ギルドステラ結成
「つまり何か?何でも屋でもやるってことか?」
息子を攫われた母親の家に訪ねる道中。
見鏡は怪訝な顔をして聞いた。
「そうよ。どうせ暇なのだし。暇つぶしでお金が稼げるならいいと思わない?それに今は例の女神のせいで色々と仕事が多そうだしね。加え仕事内容によっては貴族に貸しを作れるし力を付けることも出来る。今の私たちにはちょうどいいと思うのだけれど。」
「そう・・・ね。確かに何でも屋っていうのはいい案かもしれないわね。」
シンリアの案に秋乃が賛成した。
「わ、私たちも何でも屋って言うのはやってみたい・・・です。」
秋乃の賛成に続き、ルイ姉妹が賛同した。
「そうだな。面白いかもしれない。どうせあの女神にはまだ手が出せないし。あれだけの大規模魔法を使ったんだ。しばらく静かにしているだろ」
本条の賛成で見鏡も折れたのか。肩をすくめて仕方ない。と同意した。
****
「寒いな・・・いい加減どこかで暖まらないと凍死してしまう・・・」
ローブのポケットの中に手を突っ込み、体を縮こまらせながら歩いているレヴィア。
ローブのおかげでまだ体の動きは鈍っていないが、おそらく小一時間もすればすぐに体の動きが鈍くなるだろう。
しばらく歩くと、雪原から大きな岩が顔をのぞかせていたのでそこで休憩することにした。
「皆は大丈夫だろうか・・・」
少しだけ残った魔力で火の魔法を使い火を起こすと、体を丸めて横になった。
ボーっと何を考えるでもなくじっとしていると、後ろから声をかけられた。
「君、そんなところで寝るとしんでしまうぞ?」
声をかけて来たのは鎧に身を包んだ兵士だった。
装飾が派手なことからそれなりの地位の高さを思わせる。
「すぐそこに私の家がある。もしよければそこで暖を取るといい。」
「あ、ありがとうございます。」
親切な人間だと分かるとすぐに体を起こし、少し腰を折った。
「ふふ、君は律儀な人間だな。」
「あ、ありがとうございます・・・」
****
「あ、寝すぎた。」
少年が目を開けるとすでに空は赤く染まっていた。
「これが夕方かー綺麗だなー」
初めて夕日というのをみたのだろうか、感心したように呟く。
数十分そうしていると、思い出したように意識を戻した。
「おっとそうだった。とりあえずいつものようにやることを設定しよう。」
あぐらに座りなおし、あごに手を当てるとしばらく考えた。
「たしか・・・人に大事なのは・・・心に素直になること・・・だっけ・・・」
うーむ。と唸ると考えることをやめたのか、スッと音もなく立った。
「ま、考えるのはいいや。当面は復讐・・・でいいかな。うん。そうだなそうしよう。とりあえず目に付く人間を尋問してあの貴族について聞いていこう。そして最終的には殺す。うん。そうしよう。」
そういって少年は頷き、建物から飛び降りた。
「さ、物語には哀しいものと載っていた哀しい哀しい復讐劇のはじまりはじまり」
どこから出したのか、紫色の身の丈ほどもある半透明な大きな剣を肩に担ぎ無邪気に笑った。
「アハッ」
****
「ここか・・・」
そこにあったのはかなりの大きさの廃屋だった。
小説や漫画に幽霊屋敷として出しても何の違和感もないような大きさだった。
「け、結構な大きさね・・・」
シンリアも予想の斜め上を行かれたのか、かなり驚いていた。
「ええ、どうせ案内するなら知っている中で一番良い物が良いかなと思いまして。」
「そ、そうねありがとう。とりあえず中に入りましょうか。」
恐らく横は200メートル程。たては三階建てだろうか。
どうやら元々かなりの金持ちの貴族の家だったらしい。
中に入ってみるとかなりのひどい状況だった。
蜘蛛の巣は動物の死骸は当然で、ところどころ二階の床が落ちていたりしていた。
「これは掃除のし甲斐がありそうね・・・」
秋乃が呆然と呟いた。
「ま、まぁいいわ。ところで貴女仕事とかはやっているの?」
シンリアが母親に聞くと、母親は首を振った。
恐らく農家成りを雇ってくれるところなどないのだろう。
生活は落ちている小銭等でなんとかやっているようだ。
「なるほど、ね。なら貴女、私たちのところで働かない?今はお金を出せないけれど。いずれ有名になることは既に決まっているわ!」
「すげぇ自信だな。どっからその自信が沸いてくるんだか・・・」
見鏡が呆れたように呟いた。
「い、いいのですか?」
母親は少し躊躇いながら聞き返した。
恐らく人に仕えるというのは初めてなのだろうという事情を窺わせる。
「もちろん!あと、敬語はやめてくれる?私敬語を使われるの好きじゃないの。」
「あ、は、はい。」
そこまで話が纏まった所で、シンリアを中心に役割分担を決めた。
「多分人探しはそんなに多くなくても大丈夫でしょう。娘探しは私と本条と見鏡ね。」
「分かったよ」
「りょーかい」
「秋乃は母親さんの体を洗って頂戴。体が綺麗になると気分が良くなるからね。頼んだよ。」
「はいよー」
