増える仲間たち
「じゃあ風呂も済んだ事だし、部屋の掃除しよっか。」
秋乃がそう仕切りなおすと、全員から賛同の声が上がった。
とりあえずは玄関周りとそこから直接つながる大きな居間のような場所だろうか。
建物の形としては凸のしたの長方形をちょっと大きくしたような感じだろうか。
もちろん、上の正方形が玄関だ。
玄関から扉一枚挟んで小さな部屋に入り、そこから真っ直ぐ行くと居間に。左右に分かれている通路に進むと廊下になっておりそこにはおそらく六つの部屋があった。
途中に曲がる道があるようだがまだそこには行けそうにないので分からないのだが。
一同はとりあえず玄関とすぐそこの部屋。そして居間を掃除することにした。
「とりあえず先にやるのは雨風しのげるように壁の整備ね。アキは壁に貼り付ける板を作って。で私が貼り付けるから。」
「はい!」
「ルイちゃんと・・・」
秋乃が母親の呼び名に困ってると母親がそれに気付き言葉を挟んだ。
「あ、私は農民成りなので名前が無いんです・・・いつも娘にはお母さんと呼ばれてるので名前無くても生活できるので・・・」
「ふむ・・・そうね・・・なら名前は私たちが付けましょうか。」
そう言ってルイ・秋乃・アキが集まり少し話した後に決まった名前はステッラエ・マレ。星の海という意味だ。
そして娘の名前も無いということなので勝手にステッラエ・フロース。星の花という名前に決められた。
名前の意味を聞くとかなり嬉しかったのか満面の笑みで返してくれた。
歳がわからない顔立ちだが恐らく母親をやってるぐらいなのだから30代なのだろうか。
「じゃあ、マレさんとルイちゃんは中の埃とか掃除してくれる?」
「はい」
「わかりました。」
「二人とも硬い硬い。もっと砕けた言い方がいいんだけどなー」
秋乃が苦笑しながら言うと二人も苦笑した。
「まぁ喋り方は一番楽な方法でいいや。とりあえず仕事に取り掛かりましょうか!」
パン。と手を叩いて号令を掛けた。
****
「ここか?」
「は、はいっ」
男が異様に怯えているのは恐らく見鏡が剣で体を突いて急かしているせいだろう。
今表立って動いてるのは見鏡だけで、シンリアと本条には影で見鏡の後を追っていた。
場所は工場の倉庫のような大きな建物だった。ガレージと高いところに窓があるだけで特に何もないのだが。
しかし路地の入り組んだ所にあるので滅多なことではここは分からないだろう
「確かに何人かいるな・・・人数は?」
「お、俺とさっきの二人のほかに六人程・・・」
「農民成りの子供を攫ったろ?」
「は、はい。」
どうやら例の子供はここで間違いないようだ。
「他には?」
「き、貴族の親娘を一組と上級民を六人ほど・・・」
貴族は言わずもがな。
上級民とは平民の一つ上、農民成りの二つ上の階級である。
貴族の一つ下なのだが。
「成る程な。お前らの中にプロはいるか?」
「く、訓練を受けた人間という意味でならいませんが、この業界のプロなら一人・・・」
「つまり腕の立つ人間・・・か。」
「は、はい。」
「ご苦労様。」
「はぇ?」
一言告げると、ディールークルムで首筋を叩き気絶させた。
「さて・・・二人は出てくる気が無い様だし。一人でやるか。」
そう言って近くの建物に飛び乗り、倉庫の窓から中を覗いた。
そこにはロープで拘束された人質を取り囲むように犯人たちがいた。
「1・・・2・・・3・・・人数は全部いるな・・・」
中は二階建てで真ん中は吹き抜けで建物の周りに通路があるだけというものだった。
「一人づつ殺すか・・・?それが一番楽なんだが・・・まぁ貴族がいるんだから騎士団も動くだろうしそいつらに任せればいいか。」
そういってディールークルムをしまい、腰から短剣を抜くと一番近くに居た人間の首に思いっきり叩きつけ気絶させた。
幸い中は薄暗く、まだ進入に気付かれてないようだ。
静かに移動し、二人、三人と気絶させていく。
「二階の人間はもうこれで終わったか・・・」
後は一階の人間だけなのだが、一階は壁を背にして三人が円を作っていた。
「不意打ちは無理・・・か。なら一瞬で終わらせるか。」
そういって短剣をしまいディールークルムを抜く。
二階の通路の手すりにのり、三人の位置を把握すると、一番隙のある人間へと真っ直ぐに飛んでいった。
そして飛んだ勢いのまま腹部に剣を突き立て、能力で電気を流し止めを刺した。
「なっ!?」
電気の明かりで気付かれたのか、音で気付かれたのかはわからないがとりあえず他の二人に見鏡の存在がばれた。
「おせえよっ!」
左側に居る人間へ跳びかかり、剣を使うのも面倒なのか足で首の骨を折り、そのまま壁に着地しもう一人へと跳びかかった。
「そら、これで終わりだ!」
電気を剣に纏わせ振り下ろす。
誰もがこれで終わりだと思った。
が、相手が剣で受け止めた。
(こいつが例のプロか・・・)
競り合いを終わらせるべく剣を押し出し蹴りを繰り出すが、それを蹴りと同じ方向へ飛ぶといった方法で衝撃をやわらげられた。
(チッこいつ・・・)
それに続き見鏡は追撃を仕掛けるが、全てをかわされた。
「フッ・・・君があの見鏡君か・・・よくここまで成長したね・・・でもまだまだだね。その程度じゃまだまだだ。」
初めて男が喋った。
どこかで聞いたような声だったがどこだったか。
「ハッ。安い挑発だな。底が見えるぜ?おっさん」
相手がただの人間だと思って油断していたがここからは本番だ。
(さぁ・・・あの廃屋敷で見つけたあの本の能力・・・俺に使いこなせるかな・・・?)
