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story in story  作者: 初谷ゆずる
終わりの始まり
38/46

死闘

見鏡がレストナムで一人でナルを潰すと決意したのと時を同じくして、ナル帝国は自分の植民地になっていない国全てへの宣戦布告を終えた。


そう、これから血で血を洗うような戦いが始まるのだった。


****


「着いたな。」


地面にふわりと着地したのはラファエル。


そしてその隣にはやや豪快に着地したミカエルが立っている。


二人の眼前にはレストナムの大きな門が立っていた。


「さぁ、まずはここから制圧しようか。」


ラファエルが眼鏡をクイ、と上げながら進むのを横目にミカエルはため息をきながらスタスタと歩みを進める。


「つまんねぇなぁ。こんな無抵抗な人間を殺すなんざ俺の趣味じゃねぇっつの。」


そう愚痴りながらも、仕事は仕事と割り切っているのかしっかりと魔方陣を描きながらあるいている。


すぐにでも二人の魔法が炸裂しそうになったその時。


バチン!という音と共に二人の眼前に光が炸裂した。


「おっと、ここは行き止まりだぜ?」


二人の視界が光によってやられていたがそれが晴れるのを律儀に待っていた襲撃者はそこに居た。


なおも二人が黙っていると、正面に居る襲撃者は続けた。


「とある小説の言葉を借りるなら・・・そうだな。」


と、一拍置いて続けた。


「ここから先は一方通行だ。」


そういうと、襲撃者は馬鹿正直に真正面から突っ込んだ。


余程自信があるのかただ単に実力の差がわからないのか。


何にせよ、ファーストインパクトで分かるだろう。


そうラファエルが分析していると、隣に立っていたミカエルが嬉しそうに言った。


「おいおいあれ、もしかして例のギルドステラのトップのあいつなんじゃないか?」


その言葉は逆にラファエルを動揺させた。


なにせ、三ヶ月前にあの村でミカエルが対敵したときとは全く異質のオーラを放っていたからだ。


いつもの自分なら警戒するところだが今回は何故か、興奮した。


ミカエル風に言ってみればゾクゾクする。


これが。


「戦いの楽しさってところか・・・っ!」


ラファエルが構えながら言うと、隣のミカエルがとても嬉しそうに言った。


「よぉく分かってんじゃねぇか!」


二人が構えるが、既に見鏡は二人の目の前に居た。


「べらべら喋ってると舌、無くなるぞ?」


淡々と喋るその様に呆気を取られていたが次の瞬間それが出来なくなった。


なぜなら、二人は腹部に受けた攻撃によって吹き飛ばされていたからだ。


「「カハッッッ」」


二人が同じ岩にぶつかるとそこで勢いは途絶え倒れこんだ。


が、すぐに二人は立ち上がった。


ラファエルは自分の服についた土埃をてではたきながら立ち上がり、そしてミカエルは首をゴキゴキと鳴らしながら立ち上がった。


「しゃぁねぇな、本気出すぞ。」


ミカエルがそういうと、ラファエルも無問題だ、という風に頷いた。


瞬間。


ミカエルの周囲には爆炎が。


そしてラファエルの周囲には轟々と鳴り響く風が取り巻いていた。


それを見るや見鏡は舌打ちして言った。


「一方通行のルールを守るのも苦労するなぁ、おい。」


そう軽口を言うが相手はそれには乗ってこなかった。


そしてミカエルが腰を屈めたかと思った次の瞬間。


何がなんだか分からないが危険だ、という脳の警鐘に従い右に横っ飛びをすると今まで自分の居たところにはミカエルの居たところから伸びる壁が出来ていた。


炎の、壁。


あれに巻き込まれたら絶体絶命所じゃないだろう。


そう考えているとすぐに今の状況を思い出し周囲を見渡したが周りに二人の姿は認められない。


村を襲いに行ったか?と見鏡が思い始めた次の瞬間。


炎の壁を突き破って左手にダガーを持ったラファエルが風を剣に纏わせ突きを繰り出してきた。


ヒュン という空気を切り裂く音を聞きながら全ての攻撃をすれすれでかわす。


しかし風を纏っているせいで刃をかわしてもその風が体に傷を付けていく。


(こいつで動きを鈍らせてミカエルで止めを刺そうって作戦か・・・っ)


そう思うが速く見鏡は行動した。


すばやくディールークルムを引き抜き、同じ風属性の魔法を纏わせて横薙ぎに振り切った。


斬撃を飛ばす良くある攻撃だ。


しかしラファエルはそれをしゃがんでよけた。


しかしそれが不味かった。


「ハン、お前ナル帝国の先遣隊の報告聞かなかったのか?」


そういうと、思いっきり地面を踏みつけた。


ズドン!という音と共に地割れが走りラファエルは足場を失い呆気なく転んだ。


その隙を見逃すまいと見鏡がディールーで首に向け切りかかるがそれをミカエルの盾で防がれた。


ガギン!という音と共に金属の擦れ合う音が当たり一面に響き渡り競り合いが始まる。


ミカエルの盾は炎で包まれていたが、ディールークルムとの競り合いの際炎が消えていた。


しかしすぐに炎が息を吹き返すと、剣に体重をかけていた見鏡に襲い掛かった。


最初は首をそらすだけでかわせると思っていた見鏡だったが一度かわしても生き物のように付いて来る炎を見、諦め後ずさりわずかに削れたフードのローブを右手で触りながら言った。


