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story in story  作者: 初谷ゆずる
ナルへの侵攻
42/46

幕間:つかの間の休息

見鏡とシンリアはシルバトリア国王と分かれると、本条達の眠る部屋へと帰った。


部屋を開けるとそこには起きている人間は誰一人としておらず、全員あられもない姿で横たわっていた。


ルイやアキはベットで寝ているが本条や秋乃はベットまで後30cm足らずのところで果てていた。


雑魚寝と言うか襲撃にでもあったのかと言いたくなる様子だ。


見鏡に遅れて部屋に入ってきたシンリアは部屋の様子を見るや呆れたように呟いた。


「せめてベットまでは意識保ちましょうよ・・・」


風の魔法でふわりと二人の体を持ち上げると、優しくベットの上に横たえた。


全員が寝たことを確認するとシンリアは自分は風呂に入ってくるけどどうする?と見鏡に聞くと、見鏡は多少ビックリした表情で俺と入りたいのか?と聞きなおした。


その言葉を全力で否定するとそれなら寝てから入るとだけ言って布団に潜り込んでいった。


***


ザプンと湯船に浸かるとシンリアを中心に波紋が広がっていった。


湯船に浸かるのは久し振りだなぁなどと思いながら、魔方陣を描いては消し、描いては消しと軽く絵を描く感じで楽しんでいると突然脳裏に見鏡のあの台詞が浮かんだ。


「俺と入りたいのか?」


その言葉は記憶の中の言葉とはいえシンリアの思考を止めるのに十分だった。


湯船に浸かっているだけに茹で上がったたこのように・・・・・・使い古された言い方ですが。


シンリアは耳まで真っ赤にすると、それをごまかす様にザプンと大きく音を立てて水の中に潜り込んだ。


テンプレートな行動だった。


恋する乙女は複雑なものだと言っていたけれどここまでくると本筋は皆一緒なんじゃないかと・・・いいえなんでもありません。


ぶくぶくと口から泡を作って潜っているとやがて息の限界が来たのか水中から顔を上げた。


何時までも恥ずかしがっているのは何処となく癪なので、右手で氷を。左手で炎の魔方陣を生成して互いに向き合うようにし魔法を発動させ氷を蒸発させるという無駄に高等技術の仕方のないことをずっとやっていた。


それを見る好奇心旺盛かつ命知らずな女子が居るにも関わらず。


普通に人五人は同時に入れるという風呂場の入り口からわずかに戸をずらし中を覗く影が一名。


秋乃だった。


委員長なにしてんですかと突っ込みたくなるというか本当に委員長なのか疑いたくなる行為だったが恋する乙女がいじられるのは何時の時代も同じなのだろう。


そしてその横には呆れ顔のルイが二人分の着替えを持って佇んでいた。


何回止めても止まらないのでもうなるようになれ、と諦めたようだ。


ちらりと横目に秋乃の姿を確認すると、いかにもコメディ要素一杯の笑顔でウシシシと笑っているところはもう既にサブヒロインとして失格だろう。


というかコメディマンガにでてくるエロ小僧と同じ顔をしているというのは年頃の女性としてどうなのだろうか。


見た目は華も恥らう少女。中身は親父。


・・・・・


救いようが無い。


どこぞのバーローさんも呆れ返るところだろうきっと。


だがしかしこういうイタズラは悪乗りはしてはいけない。


そして相手も選ぶべきだった。


どうやら秋乃の覗きがばれたようで、浴室の中からかなり濃い殺気が漂ってきている。


ましてや相手が百戦錬磨。ばれないはずがない事ぐらいはすぐに分かるだろうに。


案の定目にも止まらぬ速さでシンリアは体にタオルを巻き、ダン!とドアを勢い良く開け屈んだ姿勢で覗いていた秋乃を見下ろした。


「なにをしているのですか?」


どうやら怒ると敬語になるタイプなのか、敬語になっている。


しかし背後に浮かぶ般若像がはっきりと見えるあたり洒落にならない。


秋乃が黒いストレートロングの髪の間からちらちらとこちらを伺っている。


恐らく助けを求めているのだろうが絶対に助けない。


なぜなら私も・・・いや今はこの話はいいだろう。


とりあえず冷や汗をダラダラと流しながら引きつった笑いを浮かべる秋乃はイタズラがみつかった子供そっくりだった。


それを見たルイは着替えを持ったままハァ・・・・とため息をついて自分も湯船に浸かるべく服を脱ぎ始めた。


それから二分後。睨み合いというか一方的な睨みが終わった後ボロ雑巾のように横たわる秋乃がよたよたと歩いて石鹸ですべり転んで少し気絶したということまでは詳しく書かなくてもいいだろう。


