王国騎士団
「え、この国の騎士団に、ですか?」
「ああ。そうだ」
そんなやり取りをしているのはレヴィアとレヴィアを助けた男だった。
男はランドラ・アハナムと名乗り、役職はこの国の騎士団長を勤めているようだ。
先ほどのやり取りは、自分も騎士団に勤めていたことがあった。とレヴィアが口に出したためにランドラにならばこの国の王に謁見を申し出てこの国の騎士団に勤めないか。と言われたからだ。
このとき、見鏡達のことも気がかりだったのだがここは場所が分からない上に目の前の男は命の恩人だった。
ならばここである程度情報収集をしてもいいだろうという事に決め、男の申し出を快諾した。
そして男の着衣を借り、城へ向かう途中に自分の経緯を話し、そしてこの国のことを聞いた。
聞いたところによると、ここはシルバトリアという国らしい。
この国はかなり北に位置しており、資源も乏しいためナルに狙われていなかったのだが近年ナルが宣戦布告をしてきたそうだ。
地の利を生かしなんとかナルの攻撃を防いだが、その大規模な戦闘のせいで街の大部分が焼けてしまったらしい。
「つまり兵力の補充をしたいわけですね?」
レヴィアがそうたずねると男はアハハ。という少し子供のような笑みを浮かべた。
「まぁそういわれてしまうと返す言葉がないんだけどね。」
そんな会話をしながらも何時しか城門の前に来ていた。
「ここが王城さ。」
「大きいですねぇ。」
「大きいだけなんだけどねー。」
それは言って良いのだろうかと少し迷うような台詞だったが恐らくこの男はこういう人間だと周りにも思われているのだろう。
その証拠に警備兵も男の言葉に笑っていた。
「隊長流石に今のは不味いんじゃないですか?」
「大丈夫じゃないか?この国の王様もこういうことには寛容だし。」
警備兵と男が会話に花を咲かせているところに後ろから声がかかった。
「ほう、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。ん?私が寛容だって?」
そこには布の厚い服で身を包んだ男が立っていた。
身長は自分と同じくらいだろうか。体格もしっかりしていて王様というよりはむしろ騎士団に居たほうが違和感のなさそうな男だった。
「あ、こんにちはー今日は紹介したい男の子がいるんですよ。」
「ほぅ、男の子なのか。」
「いやまぁ子が付くほど幼くは無いですがね?」
そこで二人がレヴィアの事を見ると、レヴィアもやっと自分の事だと気付きハッと意識を戻した。
「あ、ぼ、僕はレヴィア・シンと申します。騎士団に入れてもらいたくここにやってまいりました!」
「僕推薦ですから実力は保障できるかもしれませんよ?」
「なんじゃその疑問系で塗り潰された言葉は。まぁいい試験をやろう。久し振りじゃ。腕が鳴るのう」
そういって王は城の中へと入っていった。
「ず、随分と若い王様ですね・・・」
「このあいだの大規模戦闘で王様と女王様を亡くしてね。今はあの人が王様をやってるって訳さ。本当は妹も居たんだけどね。今は何処にいるやら。」
「へ、へぇ・・・」
「ま、とりあえず中に入ろう。試験を受けなよ。」
「試験って・・・?」
「受ければ分かる受ければわかる」
ニコニコと笑いながらレヴィアの手をとり引きずる様子はさながら闘牛を前にワクワクしている父親のようだった。
「なんか嫌な予感しかしないんですが。」
「だいじょうぶだよ?死にはしないから」
「死には・・・って・・・ハァ・・・」
****
「つまり、王様に一撃加えればこちらの勝ちですか?」
「そうそう。物分りが良くて嬉しいよ。」
「でも一撃でいいんですか?っていうか王様に攻撃って。」
「そんな余裕が何時まで持つかは楽しみだね?」
「いや、そんな疑問系で言われても。」
「まぁいいや。ほらこれ持って速く行って来なよ。僕は二階から見てるからさ。」
そう言って手渡されたのは木刀だった。
(武闘会見たいな感じか・・・)
武器も手に入れたので目の前にあるドアを開けるとそこはステージのようになっていた。
真ん中に巨大な正方形の台があり、周りに二階建ての観客席があった。
(ステージも武闘会に似てるな・・・)
「お、来たかね少年。どうだい?コンディションは。」
「もうバッチリです。任せてくださいよ」
「それはいい事だ。本気でやってもらわなければ楽しくないのでな。」
この余裕の理由は一体なんなのだろうか。
「まぁいい。とりあえず始めるとするか。」
そういって王は木刀を地面にたたきつけた。
(これが開始の合図か。)
と、思った瞬間。王の姿が消えた。
油断していた、といわれれば否定できないがそれでも攻撃は受け返す自信があった。
動きを見切る自信も。
だがしかし、王の動きは全てを上回っていた。
(くっ・・・はやいっ!)