「二対一ってのは随分と面倒だな・・・」


見鏡が呟くと、それに反応するようにミカエルが答えた。


「なぁに、気にするこたぁねぇ。いくら俺達がまだ本気じゃねぇといっても神柱のトップ二人にまだ致命傷を負ってないんだ。」


それだけで誇れるぜ?とつけたしながらたてを握りなおした。


「ハッ俺は今からナル帝国のトップを殺すつもりでいるんだ。だから俺はこんなところで立ち止まってる訳には・・・いかないんだ。」


そう言うと左手にクレプスクルムを引き抜き告げる。


「前哨戦は終わりだ。」


左手のクレプスクルムが斜めに振るわれた。


そして次の瞬間。


二人の神柱が居た場所に巨大なクレーターができていた。しかしその場には二人がいない。姿を確認するべく視界を動かすと上空に立っている。


「そんな隠し武器なんざ聞いてないぜ?」


ブンブンと頭上で炎剣を回しながらミカエルが言った。


そして突然炎剣の動きを止めると縦に振り下ろした。


「炎龍召還。」


その言葉が見鏡の耳に届いた時には既に眼前の龍が雄たけびを上げていた。


「面倒なもの召還しやがって・・・」


そう見鏡は呆れたように呟き両の剣を構えると、龍の背後からラファエルが風を全身に纏い襲い掛かってきた。


「龍ばかりにかまけていると僕に殺されてしまいますよ?」


目にも止まらぬ速さと言うべきか。


一秒に五回の刺突を繰り出すラファエルの技をすれすれの場所で剣で軌道を変える。


「くそったれがっ」


煮え切らなくなった見鏡がディールークルムに風を纏わせ地面に突き立てた。


その剣を中心に爆風が発生し、ラファエルは吹き飛んだ。


一旦は危機が去った・・・訳でもなかった。


視線をラファエルからそらすとそこには先程の炎龍が既に目と鼻の先に居た。


「・・・・っ!」


ドン!と言う音と共に見鏡が吹き飛びレストナムの入り口の門に叩きつけられた。


立ち上がろうとするが体に力が入らない。


(万事休すなんて・・・笑えねぇな・・・)


一旦は諦めた。


が。


(やっぱり諦めるなんざ俺には似合わねぇなぁ・・・・・)


