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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
オーケストラを観にいこうよ
34/39

狂気的な別世界

「A班異常なし。」

「B班異常なし。」


「こ、こちらC班異常なし!」


「了解。D班準備完了。待機する。」


 ─プツ…


 真っ黒に覆われた空から送られる冷たい風がボク達の隙間を通っていく。


 音が響く廃病院の廊下の中で、ガラスのない窓から月の光が漏れ出ている。


「こ、これでいいの?」


「ああ、上出来だ。」


 まるで映画の撮影みたいな感覚だ。

 ザ ・ スパイ みたいな黒ずくめの格好じゃなくても、イヤホン式の無線機を付け、装備を着た私服警官を演じてるみたいで少しドキドキしてしまう。


「警察が攻め入る時こんな感じなんだね。ホントに映画っぽいっていうか…」


「俺も実際は知らん。」


「え?」


「森山さんによると、こういう作戦にはお決まりで指揮を執る父さんの趣味が入るみたいでな。」


「それっていいの…?」


「ハハッ、いいんだよこれが。」


 ニヤリと笑って振り向くスバルは、とても自信満々に言い放った。

 青白い光をものともしない赤い瞳に安心感を覚える。


「うちの父さん、成功率100パーだからな!」


「ふふっ。」


 ***


「いいかみんな。この作戦は俺たちにとって大事な一歩となる。」


 ボク達は今、階段状に続く席の最前列で、ヘッドセットマイクをつけたスバルのお父さんの話を聴いていた。

 

 他にスーツを着た大人たちも側で聴いている。


 みんな、ニヤリと笑ったり、鋭い眼差しを前に向ける人など、沢山の人達がこの巨大な部屋の中にいた。

 このSF映画の司令室のような場所に唖然としながらも、真っ直ぐ話を聴くスバルとお姉ちゃんの顔にボクも闘志が湧いてくる。


「まず先に卯月くんと知世くんに謝罪をさせてくれ。君達2人には、正直この件に関わって欲しくなかった。でも、今回の作戦は君達が必要だったんだ。利用するような形でこのような世界に引きずり込んでしまってすまない。」


「やめてください。」


 真摯に謝罪をするスバルのお父さんにお姉ちゃんは短く、でも熱く響いた言葉を投げかけた。


「これはアタシ達の意思で選んだことです。それにきっと、貴方達が追っている件はアタシ達にも関係あるんでしょ?」


「……そうだな。そのことを君達に話そうか。」


「まだいいです。時間が惜しい。いいよね卯月。」


「うん。まずボク達じゃなくて白花ちゃんです。」


「分かった。じゃあ、再開しよう。」


 スバルのお父さんが演台へと向かった直後、巨大なスクリーンからとある廃墟が映し出された。


「今回俺達が攻め入るのはここ…旧清夏病院だ。ここに白花 奏が囚われていると情報を提供してもらった。そして、潜入時には4つの班に分かれてもらう。」


 画像は切り替わり、4つの班の役割とメンバーを表記したものへと変わった。


「先に潜入をするA班はこの旧清夏の内部調査と実験室の発見を報告してもらう。そしてB班、君達には被験者達の解放だ。きっと奏くんだけじゃない。様々な人間が囚われると思われる。そしてC班。」


 一班ずつピックアップされた中、C班の番になった。そして、そのメンバーと役割は…


「君達3人には奏くんを攫ったやつの撃破をしてもらう。」


 任されてしまった少なく重い指示に一滴の汗が垂れてしまう。


「そしてA班とB班にはもう一つ指示を課す。C班が体力を消耗せずスムーズに潜入できるようアシストし注意を引け。言い換えるなら…囮だ。」


 みんな黙っているのに、「はい」と返事をしているような瞳をしていて、嬉しくも少し重たいプレッシャーがボクの背中に伸し掛った。

 

 みんなの足を引っ張ってしまうかもしれない。


 どうしてもそんな劣等感が拭えなくて不安を感じてしまう。 


「卯月くん。緊張するか?」


「あっ、す、すみません…」 


「ハハッ、これは仕方ないことだ。でも、実力不足だなんて思わないで欲しい。君は一人じゃない。いくら強大な敵であろうとも勝てると思ったから君達を選んだんだ。不安がらなくてもいいだって──」