本の内容は魔法使いの一生を描いたものだった。ストーリーとしては楽しくもなんともなかったが。
「そら!」
右手に炎を纏わせそれを飛ばす。
所謂ファイアーボールというものだ。
しかし男はそれを斜め上に跳びやすやすとかわした。
が、それを予想し見鏡は既にそこにとんでいた。
「炎は目くらましということか・・・っ!」
驚愕する男を見下ろし、剣を胸に突き立てた。
そして着地し剣を払い血を飛ばすとつまらなそうにいった。
「全く・・・何の茶番劇だ・・・」
****
「いたっ」
「だ、大丈夫ですか!?」
見ると、アキのふくらはぎから血が流れていた。
「大丈夫よ、大した事じゃないわ。」
そういって袖を引きちぎり患部へ巻く。
「止血の必要も無いぐらいの物だけどやっぱりここで傷口出しておくのはちょっと・・・ね」
苦笑交じりの顔で大きな居間を見渡した。
「大変そうですねぇ・・・今日中に終わればいいのですけれど・・・」
「そうねぇ・・・」
二人で呟くと、ハァ・・・というため息が同時に出た。
それに気付くと、クスクスと二人は笑い始めた。
「じゃあ、始めましょうか。」
そうアキが言うと、地面に散らばっている木や石を窓から放り投げ始めた。
「ち・・・力持ちなんですね・・・」
マレが感心したように呟くと、アキは照れたようにはにかんだ。
「え?あ、あぁいやなんか最近ちからがみるみるついてきちゃって。」
「そ、そうなんですか・・・」
「うん、だからここにあるものは私が全部どかすから、マレさんは埃を一箇所に集めてくれますか?」
「あ、はい。」
****
「ルーイーチャーン」
「なーんでーすかー?」
「板はもう大丈夫ーこっち手伝ってー」
「はーい」
秋乃に呼ばれトコトコと秋乃に駆け寄ると、石を手渡された。
これの用途が分からず首をかしげていると秋乃が笑って言った。
「うふふ、ちょっと今から楽しいことをしましょうか。」
ポン、とルイの頭を叩き少し離れたところへ連れて行く秋乃。
「その石をさっき板を貼り付けたところに向かって投げて?」
「え?」
意味が分からない
と言った表情で秋乃を見返すが秋乃はニコニコと笑っているだけで答えようとしない。
「ほらほら。投げて。」
急かされたので言われたとおりに石をなげると、ガツンという音をたて修理したところにあたった。
「よし、強度はオーケーね。ありがと。」
満足気に顔を綻ばせているがやった意図がわからないアキには疑問しか浮かばなかった。
そうして二時間ほど作業を続けると、切った全ての板を調度全て使い切り、玄関とその中の天井やらなにやらの補修が完了した。
「ふっふっふー終わった終わった。しっかし遅いわねー見鏡たち。」
「そうですねぇ。」
作業が終わったため満足そうに腰に手をあて立っていた二人だったが時刻は既に四時を回っていた。
「ここで立っててもしょうがないし、中の手伝いに行きましょうか。」
「はいっ。」
秋乃の提案に勢いよくアキが賛成すると、後ろから声がかかった。
「おーい。作業はどうだいー?」
その声に振り返ると、そこにはローブを被った三人と見知らぬ少女が居た。恐らくマレの娘だろうか。
「ん、板の貼り付け作業が終わったところーって・・・何持ってるの?」
よく見るとロープをつけた板の上に何かを載せて運んでいた。
「あぁ、いやなに貴族の親子がいたもんで金をもらってな。結構沢山。」
見鏡が告げると秋乃は手を合わせ嬉しがった。
「おなかすいた!」
「わぁったから。とりあえずなかの二人も呼んで来い。感動の再会の後に飯食いに行くぞ。」
「はいよっ!」
そういって建物の中に駆けていこうとする秋乃だったが中からも二人がでてきた。
「こっちも終わりましたー。って・・・あれ?」
「も、もしかして・・・」
二人はお互いに姿を確認しあうと駆け寄って抱きついた。
「良かった・・・本当に良かった・・・」
「お母さん・・・!こわかった!こわかった!」
二人とも泣いていた。
感動の再会。
これは沢山あっていいようなものではないのだがこれはこれでいいものだ。
「再会できるだけいいって事だよな・・・」
見鏡がそう呟くと、隣に居たシンリアが首をかしげて尋ねた。
「どしたの?」
「いーや。なんでもない。」
シンリアは分かってないようだったが、本条は気付いていた。
(まったく親が恋しいなら言えばいいのに・・・とは、言えないよなぁ・・・)
