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story in story  作者: 初谷ゆずる
ナルへの侵攻
40/46

シルバトリアの攻防

時はさかのぼる事二時間。


「シルバトリアに助けに行くなら早くしたほうがいい。」


ラファエルは眼鏡を掛け直しながら言った。


「宣戦布告は終わっているからね、恐らくもう既にシルバトリアに向かって兵が歩き出している頃だろう・・・いや、既に到着している可能性も否めない。」


「そりゃ不味いな。」


見鏡が別段驚きもしないのでシルバトリアと見鏡の関係性をラファエルは一瞬考えたが直ぐに意味の無い事だと考え直し思考を止めた。


「まぁ僕は先にナル帝国に行って荒らしてくるよ。とても帝王には勝てるとは思えないけど少なくとも・・・時間稼ぎぐらいにはなるだろう。」


ラファエルがそういうと本条が呆れたように言った。


「まるで血で血を洗うを体言しているような状況だな。全く何人死ぬのかも考えずに・・・」


それはラファエルに忠告した訳では無いが、そういう形とも取れる言葉だった。


「仕方ないだろう。今ここで動かなければもっとたくさんの人が死ぬ。物語ではここで誰も死なない方法を模索し結果としてそれが成功するのだろうけど生憎僕はそんなヒーロー体質じゃないからね。」


そこまで言ってラファエルは一呼吸置きそれに、と付け加えて続けた。


「血で血は洗えないさ。変わるのは量だけだ。血を洗うには・・・いや、血は一生洗えないのかもしれないな。」


血、という言葉は恐らく人の死という言葉に変換してもいいのではないのだろうか。


それに気付くと今まで人を殺した事のある人間・・・その場に居合わせた全員は顔をしかめた。


が、直ぐに見鏡は言った。


「いや、血は洗えるさ。血は落ちにくいが必ず落ちるものだしな。まぁ落とす為に沢山の水が必要になるけどな。まぁでも血を洗えたからと言って忘れてしまっては意味が無いが、まぁ何時までも引きずるものでもないさ。」


