06 森デート…初デート!?
森に入ってしばらく。
木漏れ日が降り注ぐ小道を、俺とフェリシアは並んで歩いていた。
……並んで。
(お、おい待て。これ……デートじゃねぇか? いや、狩りの準備で歩いてるだけなんだけどよ……雰囲気的には完全にデートコースだぞ?)
ちらっと横を見ると、青いシュシュを揺らしたフェリシアが、楽しそうに小鳥の声に耳を澄ませている。
……やばい。
俺、女の子と二人っきりで歩くなんて学生の頃以来だ。いや、あの時だって「学級委員の仕事でプリント運んでた」だけだから、ノーカウントみたいなもんだった。
つまり――これが事実上の俺の“初デート”!?
(やべぇ……脇汗すごい……。いやこれゲーム内だから汗かかないのか? でも精神的にはもうぐっしょりだぞ……!?)
そんなくだらないことで頭を抱えていたその時――
「……来ます!」
フェリシアが短剣に手を伸ばした。
俺も慌てて顔を上げると、草むらから“それ”が跳ね出てきた。
白くて、丸っこくて、ふわふわ。
その額には、小さな角がちょこんと生えている。
「……ウサギ?」
「いえ、“角ウサギ”です。初心者が最初に出会うモンスターですね」
なるほど。確かにモンスターっぽい。けど見た目はただのウサギに角を乗せただけだ。
だが、その瞬間――
【エンカウント!】
【角ウサギがあらわれた!】
俺の視界に、半透明のウィンドウが浮かび上がった。
⸻
【ハンぺラード Lv1 HP30/30】
【コマンドを選んでください】
▶たたかう
ぼうぎょ
アイテム
にげる
⸻
「うおお!? 出たよ出たよ! 見慣れたやつ!!」
思わず声に出してしまった。そう、これは何度もテレビの前で見てきたやつだ。FFとかDQとかのコマンドバトルだ!
(でもちょっと待て……おかしくねぇか?)
俺は角ウサギを見た。ぴょん、とその場で跳ねて、止まった。……またぴょん、と跳ねて、止まった。
それだけだ。こっちに飛びかかってくるでもなく、威嚇してくるでもない。
「……動かねぇ」
じっと見ても、やっぱりウサギはウィンドウが出てから動きを止めている。
まるで――「こっちの入力待ち」みたいに。
(これ……もしかしてターン制!?)
改めて目の前のコマンドを見つめる。
たたかう、ぼうぎょ、アイテム、にげる。
ゲームで何百回と選んできた選択肢が、今は“俺の命運を左右する本物”として迫ってくる。
(マジかよ……これ、選んだら本当に“実際の戦闘”が始まるやつだぞ?)
心臓がバクバク鳴る。額に汗が滲む。いや、これ精神的なやつだから実際は出てないけど。
とにかく、この現実感。
ただのウサギ相手に、ここまで緊張する俺もどうなんだって話だが――
「ハンぺラードさん、大丈夫です。角ウサギは弱いですから。最初の練習にはちょうどいい相手ですよ」
フェリシアが柔らかく微笑んで、短剣を構える。
(くぅ……。この子の前でビビって逃げるわけにはいかねぇだろ。俺はペヤングTシャツにマント羽織った、立派な勇者……いや、勇者候補……いや、ただのおっさんだけどよ!)
震える指で、俺はそっとコマンドを押した。
▶たたかう