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第5話

 部屋に戻ると、リーザは朝食の準備を始めた。


 ふっくらとしたロールパン。

 甘いかぼちゃのクリームスープ。

 元がわからないけれど、甘い果樹。


 オーソドックスな朝食に、あまりお腹はすいてなかったけれど、とりあえず口に運ぶ。

 日常的なことをしていれば気持ちが落ち着くと思ったのだ。


 たった1人きりの食事。

 妙に気にはならない。


 何となく裾がじゃまで食べにくかったけれど、なんとか朝食をお腹におさめ、紅茶を入れてもらった。


 紅茶の甘い香りが鼻孔をくすぐる。



「いつ、説明してくれる人が来てくれるんですか?」

「書庫長が適切な人材を寄越してくれますわ。スフィア様はそれまでゆっくりとお休みされてください」



 のらりくらりと質問がかわされ、ため息がもれる。


 結局、その日は誰も説明に来なかった……。







 説明をしてくれる適切な人材らしき人が来たのは、それから2日後のことだ。


 世話をしてくれるリーザは無駄話を嫌い、気晴らしのおしゃべりにも付き合ってくれない。

 部屋から出せてもらえず、バルコニーからの眺めにも飽きてしまった頃だった。



「わたくし、書庫職8官長のグフタスと申します。この度、スフィア様に状況の説明と今後の予定について説明に参りました」



 どう見ても本より体重の方が軽そうに見える、やせ細っている男性が両手に分厚い本を抱えて現れ、私に頭を軽く下げる。


 椅子を勧めると、グフタスは本をテーブルに積み重ね、疲れたように椅子に座る。

 意外と力持ちなのかもしれないと思ったが、やっぱりあの本の量は多かったらしい。



「まず、この世界のことから説明させていただきます」



 そう言って左側に積みあがった一番上の本を取るとパラパラと開き、ポソポソと聞きずらい声でこの世界について説明し始めた。


 その話からすれば、自分は女神ルーディアの娘・スフィアである事。

 この世界にある大国は、魔族の侵入から護ることが出来る力を持つ5つ宝珠に守られ、その宝珠の力を使うことの出来る姫がいるが、今、この国はその姫がいないことがわかった。



「であるからして姫を選出できる力のあるスフィア様は、この国のどこかにいる次期『姫』を捜し出す為に召喚されたのです」

「どうやって『姫』捜すんです? 私には何も感じないし、みんなで捜す方が早いんじゃないですか?」

「次期姫を見つける事が出来るのは姫か、その姫と同じ力を持つスフィア様だけです。スフィア様が姫を捜し出せないなどということはありえません。まずは捜してみてください」

「捜すってどうやって! 私はこの世界のことを何も知らないだけじゃなく、自分のことも知らないんですよ?」

「ですから護衛をお付けします。誰でもいい。好きな者を護衛に連れて行ってかまいません。その者と共にここを出て姫を捜し出せばよいのです。歩き回っていればいずれ姫を捜し出せるでしょう」



 楽天的な思考。

 勝手な言い分。

 こちらの事情を無視し、自分たちの都合のみを優先する態度。


 この世界は、いったいどんな世界なのだろうか?



「姫さえ捜し出せれば、こちらの書物に呪文が書きとめてあります。これを読めば姫を任につける事が出来るでしょう。とにかく姫を捜し出してくださればいいのです」

「……知らない人ばかりなんですから、せめて、護衛してくれる人はそっちで決めてください」



 私の言葉に、グフタスは疲れたように顔を上げる。



「あのですね……。いいですか? 捜している最中はぐれ魔物に会うかもしれません。その時、貴女は魔道で倒すことが出来ます。しかしながら貴女の魔道は誰かから力を搾取せねば発動出来ない。魔道力は生まれ持った力。誰でも持っているわけでもないですし、持っていても使いこなせるわけではない。この国で魔道力を持ってさらにその力を使える者は少なく、重宝されているのです。そんな中、自分の中にある限られた魔道力を奪われるのを喜ぶ者はいません。ですから、ご自分で捜してほしいと申し上げているのです」

「なっ!」



 つまり、私が戦うには人の魔道力が必要で、それは人から奪う形になる。

 だからそれを容認出来る人を自分で捜せと言うのだ。


 自分の力が失うことを喜ぶ人がいるだろうか?



「私は嫌です。そんなことしたくありません」

「それではこちらが困る。この国を護る力がなければこの国は魔物に襲われるままだ。まず辺境にある村に住む何の罪もない小さな子供から犠牲になっていくでしょう。あなたはそんな非道なことをなさると?」



 まるで私が極悪非道なことをしているかのように、グフタスの瞳が責めるように私を見る。



「じゃあ、貴方達はその間何をしているのですか?」

「我々? もちろん、この国を護るべく、政をしなければなりません」

「……」



 自分たちは何もせず、全てを私に押し付ける。

 嫌といえば、非道扱いだ。



「……」

「……困りましたね。では、せめて剣が扱えて魔道を持つ者に会わせますから、説得ぐらいはご自分でなさってくださいね」

「……」



 何も言わない私に、グフタスはたたみかける。

 いくら会わせてもらっても、自分の魔道力を奪う者に協力などする者がいるのだろうか?


 いや、国の一大事なのだから差し出す者もいるだろう。

 微かな希望が湧く。



「明日、謁見の間に集めます。それでよろしいですね? それからの事はまたお話しましょう。とりあえず前のスフィア様が書かれた日記をお持ちしましたので、それを読んで何かの参考になさってください」



 そう言って一冊の本を差し出すと、グフタスは部屋を出て行った。


 無理やり押し付けられた救済。

 傲慢な態度。

 怒りばかりが募る。


 グフタスが出て行ってしばらくして、私は目の前に置かれた前のスフィアが残したという日記を開いた。


 日記は少し達筆なものの日本語で書かれている。

 この日記を残したスフィアは宝珠の力が空になり、その力の補充の為召喚されたようだ。


 内容は、私のように有無も言わさず頼まれたことへの恨み言、旅に出るまでの苦労。

 共感出来る内容が示されていた。


 その中で、ある一文が目に止まる。



『せめて魔道石が使えれば、こんな屈辱を味あわなくてすんだのに』



 魔道石?


 その一文に興味をそそられ、私は一緒に残された本を開いてみたが、開いた本はどれも見たこともない文字で綴られ、読む事が出来なかった。




 なかなかセイディーンが出てこないんですが、もう少しだけお待ちください。

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