罪から逃げることは出来なくてもそれを償うことは出来る、ということを言いたかったのだろう。


それに気付いた皆は無言で頷いた。


「ま、いいさ喋ってる暇は無い。どうせなら僕が風の魔法を使って送ろう。君達がただ飛ぶだけよりは早く着くだろう。」


それに、と付け加えラファエルは視線をミカエルが消滅した所に残る紅い結晶へ視線を投げかけた。


「彼の埋葬もして行きたいしね。彼は前々からここみたいな夕焼けが綺麗なところが好きだと言っていたんだ。全く格好に似合わずロマンチストなところがあるみたいでね。」


可笑しそうに言うラファエルの顔には何処か寂しげな色が漂っていた。


しかし直ぐに見鏡は意識を戻し、ルイとアキを呼んだ。


「おい、さっさと行くぞ。」


ルイとアキ、という名が出た時にラファエルは一瞬驚いたが直ぐにその表情はいつものポーカーフェイスへと戻し言った。


「お久し振りです。まさかあのじゃじゃ馬娘達がここまで強くなってしまわれるとは。いやはや人の成長とは侮りがたい物がありますね。」


そこまで言うと、二人はすれ違い際にありがとうとだけ言って振り返らずに見鏡達の中へと入っていった。


全員が一纏まりとなり飛ぶ用意が出来たところで見鏡は言った。


「なぁ、俺らの拠点のあの館に三人ほど仲間が居るんだ。何も力を持たないから連れて来なかったんだが・・・伝言と保護を頼みたい。」


その見鏡の要求に二つ返事で了承すると、伝言を促した。


「俺達の家を守ってくれよ、とだけ。」


そう言って輪の中に戻ると準備完了の合図をし、ラファエルの魔法により加速しながらシルバトリアへと飛び立った。


見鏡一行を見送った後、静かに結晶の傍へと歩み寄りささやきかける様に言った。


「全く。お前のロマンチストさ加減には呆れるよ。どうせ死に場所にはここがいいとか言う理由で死んだんだろ?ばれないとでも思ったのか?」


ラファエルがそう聞くと紅い結晶は答えるようにドクンと光った。


「相も変わらず。とはよく言ったもんだな。まったくとんだ腐れ縁だ。幼馴染の癖に死に際を見せないとは。」


ラフェエルが軽口を言うと結晶はケラケラと笑うように何度か光ると、一度大きくドクンと光を放ちそして今まで持っていた紅い輝きも失った。


その最後の光はラファエルに向けたメッセージだったのか、ラファエルは瞳に涙を溜めて答えた。


「分かってるよ。あの人の物語はあんなふうに人の死に彩られてはいけない。それを防ぐ手伝いをしてくるよ。」


それだけ言うと、輝きを失った結晶を握り締め立ち上がった。


「本当は埋葬する予定だったんだけど・・・どうも君にサボらせるのは癪でね。手伝ってもらうよ。異論は認めないさ。」


ま、言う事も出来ないだろうけどね。と一人呟きふわりと舞い上がった。


****


「で?お前たちとアイツとの関係はなんなんだ?」


本条が空を飛んでいる最中にルイとアキに聞いた。


するとアキがルイのほうへ助けを求めるように視線を投げかけ、それを見たルイが言い辛そうに口を開いた。


「えーっと・・・私達実はナル帝王の甥と姪・・・なんです。だから小さい頃あの人達・・・四大天使の神柱の人達には結構遊んでもらってたり・・・」


そう言ってから直ぐにごめんなさい!と言っていたが、周りの人間は少し驚いたものの別に気にしてない、と言って責めてはいなかった。


しかしその態度に逆に不自然に思ったのか、ルイは聞いた。


「な、なんで怒らないんですか・・・?素性を隠してたんですよ?それに・・・ナルの・・・敵の国のかなりの上層部の人間の子供・・・」


本当に分からない、という顔をしながらたどたどしく言ったその言葉に、本条は答えた。


「んー・・・なんと言うか。別に素性で人を判断するほど俺達落ちぶれてないというか。別にルイ達がナルの人間だからって今まで一緒に生活してきたルイやアキがいなくなるわけでもないし。というかぶっちゃけ今まで一緒に生活してきた二人が俺達にとっての二人だし。」


言葉にすると難しいな・・・などと言いながら二人に必死に説明していた本条を見かねたのか、シンリアが言葉を引き継いだ。


「あんたは下手に上手く言おうと頑張りすぎなのよ。用は隠し事なんて誰にでもあるって言うだけの事でしょ。この際だから言うけど。私本当なら今頃シルバトリアの王女なのよ?本名はシルバトリア・レティ。現国王の妹よ」


