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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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鰯を釣った時……

 ある日、一通のメールが届いた。差出人には名前が書かれておらず、メールアドレスのみで、件名もなかったし、イタズラメールかと思ったものの、一応開いてみるとそれは高齢の……亜久里さんとしよう、その方がよく分からないながらにメールを送ってくださったらしい。


 そのメールには、自分の体はここのところ自由に動かなくなってきたのだが、この先長くないであろう自分に処分したいものがあるのだそうだ。


 私はそのメールに返信したところ、なかなか返ってこなかったので返信を期待していなかったのかと思ったのだが、PCに本当に慣れていないようでしばらくしてからメールが返ってきた。


 その内容は、少し長く……長文というほどでもないのだが、亜久里さんには随分とソレを書くのに時間がかかったようだ……彼の悩みが書かれていた。


 亜久里さんはかつて海釣りを趣味としていた。お金を払って釣り船に乗って、仲間と一緒に沖で釣りをしていたのだそうだ。その時に釣ってはいけないものを釣ってしまったのだという。


 釣りをしている時に引きが会ったので魚との引き合いになったのだが、なんだか妙に引っ張る力が強い、大物がかかるような装備ではないはずなので奇妙に思ったのだが、そのまま釣り上げてしまった。その魚はただの鰯だった。どうしてこんな小さな魚があそこまでの引きをしたのかさっぱり分からない。


 ただ、釣り上げた時点で全力を尽したのか、息絶えていたので、新鮮なら食べることも出来るだろうとクーラーボックスに入れておいた。


 それからその日釣れたものを家に持ち帰った。その時には他の魚は刺身などにさばいたのだが、あのやけに引きの強かった鰯はどうしようか考えて、そう言えば妻が最近圧力鍋を買っていたのを思いだした。


 多少は食べやすいものになるだろうと、その鰯を圧力鍋でしばし煮て、骨まで食べられる煮物を作った。しかしなにぶん一匹しかいないし、鰯だ。当時は鰯は安い魚の代表みたいなもので歓迎されていなかった。


 小さな鰯を息子達にわけることもないだろうと思い、それだけは自分で食べることにした。圧力鍋のおかげか骨まできちんと食べられるいい煮物になっていたので、それで白米を食べて満足した。


 その後、風呂に入ってから寝た時だ。夢の中に女が出てくる。見たことも話したことも無い女だ。誰だコイツは? 夢の中で混乱しているとその女が自分の口に手を突っ込んできた。息苦しいが、身動き出来ず、その手を引き剥がすことも出来ない。


 苦しいと思っていると目が覚めた。何度もそんな夢を見たモノだから原因はなんだろうと思った。


 しばらく立った後で、あの鰯を釣った時、付近に崖があり、そこは世をはかなんだ人が飛び降りてしまうことの多い場所だと知った。たいていの場合体の方は流されてしまい見つからないことも多いと記述してあった。


 なんとなくだがあの鰯が食べていたものは……それを考えて気分が悪くなった。それ以来不定期に女が夢の中で自分の口に手を突っ込んでくるそうだ。一度だけ聞いたのは『返して……』と小声で言っているのがわかった。


 あの鰯は『どの部分』を食べていたのかは知らないが、それ以来釣りはきっぱりやめてしまった。


 そして息子達にもそれとなく訊いたが、変な夢を見ていることはないそうだ。もしあの鰯を渡していたらと思うとゾクリとするそうだ。


 最後に、夢に出てくる女が泣いているようになってやりきれないのでなんとか出来るところを知らないかと書かれていた。


 専門ではないが、私は菩提寺に相談されてはどうかと返信した。彼からの返信はしばらく無く、多少は気にかけたもののどうしようもない。しかしそこそこの時間が経ってから彼からメールが一通届いた。


 何でも今は写経をして女が浮かばれるよう願っているそうだ。写経を始めてから女が出てくることはなくなったのだそうだ。


 老い先短い身だが、出来るうちは写経を続けていこうと思っていると書かれていた。一応は解決をしたようだが、その女が本当に浮かばれるかは分からないが、亜久里さんには平穏が訪れてほしいものだと思いながらメーラーを閉じた。

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