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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
桜のあと
6/6

嬉しい

「せ......ん!.........ち.......ゃん....!」


 あぁなんか天使の声が聞こえてきた。


「知世ちゃん!!」


「はっ!」


 アタシは目を覚ます。


「あ...れ....ここ...は?」


 とてもいい匂いがする。嗅げば嗅ぐほどお腹が減ってきた。


「知世ちゃん!大丈夫?起きれる?」


 なんか隣に天使がいる....


「天...使?」


「へ?」


「ここ...は...天...国?」


「え?ちょっ!ちょっと!?知世ちゃん!?ちがうよ!ここは現世だよ!君はまだそこに行っちゃダメだよ!」


 あぁなんだ天使が現世にいるだけか。


「もー。寝起きでこんな冗談言えるなら大丈夫そうだね。ささ!もうご飯できたよ?」


 「ご...はん?ハッ!」


 一気に眠気が覚める。手作り料理!そう思うとすぐにあの時の空腹がアタシを襲ってきた。


「えっと...自分で作るって言ったものの何作った方がいいか分からなかったから、とりあえずネットに載ってたもの作ってみたんだ。」


「アンタが作ったものならなんでもいいよぉ〜!」


 そしてベッドの上で身動きが取れないアタシのために、卯月はアタシの前へ、わざわざご飯を持ってきてくれた。


「こっこれはっ!」


 卯月が持ってきてくれた料理は、つやつやと輝いて見えるホカホカの「豆ご飯」、出汁がアタシの鼻へと優しくノックしてくれる「たらと野菜のみぞれ煮」、量こそは少なくあまり目立たないが、見た目と反して他とは別格のオーラをまとっている「白和え」、そしてまるで実家にいるような全てを包んで癒してくれるジャパニーズソウルスープの「味噌汁」...なんて組み合わせだ...!


「なんか...満足してくれてそうでよかったよ!」


 少し照れながらも微笑みかける卯月でアタシの心は満たされた。


「食べないの?」


「いただきます!!」


 心は満たされても手作り料理には抗えないッ!!

 アタシは箸を使い、そっと白米を口へ運ぶ。

 ああ、ホカホカ白米の甘さが口の中に広がる。そして鱈をすかさず詰め込み!そして味わう。

 ああ、美味しい...

 あれ?なんか涙出てきた気がする...


「うぅ...ふぇんほふぅ...」


「ゆ、ゆっくり食べてね。」


 そして手作り料理をゆっくりと味わって完食した。アタシが食べてる時の顔...多分ヤバかったと思う。

 時計を見ると5時半になっていた。


「美味しかったぁ〜!明日全然学校行けるよ!」


「えへへ。そう言ってくれて嬉しいよ。」


「可愛い笑顔してるウズキも見れたし!もう最高の日だよ!なんなら家族の代わりにご飯作ってもいいんだよ?」


 卯月は赤い顔して後ろを向く。


「え!?そっ、そんな!というか、ちゃんと家族の人が作ってくれるならそれでいいでしょ...?」


 に、ニヤニヤが止まらない...! 

 

「ねぇウズキ。可愛い笑顔にさらに磨きが掛かっているけど何かいいことあったの?」


「か、可愛い笑顔って...え、えっと〜、それは〜...」


 なんか恥ずかしそう。え?なにっ!?さらに気になるんだけど!?


「ね、ねぇ。まさか羽田君と関係ある?」


「え!なんで!?」


 卯月が勢いよくこっちを見る。


「『なんで』って...少し考えればわかるよ...?」


 なんか卯月が顔赤らめてる...あ、あの野郎...!卯月になんかしたな!卯月はすごく元気になっているし。

 ...く、悔しい!アタシも笑顔にさせたい!!


「へ、変なことはされてないよね...?」


「そんなことないよ!ただ少し話をしただけ。」


「ふーん?」


「し、信じてよ!」


「まあいいけど〜。」


 卯月はアタシに微笑む。


「ふふっ。知世ちゃんってすごくいい人だよね。」


「な、なにぃ〜?急にぃ〜」


 そ、それって友達の前ではっきり言うもんなの?普通照れくささとか入ってくると思うんだけど...?


 アタシは少し卯月と談笑した。

 

「あ、こんな時間だ。ボクもう行くね!」


 時計を見るともう6時過ぎになっていた。


「そう?わかった。じゃあね!あと、ご飯作ってくれてありがとね〜」


 一緒に玄関まで行きたいんだけどまだ動けないや。

 卯月は玄関まで移動して、そのままドアノブに手を伸ばす。あれ?止まった?


