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君の瞳に恋してない  作者: バカノ餅
ミックスジュース
25/31

おともだち

「…きて……!お…て……!」


 体が強く揺れる。


「ん〜…」


 どんどん声は大きくなり…そして… 


「起きてよ!」


「あっ…」


「朝だよ!」


 目を開いた先に卯月の顔がデカデカと映った。

 卯月から顔を逸らし、あたりを見渡す。照明が眩しい…ここは…スバル君のリビング…?

 ああ、そうだ…そうだった…アタシはもう…


「どうするの?今日学校あるでしょ?」


「…そう…だね…」


 上手く目を合わせることができない。

 卯月も…そうだろう…


「えっと…ちせ…ちゃん…」


 卯月はどこかぎこちなく名前を呼ぶ。

 分かってる…そうだよね…友達だと思っていた人が家族だったなんてね。そうなるよ。


「おお、起きたか?」


 体を起こすと同時にスバル君の姿も見える。

 2人とも制服姿だ。


「…白花は?」


「えっ?あっ、白花ちゃんはスバルのお父さんが連れて行ったよ。」


「そう…」


 白花()()()…か…


「今日は1人にさせて…」


「そうか。」「うん。」


 ソファから立ち上がり、玄関へ向かいドアを開ける。

 足取りが重い…ダメだ…深く考えれない… 


「帰るのか?」


「……うん。」


「ちせちゃ──」

「バイバイ。」


 扉が閉まる。ハハ、もう分かってるくせに…

 それでも話しかけてくれるんだね…

 嘘之知世っていう()()()()()に…


 ###


「ただいま…」


 家に帰ってきた。嘘之知世の家に。

 そのままベッドに向かう。今にも倒れそうで足に力が入らない。


「あっ…」


 体がタンスへ吸い込まれるように倒れ込んでしまう。ダメだ…言うことを聞かない…

 ガタッと揺れるタンスから一つの写真立てが落ちる。


「……」

 

 その写真に写る人物達はとても笑顔でアタシを見る。

 見ている。そう…写っている。


「みんな…」


 ***


「まいおねぇちゃん!」


「いらっしゃい!」


 今となってはもう霧がかかっているようで鮮明に思い出すことはできない。みんなと過ごした記憶。

 でも、忘れることはない。

 

 忘れるわけがない。

 

 あの時の喜び、楽しさ、怒り、哀しみ…


 ()()()()()()()


「あれ…?今日は一人だけ?」


「うん!あの子はおうちでねてるよ!」


「まあ、いらっしゃい!」「おお、いらっしゃい。」


 とてもあたたかく出迎えてくれて、笑顔が絶えない朝日家のみんな。まるで家族というものを具現化したような存在。


「いつもありがとうございます!ゆかこおばさん、あきらおじさん!」


「ははは!偉いな!誰に教えてもらった?」


「おとーさん!」


「やっぱりアイツからか〜!」

「ふふふ、いいじゃない!」


「ねぇねぇ、何して遊ぶ?」


「うーんと…ナンプレ!」


「それ一人でできるやつだよ!」


「じゃあ…しんけいすいじゃく!」


「『しんけい』じゃなくて、『しんけん』だよ!」


「ぷっ!」「うふふ」


「「「あははははは!」」」


「ちょっ!も~!」


 アタシはよく朝日家に遊び行っては、夜に送ってもらうのが日常だった。

 年の近い慕える姉と遊んで、まるで本当の母と父のような人たちとご飯を食べたりして…

 そんな輝く日常だった。


「そんなリビングの端っこでなにしてるの〜?」


「あ!まいおねえちゃん!今ね、おともだちかいてるの!」


「どれどれ~?」


 線はゆがんでいてクレヨンの色がはみ出ている落書きが一つの紙の上に描かれていた。

 黒髪のロングヘアーで、黒色の四角い眼鏡をかけた、そばかすのある女の子。

 その紙の右下には……


「…()()?」

 

「うん!チセって言うの!」


「いい名前だね!」


「へへ~ん!」


「ていうかさ、このチセっていう子…私に似てない?黒髪だし、長いし、そばかすあるし……」


「だって、まいおねえちゃんしか思いつかないもん!」


「えぇ~?なんで?」


「だってさ、みんなはアタシたちのことがキライだもん!数字ばっかできもちわるいとか、つっかかってきてうざいとか言って!」


「つっかかる?」


「別につっかかってないよ!困っちゃうよね!いいかえしただけなのにつっかかるなんてさ!」


「なんて言い返したの?」


「『アタシたちよりあたまのわるいダチョウどもがなきごえをあげるな!うるさくてしょうがない!』って!」


「へ、へぇ~そんなことを…(あとで言葉遣いに関して教えてあげないと…)」

「どうしたの?」


「う、ううん!何でもない!」


「ふーん。」


「ねぇ」


 穏やかな笑顔を見せ、クレヨンで汚れたアタシの手を優しく握ってくれる。

 手のひらの温かさが全身へと伝わる。


「困ったことがあったら私にいいつけてね?」


「う、うん。」


 当時は突然のことであまり分からなかったけど、アタシを孤独から助けようとしてくれたのだろうか。

 

