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story in story  作者: 初谷ゆずる
ナルへの侵攻
41/46

恋愛模様と疲労模様

見鏡達が動けなくした敵兵を城に収容し終わると時刻は既に昼の一時を回っていた。


つまり徹夜で二日戦い続けた計算になる。


「ドンだけ化け物なんだ俺達・・・」


つい三ヶ月前までは普通の一般人だった本条がとうとう人間やめてきたな俺。と部屋で見鏡達が一斉に会している中で言った。


いや、月人の修練も合わせれば既に五日間は戦い尽くしだったのだがまぁ、月人の修練は最後に身体的疲労は完全に回復してくれたようだ。精神疲労のほうはどうにもならないが。


流石にタフな異能者と言っても体力の限界が来たのか、部屋ではステラの面々がぐったりとソファやベットなどに寝そべっていた。


ルイやアキのほうを見れば既に寝息を立てていた。


綺麗好きな彼らも風呂など考えるほど余裕がなかったのだろう。


本当ならばこのままナルに行ければいいのだが流石に疲弊し切ったこの状況でナルに殴り込みに行っても返り討ちにされるだけだ。


見鏡は城の執事に運んでもらった飲み物を飲みながら思考に暮れていた。


それに、ラファエルのあの時間稼ぎと言っていた行動は信頼してもいいだろう。


俺も少し休みたいがその前にやる事がある。


「国王とシンリアの話し合いに首突っ込んでくる。」


扉から背中越しにステラの面々に言うと、それぞれがだるそうに返事を返してきた。


本当に限界のようだ。


****


おかしい。


別に魔物がいること自体はおかしくはないのだが問題はその数だ。


そう頭の中でつぶやきながらラファエルは襲い来る魔物を次から次へと切り身にしている。


ここ最近魔物の襲来が多いとは聞いていたがナル帝国に着くまでにここまでの数エンカウントするとは。


まだ大した強さの魔物には出会っていないのだが恐らくそれも時間の問題だろう。


しかし強さは大した事は無いが数が多い。エンカウントした数はそろそろ100に届くのではないかというほどのものだった。


そう考えながら戦っていると見鏡と戦い軽く疲れていた為に生じた一瞬の隙を突かれ狼の変化した所謂いわいる狼男に懐に潜り込まれた。


「しまっっ!!」


慌てて次いで来る衝撃に備え風を纏うが、おそらく急造のこれでは衝撃に耐え切れないだろう。


下手をすれば死。


といった覚悟をしたが次の瞬間眼前の狼は地面から生えた腕によって地中へ引きずり込まれていった。


一瞬何が起こったのか把握しかねたが直ぐに心当たりのある人物が思い浮かびその名を呼んだ。


「良いタイミングじゃあないか。ウリエル。」


狼の引きずりこまれていった穴を見つめながらそういうと、その言葉に答えるように穴からひょっこりと金髪の男が顔を出した。


「久し振りやな?ラファエルのおっさん。」


おっさんと言う部分でラファエルの額に青筋が浮かんだ気がしたのはきっと気のせいだ。


ウリエルと呼ばれた金髪男が突然横に視線を投げたのでその視線を追うとそこには露出度の高い服に身を包んだ女性が立っていた。


「四大天使の神柱全てが揃った。ってところかな?」


ラファエルがそういうと他の二人は首をかしげた。


恐らくミカエルが居ないじゃないかということを疑問に思っていると考えたラファエルは無言で懐から紅い結晶を取り出した。


それを見た二人は納得したのか、静かに瞳を閉じて小さなため息をついた。


****


「で?何の為に出て行っていたんじゃ?」


シルバトリア国王がグラス片手に頬杖をつきながらシンリア・・・いや、レティに聞いた。


いかにも妹に手を焼く兄といった雰囲気を醸し出しているあたり、妹思いなのだろう。


しかし親の心子知らずとも言う。


この場合は兄の心妹知らずかはさて置き。


そんな風に国王がシンリアに聞くと、シンリアはツンとした表情で答えた。


「簡単に言えば復讐ね。」


その答えは予想できていたのか、国王はハァ・・・と深くため息をついてグラスに注がれている酒を飲んだ。


「で?復讐は果たせたのか?」


答えは国王の予想に反してもちろん、というものだった。


思えば二年前か。


このシルバトリアの王であり自分達の両親がとある実験計画を果たす為に切り捨てられ殺されたのは。


