければならない。幸兎が先生に会う前に、由宇を止めなければ。

「ユウ姉、約束破ってごめん。でも僕は、僕にしかできないことがあるから」

冷めた目でおごりが過ぎると言われても、言い訳がましいと蔑まれても、自分自身の直覚を、自ら導き出した答えをとにかく信じるしかない。朧げな輪郭を持った理由、それだけを拠りどころにして、僕はひたすら身体を前へ動かすのだった。

「あっ!」

三階の廊下へ出たところで、いきなり人影が現れた。避けるまもなく勢いそのまま僕はぶつかってしまった。

「ご、ごめんなさ……っ!!」

謝ろうとした僕は相手の姿を見て息を詰まらせた。

「あら、折月君。待ってたのよ」

冷たい薄ら笑いを浮かべて言い放つ倭先生がそこにいた。最悪という言葉が僕の頭の中に再びよぎった。

 先生の左手が僕の肩をしっかりと掴む。決して強い力ではなかったが、押さえつけられたようにその場から動けなくなった。気だけはしっかりと持っておかなくてはと思い、僕は先生の顔から目を背けずにいた。

「その顔は、もう全てを知っているようね」

「……一つだけ分からないことがあります。教えてください。どうして罪もない動物たちを傷つける必要があったのか」

僕がそう尋ねると、先生は一瞬険しい表情を見せた。そして僕から手を放すと、

「そんなに知りたいなら、ついてきなさい」

と言って、後ろを向いて歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