物語を背負う覚悟。
「おぉ・・・・」
ギルドステラの館のリビングでそう感動の声を出していたのはフロースだった。
「フフン。私達の能力なの。」
そう言って自慢げに胸を張るのはルイとアキ。
フロースと二人の間にある机の上にあるのは一体の人形だった。
「ヒモ無しで操れるなんてねぇ。」
どういう仕組みなのだろうかと人形をまさぐっているフロースだったが、タネも仕掛けもないことを改めて知ると諦めて机の上に置いた。
「どうも魔力で操ってるって言う事らしいんだよね。秋乃姉ちゃんが言ってた。」
アキが理解の及んでいないが言われた事なので何かヒントになるかなと思って口にした言葉は意外にもマレが知っていた。
「あら、貴方達も魔力を使えるの?」
布越しに鍋を持ってキッチンからリビングにやってきたマレの傍らには二ヶ月前にやってきた男性も居た。
「おぉ!ご飯!?」
魔力の事よりご飯が先だとばかりにアキが机に置かれた鍋に飛びついた。
どうやらクリームシチューのようだ
そう場が和んだところに一つ鋭い声が割り込んだ。
「魔力って言うのは一体なんなの?」
その声の主はルイだった。
「私は養ってもらってるだけって言うのは嫌なの。見鏡さんたちの役に立ちたいの。」
マレは一瞬ご飯の話題でこの場をごまかそうと考えたが、ルイの気持ちも理解できるし納得できる。
自分はご飯を作るという役目があるのだがルイたちは無く、それに彼女は同年齢の彼等が活躍するが自分は家で留守番というのが悔しいのだろう。
彼女はすこし精神年齢が低いところはあるが恩に関しては多少敏感なようだし。
そこまで考えが至り、見鏡達にお前の判断であいつらに教えてくれと頼まれた魔力の事の詳細を教える事にした。
「あくまでこれは見鏡さんたちの仮説であるので事実とは違うかもしれませんが。ルイちゃん以外のほかの皆さんも聞いてください。」
そう前置きをして、話を続けた。
「魔力とは。多分これを最初に話すのが早いでしょうね。」
そういって続けた。
魔力とは。
本などの物語の中ではそれぞれ魔力の成り立ちなどが違うのだが。
この世界では恐らくこうだ。
魔力とはつまりこの世に満ちている自然のエネルギーを少し借りて使う事だと。
世界にはエネルギー許容量があり、それを大幅に超えそうになると異能者が増えるのだろうということ。
しかし少なくなることは滅多にないので減りはしないのだろう。
これは見鏡の家にあった本に書いてあった内容らしい。
魔力という単語ではなく違う単語ではあったが恐らく同じ意味の言葉だろうという事。
そして魔力を使うレベルが上がれば上がるほど自然のエネルギーを大量に使う事ができる。
のだが。
この魔力というのは異能者は使っていない。
マレがここまで説明すると周囲から驚きの声が聞こえた。
しかしその声には反応せず、そのまま説明を続けた。
シンリアに頼んで自然エネルギーを調べてもらったのだが、見鏡が大量に魔力と思われるものを使った後も全く代わりが無かった。
しかし神柱と戦ったときには違和感があったといっていた。
恐らく。
神柱の人間達・・・つまり天使を体に宿した人間たちが使うのは魔力だが異能者が使うものは魔力とは全く異質なもののようだ。
これについては見当もつかない。
「との事ですよ。」
シチューの配膳をしながらの説明だったのだが、内容は結構なものだった。
「私達魔力を使ってない・・・のね・・・」
「ええ、異能者と呼ばれる人達の使うものの名前がわかっていないので魔力と暫定的に呼んでいるだけなのです。」
冷めてしまうので食べましょうとマレが言うと、全員が大人しく椅子について食事を始めた。
