第21話
エルディア王国で最も賑わっていると言われる西の街イルカイ。
西の神殿、イルカイ神殿がある街だ。
今までの神殿は人の住む街からは少し離れた場所にあったが、このイルカイ神殿は神殿のそばに街が作られた珍しい場所だった。
タウレン神殿で宝珠に力を与えた私は三日三晩眠ったままだった。
それから体力を取り戻すのに2日もかかり、やっと出発したのだ。
タウレン神殿から次のイルカイ神殿までは7日。
やっぱりタウレン神殿で用意されていた馬に乗り換えて出発した。
最も栄えている神殿というだけあって、そこまでの道すがらは宿のある街がいくつも点在し、ゆっくり馬を走らせても宿に困ることはなかった。
イルカイ神殿に近くなればなるほど宿には無駄な装飾が多くなっていく。
何の為に飾りにしているのかわからないものもあったし、この間なんて部屋に気持ち悪いお面が飾ってあって、すごく気になって寝る時怖かった。
あの微妙なセンスはいったい何を意味しているのだろうか?
「今日はずいぶんと早く着いたんですね?」
「ええ、ここから神殿まではすぐです。少し街を見ますか?」
「え?」
街のゲートをくぐり、神殿へ続く大通りを馬でゆっくり進んでいると、セイディーンが信じられない事を言い出した。
今までは、絶対に寄り道はぜず、無駄な時間は取らなかったというのに……。
私の驚きようにセイディーンは困ったように笑っている。
「今日は宝珠に力を送ることはありません。神殿はすぐ目の前ですし、少しぐらいなら大丈夫でしょう」
「はい。すごく嬉しいです」
何を見ようかと、通りをキョロキョロと見回す。
通りの一角に、人だかりを見つけた。
看板に何か文字のようなものが書いてあるが、私には読む事が出来ない。
ただ、ずいぶんと煌びやかな感じの建物だった。
そこにいる人達の服装は、この街の人に比べて、ひどくくたびれているようだ。
「あれは何ですか?」
「あれ?」
「あの人がたくさんいる建物です」
指を指して教えると、セイディーンは建物の近くに馬を止め、看板を読んで眉を寄せる。
「これは石使い(ストーンマスター)の建物です」
「話に教えてもらったあのストーンマスター?」
「ええ、私たちの魔道力は放出され、石となる話はしましたよね? その石を使う事が出来るのがストーンマスターです。彼らは我々と違い、石を使って病気を治す事が出来ます。しかし、法外な金額でしか力を使わないので、お金を持っていない人たちが、ああして力のおこぼれを期待してたむろするのです」
「あんなに人がいたらお客さんが入りにくくないですか?」
「人が多い分、力が強いとされているのです。つまり、ああしてたむろしていても治る者がいるから、たくさんの人が救いを求めてたむろする。彼らはそうやって宣伝してくれるってわけです。自分の力は失うことなくお金を稼ぐのがストーンマスターです」
セイディーンにしては辛らつな説明だ。
何かストーンマスター思うところがあるのだろうか?
「ずいぶんな偏見だね」
女性の声がして、私とセイディーンが後ろを振り返ると、そこにはジャラジャラとアクセサリーをつけた艶やかな格好をした女性が腰に手を置いて立っていた。
「アタシ達ストーンマスターは魔道石を使う時、自分の魔道力を使っているんだけどね」
「そうなのですか? それは知りませんでした」
「……アンタ、偽のストーンマスターに騙されたことがあるね?」
「……」
「いいよ。アンタ達、ちょっと私の店に来な」
女の人は私たちの返事も聞かず、横を通り抜け、店の中へと入っていった。
入り口でたむろしていた男性に何かを囁いていたことに気づく。
「……セイディーン?」
「けして私から離れないでください」
「はい……」
あの女の人はセイディーンが騙されたと言っていたことについて、セイディーンも否定しなかった。
セイディーンに何があったのだろうか?




