死闘の末に
今回で救出編は最後になります。
意外な襲撃に駐留所は蜂の巣を叩いたような騒ぎに落ちていた。
一方その頃近くの茂みに潜む二人は呼吸を殺していた。
「ほ・・・ほんとに大丈夫なのかしら・・・」
伊井島は心配そうに言った。
「大丈夫だよ。あいつはとてつもなく強いから。学園で最強といわれるあいつと戦ったときにも本気を出していなかったようだしね。」
学園で最強のあいつ。
それは学園で唯一騎士団に入り、しかも一番隊隊長を勤めている人間だった。
名をレヴィア・シンというらしい。
「でも・・・大丈夫かな・・・」
「何時までも心配しててもしょうがないだろ。今僕達にできるのは一刻も早く村に帰って騎士団を呼ぶことだ。」
「そう・・・だよね・・・」
(死なないでね・・・氷雨・・・)
***
「さぁさぁ殺し合いのパーティですよっと!」
叫びながら氷雨は人達で五人もの体を切り裂いた。
このときにはすでに氷雨の通った道のあとには新たに死体の道が出来ていた。
「あいつ・・・まだ子供じゃねぇか・・・!」
「強すぎる・・・!」
「なんたってこんなに人をためらいも無く・・・!それに、まだ俺の子供と大して年は離れていない・・・!」
ナル軍の兵士達が戸惑いの声を上げている中その群集の中から一人の男が出てきた。
先ほど本条を連れてきた男だ。
出てきた男は氷雨を見据えるといった。
「何こんな餓鬼一人に慌ててやがる。お前らが弱いだけだこいつは大して強くねぇ。」
「言ってくれるじゃねぇか。取り敢えずその無駄口が二度と叩けないように顔潰してやろうか?」
「餓鬼がなま言ってんじゃねぇよ。てめぇにそこまでの強さはねぇんだろ?粋がるのも大概にしろよ?糞餓鬼が。」
「餓鬼としかいえねぇ語彙の少なさには同情してやるがそれ以外には同情の余地は無いみたいだな。お前。取り敢えず口八丁も面倒だ。手っ取り早くやろうぜ」
「賛成だ。」
同意を示し刀を構える男。
その刀は刀身が波打つように曲がっているいわいる蛇剣と呼ばれるものだ。
「なるほどお前は蛇剣使いか。一撃でも喰らったら出血量やばそうだなぁおい。」
「良く知ってるんだなお前。そこは見直してやる。そういうお前はグレートソード使いか?」
「まぁな。」
「腰に刺しているのは太刀か。色々使うんだな。いやそれとも単にありあわせってところか。」
「ご名答。問答はもういい。いくぞ。」
「あぁ。来い。」
返事を聞くと氷雨は男へ飛び掛い横薙ぎに切った。
「ッ!!」
意外な速さに驚きながらも、剣を受けるべく剣を立てる男。
しかし氷雨は横薙ぎはタダの餌として放ったものだった。
本命は右手に隠した短剣。
「喰らえ!」
首筋を狙って放った刺突は首をひねりかわされた。
一撃必殺ときめ放った一撃が外れてしまい、大きな隙が出来たところへ男が膝蹴りを腹に向かい叩き込んだ。
「甘いんだよ!その程度で!」
「チッ!」
膝には防具が当たっているため、ろくに防具を着ていない自分には致命傷にもなりうる一撃だった。
勝った。と確信した男だったが、膝蹴りの一撃は空を切る結果となった。
理由は簡単だった。
氷雨はこの状態で軽くひねってもかわせる威力、速度と判断した氷雨は、いまだ剣と剣で拮抗している左手に力を込め、押すと無意識に帰ってくる相手の押されまいという反発の力を利用し大きく身をひねった。
結果。多少膝が胸に当たるという結果になりつつも致命傷は避けられたということになった。
そして一瞬の攻防を終え、両足を地に着けた二人は同時に離れた。
「なかなかやるじゃねぇか・・・あの膝蹴りはかわされるとは思わなかったぞ。」
「あれはかなりぎりぎりの所だったから特に自慢も出来ないさ。」
「ハッ。慢心はしないタイプの人間かお前。」
「慢心はしてるさ。本気を出さなくてもテメェは殺せるっていう慢心をしてる。」
「ホゥ。てめぇハッタリも使えるのか。」
「ハッタリじゃねぇよ。”事実”だ」
「言ってくれるねぇ!糞餓鬼!」
突如倒れこむような体勢になった男は顔が地面に付くか付かないかというすれすれのところで地面を蹴った。
「その発想は無かったなぁ!」
台詞で言う割には大して驚いてもいないように続けた。
「だがその手は悪手だったな。」
言うと見鏡は右足を上げ、「能力発動。使用物語は物語シリーズ。」言って、右足で地面を踏みつけた。
次の瞬間に、踏み込んだ周囲の地面が割れ、板が傾くように跳ね上がった。
そして跳ね上がった地盤は男の腹へ突き刺さった。
「能力終了。」
「グフッ・・・・おまえ・・・能力者だったのか・・・・」
「ご名答だ。」
「ここで俺達戦団が落ちれば恐らく今度はナル国本軍が大量に来るだろう・・・今度は村人も死ぬだろう・・・」
「だから?」
「わからねぇのか・・・?今度は皆殺しだって言ってんだよ。覚悟しておくんだなぁ!」
「知ったことか。」
「あ・・・アァ?」
「知ったことかって言ってんだよ。別にあの村が滅ぼうが村人が皆殺しになろうが知ったこっちゃねぇよ。ただ。ただ伊井島と本条に手を出したら本国ごとテメェらを潰してやるよ。この世界ごとでも、手段はえらばねぇよ。殺しつくしてやるよ。」
「フ・・・勇ましいねぇ・・・だがそれはむりだ・・・本国にはお前の何倍も強い能力者たちがいる。」
「さぁ、どうだかな。能力ってのは案外簡単にレベルを上げられるんだよ。考え方さえ変えられれば、な。」
「そう・・・か・・・・・まぁ・・・が・・・」
恐らく頑張れよといいたかったのであろう男は、言葉の途中で息絶えた。
「さぁ、俺としてはもういい気がするんだが。まだやるか?」
「い・・・いや・・・降参するよ・・・」
そういったのは、先ほどの男の一個次あたりの地位にいるであろう人間だった。
同時に、子供が~と言っていた人間だった。
「ま、それが賢明かもな。家に帰って子供を可愛がれや。」
「あ・・・ありがとう・・・・」
(さて・・・帰るか・・・)
かくして、見鏡 氷雨の始めての救出劇は終わった。
敵の頭の死滅という結果と共に。
伊井島たちの待っているであろう村へ。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
今回出てきた本はご存知の方もいると思いますが、某ラノベ作家の方の本に出てくる人物の一人のキャラの怪力を使わせていただきました。
感想・評価ありましたら書いていってくださるとうれしい限りです。