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魔法使いの少女  作者: 野村勇輔
第7章

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第4回

   4


 真帆の家――魔法百貨堂を訪れてから二日後。


 僕は加帆子さんから貰った指輪を指でもてあそびながら、真帆が登校してくるのを今か今かと待ちわびていた。


 一時限目が終わり、移動教室で他のクラスメイトが次々に教室から出ていく中、僕はひとり自分の席に座ったまま、手にした指輪と教室のドアを何度も何度も交互に見やった。


 井口先生に確認すれば、休むという連絡はなかったそうなので、恐らくいつものように、遅刻してくるつもりなのだろう。


 予鈴が鳴って、廊下を歩く生徒の姿もまばらになり、各教室からわずかに喧騒が聞こえる中で、僕は大きくため息を吐く。


 真帆のことを想い続けているせいか、あの甘いバラの匂いすらほのかに感じられる。


 実のところ、どう言ってこの指輪を真帆に渡せばいいのか、考えても考えても良い言葉は思い浮かばなかった。


 そもそも、指輪を渡すってだけで何だかプロポーズしているような気がして恥ずかしく、そんなことをする自分の姿を想像するだけでどこか滑稽だった。


 そんな僕を見て、果たして真帆はどんな反応をするのだろうか。


 加帆子さんは「きっと喜んで受け取ってくれる」なんて言っていたけれど、あの真帆だぞ?


「ぷぷっ」と噴き出し笑いをしながら「何言ってんですか?」と小馬鹿にしたような目で見られるだけなんじゃないだろうか?


 そう思ったけれど、しかし日曜日にあの榎先輩のひいお爺さんの研究所?前で見せた恥じらうような姿も同時に思い浮かんで、加帆子さんの言った「本当の気持ちはあまり外に出さない性格」というのも、何だか頷けるような気がした。


 もし真帆の普段の言動がその裏返しなのだとしたら、真帆はいったい、いつもどんなことを考えているんだろう。何を思っているんだろう。


 僕が知っている真帆なんて、この一週間分の付き合いの中で見せたものでしかない。


 たったそれだけで真帆のことをこんなにも意識するようになって。


 あの時。

 あの、おでこにキスをされた時。


 僕はまさか、こんなにまで真帆に心奪われるだなんて思ってもいなかった。


 ただ死の呪いなんてものに怯えて、真帆の魔法に恐怖して。


 けれど、それが今は――


 思わず自嘲の笑みが漏れて、

「なに気持ちの悪い顔してんですか?」

 と不意に目の前に現れた真帆の姿に、僕は心底度肝を抜かれて、

「のわわわっ!」

 変な声と共に、体を仰け反らせた。


 そんな僕の姿に、真帆は「ぷぷっ」と噴き出し、

「これ、榎先輩から借りたんですよ」

 と僕に見せたのは、あの天狗の隠れ蓑だった。


「え、ちょっ、いつから居たの?」

 慌てて問うと、

「朝から居ましたよ? シモフツくんの横にずっと」


「え、で、でも、それ確か、体は隠せても足までは隠せないって……!」


「見ててくださいね」

 と真帆は言うとすっとしゃがみ込み、再び天狗の隠れ蓑を羽織って。


「ね?」

 完全に、その姿を隠してしまった。


 僕は開いた口が塞がらず、声を漏らすこともできなかった。


 それから真帆は再び立ち上がるとその姿を現し、

「私くらいの大きさだったら、しゃがめばギリ隠れられるんですよ。これ、なにかに使えると思いませんか?」

 楽しそうに、にこっと笑う。


 その顔があまりにも可愛らしくて、愛おしくて。


  体調を崩していたって話だったけれど、この調子だとどうやらもう大丈夫らしい。

 僕は安堵して、ほっと小さく息を吐いた。


 そして。

 

「――真帆」

「はい?」


 この気持ちを、何とか伝えたくて。


「……これ、こないだ真帆の家に魔術書を届けに行ったとき、真帆のお婆さんから貰ったんだけど」


「おばあちゃんから?」


 首を傾げる真帆に、僕は片方の指輪を差し出して、

「この指輪を二人でつければ、きっとうまくいくようになるから、って」


 真帆はその指輪をしばらくじっと見つめていたが、

「……これ、もしかして」

 と小さく呟き、眉間にしわを寄せながら、

「言いましたよね、私。男には興味ないって」


 何度も聞いた言葉に僕は、

「うん、わかってる」

 と頷いた。

「でも、そうじゃないんだ。男とか女とか、そんなの関係ない」


 僕の言葉に、真帆は訝しむように、

「――どういうことですか?」


 僕は大きく息を吸い、そして吐き出す。


 緊張でわずかに震える身体を心で必死に押さえつけながら、

「僕はただ、楸真帆が好きなんだ」


 言ってから、恥ずかしさのあまり視線をさまよわせる。


 そんな僕とは対照的に、けれど真帆は顔色一つ変えなくて。


「……」

「……」


 やがて僕らは見つめ合い、しばしの沈黙。


 二時限目開始のチャイムが鳴り響いて、僕はハッと我に返った。


「あ、いや、だから、その――」

 言い淀む僕に、真帆は嘆息しながら、

「――それだけですか?」

 と口にする。


「え?」


 わずかに呆れたように、けれど微笑みを浮かべながら、

「私に指輪を渡すのに、シモフツくんはそれだけなんですか?」


「あ、あぁ、いや、その――」


 僕はしどろもどろになりながら、けれど意を決して真帆に向き合い、真帆の柔らかい右手にそっと手を伸ばして、


「僕は、真帆の事が好きだ。大好きなんだ」

 真帆の瞳をじっと見つめながら、僕は改めてそう口にして、

「だから――僕と、付き合ってください」


 真帆のその手の平に、もう片方の指輪を握らせた。


 真帆は僅かに頬を朱に染めながら、口元に笑みを浮かべて、

「――はい」

 ぎゅっと、渡した指輪を握り締める。


 そして、僕の唇に「ちゅっ」と軽くキスをして。


「私もシモフツくんのこと、大好きです!」



 満面の笑みで、そう言った。



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