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第4話

 薄いシフォンが幾重にも重ねられ、一番下の生地に刺繍されている赤い花の柄が透けてドレスを綺麗に見せている。

 軽い上に、シンプルでとても綺麗なドレスだ。


 そのドレスに着替えて中央にあった椅子に座ってしばらくすると、何人かの足音が聞こえてきた。

 たぶんその中の1人はリーザだろう。


 すぐにノックがし、リーザだけが入って来た。



「あら、お1人で着替えられてしまったのですか?」



 私の姿を見て、リーザの眉が困惑したように寄せられる。



「あ、このドレスに着替えてはいけなかったですか?」

「とんでもない! わたくしがお着せするつもりだったので驚いてしまって」

「大丈夫、これぐらい1人で着られます」

「では、お櫛を失礼しますわ」



 そう言うと、リーザはドレッサーのようなところの引き出しからブラシを出してきた。


 私の髪を手に取ってブラシで丁寧に梳く。


 人にしてもらうなんて慣れていないから、恥かしい。

 しかし、そう思う自分にさえ戸惑ってしまう。

 慣れていないと思っているけれど、それは自分の記憶なのだろうか?



「これから朝食をと思っていたのですが、さきほどの事を報告しましたら、我が君がすぐにお会いしたいと言われましたので、護衛を連れてまいりました。支度が済み次第、すぐ謁見の間へ参ります」

「はい……」



 何がなんだかわからなかったけれど、混乱している私には、事情を話してくれるかもしれない人に会えるのはありがたい。


 支度が済んで部屋を出れば、腰に剣を下げている男性が2人、ドアの側に控えていた。


 リーザを先頭に、男性2人に挟まれ廊下を進む。


 長い廊下を進み、途中、何度か曲がって階段を降りて、1つのドアの前に立った。


 どうやらここが謁見の間のドアらしい。

 一緒に来た男性がうやうやしくドアを開けてくれる。

 私はリーザの瞳から中に入るように言われ、部屋の中へと進んだ。


 次の瞬間どよめきが起き、驚いて足が止まってしまう。


 オレンジの床には赤いジュータンが引いてあり、中央にある大きなテーブルには何十人という男性が座ってこちらを見ていたのだ。



「スフィア様をお連れしました」



 リーザがその男性達に報告し、空いている前の席を引いた。



「スフィア様はこちらにどうぞ」



 私は言われるまま素直に座る。


 ちょうど私の真正面には、冠を頭にかぶり、たくさんの宝石をつけた老人が座っていた。

 その男性を中心に、左右に分かれるようにたくさんの男性が座っている。



「ほう、女神・ルーディアが絶世の美女という言い伝えは本当のようじゃな。私はこのエルディア王国の王、ビルクレイ・ウル・エルディアアだ。リーザからスフィアの記憶がないと報告を受けたがまことか?」

「はい」



 私の真正面に座っている老人は上から下まで舐め回すように私を見て、自分は王と名乗った。


 確かに偉そうな態度だが、まったく威厳は感じられず、カリスマ性がない。

 体格は少し肥満気味で、脂ぎった肌、艶のない白髪とクセのあるヒゲが生えている。

 瞳は濁っているように光っていて、とても好感を持つことは出来なかった。



「神官長。そなた呪文を間違えたのか?」

「と、とんでもありません! 呪文は完璧でした」



 左側の王から5番目に座る白い法衣を着ていた男性が飛び上がるように反応した。



「では何故スフィアに記憶がない。これでは『姫』の選出もままならぬではないか」

「た、確かに……。ですが、本当に間違ってはおりませぬ」



 焦ったように話す神官長は何か言いたげに私をちらりと見る。


 自分が召喚されたとは聞いたが、どこから召喚されたのか記憶がないのだ。

 なぜ記憶がないのかわかるはずもない。

 


「我が君、とりあえず過去の書物を調べてみてはいかがでしょうか? 前回召喚されたのは80年前のこと、その時も記憶がなかったのかもしれません」

「うむ……。書庫長の言葉も一理ある。では、調べておけ」

「はい」

「神官長はもう一度、本当に失敗はなかったのか調べて報告するのだ」

「……かしこまりました」



 書庫長と呼ばれた男が、うなだれる神官長に優越感を感じさせる笑みを見せた。

 相手を救うというより、相手のミスで自分の株を上げたような感じがする。



「では、スフィアよ。そなたのところには後で相応しい者をやって詳細を説明させるが、わが国、エルディア王国の姫が次期姫を選出しないまま先日崩御した。姫は宝珠の力を使って国を護るべき者。その姫がいなくては話にならぬ。そなたが次期姫を捜し出し、選出して姫の任につけるのだ」

「私が……ですか?」

「そのために召喚したのだ。当然であろう。もちろん護衛をつけてやるが、護衛は自分で捜すのがよかろう」

「……」



 まったく言われていることが理解出来ないのに、いきなり『姫』を捜し出してこいと言う。

 しかも護衛は自分で捜せと言われ、不信感が湧き上がる。



「なぜ、私がそんなことをしなければならないんです?」

「もちろん次期姫がいなければ国に魔物どもが入り込み国が荒れるからだ。そなたは自分の民を見捨てるのか?」

「見捨てるも何もどうやって姫を捜し出し、任につければいいかもわからないのに、私に何が出来るんです?」

「出来ぬでは困る。だから今、書庫長が書物を捜すと言っているだろう。判らぬ娘だ」



 王の表情が忌々しそうに歪められる。

 なぜここまで言われなければならないのだろう。

 自分の記憶すらない娘に、国を救って当然だと命令する王。



「もう下がれ、細かい話は別の者が行って説明する。話はその者にすればよい」

「そんな!」



 了承していないのに、勝手に話を終わらせようとする王に、私は怒りを感じた。


 王なのだから、確かに命令には慣れているのだろう。

 しかし、これが一国の王のやり方なのか?


 なんて傲慢な態度だろう。

 十分な説明もなく、本人の意見を無視して命令だけをする。



「スフィア様……、さ、お部屋で少しお休みなさってください。お話はその時にゆっくりとされればよいではないですか。ね?」



 リーザにたしなめられる様に言われ、椅子から立ち上がらされた。

 まるで我侭を言っているのは私のような気さえする。


 理解出来ないまま話が進み、いったい何が起きているのか理解しきれない。

 リーザに手を引かれ、謁見の間から出る。



「リーザさん」

「リーザとお呼びください。この国では我が君が絶対の君主様です。理不尽とお思いでもけしてそのことをお忘れなきよう」

「……」



 言いたいことを言う前に釘をさされ言葉が立ち消える。


 記憶もなくて不安なのに国を救う?

 誰が?


 混乱は頂点を極め、私はリーザに引かれるまま自分がいた部屋へと戻ってきた。




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