自分勝手に。
「出撃命令?」
そう言ったのは眼鏡をかけた青年・・・ラファエルだった。
声色に驚きの色が見えるので恐らく予想外の事実だったのだろう。
「で、どこに?」
改めて聞きなおすと、出撃命令が出た、とラファエルに告げたミカエルは答えた。
「出撃場所はレストナム・・・そして襲撃時刻は、10分後だ。」
ミカエルがそう告げると、いよいよ来るべき時が来たかという風にラファエルが眉をひそめた。
「国王はあれをやるつもりなのか?」
あれ、がなんなのか一瞬ミカエルは逡巡したがすぐに分かったのか静かに頷いて肯定した。
「ガブリエルとウリエルが居ないのに・・・どうするつもりなんだ・・・?まぁ、なんにせよ・・・」
****
「ップハァ!」
あの月人の生み出した見鏡の分身との戦いが終わった。
かなりの苦戦を強いられたがなんとか勝利を収める事が出来た。
周りを見渡すと、未だ自分以外は帰ってきていないようだ。
「ったく・・・何なんだ・・・」
ふと愚痴を漏らすと、自分の分身を倒しこの世界に戻ってくる寸前にかけられた月人の台詞を思い出した。
『これでお主も一人前じゃのぅ、せいぜい頑張ることよの』
一人前。
それは力が強くなったという意味なのだろうか。
それとも・・・
とそこまで考えたところで見鏡は頭を振ってその考えを捨てた。
「くだらねぇ。」
そう呟くとフードを脱ぎ、伸び放題の髪後ろで束ねた。
「しばらくやってなかったな・・・これ。」
今までは襲撃が突然すぎた事とそんなに本気になる事も無かった、というのもあるのだろうがしかし習慣を忘れるとは。
髪を束ね終わると、上体を反らし体を腕で支え座りなおした。
空は真っ暗だった。
空一面には星が瞬いている。
あの人は今何処に居るのだろうか。
昔、俺に願いを聞いたあいつは今何処に。
というか帰れたのだろうか。
そういえばあの日・・・
満月ではないものの、満月に限りなく近いつきが揃ったあの日。
満月が揃うのは50年に一度・・・
と、そこまで思考を辿り着かせると、ふと疑問が沸いた。
50年・・・確かに完全な満月が三つ揃うのは50年に一度・・・
だが、待てよ?
ならば何故あの女神は俺の前に現れたんだ?
この世界に降りてきて姿を見せるのはその満月が三つ揃う日・・・というか100年に一度のはず・・・
パラパラと倉庫にあった本をめくり探していると目的のページがあった。
『月人は、三つの満月が揃う日の他に三つの月の力が最も強くなる年・・・閏年に現れる。そして閏年に現れる月人は人の願いを叶え、そして帰る。』
閏年。
四年に一度訪れる年。
それならば四年に一度月人は願いを叶えているのか?
いや、月自体が三つ揃うのは五年に一度・・・
それならば・・・
5と4の最小公倍数は・・・20。
ということは20年に一度か・・・
と、そこまで考えたところで最初に会った月人の言葉を思い出した。
『困ったことはない、それは困りましたね・・・それでは私が困ります。私は願いを叶えないと帰れないのですよ。』
あの時俺は嘘と決め付けたが・・・もしかしたら事実だとしたら?
それだとしたら願いを叶えられていないという事だ。
そして次に頭に浮かんだのは女神だった。
アイツ・・・
考えてみればあの時・・・伊井島の体を乗っ取った時殺そうと思えば俺たちを簡単に殺せたはず・・・
殺さない理由など無いはずだ・・・
ということは、まさか敵の振り・・・?
そこまで考えて流石に無いだろうと言ってかぶりを振った。
なぜならあの悪魔。
あの悪魔が出てきたのと女神の出現。
タイミングが同じじゃないか。
しかし・・・悪魔と女神が手を繋ぐとは思えない・・・
ということはやむをえず?
つまり悪魔に手を貸してもらわないといけない程の事・・・?
いや、一から考えよう。
神柱。
悪魔。
女神。
この三つの材料から考えられるのは・・・
いやまて、一つ大事な要素を忘れていた。
ナル帝国。
たしかあの国の国王は・・・・
そこまで考えたところでハッと気が付いた。
そういえば、父親と母親が昔旅の話をしてくれたとき。
『そういえば俺の親友の旅仲間に国王になったやつがいて、そいつがまた魔術に長けててなぁ・・・アイツにはちょっと俺の能力を使って手伝いしてやったが今なにしてるかねぇ。』
こんな事を言っていた。
確かあのナル帝国に即位した奴も結構最近ポッと出のやつだったはずだ。
それに時期も会うはずだ。
それに考えれば簡単な事だ。
天使なんてそう簡単にこの現実に呼び出せるはずが無い。
それに物語の中の物だ。
つまり、これが出来るものと言えば・・・・
見鏡の能力・・・つまり父親か。
そういえば父親はこんな事も言っていた。
『あいつは悪用しないっていうからやったんだ。』
悪用・・・それがどういうものなのかは分からないが。
今のナル帝国に善というものがあるとは到底思えない。
植民地の蹂躙なんていうのはずっとやっている・・・
つまり。
今の戦争も。
神柱との戦いも。
全て。
俺・・・というか俺の家系が大なり小なり関わっている・・・という事か。
ならば。
「俺が決着を付けるしか・・・ねぇよな。」
さすがに一つの大国を落とすのに付き合ってもらう程の迷惑は、かけられないな。
そういって今まで仲間だった人間達の顔を一人一人眺め立ち上がった。
両手をグッと上にあげ伸びをすると言った。
「さぁ、始めようか。」