*


三年前。


突然のナル帝国の急激な肥大と神柱の存在が国のトップの人間達に知れ渡り、更にはナル帝国が周囲の国々を片っ端から滅ぼそうとしているとの話が浮上した頃だ。


神柱の存在は明確な脅威として在った。


神柱がいればこちらになすすべはないとさえ言われているほどだった。


あのころはまだ門術という技術が知れ渡っておらず、神柱に対抗できる人間は誰一人としていなかったのだ。


そこで発案されたのが古来から通ずる呪術だ。


蠱毒。


追い詰められた国の幹部達は気が狂ったとしか言えない所業を為した。


通常ならば虫などでやるこの呪術を、怨み辛みが激しい人間でやったのならばどうなるのかと言うことは誰が言ったのか。


それは分からないがとにかく蠱毒の人間版の研究が進められる事になった。


その際大きな費用が掛かると言う事で国のトップたちは秘密裏に連盟を作り資金繰りをした。


手段を選ばないと言うレベルの代物しろものではなかった。


体力のある大人で試したが許容量が少ないことに気付いた研究人は、未だ知識などの足りない頭にまだ余裕のある子供を使う事にした。


しかしそこらから攫い足が着いたのではたまったものではない。


そこで奴隷商人から買ったり相手に来て貰うことにした。


何時の時代も力というのは欲しがる人間はいるものだ。


そうして人材の調達も十分。あとはひたすら繰り返し死んでいった憎悪に耐えれる人間を育てるだけ・・・


といった所で、開設当初から人を殺し蠱毒を作るのに反対していたうちの両親は行動に出た。


民に知らせるべく演説会を開こうとしたのだ。


しかしそれは前日に暗殺と言う形により断念された。


殺したのはヘスティアの兵だった。


王と王妃は間に合わなかったがレティは助ける事が出来た。


つまり三人一緒に和やかに話していたところにヘスティアの兵が乱入し、そして二人を殺した。


目の前で両親を殺されたレティはさぞ悲惨な心境だったのだろう。


しかも殺した相手が同じ反対派のヘスティアとなれば。


レティもヘスティアの国王や王子とは仲が良かったのだ。


それだけに裏切られたショックは計り知れない。


*


と、そこまで思い出すとレティに不思議そうな声で尋ねられた。


「怒らないの?」


人を殺したのよ?というせりふは続かなかったが心の中では言っているつもりになっているだろうレティに国王は答えた。


「人を殺した・・・いやまぁわしもやってやろうとか思ってたしのぅ。」


実年齢にそぐわないこの口調になったのはいつだったか。


国王は言葉に続けそれに?と少しいやらしい笑みを浮かべて続けた。


「まぁわしがなんとも言わなくてもどうやら支えになってくれる良い人がいるようだしのぅ?」


と、既に口調だけでなく内容までオヤジに染まったその言葉にレティはまっかになりながら飲んでいたジュースを吹き出した。


「なっっっ何言ってるのよ!」


ダン!とコップをテーブルに叩きつけながらそういう様は既に居ると物語っているようなものだ。


一瞬一緒に戦っていた本条とか言うやつかと考えをめぐらせたがあんな冴えない男にはなびかないだろうと思い却下。


と言うかむしろわしが許さん。


残るは・・・


「あの見鏡とかいうやつか?」


国王がニヤニヤと笑みを浮かべながら追撃するとレティは言葉を詰まらせ俯いた。


「でっ・・・でもあいつ彼女居るし・・・」


気になったので聞いてみると最初は渋っていたが兄に話せないのか?と軽い脅しめいた言葉を言うと渋々話し始めた。





・・・・・・・



どうやら好奇心で聞いていいほど小さいレベルの問題ではなかったようだ。


まさか恋敵の話なのに女神が出てくるわここら一体の土地の命が掛かっているとは。


どういう恋をしているんだ妹よ。


そういう同情にも似ためでレティを見ているとふと気になる事があったので聞いた。


「後発性の異能者が居たのか?」


二人いたというその後発性の異能者。


しかし記憶が正しければそれは恐らく。


その忠告をしようとしたところで突然ドアが蹴破られた。


闖入者を見るとそれは黒いローブを纏っていた。


よこで兵士がわたわたと慌てているところを見ると制止も聞かず突入してきたのだろう。


そして剣呑な声で質問した。


「後発性の異能者なんざ、居るはずがないんだな?」


