02 攻略本が欲しい
炎に包まれた俺は地面にうずくまり、ヒリヒリと焼ける頬を押さえた。
「いってぇぇ……!! これでダメージ8とか嘘だろ……」
赤髪のチンピラはケラケラ笑いながら取り巻きと去っていく。
「はんぺん、またな〜。次は炭にしてやるよw」
「焼きはんぺんだなww」
……くそ、なんだあいつら。ゲームでも現実でもチンピラは絶滅しねぇのか。
俺は広場の片隅に腰を下ろし、じっと手のひらを眺める。まだじんじん熱を持ってる。
(いやいやいや……これホントにゲームなんだよな? 痛覚ONとかそういうレベルじゃないだろ。誰だよ没入感MAXに設定した奴! 俺はデフォルトでいいんだよ!)
ふと視界に、薄っすらとしたウィンドウが浮かんでいることに気づく。
ハンペラード Lv1
HP 24/30
(……あれ、HP戻ってきてる?)
さっき「22」だったはずだ。
焼けただれた頬に触れると、確かにまだ痛いが、じわじわと赤みが引いていくような感覚がある。
(時間経過で回復ってことか? 自然治癒システム? いや現実で火傷したら自然治癒に何日かかると思ってんだ。
これ便利っちゃ便利だが……マジで俺の身体でこれ起きてるのか? 怖ぇよ)
⸻
とにかく、このまま広場でうなだれていても仕方ない。
俺はフラフラと立ち上がり、街を歩き始めた。
初期街。
石畳の通りは人でごった返し、屋台ではNPCが野菜や串焼きを売っている。
冒険者ギルドの看板は木造の二階建て酒場で、昼間から酔っぱらってるプレイヤーがどんちゃん騒ぎしていた。
商人NPCは「いらっしゃい!」と威勢がよく、プレイヤーは「お、クエスト出た?」と肩を寄せ合って話し込んでいる。
(……いや、わかるわけねぇだろ)
何をすればいいのか。どこに行けばいいのか。
本来なら近くの人に聞けば済む話だ。だが――
(俺、コミュ障だし……)
話しかけるタイミングを探して、歩いては立ち止まり、また歩く。
声をかけようとしては「いや今忙しそうだしな」「いや絶対俺に興味ないだろ」って心の中で言い訳してやめる。
……気づけば、街をぐるぐる三周していた。
「はぁ……」
⸻
特に情報なし。何の進展もなし。
俺は広場のベンチに座り込み、頭を抱えた。
ふと、またステータスが更新されている。
ハンペラード Lv1
HP 26/30
(おぉ……さらに回復してる。リアルの医療よりもよっぽど優秀じゃねぇか。
いや、そもそもこれリアルなのかゲームなのか……どっちだよ!)
⸻
(なぁ……最近のゲームってさ、説明書とか付いてないんだよな)
(昔はパッケージ開けたら分厚い冊子がドン!って入ってて、あれ見ながらワクワクしたもんだろ……)
(今は全部ネット。チュートリアルも適当。ネットの情報漁っても意味わからんこと多いし……)
「……俺、ゲームは攻略本見ながらやる派なんだわ」
声に出してから、思わずため息が漏れる。
だがここには攻略本も説明書もない。
ただ広い街と、どこまでも続く異世界の景色だけ。
「……もしかして俺、いきなり詰んだ?」
布切れ装備のまま、膝に肘を乗せて突っ伏す俺。
通りすがりのプレイヤーにまた「はんぺん、何落ち込んでんのw」と笑われた。