ルイは何かを決心したようだ。
****
ドゴン!という音と共に、森の三分の一が削り取られた。
その大きな範囲を持つ魔法をいとも簡単にかわし、身鏡に肉薄する少年。
「チッ・・・」
見鏡と対立する少年は自分の胸まであるだろうかという大剣を簡単に振り回していた。
しかし振りぬくスピードは見鏡のほうが速かった。
横にディールークルムを薙ぎ払うと、それを少年が大剣で受け止め競り合いが始まった。
「やぁ、久し振りだね?親御さんは元気にしてる?」
ニタニタと不気味な笑みを浮かべながら問いかけてくる様は見ていて吐き気を催すほどだった。
「てめぇが殺したんだろぉが!」
競り合いの最中に少年の腹に蹴りを入れ2メートルほど飛ばすと、追撃を仕掛けるべく剣を振りかぶりながら追った。
「僕が殺した?何を言ってるんだい?殺したのは君の兄貴だろう?」
吹き飛ばされながらも見鏡から視線を外さずに少年はいった。
「うるせぇ!殺したのはあいつでも原因を作った・・・いや、あいつを狂わせたのはお前だろ!」
見鏡がドン!という音と共に近くにあった岩などが粉々に砕けるほどの衝撃波を放つがそれを簡単に受け止める少年。
「僕も被害者なんだよ?僕も蠱毒の実験の被験者なんだよ?だから今復讐しようとしてるところさ。蠱毒の実験なんてものをやっている貴族にね。」
相変わらずニタニタと笑う少年の真意が分からず思わず攻撃を止めてしまった見鏡だった。
「お前が被験者なんて笑えない冗談だな。」
「フフフ。そう思ってるならいいんだけどね。二つ良いことを教えてあげよう。」
そういって手を広げ見鏡に向かって向けると一つ指を折って言った。
「一つ目は・・・僕は神柱と戦うべくして生まれた産物・・・・蠱毒の実験の成功被験者さ。」
そういって二つ目の指を折って言った。
「二つ目・・・君の両親は蠱毒の実験に失敗した君の兄貴の暴走の危険性をかえりみずに外にだすと言っていたんだよ。だから面倒なので僕が殺した。あの時は他の蠱毒実験の失敗作も入り乱れての大乱闘だったから殺す予定だった君と君の兄貴を殺し損ねたんだけどね。」
「つまりお前は俺の両親が死んだのは自業自得だと言いたい訳か・・・」
「つまりそういうことだよ。それに忘れたわけじゃないよね・・・・?」
「あん?」
「確かに君の両親を死の淵まで追い詰めたのは僕だ。だけど正直あの二人の強さは卑怯だった。僕の蠱毒の力を持ってしても足元にも及ばなかった。だけど何故僕が今生きて君の両親が死んだんだと思う?それはね・・・・」
こいつは俺の記憶にない一瞬を覚えているのか。
俺の両親が俺に駆け寄ってから死ぬまでの経緯を。
「君の両親が君に駆け寄ったときに、君が持っていた蠱毒の死体から剥ぎ取った剣で両親の腹を刺したんじゃないか。」
「は・・・・?」
「あれ、もしかして覚えてなかったのかな?アハハッそれは愉快だなぁ。そして皮肉だなぁ。悲劇だなぁ。思い出したかい?君の両親の物語に終止符を打つ決定的なきっかけを作ったのは君だよ?」
なんだそれは。
そんなことするはずが無い。
確かに親をにくいと思ったことがある。しかしそんなこと・・・
「するわけねぇだろ。馬鹿かお前。」
言い知れぬ渦の中に入ってしまった思考をとめたのは本条の声だった。
「まぁ、お前なら人殺しぐらい普通にやるだろうが、少なくとも身内には絶対に能力で攻撃しないって事を俺は知ってる。」
そういって見鏡の横に立ち、ボーッと立っている身鏡の背中を叩いた。
「レヴィアに暴力ふったときもしっかり能力といてたしなぁ。律儀なもんだ。」
「そうよ全く馬鹿なことで悩むやつも居るもんね。記憶が無いなら操られたとか考えられるでしょ?馬鹿なの?」
