07 たたかう→ダメージ2
決死の覚悟で、俺はコマンドの「たたかう」を選んだ。
……が。
(あれ? 武器……ねぇじゃん俺)
手ぶら。
そりゃそうだ、初期装備は布一枚。装飾もなければ短剣もない。
構えようにも、拳しかない。
(これでどうやって戦えってんだよ……)
少し待ってみるが、何も起こらない。
角ウサギは相変わらず、ぴょんぴょんと間延びした動きでその場を跳ねているだけ。
(……まさか。これって“自分で攻撃しろ”ってこと? コマンド選ぶだけじゃ駄目なの? リアルアクション要素あるの!?)
ちらっと隣を見ると、フェリシアが短剣を抱えたまま、にこりと俺に視線を送ってきた。
その顔は――「頑張ってください!」って励ましそのもの。
(え、マジで俺が殴るの? いやいや……ウサギに素手で暴力とか、なんか罪悪感すごいんですけど!?)
だが、やるしかない。
俺は布切れ装備の足を持ち上げ、震える膝で角ウサギに――キック!
【ダメージ 2】
「……2!?」
小さく浮かんだダメージ表示。
角ウサギは「きゅ?」と鳴いたが、ぴんぴんしている。全然効いてない。
「倒れないのかよ……!」
そんな俺の絶望をあざ笑うかのように、新たなウィンドウが表示された。
【角ウサギの技:角アタック】
「ちょ、待て待て待て!?」
角アタックとか絶対痛いやつじゃん!
骨と骨ぶつかるやつ!頭突き系!脳震盪とか普通になるやつ!!
(うわー……やだなぁー……これ絶対やだなぁー……)
俺は恐怖でガクガク震えながらターゲットを確認した。
そこには赤いマーカーが、俺とフェリシアの両方に順番に点滅していた。
(おいおいおいおい……俺か……俺だよな……? な? な?)
一瞬、心のどこかでフェリシアに止まればいいと考えてしまった自分がいて――すぐに自己嫌悪に陥った。
(……最低だな俺。かわいい子を盾にしたいとか思うとか、マジで男失格。いやでも痛いのやだ! ほんとやだ!)
角アタックが来る。
逃げ場もない。
俺の心は、歯医者の待合室にいる時と同じだった。
(もう帰りたい……!)