「ね、ねぇ...知世ちゃん。」


「どしたの?」


「知世ちゃんはさ。家族のことどう思ってるの?」


 ...家族のこと?


「そうだね〜。アタシは、今すぐに帰ってきて欲しい人達だと思ってる。」


「いいなぁそれ...」


 夕日の光が、ベランダの網入りガラスを通して卯月の背中を照らしていた。


「ボクはね、居なくなって欲しいって思ってる。」


「え?」


 卯月が振り向く。卯月と重なるその影は、世界と世界を別けるの網のようで、アタシは卯月の存在を遠く遠く感じた。


「...ごめん今の忘れて!じゃ、じゃあね!」


「え?は!?ちょっ、ちょっ待って!いっ!」


 行ってしまう卯月を止めるため、アタシは起き上がろうとするが痛みのせいで上半身を起こすことしかできなかった。


 ガチャ


 卯月はそのまま行ってしまう。


「はぁ〜」


 アタシはベッドへ倒れ込む。


 「......」


 チクタクと秒針が鳴り響く。

 アタシは、ぼーっと天井を見つめる。


「はぁ〜......」


 ため息をついては黙る。数分アタシはそれを続けた。


 「家族...か...」


 あの子の家族.....


 『ボクはね、居なくなって欲しいって思ってる。』


 この言葉がアタシの頭の中でループする。


 『家族の代わりにご飯作ってよぉ〜!』


 『家族の人が作ってくれるならそれでいいでしょ...?』

 

 まさか、あの時アタシは卯月の地雷踏んだの...?まずい!そうだとしたら謝りに行かないと!

 ...って、あれ?ちょっと待って。

 あの子が人に対して不満を...?ましては親に?

 あの子が他人に対してハッキリ不満を言うなんてことはめったにない。

 これは、信頼の表れ?それか...SOS...なの?

 親に不満を言うなんて、あの子の性格上、これしかあり得ない。あの子は今、ギリギリってこと?

 どうする...児童相談所に電話するか?でも証拠がないし、アタシは第三者だから取り合ってくれるのだろうか?

 そもそも、あの子は協力してくれるのかな?

 もっと直接言ってくれないのはなにか理由が?

 それか、つい言っちゃっただけ?

 でもそれなら助けて欲しい気持ちがあるはず。

  

「はぁ〜!分からない〜!」


 考えに整理がつかない。ハテナが大渋滞しちゃって...

 はぁ...今は考えることしか出来ない。もう寝よう。

 このことは、また明日直接聞けばいいよね.......




 


 夕日に照らされる河川敷。


「何言ってんだろ、ボクは。ハハ、興ざめだよね。」


 知世ちゃんに言ってしまったことを思い返す。


 『アタシは、今すぐに帰ってきて欲しい人達だと思ってる。』


 この言葉がボクの頭の中でループする。

 きっと、いい人なのだろう。知世ちゃんが、帰りを今かと待っているように。

 親と姉妹は出張にでもいるのかな?

 親と姉妹が帰ってきたら知世ちゃんはなんて言うのかな?

 『おかえり』?『待ってた』?『お腹空いた』?

 ハハ、抱きついてたりして。ちょっと想像できちゃうな。

 スバルくんは親のことをどう思ってるのかな?

 一緒に団欒を楽しんでたり?

 今は何してるんだろう?


 ボクは河川敷の土手に座り込み、オレンジ色の空をぼーっと見る。


「なんなんだろうな。」


 2人の為にも、このめんどくさいセンチメンタルな気持ちに、ボクはピリオドをつけないといけないよね。

 でも...


「なにすればいいのかな...」


 ボクはそのまま寝っ転がる。


「ん?神美?何やってんだ?」


 聞き覚えのある声の方へ振り向く。

 河川敷の道に赤いジャージ姿のスバルくんがいた。


「あれ?スバルくん?ああ、ボクは知世ちゃんの家にちょっとね。そっちこそどうしたの?こんな時間に。ランニング?」


 「まあそんなところだな。」


 スバルくんはボクの隣に座る。


「知世は元気なのか?」


「うん!元気だったよ!知世ちゃんお腹空いてたからご飯作ってみたんだけどね、すごく美味しそうに食べててさ!それが嬉しくて!」


「へぇ〜?結構いい感じじゃねぇか」

 

 スバルくんが微笑む。

 な、なんかちょっと恥ずかしい...