なぜなら、既に見鏡の両親は他界していたからだ。
殺されたからなのだ犯人は未だに誰かは分かっていないのだが。
しかし心の中では誓っていた
いつか両親を殺した人間を殺す。と
一通りの連絡をした後、とりあえずご飯の前にステッラエ親子の服を買いに行くことにした。
ついでに二着のローブの素材の布も買いに。
もちろん買い物のときはローブは脱いだ。
「さて、三着あれば十分だろう。とりあえず三セット分の服を持って来い。買うから。」
「ほ、本当にいいのですか・・・?」
「ああ。ついでに今度は石鹸使って風呂入れるところに行こう。色々作業して汚れたろうしな。ルイとアキも、まぁお前達も二着づつ買えよ。金はあふれるほど入ったからな。」
おぉ!とかまじか!とか歓声が上がるのを横目に、見鏡は店の中に設置されている椅子へ座り込んだ。
しばらくボーっとしてると、隣にシンリアが座ってきた。既に紙袋を下げているところをみると買い終わったのだろう。
「あんたは買わないの?」
「ん?あぁ、その内買うさ。ちょっと座って休んだらな。」
「そう。今日はお疲れ様。」
「たいした事はやってないけどな。ってかお前レヴィアファンクラブ会長のくせにレヴィアの心配しないんだな。」
「んーもう化けの皮はがれてるしねー演技するほどでもないかなーと」
「オイオイ何カミングアウトしてんだ」
「いーじゃないの。それにアンタも隠し事してるでしょ?」
「は?」
「出身よ。貴女元は結構偉い立場のお坊ちゃんでしょ?」
「は・・・?」
「多分あのアキ姉弟もだねー」
「ふむ・・・」
「まさかアンタ気付いてない・・・?」
「あぁ、俺はレストナムでの記憶しかないからな。」
「そうなの・・・」
「でも何故おれが貴族だと思った?」
「いや、物を食べるときとかの作法がね。」
「それが分かるってことはお前も貴族か・・・」
「あは、バレちゃった?」
「ま、何処の貴族かは知らないけどな。俺も服買ってくる」
そういって見鏡は買い物の輪の中に入っていった。
「あの作法・・・どこかで見たような・・・」
ベンチで脱力したように呟いた声は誰にも届かなかった。
****
「そういえば、貴族の人間にいくらもらったんだ?」
皆で夕食をとっているときに本条が尋ねた。
「ん?あぁ、資産の十分の一って言ったら1億渡された。」
「いちおっ・・・・」
ラーメンのメンを口に運んでいる途中で本条が固まった。
「しかしとんでもない額もらったな・・・」
本条が意識を取り戻し言い直すと、見鏡が答えた。、
「一億って言ったってよ。あの家修理するのに全部消えるだろ。」
「あー・・・まぁそうかもな。」
「だ か ら !」
二人で話しているとシンリアが口を挟んできた
「だから何でも屋よ!今回のおかげでこの国の人間の信頼はある程度取れたのかもしれないからね。依頼があれば言ってくれとも言っておいたし。大丈夫でしょ」
「なるほどなー」
本条が感心したように言うと、マレが質問をしてきた。
「えっと・・・私達はどうすればいいのでしょうか?」
「フーム。そうねぇ。出来れば私たちと一緒に働いて欲しいところではあるけれど・・・まぁ前の生活に戻りたいならどうぞっていうところかねぇ」
「ま、そうだな。しばらく娘と相談すればいいと思うよ?」
シンリアと本条がそういうが、すでに二人の意志は決定していたようだ。
「一緒に働かせてください。」
予想通りだ。という風に見鏡一行が笑う。
それをみて秋乃達の性格をしらない娘は不安そうに縮こまった。
「給料が出ないけれど、いいの?」
しかし母親は依然として嬉しそうな顔をしている。
「お、おかあさん・・・?」
「ま、朝昼晩の飯は出すし清潔な生活も保障しよう。」
予想外の見鏡の発言に娘は驚いた。
「ま、その代わりに条件がある。」
「はい。」
「どうやら秋乃達がお前達に名前を勝手に付けたみたいなんだが、俺達にもその呼び方で呼んでもいいか?」
「はい!」
母娘は嬉々として頷いた。
「決まりね。ではギルドステラ。ここに結成!」
そういって手を掲げると、それに見鏡以外の手が同じように掲げられた。
「ほら、見鏡も。」
秋乃が催促するが見鏡は頬杖を突いてふてくされたように言った。
「ハッ。やるかっつの」
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