質問責めか。


と王国はこのとき覚悟したと言う事を後に語っていたりしていた。


****


闖入者の分にも食事を用意させたが、闖入者は食事もそこそこに話題を切り出した。


蠱毒の説明をしろ。


なぜピンポイントでその話題が出てきたのかが気になったがそれは従者につい最近半透明の大剣を担いだ少年が来た。と言う事を聞いたのだと言うので納得した。


知り合い・・・恐らく敵としてだろうが知り合いなのだろう。


事情は分からないが特別隠す事でもないので自分の知っている事全てを話した。


「なるほど・・・な。」


色々と思い当たる節があるのか顎に手を当て唸り始める。


新たにグラスに注がれたワインを飲みながらその様子を見ていると、闖入者は顔をあげ聞いてきた。


「最後にナルへ行ったんだな?」


その質問にああ。と答えるとその闖入者はフード越しにも分かるほどに愉快な雰囲気を発し始めた。


「アンタもうすうす気付いてたんだろう?蠱毒実験の裏で操っている人間が。」


突然そう言い出した見鏡にレティは驚いていたが別段国王は驚かなかった。


むしろ呆れていたと言うべきか。


察しがよすぎる。


蠱毒実験という暗い面を持つ計画が近くで進行していればナルで起きた不祥事も周りの人間は公に糾弾することが出来ない。


なぜなら蠱毒実験は関係者の数が多すぎてどれが自分達のおこした不祥事か分からない為にブーメランを恐れて糾弾できなかったのだ。


実際ブーメランにやられたことも一度や二度あるらしい。


それはかなりナル帝国の動きを軽くした事だろう。


その説明を聞いたレティは今にもコップを握りつぶしそうな勢いで怒りに震えていた。


やめてくれ、気持ちは分かるがそのコップ割れると痛いぞ。


手とかテーブルとか、懐とか。


恐らく後発性の異能者は感染させられた蠱毒だろう。


あの国は民に感染性のある蠱毒まで埋め込んだということだ。


そしてナルに行った例の襲撃者もナルに味方になるとは考えにくい。


つまり敵の振り。


面倒な事をするやつだ。


話がそれてしまったなレティは親が死んだのもナル帝国の手のひらで踊らされていたと知れば起こるのは当然だろう。


特に妹のレティは溺愛されていたからな。


わしはそうか、とだけで片付けてしまったが彼女はそうはいくまい。


何時までも復讐に燃えさせてしまっては心配なので別の方向に怒らせるべく闖入者に質問をした。


何処までもシリアスな雰囲気は好きではないしな。


「で、例の女神さんはお主の彼女なのか?」


突然の質問に闖入者は飲み物を吹き出していたがまぁいい。


いまからレティをからかえると思えば多少の汚さは我慢しよう。


ちらりと横目でレティを見れば怒りと恥ずかしさの混じった目でこちらを睨みつけている。


おぉ怖い怖い(棒)


闖入者は例の女神との関係を否定していた。


別段図星だったから慌てて、という感じでもなさそうだ。


世話になったからお礼で助けるだけらしい。


良かったな妹よ。勝機はあるぞ。


相手もこちらも聞きたいことが終わったので解散と言う事になった。


レヴィア達とは違いここ何日徹夜で戦い尽くめだったようだ。別にレヴィア達を責めてるわけではないが比較対象として近かったものでな。


だから一日だけ休んでナル帝国に行くと言う。


こちらとしてはレティだけでも置いていって欲しかったがまぁ恋人をただ待つというのもつまらなそうなので連れて行ってもらうことにした。


別れ際に闖入者がほんのある場所を教えて欲しいと言ってきたので地下の書庫を教えてやった。


世紀の一大決戦の前に読書とは変わった男だ。


まぁしかし世界を救うのは案外こういう変わった男なのかもしれない。


アイツになら妹をやってもいいかもしれんな。


もう完全に父親と化したその思考は自分の恋愛は考えていないようだ。


隣で皿を下げながら呆れる執事はどうやってこの厄介な王に恋愛をさせるか考えているようだった。


前途多難である。

最後まで読んでくださってありがとうございます!

久し振りのあとがきです!

女神が空気です!かなり!いやでも裏では結構頑張ってるんですよ?ここではいえませんが後々でしっかり出したいと思います。

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