本条に続き、シンリアが森から姿を現した。
それに続き秋乃が出現した。
「お嬢さん気を失ってるみたいね。まぁいっか。とりあえず一言だけ言って置おくわ、そこのおちびちゃん。」
そう言って秋乃がニッコリと笑うと言葉を続けた。
「ちょーっと見鏡の知らない身鏡の事知ってるだけで偉そうにしてるけど。その程度の事で偉ぶっちゃって何?幼稚ね。大体こいつの知らないこいつのことなんてありすぎるほどあるわよ。例えばツンデレ属性備えてたり実は間抜けだったり。」
秋乃が言うとそれに同調してシンリアが言った。
「そうそう。意外に優しかったりするしねぇ。」
「え、なにそれ私優しくされた事ないんだけど。」
「気にすんなって。俺もだ。」
三人で勝手に盛り上がっていると、見鏡が少年に向かっていった。
「全くここは俺が落ち込んでからお前らに助けてもらったほうが物語としてはいいんだろうが・・・まぁ助かったことは事実だ。」
ローブのフードを脱ぎ、頭をガシガシと掻くと続けた。
「まぁなんだ。お前はいずれ殺してやるから。その前にあいつが先だ。女神とか名乗ってるやつ。あいつを殺して伊井島助けてからだな。お前は二の次だ。」
「へぇ、君もいい仲間を持ったね。でも両親は悲しむんじゃないかな?自分の大好きだった人間を殺した相手を目の前にして平静になることができる人間なんて。」
「言ってろ。だいたい俺の両親の物語は俺が終わらしたも同然なんだろ?なら光栄じゃねぇか。お前は人の物語を背負う覚悟ができてねぇよ。」
「人の物語を背負う覚悟・・・?」
少年は少し興味があったのか質問をした。
「人を殺すってことはその人間の物語・・・まぁありていに言えば願いや希望を終わらせるってことだ。つまりそれに付随する憎しみや哀しみも背負う覚悟がいる。だけどお前にはそれが無い。憎まれれば殺せばいい。哀しいなら黙らせればいいとしか思ってないお前は復讐者にすらなれてない。ただの殺戮者だ。」
「殺戮者と人殺しって違うのかな?」
「俺にとっては、な。」
「面白い事を言うね。まぁいいや。僕はこれで失礼するよ。目的の事も聞き出せた事だし。じゃあまたね。君が兄貴と対峙することを祈るよ。」
そういって少年は静かに跳び去った。
しばらく誰も動かず口を開かなかったが、シンリアが静寂を破った。
「割りとくさいこと考えてるのね。」
「うっせ。」
「オイ、せっかくシリアスな雰囲気だったのにぶち壊しだな。色々と。」
そう言って館に帰るべく踵を返した。
****
「では、行ってまいります。」
レヴィアが敬礼をすると、それに会わせ守衛たちが敬礼した。
「すまんな。現状が現状だから護衛を付けられなくて。」
王が言うと、レヴィアは手を振って言った。
「いえ、良いですよ、僕も一人のほうが気楽ですし。」
「そうか、それは良かった。では行って来い、無事に帰ってくるのだぞ。」
「はい!」
****
「あと、一ヶ月か。」
「ええ。」
「後一ヶ月であいつらは生き返る・・・神柱には悪いが犠牲になってもらおうか・・・」
「後一ヶ月・・・長かったですね・・・」
「ああ・・・本当に長かった。」
最後まで読んでくださってありがとうございます!
いやぁ身鏡たち最後の最後でシリアスな雰囲気ぶち壊しでしたね。
普通の本ならあそこでずっとシリアスなのでしょうが私個人としては仲間がいたら絶対にああいう雰囲気壊す台詞を入れて気を利かせる人がいそうだなーと思ったのでああいう展開にしました。
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