 ***


「みんなが…いるから…」


「ん?卯月どうした?」


「えっ、あ、なんでも!」


「……」


 窓際で待機する中、お姉ちゃんは笑顔を見せず、ずっと拳を握りしめていた。

 棘がある暗い表情に今までにない怖さを感じてしまう。


「ねぇ、お姉ちゃ──」

「こちらA班。東棟一階の食堂に地下に続く階段を発見。実験室と思われる。」


 突然発せられた無線機にドキッとしてしまう。

 そして、ここの空気が変わっていく。


「C班了解した。すぐ向かう。」


「いこ。」


「う、うん。」


 慣れたように返答をしたスバルに続いて、お姉ちゃんは壁にもたれかかるのをやめ、一歩ボク達に近づいた。冷たく放たれた一言に、冷静ながらも焦りのような震えを感じてしまった。


 ###


「で、でか…」


「そうだな。」


「……」


「では、私達から行かせてもらう。君達は待機だ。」


「は、はい!」


 一人の隊員が伝えてくれた後、大人数の特殊部隊のようなA班とB班が食堂の端っこにある四角くてデカく開いたシャッターへ足を踏み入れていった。

 次々と装備の金具が擦れる音が真っ暗な闇の中へ消えていく。


「…卯月、知世。多分、突入の指示が来たらソッコー攫ったやつと戦うことになる。卯月はともかく、知世。守る手段は身につけたか?」


「…っ……正直、まだ未完成。」


「そうか。」


 悔しそうに拳を握ったお姉ちゃんは真っ直ぐ先の見えない階段を見つめていた。

 

 そして数十分が経つ頃…


「こちらB班。被験者がカプセルのようなもので囚われている部屋を発見。意識はないとみられる。A班が衣服を保管する部屋を見つけた模様。」


「スバル君、アタシにやらせて。」


「ああ。」


「…こちらC班、人質は確認できる?」


「…確認できず。」


「そう…。A班に伝えてほしい、木製の笛と緑の服があったら大切に保管してほしいって。」


「了解。」


 プツっと音が切れ、再び静寂がボク達の間で漂い始めた。


 しかし、この沈黙も長くは続かなかった。


「こちらA班。警備隊と思われる者たちと交戦中。B班は人質を抱えそちらへ出る予定だ。そして、人質がいる部屋へ案内をする隊員を送った。合流したら突入せよ。」


 キッパリと送られる報告の裏で銃撃のような音が何発も聞こえていた。

 

 思わず息を呑んでしまう。


「C班了解した。……お前ら…気合い入れていけよ…!」


 ###


「こっちです!」


 薄暗くチカチカと点灯する光の中、吸い寄せられるように部屋へ向かう隊員へついていく。

 

 道を曲がるにつれて所々銃声がひどく聞こえてくる。さっきだって隣の部屋で戦っている人達がいた。


 そして…『赤』に囲まれた隊員も……


「…卯月、振り向くな。前を見ろ。」


 ボクとお姉ちゃんを守るようにして後ろで走っているスバルはハッキリとした口調でボクに呼びかけた。


「…うん。」


「この扉の先です。開けますよ…?」


「はい、お願いします。」

「…お願いします。」

「……」


 隊員さんはアサルトライフルを片手に構えながら体重をかけ、鉄の扉に重く悲鳴を上げさせた。

 そして、徐々に光が漏れ出ていき……


 ボク達の目に映ったのは…


 真っ白なタイルに囲まれた部屋とガラスで中が見える司令室のような二階……


「スバル、これ…あの写真の……」

 

「ああ、そっくりだ。でも、違うところもある。」


「……アイツ…だよね。」


 狂気的な別世界に見える白い部屋の中、花道のように並んだ6つカプセルの1つだけ黄緑色に光っていた。


 お姉ちゃんはボクを追い越すようにして一歩前へ、歩き出す。

 とても暗く鋭利な瞳を送りながら……

 

 それの前で醜く笑う、白衣の男へと……


「…きっと彼ですね。私は班の援護へ向かいます。…後は任せましたよ。C班。」


「「「了解」」」

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