「ルイとアキは母親さんの入浴の手伝い。それが終わったら四人でここの掃除と補修をお願いできる?穴の開いた床とかは薪切りの容量でいたを作れば何とかなるでしょう。とりあえず今は一回だけでいいわ。」
「わかりました。」
「イェスボォス!」
「あら、そんな言葉もしってるのね。凄い凄い。」
ちょっと捻った答えで返したアキの頭を撫でながら玄関を出た。
「じゃあ私達は行ってくるわ。」
「頑張ってねー」
「死ぬんじゃないわよー」
それぞれの見送りの言葉を聞くと、少し歩いて大通りへと出た。
「んで?子供がいるところに心当たりは?」
見鏡が頭の後ろで手を交差させながら聞くと、シンリアはきっぱりと答えた。
「ない!」
「・・・・だろうと思ったけどな・・・」
すでに本条と見鏡は何かを諦めているようだ。
「じゃあまぁ妥当なところから掲示板でも見てみる?」
本条が提案すると、その前に、とシンリアがローブを着た。
「それ、着るのか?」
「着たほうが道行く人の印象に残るでしょ。」
「まぁ・・・そうだね。着るか。」
「ハァ・・・」
ローブを着ると、通行人に掲示板のような情報収集のできる場所へ案内してくれないかと頼んだ。
最初は怪訝な顔をしていたが大道芸人かなにかだろうと結論付けたのか、案内してくれた。
「あった。」
掲示板を少し探すと、よく分からない内容のものがあり、シンリアはそれを指差した。
「なんだ?これ。」
「私が聞いた話だとね。犯罪組織っていうのは結構こういう公の場にあるものを利用して情報共有するんだって。」
「そうなのんだ。でもなんで組織って分かったの?」
「それはだねワトソン君。」
(こいつ天狗になってやがるな・・・)
「なんだいホームズ君」
(悪乗りしやがって・・・)
「娘をいただいたという手紙を送ったということは親にわざわざ娘を攫ったという事を伝える意図があったということなのだよ」
「ふむふむ」
「ただの誘拐なら言う必要はない。だから目的は恐らく身代金あたりだろうなと推測できる。」
「ほぉほぉ」
「そして言っては悪いがあの家にはお金がない。つまり誘拐する必要がないというわけだ。そこから考えられるのは複数誘拐しているということ。そして複数の人質を管理するには一人じゃ無理があるでしょう?」
「おぉなるほど。」
「つまり組織犯。そしておそらく同時に何人もの人間が攫われ続けている。」
「続けている?」
「そうだ。恐らくもう少しすると親の元に身代金をよこせという内容が届くはずだ。何故今じゃないのかというと準備が整っていないからではないかなと推測してみたというわけだ。」
「おいお前ら。とりあえず推理はいいんだが掲示板の前でそんな茶番劇やってるとかなり目立つぞ。」
二人はそんな見鏡の指摘にハッと我に返ると、道行く人々がじろじろとこちらをみている。
真っ黒なローブと真っ白なローブを着てあんなことをしていればまぁ当然のことだろう。
「つ、つまりこの手紙が暗号になってる可能性が高いと言う訳なのだよ。」
「そ、そうなのか。では解読しようじゃないか。」
そういって二人で紙に目を写そうとするが、見鏡が後ろでそれを止めた。
「どうやらその必要は無いみたいだぜ。」
「「え?」」
「こっちだ。」
そういって身を返し掲示板の裏にある細い路地へと入っていった。
「ど、何処に行くのさ?」
「静かにしてろ。」
細い路地が十字に分かれているところで立ち止まると、地面を蹴り高く飛び上がった。
それにならいついていくと、建物の屋根へとたどり着いた。
そこから先ほどの路地を右に曲がったところを上から見下ろす形になると、そこでは華奢な女性を三人の男が囲んでいた。
「ほらほらぁ、別に乱暴するって訳じゃないんだから。ただ君たちを攫って身代金せしめようってだけだからさぁ。」
「ビンゴだね。」
「だね。」
「まぁ大方攫った人間が多ければ多いほど実りが多いとか考えたんだろうがただの馬鹿だろ。こういうのは一度の誘拐で終わらせるもんだ。」
「じゃあ後をつけようか。アジトが分かるかも。」
「馬鹿言え、そんな面倒なことやるかっつの。」
そういって見鏡は右手にディールークルムを持ち、裏路地へと跳び降りた。
そしてリーダーであろう男以外の人間の意識を途絶えさせた。
そしてつかつかとリーダーであろう男へ歩み寄るとドンと胸を蹴り男を壁に押し付け首のすぐ横の壁に剣を突き立てた。
「今すぐお前達の攫った人間達のいるところへ案内しろ。抵抗はするなよ?そこに転がってる男を気絶させる俺が見えてたのなら話はベツだがな。」
もちろん、戦闘訓練も受けていないアマチュアの男が今の見鏡の動きを見ることは出来なかった。
それを見鏡は男の表情を見て悟ったのか口を吊り上げ笑った。
「さぁ、案内してもらおうか?」
最後まで読んでくださってありがとうございます!
またまた誘拐ですね。
どんだけ誘拐ネタ好きなんだ私は(
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