「第八門。開錠。」


ガチャリ。という錠が開いた音がした。


「悪いな、まだ俺のターンなんだよ。」


見鏡がそう不敵に笑うとゆっくりと立ち上がりディールークルムを地面に突き立て腰からウェスペルを引き抜いた。


そして破けたローブの代わり、と言うように剣をローブの形に変形させ着た。


その様子を見てラファエルは興味が沸いたのか眼鏡の位置を直して見つめている。


パチン、パチンと見鏡の周囲で押さえきれなくなった電撃が弾けている。


「異能者と能力者と月人の武器・・・この三つを同時に使ったらどうなるかねぇ・・・?」


ゆっくりと顔を上げながら見鏡が言った。


「おもしろそうじゃねぇか。」


ミカエルがそう言うと、突如見鏡の周囲に光球が六つ浮かび上がった。


なんだ、と二人が思う間もなく光球がラファエルに襲い掛かる。


構成などを読み取ろうとしていたのかは分からないが、ずっと光球を見つめていたラファエルも流石に回避運動をしなければ不味いと悟ったのか光球に向け静かに言った。


「面白い、追いかけっこといこうじゃないか。」


ヒュンヒュンと四方八方から襲い掛かる光球をすれすれでかわしながら離れていくラファエルを確認すると見鏡は言った。


「始めようか。」


ダン!と見鏡がミカエルに飛び掛かった。


両の剣に体重をかけた渾身の縦切りはミカエルの盾に阻まれた。


しかしすぐに体制を建て直し地面すれすれの姿勢になると、左手の剣クレプスプルムを一瞬放し、地面に突き立て地盤を引き剥がした。


当然ミカエルの姿勢は崩れ、姿は岩の向こうに消えた。


しかし直ぐにクレプスクルムを持ち直すと、岩ごと空間を引き裂いた。


キン!という甲高い音を聞くに恐らく剣で受け止めたのだろう。


そこまで分かった次の瞬間に見鏡は追撃に出た。


両の剣で幾多もの斬撃を繰り出していく。


時には切られ破片となった岩を足や腕などで相手に向け飛ばしながら。


ガガガガガガガガガガガガガガ


という息もつかせぬ連撃を両方の人間が繰り広げている。


恐らくこの時二人はゾーンというものに入っているのだろう。


周囲の動きが全てスローに見えるあれだ。


脳の思考回路をフルに働かせ、どうすればこの目の前の敵を排除することが出来るだろうかということを考えているはずだ。


「はぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁあ!!」


既に50回は斬撃を繰り出したであろうタイミングで突如見鏡が雄たけびを上げた。


するとそれに反応するように斬撃のスピードが跳ね上がった。


既に残像を見ることすらかなわないという速さだろうか。


ミカエルは盾・剣で見鏡の攻撃をかわし時に剣で反撃をする。


見鏡は反撃を体をそらす事でかわし、両の剣で攻撃を加える。


しばらくその状態が続いた時戦況が変わった。


足を攻撃するべく放ったミカエルの横薙ぎをジャンプでかわした見鏡を叩き落さんと盾を横に構え突き出したミカエル。


つまりは今ミカエルはすぐに攻撃をかわせる武器が無い。


そう気付くと、体を回転させ体をさらに上に移動させ盾に手を付き左手のクレプスクルムをミカエルの頭に叩き込んだ。


しかしそれをすれすれのところで首を反らしかわされ、惜しくもミカエルの右腕を切り落とすと言う結果に終わった。


すぐにミカエルが距離をとろうとするが、それを許すわけもなく肉薄した。


そしてとどめとばかりにディールーで盾の動きを制限し、クレプスクルムで心臓に突きを放った。


後30cmも進めば心臓に剣が突き刺さるという次の瞬間。


ミカエルを中心に爆発が起こった。


ドン!という爆音が聞こえたと思うと視界が反転した。


なんとか体勢を整え地面に着地しミカエルを見るとそこには盾を捨て、体から炎を吹き出している男が立っていた。


パンクスーツなどの服の区別は出来なく、体全てが黒に塗りつぶされていた。


そして失ったはずの右腕は炎で形取られていた。


「おいおい・・・まさか暴走か・・・?」


体に神を宿す人間は時折感情の昂ぶりや体力の減退の時に暴走すると聞いた。


何かミカエルだったものの体がぶれた、次の瞬間。


炎で形成された右手が見鏡の首を捕えた。


「がっ・・・」


ギリギリと首を締め上げていく。


纏った剣のおかげで熱は伝わってこないものの締め付けはしっかりと届いている。


「カハッ・・・」


(意識・・・が・・・)


いよいよ視界が霞み始めた。


剣で腕をきっても炎を切ってもすぐに再生してしまう。


こんな時あの一方通行の能力か刃ノ下の能力でも使えれば脱出できるのだが、まだあの二人のあそこまでの能力を使うには力が足りな過ぎる。


「まだ・・・死ねないんだ・・・・っ」


ギリ、と歯をかみ締め霞んだ視界を無理やりはっきりさせ、敵を見据えた。


「はぁぁぁあっぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああぁあああ!!!」


ギリギリと締め上げている炎の腕を段々と押しのけていく。


少し押し返すと突然見鏡は口を閉ざし静かに言った。


「この程度で俺を殺せるなんて思ってるなら。」


「なめてもらっちゃぁ、困るな。」


パシン。


という乾いた音が周囲に響き渡り、ミカエルの炎の腕が半分ほどまで消え去った。


「割とハイリスクだがまぁしかしここは一方通行なんでな?引く事も出来ないんだ。」


パチン。パツンという小さな音が鳴るたびに見鏡の皮膚が切り裂かれていく。


「時間がねぇな、さっさと終わらすぞ。」


そういうとディルークルムに電撃を纏わせ前に突き出し円を描いた。


するとそこに電気で出来た丸い球が完成した。


それを風の魔法で押し出すと、ゆっくりと進んでいった。


とてもゆっくりと。


逆に驚いたのか、ミカエルが様子を見ているが突如球が巨大な光を放ち炸裂した。


自身にも多少の電撃は喰らうが少しなら逆に電気信号を早くしてくれる。


好都合だ。


破裂する直前のミカエルの場所を目指し、クレプスクルムを振り下ろした。


すると見事直撃した。


ドゴン!という地面の破裂する音と共にミカエルは肩から腰まで斜めに半分に切り裂かれていた。


その姿を確認すると気が抜けたのか、プシュン、と言う音と共に鎧が剥がれ落ち剣の形に戻った。


そして力が抜けたように地面に倒れこんだ。


「くそったれ・・・が・・・」


霞む視界で目前を見据えるとそこにはミカエルが消滅していく様が見えた。


が、そこですぐ隣でザリ という砂を踏みしめる音が聞こえた。


動かない首を無理やり動かし音の主を探すとそこには短剣を構えた傷だらけのラファエルが立っていた。


「いやぁ、君のあの光球はなかなかに強かったよ。それなのに急に消えるものだから様子を見に来たらミカエルを倒しちゃうなんてねぇ。驚いたよ。でもまぁ手間が省けたことには喜ぶべきかな。」


眼鏡を掛け直しながら言うその言葉は悪趣味な死刑執行人が犯人に向けて言う軽口にも聞こえる。


ス・・・という静かな動作で短剣を持つ手をかざし見鏡に向けると静かに突き出した。

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