「どうした?顔赤いぞ?」


「スバルくんもさっきから、瞳と同じぐらい顔赤い癖に。」


「それは、夕日のせいだな!」


「認めないの?」


「認めるって、何を?」


 お互いジーッと見つめ合う。

 な、なんだろうこの意地の張り合い...


「まあいいけど。」


「へへッ」


 スバルくんが笑う。


「なあ神美。今日どうだった?」


「え?今日?」


 スバルくんが寝っ転がる。

 ボクはスバルくんの方へ振り向く。


「えーっと...す、すごく...すごくすごく...嬉しかった!」


「『嬉しかった』?」


「うん!嬉しかった。気持ちがすごくあたたかくて、優しくて...な、なんていえばいいのかな?」


「大丈夫だ伝わるよ。」


「そ、そう?」


「ああ。まあ、こっちも今日を表すなら『嬉しかった』だな。」


 スバルくんが空を見る。


「ああ、そうだ、『嬉しい』んだ。友達が笑ってくれるのが。オマエはずっと笑わなかったもんな。でも今日、初めて笑ってくれた。それが『嬉しい』んだよ。」


「.....」


 ボクも寝っ転がって空を見る。

 太陽が沈んで行く。今日がもうすぐ終わる。

 スバルくんの顔は赤いままだ。

 スバルと一緒に空を見てどれぐらいたったのだろう。

 あたりは暗くなっていた。


 「家まで送ろうか?」


「いや、大丈夫だよ。ほら!ボクの家は、スバルくんの家の先にあるからさ、わざわざ家の前素通りしてまでも送ってもらうのは、なんか悪いし。」


「そうか?わかった」


 ボクはスバルくんと一緒に暗くなった町を歩く。


「....」


「....」


 な、なんでだろう...話せない...

 チラッとスバルくんがこっちを見た気がして、ボクもスバルくんをチラッと見てみる。

 そして目が合った気がしたので、目を逸らす。

 この繰り返しだ。き、気まずいよぉ...!


「ね、ねえ!」


 勇気を振り絞ってボクはなにか話しかけてみる。


「す、スバルくんってさ!え、えーっと...」


「ん?どうした?」


「い、いやぁ...えっと、あ、明日さ!スバルくんの家行ってみてもいい?」


 何聞いてるんだよボクはぁぁぁ!?!?!?

  ヤバい、ヤバいよぉ!!何聞いちゃってるのっ!?なんで急に『行ってみてもいい?』になるんだよっ!ボクのバカぁ!

 うわあああ!ど、どうしよう...こ、困るよね!?まだ会ってそんなに経ってもないし、遊びにすら行ってないもん!

 ほらぁ!!スバルくんの顔驚いちゃってるよ!?


「あっ!いやごめん!今のは気にしないd」


「いいよ」


「いいの!?!?」


「うわ、び、びっくりしたぁ」


「ご、ごめん。」


 え、あ、いいの?困らないの?大丈夫なの!?


「そうだよな。助け合うためには相手を知ることも大事だよな。」


 スバルくんがそう呟いた。

 ボクは一旦、冷静になって、落ち着いて深呼吸を...


「すぅ~はぁ~。ね、ねぇ、スバルくん。さっきの知ることって?」


「ん?ああ。お前のことはいろいろ知ったけどよ?俺のことは全然知らないよなって。でも、知りたいのか?俺のこと。」


 確かに今まで助けてくれたスバルくんのことをボクは全然知らない。今までスバルくんは話すことはなかったし、聞くタイミングもなかった。でも明日なら知れる。


「知りたい」


「え?」


「ボク!スバルくんのことを知ってみたい!」


「ち、ちかい...」


「ああ!ごめん!」


 そうかれこれしてる間にスバルくんと別れる。


「ほんとに一人でいいのか?」


「ふふっ。大丈夫だって!ほら、ボクだって身を守る術はあるもん!スバルくんも見たでしょ?」


「まあ、たしかに?」


「じゃあね!」


「あ、ああ!じゃあな!また明日!」


「うん、また明日!」


 ボクは少し、ほんの少しだけ速く歩く。


「.....すぅ~はぁ〜。ふぅ....コホン」


 うわああああ!!ヤバいヤバいヤバいよぉ!ボク、明日スバルくんの家に行けるの!?え、いいの!?大丈夫なのこれ!?!?てかボクってば、距離詰めるの下手すぎでしょ!

 でも、仕方ないよね?わからないんだもん!人と関わるなんてことは遠ざけてきたからさぁ!距離の詰め方とか、わかるわけないじゃん!!

 でも、それより...なんでこんなに燥いでるのかが、一番わからないよぉ...!!

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