 別にそんな事しなくてもアタシはもう十分なのに。


「あら、二人ともお絵かき?」

「二人とも絵うまいもんな!」


「おばさん、おじさん!みてみて~!おともだち!」


「あら、かわいいわぁ。麻衣に似てるわね!」

「やっぱり上手だな!むっ…?」


「おじさん?」


 手を顎に当て、眉をひそめながら、じっと紙を見つめる。


「チセか…うん、いい名前だ…!」


「へへ〜ん!」


「また誇らしげにしてる〜。」


「いいじゃん!うれしいもん!」


 本当に輝いていた。

 

 人生で一番楽しい日々だったのかもしれない。

 …でも、時間が経つにつれて狂い始めたんだ。

 アタシ含むみんなの人生が…

 

「ふんふふ〜ん♪」


 ###


 ──確かその日はとても冷えていた。


「なんだって!?」


 アタシがいつものように絵を描いている時、大きな声がリビングに響き渡る。


「今から帰るわよ!」「早く着いてくるんだ!」

「急いで!」


「お、おばさん?おじさん?まいおねえちゃんまでどうしたの?」


 なにかがあった。


 そう…直感した。

 

「わかったよ。」


 ──確かその日はとても冷えていた。


 暗い道をみんなで走る。

 空気を吸うごとに肺に突き刺すような痛みが出る。

 みんなはただ真っすぐ前を見ている。


「ね、ねぇ!今からアタシのおうちにいくの?」


 息遣いと、靴の音しか聞こえない。

 誰も何も言わない。


 言いたくなかったんだろう。


 緊迫した息遣いでみんなは家の方角へ向かう。

 その状況を見てアタシはある思考が頭をよぎった。

 

 その人生で最悪の思考は──


「あ…え…?」


 ──現実となった。


 鳴り響くサイレン。

 その場から動かない群がる人々。

 揺れ動く真っ赤に染まる家。


「おい…いつになったら消えるんだよ…もう長いこと経ってるぞ?」

「人は中にいるのか!?」

「居たとしても…もう…」


 ()()()()()()()


 家から出る炎の熱気と突き刺すような外の冷気が肺の中に入り混じり、無力感が体を包み込む。

 周りの音は聞こえず、立ちくらみがする。

 炭の匂いが辺りを漂う。


「遅かったか…」

「うそ、そんな…」

「なんで…家が…」


 アタシの後ろでみんなが泣いてる。怖がっている。


「あ…ああ…!だめっ…だめっ…!」


 ゆっくり前へ歩き出す。

 赤く燃える家をただ見つめて、ひたすら手を伸ばす。

 誰かがアタシの名前を呼ぶ声がするが、どれもハッキリと聞こえない。

 

「君、危ないから下がってなさい!おい、止めておけ!私は向こうの増援に行く。」

「はい!」


 黄緑色に光る大きな腕が行く手を阻む。


「やだっ!いくんだ!」


「き、君、落ち着いて!」


「おちついていられるか!」


「うっ…」


「だってあそこには…あの子が…()()が…!いるかもしれないのにっ!」


 *** 


「…晃おじさん…由花子おばさん…麻衣お姉ちゃん…」


 アタシどうすればいいのかな…?


 △△△


 チクタクと車のウィンカーの音が聴こえて、窓の外には四季ノ大通りで演奏する人達が見える。


「信号…長いですね。」


「そうだな。」


 バックミラーに写る赤い瞳が私を見ている。

 羽田剣竜。確かスバルはそう言っていた。


 ***


 月が綺麗だ。

 インスピレーションがどんどん湧いてくる。

 穏やかに流れる冷えた風が気持ち良い。


 〜♪


「まだ寝てないのか?」


 庭の方から声が聞こえる。

 ああ、あの赤い瞳の彼か。

 

「あれ、君こそ寝てなかったの?」


 屋根の上から立ち上がり、覗くように庭を見る。


「まあな。話したいことがある、お前のことでな。」


 私の…?