そのさりげなく言った言葉は見鏡を除いた一行を驚かせるのに十分な事実だった。


「王女!?まじで!?」


「アンタ王女だったの!?」


等々。


しかしひとしきり驚いたところで、見鏡だけ驚いてない事に気付い本条が聞くと、さも当然そうに見鏡は答えた。


「っつか、気付いてなかったのか?」


この答えに本条と秋乃が心のなかでうるせぇよと突っ込んだのは言わなくても分かる事だろう。


****


防戦一方と言う事すら難しい戦況だった。


見渡す限り敵・敵・敵。


既に陣形などと言っていられるレベルの物ではなかった。


数の多さで言えば二番目のここですらここまでだ。


一番数の多かった中央は既に落ちているという可能性も否めない。


最初の対敵から多くても20分は耐えられると思っていたが予想以上に門術使いが強く、まるで突けば崩れる豆腐のように攻め込まれた。


もう既に自陣の兵を半数以上削られたというところか。


奇跡が、起きた。


突如地面から小さな光球が大量に出てきたと思うと、それが突然爆風を放ちながら人型へ変形した。


その爆風で前線の敵のみを吹き飛ばし、人形が敵の入り込めないように陣形を整えた。


数はざっと見二千と言ったところか。


何が起こったのか把握しかねていると、いつの間にか後ろに経っていた白いローブに身を包んだ二人と黒いローブに身を包んだ小さな一人に声をかけられた。


「貴方が東側の指令ね?手を貸しに来たわ。」


未だ把握しきれていない頭でどうにかだした質問は何者か、というありふれた言葉だった。


「何者かって?私達はステラよ。まぁなんで来たかは聞かないでくれると助かるわ。」


そういうと、何処からとも無く出した赤い半透明のナックルを両手にはめると後ろの二人に合図した。


「御願い。」


その言葉を聞くと、二人は同時に勢い良く両手を挙げ白いローブに身を包んだ人が叫んだ。


「私達の分身よ!武器を取れ!シンリアさん・・・いいえ、シルバトリア・レティの故郷を守る為に戦いましょう!」


その言葉を幕切りに、人形たちがガチャガチャと鎧を鳴らしながらそれぞれの武器を掲げた。


人形なので大きくても成人男性の腰辺りまでしかないのだが数は圧倒的だった。


「いやぁ全く沢山操れるようになったものね。」


手にナックルを装着したステラの一員が関心したように言うと、先程叫んだステラの一員が照れるように答えた。


「これも月人さんの修行のおかげですよ」


月人やステラなどなど聞きたいことは沢山あったがそこまで暇があるわけではないと判断し、慌てて兵を収集し陣形を立て直した。


「新たなる仲間のおかげで勝機は見えた!この戦い!勝つぞ!」


ランドラがそう叫ぶと兵達が一斉に雄たけびを上げた。


この光景をみてランドラは確信した。


この戦い、勝てる。と


****


ランドラ率いる東軍が苦戦している時と同時刻。


西側のレヴィア軍も苦戦を強いられていた。


状況はランドラ部隊と同じ位にきつい物となっていた。


ふと視線を上げれば、前線よし少し離れたところで敵の門術師の一群が数十人で固まり遠距離大規模魔法を唱えていた。


あれを撃たせるわけにはいかない。


詠唱している所を確認したレヴィアは一瞬でその判断に至ったが今自分がここを離れてしまえば戦線は一気に切り崩されてしまいあげく城壁を易々と越えられてしまうだろう。


それを許してしまえば結果は逆殺。


それは防がねばならない。


せめてもう一人自分と同じかそれ以上の強さを持った人間がいれば・・・


と無いものねだりをしていたところで突然。


敵の門術師たちによって詠唱され頭上に生成された魔力の塊が斜めに真っ二つに切り裂かれた。


突然攻撃されコントロールを失った魔力の塊は暴走し、周囲にいた兵や門術師を片っ端からなぎ倒していった。


莫大なエネルギーに比例してその魔法に倒された敵の数はとてつもないものになっていた。


あれが予定通りこちらへ放たれていたらと考えると背筋が凍る。


そのいきなりの展開に呆気に取られた両陣営の兵は魔力の暴走した中心点に立つ黒いローブを纏った人間に視線が釘付けにされた。


その人物は突然右手に半透明なオレンジ色の剣を抜くと、こちらとは反対側のナル帝国軍兵士が大量にいるところへ向け横に薙いだ。


すると、キン という甲高い音が響き渡り次いで帝国兵士たちの叫び声が響き渡った。


目を凝らせばその黒いローブの人物からおよそ10~20Mほどの距離の敵兵士が全て。


全て横に一刀両断されていたかのような動きをして倒れていった。


それはそこに居合わせた全員に化け物と認識させるのに容易な光景だった。


それを見た更に奥にいる兵士たちは腰を抜かすものや一目散に逃げ出すもの。


はたまた気が狂い笑い声を上げるものなどなどの反応があった。


それを見て今までやられた分だ、という様にこちらの兵士が息づき呆気にとられている敵兵士を後ろから刺し、斬っていた。


怯え戦闘意欲をなくしたものさえも笑って切り捨てていた。


狂っている。


戦争は人を狂わせるというがこれがそういうことか。


レヴィアは逃げる敵は深追いしないようにと声を上げるがそれに耳を貸す兵士は誰一人としていなかった。


しかし次の瞬間。


ゾッという全身を針で串刺しにされるような感覚に襲われた。


動かない首を無理やり動かして当たりを見ると全員がその感覚に襲われているのか立ち尽くしている。


中には恐怖に押しつぶされ口から泡を吹いているものもいる。


その感覚を発する者を探すと、先程の戦闘の真ん中に黒いローブの人間が立っていた。


その人間は苛立ったように言った。


あまり調子に乗ら無い事だ。と。


続けて、別に俺はお前たちに味方しに来た訳じゃあないんだ。


ただ加勢しに来ただけだ。


気に入らなければ敵にもなりうると言った。


大層自分勝手な言い分だがアイツなら平気で言うだろう。


この声の主は見鏡だ。


そして見鏡は殺気を解いてレヴィアに向かって言った。


「お前弱くなったか?」


****


北側では兵を一まとめにし、近づく敵を片っ端から動きを止めるという戦いをしていた。


シンリアは腱を凍らせ、本条も持ち前の動きの早さで腱を切る。


「アンタが時止められれば話は早いのよ。」


シンリアが面倒そうに言うと、本条は苦笑しながら答えた。


「仕方ないだろ?五回止められるうちもう二回使ってるとか言われちゃああんまり使えないだろ。」


「まぁそうねぇ。」


しばらくそうした会話をしながら戦っていると、突然敵陣が引き始めた。


恐らく見鏡か秋乃あたりが派手に暴れたのだろう。


それかルイとアキのあの数に圧倒されたか。


いや、全部か。


そう結論付けるとくるりと振り返り現シルバトリア国王を見据えニコリと笑い言った。


「お久し振りです、お兄様。」

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