いや本当に。


コメディ役だこと。


****


目が覚めると、何故か多少グッタリとしながらもニヤニヤと変な笑みを浮かべている秋乃とこれまた何故か怒っているシンリアと呆れ返ったルイが帰ってきた。


周りを見渡すとまだ見鏡と本条は寝こけていた。


ぐっすりと寝ているところ起こすのも悪いかなとも思ったが、シンリアさんがあんた達が風呂入ってこないとご飯食べれないのよ!と叫びながら叩き起こしていたのでその心遣いは無駄になったみたいだ。


寝ぼけ眼を擦る二人は・・・いや本条は置いておくとして身鏡は珍しく姿に可愛いと言う言葉が当てはまる様子だった。


元々あんな目つきの悪い顔をしていなければかなりの美形なのだし。それに髪を縛って女装していればきっと男だとは思われないだろう。


それに目つきの悪いのも今となっては需要があるようだし。


それにこんな可愛い子が女の子の・・・いや、流石にここまではっちゃけて言ってしまうと不味いのでここらへんで自粛はするが。


知識は主に見鏡の書庫から得たとだけ言っておく。


とにかくそんな二人と風呂に入る事になると、まぁお約束と言う感じで湯船を見て本条が鼻の下を伸ばしていた。


身内というか仲間の自分が言うのもなんだが正直自分の仲間達は容姿のレベルがかなり高いと思う。


シンリアは元々金髪だったのだが、どうやらそれは染めていたらしくここに来た途端国王に落とされたようだ。


そして今となっては瞳も髪も透き通った蒼になっている。


髪は腰まで伸びていて染めていたのに大して痛んでいない。


そしてここまでコメディキャラとして通ってきた秋乃も容姿端麗成績優秀。更には運動神経抜群。


何処まで行っても優等生だったようだ。


少なくともレストナムにいたころは。


最近は色々とはっちゃけているが。


キャラ崩壊もいいところだ。


あともう一人は自分の姉ことルイ。ナルの本名もあったのだけれどあれは捨てることにした。


僕達はあまり望まれた子供でもなかったようだし。


自分の姉をほめるのは何処か気恥ずかしいが書かれているので一応。


少し背の小さい背格好に似合わずクールキャラ。


クーデレというやつだろうか。


とろあえずまだ会ってから日が浅いので詳しくは分からない。


というのが本条が纏めた主な特徴だった。


うちの姉が簡単なのが少し気になるがまぁいいだろう。


本条が必死に恋愛話を見鏡に振っていたが見鏡は大して興味が無い様で生返事で返していた。


が、本条が見鏡の能力について話題を振ると、素直に反応した。


「見鏡の能力って変わってるよな。」


本条が同意を求めるようにアキに話題を振ると、アキは頷いて返した。


ステラの面々もかなり際物能力揃いだが、その中でもずば抜けて見鏡の能力は特異だ。


その能力についてどう思っているのか本条が聞くと見鏡は少し間をおいて答えた。


「まぁなんだ。俺はこの能力のおかげでと言うべきかこの能力のせいでと言うべきか。まぁどっちでもいいんだが考えが変ることがいくつかあってな。」


指と指の間でパチパチと電撃を走らせたり遠くのものを近くへ瞬間移動させたりと、色々と能力を使いながら続けた。


「もしかしたら架空の世界だと思われていた本の世界。あれは実は何処かにあるんじゃないか?ってな。」


あまりに突拍子もない話、というか現実主義者の見鏡がそんな夢のあることを言うとは思わなかったために二人は少し驚いた。


しかしその様子を気にも留めずに見鏡は続けた。


「俺の能力は物語の中から力を引き出す能力。しかも読むだけと言う条件で発動できる。何もないところから作るには大層力が要るけど元々在るものをつかうなら簡単だろう?」


そこまで言って見鏡はそれに、と一拍置いて続けた。


「そっちの方が、面白い。」


ニヤリと笑って言った言葉は無邪気な子供が夢の世界を目指している時の表情のようだった。


そりゃちげぇねぇ、と本条が笑いそれにつられて自分も笑いそれに釣られ見鏡も笑う。


しばらく戦いばかりでギスギスしていたからこういう時間がなかったのだが。


こういう時間も、良いな。