「降りてこいよ。」


「え〜?もう2回目だよ?」


「…?どうゆうことだ?」


「ああ、何でもないこっちの話。」


 彼女の前でしたように、もう一回屋根の上から飛び降りる。


「相変わらず軽やかだな。」


「建前はいいよ。話って?」


「…明日の朝、俺の父親について行ってくれないか?」


「…?」


 頭をポリポリしながら気まずそうに話す。


「あーっと…俺の父親は警察の関係者なんだ。さっきの出来事を話したら、『気になることがあるから連れて行ってもいいか』って言われてよ…」


「えっと…私逮捕されるの…?」


「い、いや!そんなことはない!…はず。」


 彼は全身を使って否定をする。

 …え?『はず』?


「あ。わ、わるい!さっきの言葉しか言われてなくてどうなるかは明日の朝じゃないとわからないんだ…」


「そ、そうなんだ。」


「その…俺から言っても信じられないだろうが…」


 彼は赤い瞳で私をまっすぐ見つめる。

 

「俺にとって父親は、親としても、警察としても、とても信頼できる人間だ。」


「そっか…」


 とても真っ直ぐな声。とても真っ直ぐな瞳。

 情報がない中、伝えようとしてくれる姿勢。

 こんなの…本質を聴くまでもない。見れば分かる。


 彼は父親に振り回される人だ。


「がんばってね!」


「何をだよ!?」


「あはは!大丈夫大丈夫!気にしないで!」


「は、はぁ…?」


「ねぇ、次は私から話したいことがあるんだ。」


「な、なんだよ?」


「私の名前は白花 奏。君の名前を聴かせてほしい。」


「ああ、そういえば名乗ってなかったな。俺は羽田スバル!よろしくな!」


「そっか……羽田…か…!うん!よろしくねスバル!」 


 ###


「…おはよう、俺の息子よ!いや〜、いろいろわるいなぁ。」


「それはいいけどよ、なあ、なんでまた急に…?」


 家の前であまりにも不自然な黒い車が停まっている。その黒い車の窓から赤い瞳を持つスーツの大人がスバルと話していた。


「それはな〜…って、お?屋根の上にいる彼女がか?」


 そう言って彼は私を見る。


「は、話をそらしやがった…!」


「まあまあ、逮捕なんかしないし、訴えることなんかない。そうだな、お前に伝えれることは…()()()()()()()()()()()ってことだけだな。」


「『仲間に引き込む』…ですか?」


 その場から飛び降りて彼の元へと近づいてみる。


「ああ、そうだ。」


「…そうですか。」


「…」

 

「…」


「あ、あーっと、この人の名前は羽田剣竜っていうんだ!昨日話したようにちゃんと信頼できるぞ!」


 何も言い出せず少し沈黙してしまう中、スバルが前に出て話を動かしてくれた。


「…うん、大丈夫そうだね。…じゃあ行きましょう?」


「なんだ、もういいのか?」


 羽田さんは少し驚いた表情を見せて私を見つめる。

 先ほどの威圧感はなく人間味があって親しみやすいような顔をしていた。


「ええ。別に、お別れってわけじゃないので。」


 家を少し眺めたあと、バタンとドアを閉めてスバルに挨拶をする。

 

 スバルは少し心配そうにしながら笑顔で送ってくれた。…信頼できるって言ってたよね…?


 ***


「そういえば、結局、帽子は見つかったのか?」


「いえ、どこにいったのか分からないままです。」


「…あーっと…もっと楽に話してもいいんだぞ?こちらから襲うなん──」

「貴方に敵意がないことは分かってます。」


「…そ、そうか…」


「…はい。」


 車の揺れる振動が肘から顎へと伝わる。

 赤色から緑色へと変わり、エンジンが動く音がして街は後ろへ通り過ぎていく。


「君がこれからどうするのかはもうわかったね?」


「はい。」


「よし、じゃあ、ここからが本題だ。」


「っ…」


 …()()()()()()()……

 その声の威圧感と車内に漂う緊張が私の胸を圧迫しはじめる。


「そうだな、さっきはチラッとだったが、ちゃんと俺の身分を明かそうか。俺は極左暴力集団いわゆるテロ組織とかを担当している警察の人間。公安第一課だ。」


「公…安…」


 私は一瞬耳を疑う。

 ドラマだけの存在と思っていた人が今私の目の前にいることに戸惑ってしまう。

 でも、この戸惑いを受け入れるしかない。

 

 だって…嘘はついていないから……


「そ、そんな人が私に何を…あっ!まさか笛の──」

「その協力もしてほしいが…」


 信号が赤く光る。

 ビルの影が車を覆う。


「君の家…()()()()()()()()について聞きたい。」

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