病弱な妹がいる? ええ、わたくしもです。
「すまない、アルテイシア。昨夜から私の妹のマルグリットが熱を出していて……」
婚約者であるライル様。
彼には「婚約者であるわたくしとのデートの日には必ず熱を出す可憐な妹」がいます。
「そうですか、それでは今日のデートは取りやめにいたしましょう。どうぞ、マルグリット様のお傍について差し上げてくださいませ」
「ありがとう、アルテイシア。今日の埋め合わせは必ず……」
わたくしはにっこりと微笑みます。
「お気遣いなく。さ、行って下さいませ」
ライル様が去った後、わたくしはふっと息を吐きだしました。
「埋め合わせ……ね。今日もその埋め合わせのはずだったのですけれど……」
正確に言えば、埋め合わせの埋め合わせの埋め合わせの埋め合わせの埋め合わせの
……。
「あら、いつの分の埋め合わせなのか分からなくなってしまいましたわね」
婚約して約一年。デートが成立したことは、ただの一度もありませんわねえ……。
こうなるとマルグリット様の発熱は、本当ではなく嘘であると判断せざるを得ませんが。
かといって、単に婚約破棄をするのも面白くありません。それに、こちらから婚約破棄を言い出せば、こちらの有責になるかもしれません。
「どうしましょう?」
考えていたら、わたくしの賢い妹のレティシアが「そうだ!」と言いました。
「あちらが、病弱な妹を言い訳に、デートの約束を破るんですから、こちらも同じことを言えばいいのです」
「え? レティシア?」
「デートの前日に、ライル様に伝言をすればいいのです。『妹のレティシアの具合が悪いから、デートには行けません』ってね!」
「レティシア! あなたって天才なのかしら!」
「うふふふふ~、もっと褒めてお姉様♡」
というわけで、デートに申し込まれても、わたくしも『妹の具合が悪いので行けません』と言い続けました。ふふふ……。
そして、ライル様のほうがわたくしに文句を言うようになりました。
「アルテイシア。君の妹はデートの約束のたびに体調を崩しているではないか。おかしいだろ!」
「あら? おかしくはないですわよ。だって、わたくしたちの婚約が成立した最初の一年間、ライル様の妹のマルグリット様の発熱により、一度もデートが成立したことはございませんでしたもの」
「そう……だったかな?」
「ええ、一年間、毎回発熱し、ライル様に埋め合わせをと言われ、その埋め合わせのときもまた、発熱の繰り返しでございますわ。わたくし毎日日記を書いておりまして、詳しい日時は記載してありますわ。それ、お見せしましょうか?」
「い、いや……、そこまでは……」
「マルグリット様と同じようにわたくしのレティシアも体が弱いのですわ」
にこにこにこにこ。邪気のない笑みを向けて差し上げます。
「マルグリット様と同じようにレティシアも。わたくしが傍についていないと泣くのですわ……。お互い、妹というものはかわいいですわね」
「そ、それでは僕らはいつ会えるというんだよ!」
「マルグリット様の体調がよろしいときがあれば……お誘いくださいませね♡」
あるわけはないでしょうね。
マルグリット様は仮病。
その証拠に、わたくしとライル様が会わない日には、お元気に貴族学院に行き、観劇に行き、街に向かい、買い物をして……。
元気だからと、ライル様がわたくしを誘おうとすれば、具合を悪くするのだもの。
うふふふふ。
一か月、二か月、三か月……そして半年。
デートの約束もなく、会うこともなく、月日だけが経過していきます。
さすがにわたくしの両親もおかしいと思ったらしいです。
「アルテイシア。ライル殿とは会っていないのか?」
「ええ。ここ半年ほど、お会いしていませんし、手紙もないですわね。ですが、わたくしはきちんとライル様に申し上げております」
「何をだ?」
「婚約して一年目。ライル様とのデートの日には必ずマルグリット様が発熱し、デートは一度も成立しませんでいた。埋め合わせにと呼びだされた日もマルグリット様は体調不良。埋め合わせの埋め合わせの日も。更に埋め合わせの埋め合わせの埋め合わせの日もです。ですので『マルグリット様の体調がよろしいときがあれば……お誘いくださいませね』と申し上げました。それを言ってから、半年、ライル様からは音沙汰もございませんわね」
さすがのお父様も呆れ顔。
おかげで無事に、わたくしとライル様の婚約は解消となりました。
ふふふ……。
そして、ライル様に関しては「病弱な妹を優先し、一年間も婚約者とデートもせず、更にその後の半年、婚約者に手紙一つ送らなかった」という噂がいつの間にか広まっており、次の婚約者は見つからないままだそうです。
わたくしに関しては「病弱な妹を優先する婚約者に、文句の一つも言わずに健気に耐え続けた令嬢」という噂が広まっております。
噂を広めたのはレティシアでしょう。抜かりのない、賢い妹ですから。
「ありがとう、レティシア」
「うふふ♡ お姉様のためですもの~」
そうしてわたくしとレティシアは姉妹仲良くいつまでも暮らしたのですわ♡




