第28話
自分の人生を不幸だなんて思ったことはない。
ただ、寂しい気持ちが埋まらなかっただけ。
そして、少し運が悪い事に、なぜか他人に運命を押し付けられる……。
それでも自分がやると決めたのなら、それは私の決めた人生だ。
私の向い側に私がいる。
それはスフィアの姿をしていて、向い側にいる私は本当の姿。
姿は違っても、心は私……。
その事にひどく安心する。
だって、スフィアも私なのだから……。
「スフィア様?」
「……セイディーン?」
「大丈夫ですか? 早く魔道石をお使いください」
「うん……」
倒れた私を運んでくれるのはいつもセイディーンだ。
そして出来るだけ側にいてくれる。
私は首飾りから癒しの魔道石を外し、魔道石を発動させた。
光が私の中に吸収されると、体が軽くなる。
「これが最後の宝珠。これですべての宝珠に力を送れましたね」
「……私、次期姫を見つけました」
「え?」
「場所は王都から南西にある小さな村に住む、ハルマという少女です。やっぱり白い髪を持っているようです」
記憶を取り戻したと同時に、私はこの世界でのスフィアを理解した。
この体も、この魂も確かにスフィアなのだ。
バラバラになったスフィアの魂の欠片が私の魂に融合されている。
迫り来るトラックがフラッシュバックする。
死にたくないという想いが強すぎて記憶が抜け落ちるという事態になったようだ。
そんな私が記憶を取り戻したせいで、スフィアとして目覚めた。
もう完全にスフィアの力を使える。
だからこそ、姫がどこにいるのかも知る事が出来るのだ。
しかし、それと同時になぜ前期の姫が自害したのか知ってしまった。
彼女は王に無理やり関係を強制されていたのだ。
王には恐妻と名高い正妻がいるが、その正妻も『姫』には手出しできない。
それを逆手に取り、王は自分の愛人に姫を選んだ。
腐敗しきっているこの国は、どこもかしこも病んでいる。
「……王都に戻る前に、連絡を入れておきましょう。スフィア様はしばらくゆっくり休まれてください」
「ありがとうございます」
「では、連絡便を出してまいります」
セイディーンはそのまま部屋から出て行ってしまう。
いつもなら、少し会話をするようになったのに……。
セイディーンの態度が気になったものの、私は、自分の役目が終わってほっとし、再び目を閉じた。
無事に姫を見つけ出せたということで、2、3日デリス神殿でゆっくりしてから王都へ向かって出発した。
あれから何故かセイディーンがよそよそしい。
親密さは消え、表情も硬い。
馬に乗っている間もほとんど話さず、ひたすら馬を進ませている。
どう考えても、セイディーンの様子がおかしい。
「セイディーン?」
「はい」
「何か怒ってます?」
「……怒る? 私が何を怒るのでしょうか?」
「だって……」
何を怒っているのかわかればいいのだが、怒っているのとちょっと違うような気もする。
どう説明すればいいのか困惑してしまう。
「今日はここで野宿です。明日は街で宿を取ったあと、王都に着きます」
「ね、セイディーン」
「申し訳ありませんが、薪を集めなくてはならないのでお話は後でお願いします」
「……お手伝いします」
結局薪になる木を集めているセイディーンの後ろをちょろちょろしただけで、何も話すことはなかった。
「ねえ! どうしちゃったんですか?」
「何がですか?」
「すごく他人行儀だし、よそよそしいし、私、セイディーンを怒らせるようなことしたんでしょうか?」
「……いいえ、そんなことはありません」
「でも、明かにおかしいじゃないですか?」
「……」
痺れが切れてしまったのは、宿に泊まった夜のことだった。
適当な理由をつけて話を先延ばしされ、私も我慢の限界だったのだ。
「ちゃんと話してください」
「話すことなど何もありません」
「どうしてですか?」
「私の役目は誓約したスフィア様が、無事に役目を終えられるようにすることです」
「役目が終わったから、もう私のことはどうでもいいんですか?」
「そんなことは申しておりません。王都まで無事にお届けするまで私の役目ですから」
「……そんな。それだけだったの? 私に優しくしてくれたことも、全て役目だから?」
手の平を返したようなセイディーンの態度に傷ついていた。
優しくしてくれて、大切にされ、命をかけて守ってくれたセイディーン。
それが役目から来るものだったとセイディーンは言っているのだ。
「他に何があるのでしょうか? スフィア様も役目だからここまで頑張られたのでしょう?」
「違う! 確かに私は引き受けた役目だから頑張ったけれど、セイディーンがいてくれたから……。セイディーンが側にいてくれるとわかっていたから、最後までくじけないですんだんです」
「……なぜそこまで私を信じられるのです?」
「当たり前じゃないですか! 愛している人を信じられないなら、その人は人を愛すべきじゃないと思いませんか?」
こんなふうに突然告白するつもりではなかった。
けれど、突然セイディーンに距離を置かれ、不安でしょうがなかったのだ。
想いを返してもらえるなんて自信はないけれど、これ以上セイディーンの態度には耐えられない。
突然告白したのに、セイディーンはまるで私の気持ちをわかっていたかのように、少し顔を歪め、悲しそうに私を見る。
「私は……貴女を愛せません!」
はっきりとした拒絶。
心が引き裂かれそうなほど悲鳴をあげているのに、私の心はセイディーンに少しも届いていない。
私が大切にされていることを勘違いして、セイディーンを好きになってしまっただけなのだ。
「……」
「……」
言葉を忘れてしまったかのように、何も浮かばない。
いつも自分のことで精一杯だった私は、男性免疫があまりなくて、まともな恋愛をした事がなかった。
告白したらどうなるのかなんて考えたこともなくて、ものの見事に玉砕して私はどうすればいいのかわからないまま、宿を飛び出していた。
宿の外れにある茂みの中に逃げ込み、私は膝を抱え、声もなく泣いていた。
誰かに見られることなく泣ける場所はそこしか見つからなかったのだ。
いい大人が恋に破れ、子供のように泣く。
セイディーンが私を探していたようだけれど、私は魔道石を使って自分の周りに結界を張って気配を絶った。
この首飾りは、真ん中に大きな金色の石があるので、全ての魔道石がなくなっても、装飾的な意味ではとても綺麗な首飾りだが、たくさんの魔道石がついていたのに、今でほとんど魔道石はついてない。
私は気が済むまで泣いた後、そっと自分の部屋に戻った。
次の日、馬の上で私は下を向いたまま何も話さなかった。
もちろんセイディーンも話し掛けてこない。
しかし、悲しいことは1度起こると、連鎖反応のように起こるものなのかもしれない……。




