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第20話

 あのことがあってから、寝ている間でも額の布を外さないようにしている。

 念には念をということで、白く長い髪も帽子で隠していた。

 いつどこで誰に見られているかわからないからだ。


 いい変化もある。

 セイディーンが食事を一緒に摂ってくれるようになったのだ。


 移動中の食事はセイディーンが支度をし、私が食べている間にセイディーンも食べていたけれど、宿で一緒に食べたことはなかった。

 あの時、私がひどく不安がっていたことを、セイディーンが真剣に受け止めなかったことを申し訳ないと思ってのことらしい。


 意外な展開になったが、やっぱり誰かと一緒に食べられることは嬉しい。


 その後の旅はとても平穏で、何も起こらず北西の神殿、タウレンに着いた。

 タウレン神殿はミルフレインの神殿とは随分と違って、獅子と竜の石造が門を飾り、散りばめられた光り輝く石が華をそえている。



「……同じ神殿なのに、随分と違うんですね」

「ここは街から近く気軽に尋ねることが出来るせいでしょう。御布施もそれなりに多いようですし、それなりの見栄えが必要になるのかもしれません」

「はあ……」



 タウレン神殿の神官長は年配者だったが、体格もふくよかでとっても健康そうだった。

 しかも、へりくだった感じの対応で気が滅入る。


 話し合いの結果、着いたばかりだと言うことで今日はゆっくり休み、明日宝珠に力を送り込むことになった。



「大丈夫ですか?」

「え? 何がですか?」



 突然意味のわからないことを聞かれて、戸惑ってしまう。

 セイディーンは宝珠に力を送り込む時のことを心配しているらしかった。



「自分の決めたことですから、大丈夫ですよ」

「……そうですか」

「また迷惑をかけてしまうけど、頑張りますね!」



 心配かけまいと、精一杯の笑顔を浮かべる。


 痛みを伴う儀式には憂鬱ではあるものの。

 自分で決めたことなので、覚悟は出来ている。




 ゆっくり休んだ次の日、朝食を摂って休憩したのち、すぐに宝珠へ力を送る事になった。


 タウレン神殿の最奥にある宝珠の間は、ミルフレインの神殿とまったく同じで、場所も部屋も錯覚してしまうほど同じだ。

 女神像の上に宝珠が浮かんでいる。


 私は覚悟を決めると、ゆっくりと淡く光る宝珠に向かって手を伸ばす。

 前と同じ、触れたとたん宝珠が光を放つ。

 そして視界が白く染まっていく……。




「北斗って男の子みたいな名前でおかしいよっ!」

「そんなことないもん! 北斗星のように、たくさんの人を導くような人になるようにってパパがつけてくれたんだから」



 女の子が人形を握りしめて友達に力説している。

 自分の名前が男の子みたいだと言われて怒っているのだ。


 なぜ忘れていたのだろう。

 前の時も私はこうしてこの女の子を見た。


 この女の子は私。

 これは私の記憶の一部。



「パパ……」

「北斗、いい子にしてるんだよ?」

「……うん」



 大き目のボストンバッグを持った父が私を見下ろしている。



「パパの代わりに北斗がママのお手伝いをしてあげるんだ」

「うん」

「じゃあ、北斗、元気でな?」

「うん。パパ……」



 大好きなパパがママと離婚した。

 離婚の原因はパパの浮気。


 私はママに引き取られ、パパは出て行った。


 離婚しないで、行かないでと、言葉は離婚する前に何度も伝えた。

 それでも2人は離婚してしまったのだ。


 背中を向けるパパ。

 追いかけたいのを我慢して、私はしばらくそこに佇んでいた……。



「え?」

「だから、ママはお仕事で外国に行かなくちゃならなくなったの。北斗はいい子だからノブおばさんの所で待っててくれるわよね?」

「ママ1人で行っちゃうの?」

「連れて行けないのよ。北斗だって言葉も話せないところでは1人でいられないでしょう?」

「……」

「北斗はいい子よね?」

「……うん」

「すぐ戻ってくるって約束するから」

「う……ん」


 約束なんて嘘だ。

 それから母は1度も戻ってこなかった。

 私は何十年も、本当は帰ってこないとわかっていながらもおばさんの家で待ち続けるだけだった。

 自分の家ではない家に帰る寂しさ。


 友達の家に行くと、友達は今日あったことをお母さんに楽しそうに話している。

 お母さんとは電話とメールのやり取りだけ……。


 寂しさばかりが私の中を埋め尽くしていく。

 それでも寂しいとは言えなかった。




 まばゆい光が収まって宝珠が姿を現す。

 何かを祈らずとも宝珠は私から力を奪っていく。


 覚悟を決めて宝珠に手を伸ばす。

 そして、前よりも激しい激痛に、私はすぐに意識を手放した……。




 目が覚めると前と同じ、セイディーンが私を覗きこんでいる。



「セイディーン……」

「……スフィア様。悲しい夢でもご覧なったのですか?」

「夢? 夢なんて見てないです」

「ですが、涙が……。……いいえ、とにかくもう少しゆっくりお休みください」

「うん……」



 瞼はひどく重く、私はセイディーンに言われるまま、また眠りへと落ちて行った。



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