人にものを尋ねられることの多い人生を送ってきました
分からなかったら人に聞こう。
それは何も恥ずかしいことではない。適当に挑んで失敗するより何倍もいい。
……AIに聞くのはどうなのかなと思う。奴らはおそらく、感情の強弱や人間関係の機微、最終的にどうなりたいか、まで読んではくれない。奴らが読むのは単語の辞書的な意味だけだろうから。
この人は分かるだろうと当たりをつけて尋ねるのは、人見知りをかなぐり捨てても実行する。例えば旅先で現地の人に道を聞くのは、自分で地図を見るより信頼できるからそうする。
自分がそうしてるから、他人にもそうされることに忌避感はない。分かることはなるべく教えてあげたいと思う。
が、何でそれ私に聞いた? という聞かれ方が、なーんか多い気がする。
たまに寄るスーパーの野菜売り場で買い物中、親御さんと一緒に来ているのであろう小学校3、4年生くらいの女の子が、タタッと走ってきて私に聞いた。
「ワキゲってどこにありますか?」
脇じゃないかな。
ワケギ(分葱)であろう、十中八九。ネタではない。本当にそう聞かれた。
しかし、何でそれ私に聞いた?
ここはスーパーである。店員というスペシャリストがいる。なんだったら私の少しうしろにエプロンつけて品出ししてる野菜コーナー担当者がいたのである。もちろん、他にも買い物客はいる。
キミ、いま確実に私を狙って走ってきたよな? 淀みなく私の手前で急停止したな? 周りを見てないよな?
何故だ、私がそんなにワケギのありかを教えてくれそうに見えたのか。それとも一発ギャグ『ワキ毛』で笑かそうとしたのか……
きっとママに「ワケギ持ってきて」と言われ、「ワケギ、ワケギ、ワケギ……」と頭の中で繰り返すうちにワキゲになったのであろう。一瞬固まった私であったが、その微笑ましい言い間違いにほっこりした。
私も店内に入って現時点まで、ワケギは見なかった。そもそも買ったことがない。
店員さんのとこまで連れていって「この子、ワケギ欲しいそうです」と引き渡すのも何か違う気がしたので、私は彼女に提案した。
「一緒に探そっか?」
彼女は大きくうなずいた。
運良く、近くの冷蔵棚の上段にワケギを見つけた。これは彼女には届かない。一束取って、彼女に渡す。
「一束でいい?」
大きくうなずくと、彼女は走ってママのところに戻っていった。
対応として間違ってはいないと思うが、出過ぎたかなと思わなくもない。客に仕事を取られた店員さんの方は見ないことにした。
私は方向音痴である。地図上の大きな道を目印に……と思っても、実際その道を見て、この道は大きいのか? といらん疑問を持ってしまい、よく迷う。
なのに道を聞かれることもある。
上野駅近くのホテルを予約したのだが、迷った。上野駅から出てきたのに迷った。駅を信用しないで何を信用するのかと自分でも思う。
でもまあ自分が迷うことは想定済みなので、時間は常に余裕を持っている。
るるぶから切り取った紙の地図ぐるぐるしながら、見えないけどたぶん西郷さんあそこだからここを左に、とか夜の上野をうろついていた。
前から幼稚園くらいのお子ちゃまを連れたママが歩いてきて、私に聞いた。
「京浜東北線ってどこですか?」
紙の地図をぐるぐるしてる私が、京浜東北線の乗り場わかると何故思った?
「あ、私、観光客なんで……。地図見ます?」
ママはぺこりと礼をして去っていった。
こいつ使えねーなと瞬時に察したのだろうが、私は使えねー感を最初から出していたはずである。何故私に話しかけようと思ったのか。人選ミスも甚だしい。
まあ目の前が上野駅だし何とかなったろうと信じる。
聞かれる確率が圧倒的なのは、やはりスーパーである。
実際、(ワケギスーパーとは違う店の)店員でもあったので、商品の場所を聞かれるのは店員として嬉しくもある。
店員時代は様々なものを聞かれた。樟脳、マヨネーズ、焼き海苔、パックご飯、クエン酸飲料……
分からないときは、たまに聞いてきたお客さまと一緒に探した。
客「粉末の寿司酢ってどこですか?」
猫「粉末の寿司酢ってあるんですか!?」
客「あるんですよ! 自分で作るの面倒いときにササッと使えて良いですよ!」
猫「多分、酢のコーナーだと思うんですけど……酢はこちらです」
(探す)
猫「あ、あった。本当だ粉末だ!」
客「使ってみて下さい、便利ですよ(^^)」
猫「ありがとうございます!」
教えてもらってありがとう兼、買ってくれてありがとうである。
このお客さまとはキャッキャと商品の前で盛り上がった。店員としては間違ってると思う……が、何度かやってる←。苦情きたことはないので反省はしてない。
ちなみに私は、食品コーナーの担当ではない。制服も食品コーナー担当者とは全く別物である。が、お客さまから見れば店員は店員。わかりませんは御法度だ。聞かれたら案内するのは当然である。
でも何で通りすがりの私に聞くのか……その通路に担当者いたのに。
店員といえど仕事が終われば客である。私服に着替え、買い物カゴを持って肉屋のコーナーをうろついていた。
豚コマ肉のコーナーで、私より少し背の低いマダムが突然、私に振り返って聞いた。
「豚コマでしゃぶしゃぶってしてもいいのかな?」
……確かにしゃぶしゃぶ用肉は高価い。安い豚コマで代用できるならそれに越したことはない。
豚コマにしゃぶしゃぶ用とは書いていないが、しゃぶしゃぶするなとも書いていないしそれはしゃぶしゃぶ作る人の自由というか…………
火が通るまでしゃぶしゃぶすりゃあ何でもしゃぶしゃぶになるだろうが! 人に聞くほどのことか!!
……というのを飲み込んで、私は答えた。
猫「1分くらい茹でれば火通りますよ」
客「1分でいいの? 火通る?」
猫「1枚1枚やれば通ります。茹ですぎたら硬くなるんで。んで薬味いっぱい入れて味ポンで食べたり」
客「わかった! やってみるね!」
マダムは豚コマを買っていった。
……豚肉、鶏肉は火を完全に通さないと食中毒が怖いので、店員としていい加減なことは言えないのである。
ていうか私、客のはずだったんだが。ついでにメニュー提案までしてしまっていた。
それ以前に、振り返りざまに普通それ聞く……?
どうも私への話しかけはトリッキーなものが多い気がする。「こいつに話しかけたら何か返ってくる」と思われる選手権をやったら、割と上位に入るのではなかろうか。RPGの村人にそういうのいるな。
でも、「あの人、話しかけづらいよね」と思われるより、「あの人、話しかけやすいよね」と思われるのは光栄なので、自分がされて嬉しいことをしていく所存なのである。