****


風呂を上がると、ぬくぬくとした生地のわからない上着を配られたのでそれを着込むと夕食が出来ているとの事だったので食堂へと向かう。


食堂に到着すると、いくつか置かれた大きな長テーブルの一番厨房に近いテーブルに配膳が終わっていた。


そのテーブルの端に三人の姿を確認できたので顔を確認するとそれは思い思いの格好をしたレヴィアと国王とランドラだった。


向こうの三人がこちらに気付くとレヴィアがよっと言いながら片手を挙げてきた。


どうやら食事に手を付けてない所を見ると待っていたようだ。


見鏡以外のステラの面々が返答をして、それぞれ好きな席に着き食事を始めた。


すると二分ほど経った頃合に本条がレヴィアに質問を投げかけた。


「思ったんだけどよ、お前能力発動してないのか?」


それは他の全員は異能者として能力を開花させているのに、と言う事だろう。


あの女神との対敵のときにあそこにいたはずのレヴィアも能力を開花させていてもおかしくはない筈だ。


しかしレヴィアは静かに首を振り否定した。


「僕は門術しか使えないんだよ。」


門術しか使えないといっても門術に特化しているわけでも無い・・・ということだった。


つまりどっちつかずと言う事らしい。


「門はいくつまで開けるんだ?」


本条が聞くとレヴィアは少し自慢げに答えた。


「8門さ!」


胸を張って答えたレヴィアに他の面々がオォォォと拍手を送る。


勿論見鏡は拍手などしていないが。


しかしそれを目ざとく見つけたレヴィアは、見鏡に何門まで開けるのかという質問をすると見鏡はつまらなそうに答えた。


「確か最後にやったときは・・・二門だったか?」


本条たちに尋ねながら答えたということは恐らく本条達が知っていると言う事なので心当たりのあるときとすればレニ宅でのあれしかない。


しかしその後の戦闘経験値を考えれば全くと言っていいほど当てにならないのだが。


しかしそれを知らないレヴィアはわざわざ席を立ってまで見鏡を見下ろした。


恐らく数少ない仕返しのチャンスだと思ったのだろう。


だがしかし。


「なにか勘違いしているようだが言っておくと、俺・・・いや俺達か。」


俺・・・と言いかけたところでステラの面々の顔を見渡し、更に続けた。


「最低でも10・・・いや15門程度の実力は持ってるぞ?」


15。


神柱達の力は数値化して13~17と言われているのだが既にそれに届いていると言うのだ。


実際ミカエルを倒している事から見ても妥当だろう。


「門術ってぇのは10門超えたあたりから能力を発動することが出来るようになるんだ。まぁオーソドックスな魔力をつかった弱いのだけだがな。」


そこまで説明すると一呼吸置いて続けた。


「15門ってのは一々門を開錠しなくても能力を使えるレベル。まぁ言っちゃあなんだがこの時点で世界の五本指といわれている兵士達がやっとってところか。」


まぁその先は判断基準が無いから未知数なんだがな。と話を締めくくらせた。


その話を終えてからの見鏡がレヴィアを見上げての笑みはせせら笑いという部類に入るのだろう。イイ性格をしているというのは今更だが。


その話を聞いて、ランドラが口を挟んできた。


「ってことはなんだい?もしかして世界の五本指は君たちに勝てないということかい?」


「まぁ、戦ってみないと分からないが多分な。」


一対一だったら秋乃が勝つだろうな。と見鏡は言った。


それは私達は問題外と言う事か?とルイが聞くと見鏡は首を振って答えた。


「いや、正直一対一だったら俺もお前に勝てる気はしないな。」


多勢に無勢と言う事だろうか。


ここまで話すと、全員の食事が終わり今日は就寝という事になった。


本条が多少渋ったが明日は決戦。


体を休めておかなければ万が一が百が一程度の確立になってしまうだろう。


という軽く冗談の混じった国王の言葉を受け素直に床に着くことになった。


そう、明日は帝王との決戦の日だった。

書き方が変っている部分があるのは仕様です!

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