前後左右上下斜めと四方八方から来る攻撃を紙一重でかわしていく。
「なかなか耐えるな少年!」
その言葉の後に、背後からブワッと殺気が膨れ上がった。
思わずそちらに注意が向くが王は居なかった。
代わりに王は後ろに立って木刀を肩に乗せていた。
「今の反応・・・お主も多少なりとも命のやり取りをした事がありそうじゃな。経験は少なそうじゃが。」
「まぁ、経験不足なことは認めますが。しかし私もこれでは終わりませんよ?」
こっちのターンだとばかりに地面を蹴ると王に真っ直ぐ跳んで行った。
勢いを使った突きはやすやすと上に跳ばれかわされた。のだが。
「これで終わるわけが!」
木刀の向きを地面にかえ、地面に突き刺しそれを足場にして垂直に飛んだ。
さすがにこれには王も驚いたのか、多少反応が遅れた。
それをレヴィアが確認するとすかさず王の木刀を持ってる手を引っ張りながら顔にけりを入れた。
「ガッ・・・」
「王だからといって手加減はするなと言われたので本気で行きます!」
そして体を回転させ遠心力を使いながら王を地面に叩きつける―――――――
その直前にレヴィアは動きを止めて地面とは逆方向に手を振り上げ王が地面に突撃するのを阻止した。
「僕の勝ちですね。」
グタリと力なく横になる王を見てレヴィアは言った。
その言葉に王はニヤリと口を吊り上げ答えた。
「こりゃ一本取られた。」
****
「で?どうやって依頼を受けるつもりなんだ?」
見鏡がシンリアに聞いた。
「まず、掲示板に私たちの存在を知らせる。依頼受けるのはあの家の玄関入ってすぐの部屋でいいと思うんだけど。」
「なるほどな。まぁ妥当な線なんじゃないか?」
ご飯も済ませ、帰路に着いた見鏡一行。
「それにしても何でも屋ねぇ。また変な事をするようになったもんだ。」
本条が呟くと、他の面子も頷いて見せた。
家に帰るとリビングに入りそれぞれ寝やすい格好になり睡眠をとった。
しばらくすると見鏡はスクッと立ち上がり、外へ出た。
あたりはすでに暗く、ここらの住民は夜に活動するという事をしないのか、家の電気などもついていなかった。
「ハァ・・・・」
長く白いため息をついた。
(そろそろ冬・・・だな。)
時期は既に10月だった。
今回は短い冬になりそうだ、と考えていると後ろから声をかけられた。
「物思いにふける男子って言うのも嫌いじゃないけど、アンタってもっと考えずに行動するってタイプだと思ってたよ。」
振り返ると、直された玄関に寄りかかっているシンリアがいた。
「うっせぇな。ほっとけ。」
見鏡が唇を尖らせて言った。
「まぁ、過去に何があったかなんて知らないけど。興味もないしね。だけど一つだけいっておくわ。今のアンタは勝手に居なくなられては困る存在になっているのよ。」
いきなり突拍子もない事を言い始めたシンリアに見鏡は驚いて月を眺めるのを止めてシンリアへ顔を向けた。
「いや、まぁアンタが何処かに行きそうな雰囲気があったものでね。ま、気のせいかもねごめんなさい。」
そういって踵を返し再び床に着こうとするシンリアに何と言ったものか。と迷っていたが結局何も言えなかった。
「ったく・・・何処かに行ってしまいそうな感じ・・・ねぇ。あいつは自分が一番そういう雰囲気出してるってことには気付いてるんだろな。」
再び月に目を戻すと、呟くように言った。
「あの時の月の住人は何しに来たんだろうなぁ・・・」
最後まで読んでくださってありがとうございます!
微妙に見鏡君のデレですっ
実はツンデレ的な設定があったりなかったり。
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